事例 No.195 アイエスエイプラン 特集 イノベーティブ組織の実像
(企業と人材 2019年8月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

キャリアを圧縮し、新規事業を起こせる人材を早期育成
リーダーの機能を分化し、若手がリーダーになる機会を増やす

ポイント

(1)専門性、リーダー経験、人脈を20代のうちに経験し、早くから新規事業などイノベーティブ な仕事にチャレンジさせる。

(2)「業務管理や部下の育成」、「組織開発・人事考課」、「経営の諸活動」の機能ごとにリー ダーを設定。若いうちからリーダーを担いやすくすることで、経験を積む機会を増やす。

(3)担当業務とともに、携わる業務の全体像を調べる課題に取り組む。これにより、ビジネス 全体の仕組みや経営者目線も身につける。

クライアントの課題解決のため 自ら考え、自ら動く

独立系SIerとして、大手企業の基幹系業務システムの開発を手掛ける株式会社アイエスエイプラン。設立以来、右肩上がりに売上を伸ばしてきた。その成長の原動力となっているのは、徹底した顧客志向だ。同社では、ミッションとして「クライアントとの距離感ゼロの関係」を掲げている。執行役員で最高人事責任者を務める坂爪昭さんは、こう説明する。
「われわれの仕事は、いわれたとおりにシステムをつくることではなく、クライアントの課題を解決することです。本質的な課題は何か、どうすれば解決できるのか、クライアントに寄り添って考え続け、最適な提案をする。そうした姿勢が、『この人に任せておけば大丈夫』というクライアントからの信頼につながるのです」
決められたことをこなすのではなく、社員一人ひとりが自ら考え、自ら動く自律型組織をつくるために、同社では「みんなで決める」ことを大切にしている。会社の重要な決断をトップダウンで行うことはせず、できるだけ多くの社員で話し合って決めるのだ。
社員の声から、新しい制度や、新規事業所が立ち上がったという例も少なくない。会社としても、社員全員にメリットがある提案は、積極的に採用している。

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機能別に役割を担う 独自の 3 つのリーダー形態

同社ではリーダーの選出も、他薦により任される。さらにユニークなのは、役割によって、3つのリーダーを用意していることだ。「FL(ファシリテーション・リーダー)」、「PL(プロジェクト・リーダー)」、「CL(コミッティ・リーダー)」の3つである(図表1)。

図表1 アイエスエイプランの組織構成

アイエスエイプランの組織構成

まず、FLは、組織をつくるリーダーといえる。その名のとおり、組織の活動が円滑に行われるように支援するファシリテーションの役割を担っている。
部下からみると、FLは自分の人事考課を行う上司となるが、同社では、自分のFLを自分で選ぶことができる仕組みになっている。つまり、だれに評価をしてもらいたいのかを、メンバーの側が決めることができるのだ。詳しくは後述するが、そのために毎年4月に社内で選挙が行われる。
人事考課を担うFLは、メンバーと1対1で対話する「1on1ミーティング」を2週間に一度、行っている。1on1は、一般的な上司と部下の面談とは違い、コーチングをベースにした対話の時間で、メンバーの意欲や気づきを引き出して、行動に結びつけることが目的だ。じっくりと語り合うなかで、ミッションの浸透や、個人目標の進捗確認なども行われる。
PLは、数字をつくるリーダーである。プロジェクトの売上を管理し、予算達成の責任を負っている。PLになるには、PL管理職試験の受験願いを提出し、試験を受ける。社歴や年齢に関係なく、いつでもだれでも受験することができる。
窓口となってクライアントとの関係構築を図り、潜在的な課題を見出して課題解決を図るほか、売上や進捗の管理などプロジェクトマネジメント全般を担う。
また、PLのもう1つの重要な任務は、OJTを通じた人材育成だ。PLは、その責任範囲によって、「アカウント(顧客)単位でのマネジメントをするPM(プロジェクトマネージャー)」、「単体プロジェクトのマネジメントをするPL(プロジェクトリーダー)」、「プロジェクトでの役割を遂行するリーダーであるCE(チーフエンジニア)」の3段階に分かれている。日常業務では、PMはCEを、PLは新卒者を、CEはビジネスパートナーや外注先のOJTを担当する形となる。

▲ OJT 時の課題レポート

▲ OJT 時の課題レポート

3つ目のCLは、社内のさまざまな役割を担うコミッティ(委員会)のリーダーである。いわば、行動をつくるリーダーといえる。もともとFLが担っていた役割を、組織拡大に伴い分化した。
現在、社内には、「ビジネスモデル」、「人事考課」、「採用」、「教育」「イノベーション」、「ビジョン」、「ファシリティ」、「イベント」、「広報」の9つのコミッティがある。コミッティへの参加は任意ではあるが、会社の運営に携わりたい社員が多く、参加率は高いものとなっている。

フォロワーがいて初めて リーダーシップが成り立つ

同社におけるリーダーとは、固定的な組織上の職位とはまったく異なる。たとえば、FLとPLとのあいだに上下関係は存在しない。なかには、FLとPLを兼務している人もいる。「大きな組織の部長職は、FLやPLといったすべての機能を担っていると思います。世間一般のイメージでも、管理職の役割というのは、そういうイメージでしょう。
組織も小さく、人数も少ないわれわれのようなベンチャーでは、リーダーの機能を分けてそれぞれがリーダーシップを発揮していこうという発想です。あくまでも役割としてのリーダーなので、社内では上司・部下という意識がほとんどありません」
同社の人事考課では、「FL軸(組織を強くする)」と「PL軸(数字をつくる)」の2軸で、絶対評価を行っている。FL軸・PL軸をそれぞれ3段階に分け、現在の自分が9象限のどこに位置するか一目で分かるようになっている。
9象限の評価は、研修にも反映される。自分の現在地がわかれば、どこをめざし何をすべきかも明らかになり、その人に必要な研修メニューを組むことができる。
リーダーの機能を分解し、何ができて何ができないのかを可視化する。こうした仕組みを整えることで、若いうちからスキルや能力が磨け、経験の浅い人も、リーダーの役割を担うことが可能になる。
「リーダーに、経験や能力は必ずしも必要ではありません。大切なのは、この人についていきたいと思うフォロワーがいるかです。これが当社のリーダーシップの考え方で、メンバーを支え、チームに奉仕するサーバントリーダーシップがもとになっています」
FLを選挙で選ぶのもそのためだ。選挙は、毎年3月に予備選、4月に本選が行われる。予備選では、全社員が無記名で「FL候補生」を3名ほど選び、一定の票数を集めた人が候補生として本選に臨む。候補者はポスターやマニフェストをつくり、選挙当日には演説も行うという本格的なものだ。社員は、候補者のなかから自分のFLになってほしいという人を、3名選ぶ。選出されたFLには、2〜5人程度のフォロワーがつき、1年間に渡ってサポートしていく。
興味深いのは、多くの社員が、年齢や専門分野にかかわらずFLを選んでいる点だ。自分の評価者となるにもかかわらず、直接仕事上の接点のないFLや、自分よりも経験の浅い年下のFLを選んでいるケースもあるという。
「20代の若いFLも多いですよ。当社に入社すると、まずは、みんなに選ばれてFLになることをめざすというのが、文化として根づいています。2〜5人くらいを担当するのは、大手企業でいえば係長や主任クラスの役割にあたると思いますが、若いうちからそうした経験をどんどん積んでいってほしいと思っています」(坂爪さん)

育成スピードを加速することで イノベーションも加速

近年は、若手の成長スピードをさらに加速し、早期育成を図ろうとしている。キャリアのライフサイクルとして、一般的に「20代で専門性、30代でリーダー経験、40代で人脈」といわれるが、これらをすべて20代のうちに圧縮するようにした(図表2)。

図表2 アイエスエイプランのキャリア開発イメージ

アイエスエイプランのキャリア開発イメージ

ビジネススキルを身につけたあとは、新規事業や独立事業、事業企画など、より高いレベルのビジネスにチャレンジさせていく。課長や部長のような役割を果たすことから、さらに進み、会社をつくり経営ができるところまで、若手の成長を加速させるのだ。
こうした育成により、偶然ではなく人材開発のなかで意図的に、イノベーションを起こせる人材をたくさん育てていくのである。
「創業10年を超え、社員数も100人になろうというなかで、どこか守りに入っているのではないかという危機感がありました。あらためて自分たちの価値を見直して、必要なのはベンチャーであることの再興だと考えました。新たなビジネスを起こし、企業経営にかかわる人材が早く育ち、輩出できるような会社でありたい。それを望むような人に集まってもらいたいと考えています」
これは同社の経営計画でも言及されており、5年後には、社員数が2倍の200人、売上高が2.5倍の50億円という目標を掲げている。さらに、新卒で入社した社員が、新規事業を創出し、子会社を設立。その社長になるというステップの実現もめざしている。
しかし、社員数が倍増すれば、人がバラバラになる可能性もある。だからこそ、経営理念から首尾一貫したカルチャーの浸透が重要だ。そのための教育として、2018年入社組から新卒研修の内容を強化している(図表3)。

図表3 オン・ボーディング・プログラムのスケジュール

オン・ボーディング・プログラムのスケジュール

同社は内定者時代から約3年半に渡る研修プログラムを整備しているが、新しい社員にいち早く会社になじんでもらい、パフォーマンスを引き出してもらうための、「オン・ボーディング・プログラム」を用意している。
まず、「On-Boarding Program1」と呼ばれる内定者研修では、入社前年の10月から翌4月までの半年間に、ITの基礎知識などの技術研修のほか、ミッションやビジョンの浸透を図っている。
「たとえば、携帯電話売り場で『ソニーのiPhoneをください』と言われたらどうするのか。『ソニーではiPhoneをつくっていません』と答えるのは簡単ですが、当社のミッションである“クライアントとの距離感ゼロの関係”に沿って考えると、別のアクションをとるはずです。このように入社前から当社のミッションについて考える機会を設けることで、ミッションやビジョンを体現するコンピテンシーの浸透が早くなります」
なお、内定者研修である以上、受講は希望者のみだが、研修を受講した際の評価は、入社時の給与に反映される。スタートの段階から差がつく仕組みだ。
入社後、7月までの3カ月間は、「On-Boarding Program2」と呼ばれる新入社員研修を実施。より高度な技術研修を中心に、プログラミング言語やWEB、データベースなどの知識を徹底的に教える。社会人のスタートとして、学生時代とマインドセットを入れ替えるような研修も行っている。
7月以降は、各プロジェクトに配属されOJTに入るが、プロジェクトでの実務と並行して、配属されたプロジェクトに関するレポートの作成が課題として出される。クライアントはだれか、クライアントのクライアントはだれか。プロジェクトの予算がどれだけあり、ITの構成はどうなっているのか。どのような体制でプロジェクトが動いており、いまの問題は何か。
プロジェクトの全体像を調べるためには、自分の業務外のことまで周囲に聞いてまわり、考えなければならない。場合によっては、クライアントの担当者に話を聞きに行くこともあるという。
「新入社員には、わからないことはどんどん聞き、気づいたことがあれば、『こうしたらどうでしょうか』と、建設的な意見を出していってほしいと伝えています。
新入社員にとってプロジェクトのリーダーがお客さまだとするなら、お客さまが何に困り、どう接すればよいかは、当社のミッションに照らして考えればわかるはずです。そうした意識で動くことで、『入ったばかりだからここまでできればいい』ではなく、プロジェクトの課題を一緒に解決する戦力の1人になります」
配属後も、3カ月に1度は集合研修を行い、現場で気づいた課題をみんなで話し合い、また現場にもち帰る。なお、希望者は、自分が調べた課題レポートを内定者研修で発表することもできる。そうなると、当然、学生にも理解できる内容にしなければならない。その過程でより理解が深まり、本人の学びにつながるという。

入社2年目でFLに選出 新規事業開発を担当

オン・ボーディング・プログラムを受けた若手のなかから、すでに活躍人材が育ってきている。2018年4月に新卒入社した渡邉聖也さんは、事業開発に配属。これまで社内で行ってきたIT研修プログラムを外販するという新規事業に取り組んでいる。
事業開発に配属といっても、先輩や同僚がいるわけではない。人事担当役員である坂爪さんの下で、現場の実務をほぼ一人で担っているという。渡邉さんは、新入社員研修を終えて同7月に配属になると、学生のインターンシップを担当。実践のなかでファシリテーションスキルを磨くのと並行して、10月の本格稼働に備えて、カリキュラムの整備に取り組んだ。
10月からは、講師として研修を担当。未経験のSE志望者にITの知識を基礎から教えるという講座を担当した。理系出身でもない新入社員が、入社半年で自分よりも年上のSE志望者の講師を務めるというのだから、成長スピードの速さは驚くべきものがある。
これと並行して、10月から3月までは内定者研修の講師も担当。引き続き、今年4月からは新入社員研修でも講師を務めている。
その一方で、FLとして5人のフォロワーを抱えている。前例のない事業に挑み、創意工夫をしながら前に進めていく姿勢が評価され、入社2年目にしてFLに選ばれたのだ。同期など若手からの支持も高いが、フォロワーのなかには30代後半のベテラン社員もいるという。
そのため、2週間に一度の1on1ミーティングを行いながら、フォロワーの成長を支援していくのも重要な使命となっている。
以上、アイエスエイプランの最新の取り組みについて紹介してきたが、その圧倒的なスピード感に驚かされた。渡邉さんに至っては、昨年入社して自分が受けた研修を、今年は自分が教える側になるという状況だが、自社はそういう会社だと、自然に受け止めていた。
巷では、「変化の早い時代だから、ビジネスにスピード感が求められる」といわれているが、20代を下積み期間にせず、早期からもっと高みのビジネスをという意思を明確にし、そのためにどんな人材育成をすべきかを実行した結果、同社では、現実に若手社員がいままでになかった新規事業を立ち上げるところまできている。イノベーティブな職場と人材育成の1つのモデルとして、大きな示唆に富む事例といえるだろう。

(取材・文/瀬戸友子)


 

ニーズに全力で応える

新規事業開発を担当する渡邉聖也さんに聞く
現在携わっている教育研修事業は、突発的な思いつきや提案が形になったというわけではなく、新規の事業を開発するという役割のなかで生まれ、進めてきたものです。悩んだり迷ったりすることがあれば、その都度、相談しながら進めていきました。まずは「自分自身が習ったことを完璧に伝える」というゴルを示してもらったので、最低限そこまではがんばろうとスタートしました。
他のプロジェクトもそうですが、当社のOJTのなかには、プロジェクトについてのレポートをまとめる課題があります。単純にプロジェクトの業務内容を紹介するということではなく、全体像、具体的な業務内容、関連するステークホルダーなど、事業とそこにつながるすべての結びつきをまとめるものですから、事業そのものをきちんと理解するということでもあります。仕事を進めながら、こうした課題に取り組んだことも、自分のしていることを把握し、重要なポイントなどを整理するのに役立ったと思っています。
現在の課題は、講師として受講者にどう教えるべきかというところです。いちばん、難しいと感じるのは、受講者の主体的な行動を引き出すこと。言ったことはやってくれるのですが、自分なりに目的をもって学んだことを発展させていくところまではいたらない。そこは自分の指導力不足を感じています。人は、めざす方向とそこにいたる手順を正しく示さないと、なかなか動き出せないのかなと考えているところです。
先の課題としては、事業としての形はみえてきましたので、今後は、ビジネスとして人を集め、売上をつくり、事業として成り立たせるために、マーケティングなど社外に向けて業務がシフトしていくところです。勉強も始めていますが、未体験の領域ですから、準備を怠らないようにしていきたいと思っています。
責任のある役割をどんどん任されることについては、もちろん驚きやプレッシャがあります。しかし、入社してすぐに代表から言われた、「お前が仕事を選ぶのではなく、仕事がお前を選ぶんだ」という言葉がとても印象に残っていて、ニーズがあって自分を選んでもらったのならば、すべて素直に受け入れて、全力で応えていきたいと考えています。


 

▼ 会社概要

社名 アイエスエイプラン
本社 東京都中央区
設立 2006年6月
資本金 4,500万円
売上高 19億3,527万円(2019年3月期、連結)
従業員数 92人
平均年齢 28歳
事業内容 ITソリューション事業、PMコンサルティング事 業、SEO/SEM事業など
URL https://www.isa-plan.jp/

左から
執行役員 最高人事責任者 坂爪昭さん
事業開発 渡邉聖也さん


 

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