事例 No.169 富国生命保険 特集 東北復興と企業人の学び
(企業と人材 2018年12月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

メンター(若手社員)とメンティがともに東北被災地へ
協働作業を通じて人とのつながりの大切さを学ぶ

ポイント

(1)2011年から、東北被災地のボランティアを目的に、メンター制度による先輩職員(メンター)と新入職員(メンティ)との合同研修を開始。2013年からは、東北の複合体験施設「モリウミアス」で、継続的に研修を実施。
(2)モリウミアスでの研修では、メンターとメンティが協働して被災地域の手伝いや施設の整備作業を行うなかで、互いの絆を深めるとともに、チームとして連携することの大切さや、作業を通じて仕事を振り返るきっかけとなる。
(3)ゼロの状態からスタートしたモリウミアスの活動を知ることで、起業家精神を学ぶ。また、モリウミアスのスタッフや現地の人との交流が、人生観や仕事観の醸成につながる。

「お客さま基点」を実践できる人づくりに注力

富国生命保険相互会社は、1923年に創業し、2018 年に95 周年を迎えた。「ご契約者が保険団体を構成し互いに助け合う“相互扶助”が保険の精神であり、その精神の下、配当還元という形でご契約者の信頼に応え続けることができる“相互会社”であることに意味がある」との考えから、創業以来、その形態を貫いている唯一の生命保険会社だ。
生命保険業は、人びとの家計や生活に直接影響する公共性の高い仕事であり、たとえば、金融危機のような出来事が起きて経営破綻する事態になれば、すぐさま契約者の生活に深刻な影響を与えてしまう。そのため、同社では、「ご契約者の利益擁護」を経営理念に掲げ、安定した収益基盤と経営の健全性の確保に努めてきた。その顕著な例として、バブル経済期に多くの会社が巨額の株式・不動産投資に突き進むなか、安定的な資産運用を続け、その結果、バブル経済崩壊の痛手を回避できたことが知られている。
同社では、「もし自分がお客さまだったら」を常に想像しながら、自社ならではのサービスや経験を創り出し、提供していく「お客さま基点」という価値観が、あらゆる企業活動の原点にある。そして、この価値観のもと、お客さま本位の業務運営を遂行するため、「お客さま基点」を実践できる人材の育成に力を入れている。
2011 年には、営業教育部で行っていた営業職員(お客さまアドバイザー)に対する教育と、人事部で行っていた内務職員(営業職員ではない通常の職員)の採用・育成の機能を集約して「人材開発本部」を立ち上げ、米山好映社長が自ら本部長に就任。職員へのメッセージとして「人づくり宣言」、「人づくり基本方針」を策定し、あらためて、お客さま基点を実践できる人材育成に注力していく姿勢を明確に打ち出した。
求める人材像としては、「自発・独創・利他」の3つの要件を掲げている(図表1)。

図表1 同社が求める人材像

図表1 同社が求める人材像
人材開発本部内務教育グループ課長の岩田功憲さんは、次のように説明する。
「とくに20 代前半~中盤では、この3つの要件を身につけてもらうよう努めています。これらが身につくことで、当社での仕事が本当にできるようになります。そうすると、会社に来るのが楽しくなり、自己実現にもつながります」
内務職員のうち、総合職については、入社から6~7 年目までを重要な初期教育期間と位置づけ、ビジネスパーソンとして確実にスキルアップしていくための育成プログラムを設けている。
入社年度には、入社時の新入職員研修に加え、7 月と10 月にフォローアップのための研修を実施。2 年目以降は、4 年目まで年次ごとの研修を行う。その後も、新任役職者に対する任命時研修、リーダーシップ習得をめざす研修、人材活性化を促す異業種コラボレーション型研修、公募型の海外研修制度など、充実した教育機会を設けている。
通信教育や資格取得支援制度など、職員の自発的な能力・キャリア開発を支援する制度も用意し、「自発」に基づく自己実現をサポートしている。

原則入社4年目の職員を新入職員のメンターに

総合職新入職員を対象とした特徴的な人材育成策に、2006 年に導入した「メンター制度」がある(図表2)。

図表2 総合職新入職員の育成とメンター制度の流れ

図表2 総合職新入職員の育成とメンター制度の流れ
異なる所属の先輩職員がメンター(相談者・助言者)となり、メンティ(新入職員)をサポートする制度である。6 月から年度末まで10 カ月にわたり、職務上の相談にとどまらず、人間関係や日常生活などの個人的な問題まで広く相談に乗り、心情面のケアを含めたフォローをする。
同社では、総合職新入職員の半数程度が支社に配属される。しかし、親戚や友人がいなかったり、年齢の近い先輩社員が少ない地方支社に配属された新入社員から、孤独感を訴えるケースが急増。この問題を解決するために、本制度を導入したという。新入職員の成長をサポートすることが大きな目原則入社4年目の職員を新入職員のメンターに的だが、所属を超えたネットワークの構築による活性化や指導する側であるメンターの成長、組織全体として人を育てる風土の醸成を図ることもねらいとしている。
メンターを務めるのは、主任昇格年度、通常は入社4 年目の職員。当初は、本人の意欲を重視し、公募によってメンターを集めていたが、制度が十分に定着したことを受け、2013 年から、「総合職新任主任研修」の一環として、主任昇格者全員に担当させることにした。これから管理職として部下をもつことになる層に、あらかじめ育成経験を積ませ、さらなる成長を促す意図がある。
なお、メンティが評価や利害関係を気にせず、何でも相談できるようにするため、業務の指導役とは切り離し、あえて職種や事業所の異なる先輩職員を、メンターとして組み合わせているという。
メンター制度の流れは、次のとおりとなる。
まず6 月に、「メンタースタート研修(総合職新任主任研修)」を実施。そこで、メンター制度の説明や、どのメンティを担当するのかを知らせるとともに、メンタリングや初歩的なコーチングスキル、リーダーシップなどの教育をする。
そして、7 月の「総合職新入職員フォローアップ研修」において、メンターとメンティが対面。ともに、東日本大震災の被災地へ赴き、研修を受けつつ復興支援活動に携わる。
この研修以外では、メンターは、毎月メンティと電話などで連絡を取り、メンタリングを行う。また、個人的にメンティを自宅に呼んで食事をご馳走したり、休暇をとりメンティの職場まで会いに行くなど、各メンターが自主的に工夫して活動に取り組んでいるという。こうして、年度末まで両者の関係は続く。

東北被災地でボランティア社員教育にもつなげる

ではなぜ、総合職新入職員フォローアップ研修において、メンター・メンティが合同で、東日本大震災の被災地復興支援活動を行うようになったのか。まずは、その経緯をみていこう。
2011年3月11日、東日本大震災が発生。未曽有の大災害となった。同社でも、被災した顧客や職員が大勢いたため、早い段階で、社長から「復興のために何かできることをしよう」と指示があった。
検討の結果、新入職員の入社半年後に行っていた研修でも、メンティとメンターがともに気仙沼や南三陸に赴き、がれき撤去・清掃作業に従事してもらうことにした。ただし、有志を募るボランティア活動の形ではなく、必須参加の研修として被災地に行くことにしたのには、ちょうどこの年に人材開発本部が発足し、単なる座学ではなく、新しい発想で教育を行っていこうとしていた背景がある。
2011 年、2012 年と続けて実施したところ、参加者からは「行ってよかった」という声が多くあがった。ただ、3年目になると、表向きは復興が進み、がれきなどは大分片づいてきた。不慣れな若手職員ができることが少なくなってきたなか、「今後も東北とかかわりをもつことはできないか」と模索する過程で、同社の新入職員研修を一部企画運営しているNPO 法人じぶん未来クラブを介して、公益社団法人MORIUMIUS(以下、モリウミアス。当時の名称はsweet treat311)代表理事の立花貴さんや理事の油井元太郎さんと出会った。
モリウミアスの施設があるのは、宮城県石巻市雄勝町。豊かな森と海に囲まれ、年間を通して海の幸に恵まれた漁村だが、震災によって町の8 割が壊滅。人口は、約4,300 人から1,000 人以下まで減少した。モリウミアスは、復興への想いから高台に残る廃校を新たな学び場として再生し、2015 年より、子どもたちの複合体験施設として運営している。「サステナビリティ」(持続可能性)の考え方に基づく宿泊体験と、豊かな自然や地域の人々との触れ合いによる新しい教育の形を世界に発信するとともに、企業研修としての利用も提案している。
同社は、「研修センターを使うより、非日常的なところでメンターとメンティが交流し、協力しながら作業をするほうが、関係構築に効果があるだろう」と判断。モリウミアスの施設完成前の2013年、同社でちょうどメンターを公募制から主任昇格者全員に担当させることに決めた時期に、モリウミアスとの共同企画による研修をスタートさせた。
「“人づくりは場づくり”というのが、人材育成に対する社長の基本的な考え方です。実際に会って刺激や摩擦を受けるなかで人が育ちますので、Face to Face で交流する場を多くもつことが必要です。そのための場として適していると考えました」(岩田さん)
なお、施設完成前にメンティとして研修に参加した人材開発本部内務教育グループ主任の須田博典さんによると、「まだ廃校がそのまま残っていて、それをどうにかして再生していこうという段階でした」という。このときは、研修の一環として廃校のリノベーションに協力したそうだ。

メンター・メンティー共同で被災地域の手伝いをする

それでは、モリウミアスで実施された研修の詳細をみていこう。
前述のとおり、7月の総合職新入職員フォローアップ研修で、メンターとメンティが顔合わせをしたあと、ともに雄勝に行く。モリウミアスでは、2泊3日の研修プログラムを用意(図表3)。

図表3 総合職新入職員フォローアップ研修のスケジュール

図表3 総合職新入職員フォローアップ研修のスケジュール
参加者の合計は100人を超えるので、A 日程(月~水)、B 日程(水~金)に分けて実施。両日程とも、1チーム8~10 人の4~5チームで行動する。
初日のテーマは、「震災当時の状況、その渦中におかれた人びとの大変さを、リアリティをもって知る」。旧大川小学校(震災時に発生した津波により児童ら84 人が犠牲となり、現在は震災遺構として保存されている)などの被災地を見学するとともに、被災者の実体験に基づく話を聞く。夜は、施設内にテントを設営して宿泊する(または施設泊)。
2日目の朝は、まず、飯盒炊爨と施設の清掃をする。これも共同作業としての意味がある。この日のテーマは、「雄勝の人たちに喜んでもらう」、「雄勝の人たちの価値観にふれる」。両日程とも、午前中は“何でも屋”として、チームで協力して活動する。この何でも屋では、お年寄りの多い集落で御用聞きに回り、個人宅の窓ふきや洗車、ウニ漁の手伝いなどをする。なかには、「家に上がりなさい」といってお茶を出してくれる人もいるそうだ。同社は全国に展開しているので、こうした地域で生活している人がいるという現実を理解させる意味でも、よい機会だという。
お昼は地元の人たちと交流しながら食事をし、午後は、モリウミアスの整備作業を行う。石垣を積んだり、薪を作ったりと、やることは毎年変わり、2018 年は、露天風呂の竹壁をつくった。
夜はモリウミアスのスタッフと交流し、多様なバックグラウンドをもつスタッフたちの思いや仕事観、人生観に触れる。
3日目のテーマは、「雄勝での学びに感謝する」、「メンターとメンティがチームとして最良のスタートを切る」。5~6 人ずつのグループに分かれてワークを行い、この2日間を振り返り、どんな気づきを得たかを共有する。参加者からは、「雄勝やモリウミアスのスタッフの方たちから、ものごとを前向きにとらえ、精一杯生きる力強さを感じた」、「人と人とのつながりが大切だと感じた」、「自分の目で見る、心で感じる、頭で考えることを大切にしていきたい」との声が多くあがったそうだ。
また、メンターの立場からは「メンティのときとは違う考え方、責任感などを感じた」という声や、メンティから「3 年後、自分もメンターのように目標に向かっていける人になりたい」という声もあったという。

▲“何でも屋”として地域の手伝いをする職員たち

▲“何でも屋”として地域の手伝いをする職員たち

一連の作業をとおして協力・連携の大切さ学ぶ

日常業務を離れて共同作業をし、一緒に寝泊まりすることで、メンターとメンティの関係はぐっと深まる。しかし、石垣を積んだり、竹壁をつくったりすること自体が同社の事業と直接結びつくわけではない。
「そこは、指導の仕方が重要と考えています。ただ、“竹壁をつくるから作業をしてください”という指示だけだと、どうしてもやらされ感が生じてしまいますので、作業に意味づけをして納得感をもってもらうことが大事です。
モリウミアスさんとも話し合いながら、協力することの大切さや、ここでの作業が仕事にも通じるということを理解してもらい、ただ作業をして終わり、とならないようにしています」(岩田さん)
2018 年の作業でいえば、竹やぶで竹を切る人、それをおろす人、運ぶ人、火であぶる人、カットする人、束ねる人といった役割があり、自分のことばかりで周りと連携できていないとうまくいかない。それをわかってもらうために、「2メートルの壁をつくる」などと課題設定をしてチームごとに競わせ、ゲーム感覚を取り入れつつ、協力することの大切さに気づいてもらうよう配慮したという。
「竹やぶの作業と同様に、当社の仕事にも一連の流れがあり、まわりを見て連携していかないとうまくいきません。メンティには、自分の仕事が会社のなかでどうつながっているのかを理解してもらいたかったのです。一方、メンターは、通常は1回目の異動を経験したところです。地方支社から本社などに異動し、支社でやっていた仕事が裏ではこうつながっていると知ったところですので、連携の大切さを学ぶにはよいタイミングです。そこに気づいてもらい、日常とどうつなげるかを考えてほしいと思っています」(岩田さん)
作業をさせる際には、作業の内容のみ伝え、細かい指示はしない。
「ケガなどはしないように配慮しますが、それ以外では、なるべく自由度を与え、ああしろこうしろとはいいません。大事なのは、そこで、よいものを作り上げるために主体的に行動しようというマインドをもつことです。その気持ちはまわりに伝播するということが、今回、運営側にまわってみて、強く感じられました」(須田さん)
事務局が口を挟みたくなるような場面でも、あえて本人たちに任せている。求める人材像にも掲げている「自発」を促すためだ。
また、作業する様子を評価や異動・昇進に結びつけることはない。リーダーシップの発揮は、だれかに見られているから、評価されるからやるというものではないので、できるだけ自然な状態で、自ら主体性を発揮することを期待しているという。
モリウミアスから学ぶことも多い。モリウミアスが重視するサステナビリティは、同社にとっても重要な要素であり、歴史ある同社の若手職員にとって、ゼロの状態からスタートしたモリウミアスの活動は、視野を広げ、起業家精神を学ぶ効果があるそうだ。
また、同社には「お客さまを守る」という大前提があるので、安定性は重要だが、そのなかでも、伝統にしばられず、新しいことに挑戦していく必要がある。だからこそ、本研修では、モリウミアスのスタッフと交流する時間を多く取り、経験豊富な起業家である立花さんや油井さん、あるいは多様なスタッフたちの人生観や仕事観に触れる場を設けているという。

▲2018年のモリウミアス整備作業では、竹やぶで竹を切るところから始め、チームで連携して露天風呂の竹壁を作成した

▲2018年のモリウミアス整備作業では、竹やぶで竹を切るところから始め、チームで連携して露天風呂の竹壁を作成した

▲2018年のモリウミアス整備作業では、竹やぶで竹を切るところから始め、チームで連携して露天風呂の竹壁を作成した

縁を大事にしてきたことで大きな育成効果が

モリウミアスでの研修を始めて6年。いまのところ当初のプログラムのまま問題なく運用できているが、今後は、必要に応じて見直しも検討しつつ、よりよい研修をめざしていく。
ただし、研修の対象を拡大する予定はない。「仕事は一連の流れになっており、協力し合うことが重要」という点に気づかせるうえでは、仕事の全体が見えていない新人と、ある程度責任をもつ前の主任クラスに行う、いまの形が最適と考えているからだ。
今後は、本研修の意義を社内により周知していくことが重要ととらえている。当初の復興支援のボランティアという位置づけから、若手の教育としての意味合いが大きくなってきたなかで、今後も本研修を続けていくためには、被災地に行く意義について社内の理解を深めていく必要がある。

ご担当者の皆さまへ 研修の内容や方法、成果達成の指標まで具体的な事例を紹介『企業と人材』

「コストベースで考えれば、わざわざ東北まで行かなくても、近隣で似たような研修はできると思います。それにもかかわらず、当社が雄勝に行くのは、雄勝の方たちとの縁があるからです。モリウミアスが成長してきた姿をみてきましたし、それをみせることは、若手職員たちの成長を促すうえでも意義があります。また、震災からしばらくは、多くの企業がこぞって東北にボランティアなどに行きましたが、3~4年で潮が引いてしまいました。ですので、地元の方々からは、いまでも残っている企業として感謝され、“またフコクさんの季節になった”と歓迎してくれます」(岩田さん)
本研修を長く続けてきたことで、1年目に経験した職員が、4年目に再度参加し、振り返るという良いスパイラルに入っている。1年目と4年目では感じ方が変わり、メンティをもった責任感や、自発性・主体性など自身の成長を実感することができる。
「人の縁を大事にしてきたことが、よい結果になったと思っています」と語る岩田さん。縁を大切にして続けてきたからこそ、大きな育成効果が得られている。

▲研修最終日は、グループワークで気づきを共有する

▲研修最終日は、グループワークで気づきを共有する

(取材・文/崎原 誠)

▼ 会社概要

社名 富国生命保険相互会社
本社 東京都千代田区
創立 1923年11月
資本金 1,160億円(基金総額)
売上高 5,971億円(収入保険料:連結 2018年3月期)
従業員数 12,654人(2018年3月末現在)
事業内容 個人・企業向けの保険商品の販売と保全サービス、財務貸付・有価証券投資など
URL https://www.fukoku-life.co.jp/

(左)
人材開発本部
内務教育グループ
課長
岩田功憲さん

(右)
人材開発本部
内務教育グループ
主任
須田博典さん


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