事例 No.158 ホーチキ 特集 経験値を上げる新入社員教育
(企業と人材 2018年9月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

入社1〜3年まで新入社員教育を実施し、
新人同期のつながりづくりや、独り立ちするまでをサポート

ポイント

(1)入社1〜3年目まで行う新入社員教育では、入社から独り立ちするまでをしっかりとサポート。仕事に必要な最低限の知識やスキルを教えつつ、同期のつながりづくりに力を入れる。

(2)同期のつながりを深めることを目的に、入社後すぐに5泊6日の合宿教育を実施。コンプライアンスやセキュリティなどについて、先輩社員が講師となって教えるほか、実践的なビジネスマナー研修を実施し、しっかりと身につけてもらう。

(3)配属後は、翌年3月末まで、新入社員一人ひとりに先輩社員がブラザーあるいはシスターとしてつき、マンツーマンで指導。業務にかぎらず、プライベートに関することなども気軽に相談に乗る。

技術研修所を新設して人財育成に力を入れる

1918(大正7)年、損害保険会社などの出資により、日本初の火災報知機メーカーとして東京報知機株式会社が設立された。「人々に安全を」、「社会に価値を」、「企業をとりまく人々に幸福を」を経営理念として掲げ、日本の火災防災業界をリード。1972年に商号をホーチキ株式会社に変更し、2018年4月には創立100周年を迎えた老舗企業だ。
1961年に海外進出を果たし、現在、展開エリアは129カ国に及ぶ。従業員数は単独1,364人、グループ全体で2,004人である。
同社は、現在、総合防災メーカーとして製造から販売、設計・施工、メンテナンスまで、一貫した火災防災ソリューションを提供。「安全・安心」の提供により、国を越えて高い評価と信頼を獲得している。
事業分野は、防災事業、防犯事業、情報通信事業の3つだ。
防災事業としては、火災をみつけて知らせる「火災報知システム」と、火を消す「消火システム」を提供する。
防犯事業では、建物の出入り・人の流れを管理する入退室管理システムなどの防犯設備で、建物への不正侵入や情報漏えいを防止。
情報通信事業では、最新の放送通信網に対応した受信システムで、テレビの視聴環境を快適にする。
直近の売上比率では、防災事業が8割を占めている。現在、国内と海外の売上比率は、国内84.6%、海外15.4%だが、2020年までに海外の比率を20%まで伸ばす予定だという。
同社では、前述のとおり2018年4月に100周年の節目を迎えたことから、16の記念事業を実施。そのうちの1つが、同年1〜3月に放映した記念テレビCMだ。90周年時に放映され話題となった2羽のインコが再登場し、注目を集めた。インコは警戒心がとても強く、火災報知機のようにすばやく仲間に危険を知らせることから、マスコットキャラクターとして選ばれたそうだ。住宅用火災報知機は10年ごとに更新することが望ましいことから、このCMをみて使用年数を確認するきっかけにしてほしいという。
もう1つは、前年(2017年)3月末、JR品川駅近くに「ホーチキ技術研修所」を開設したことだ。自社や代理店の社員の育成を目的とし、火災報知設備の施工技術や点検能力を高めることをねらいとする。実習スペースには火災報知設備に加え、建築の内装構造も再現されており、建物が完成していく流れを確認しつつ、器具の取り付けなどが学べるようになっている。創立100周年を迎えるにあたり、次の100年を担う人財を育成し、事業基盤をより強化していくことをめざして設けられたのだ。

新人同期の絆を深める5泊6日の合宿教育

同社では、社員の成長が会社の成長につながるという考えのもと、人財育成に注力している。そのなかでも、入社1〜3年目まで行う新入社員教育では、入社から独り立ちするまでをしっかりとサポートする。
では、その新入社員教育(図表1)について、詳細をみていこう。

図表1 新入社員教育の流れ

図表1 新入社員教育の流れ

まず、同社の新卒社員は、毎年総合職が約40人、一般職が5〜6人、高卒採用が5〜6人で、全体で約50人である。
人財教育については、これまで外部の研修会社などに依頼することも多かったが、技術研修所が完成してからは、内製化に力を入れている。
同社では、新入社員教育に3年かける。まず、入社式が終わるとすぐに5泊6日の「合宿教育」が実施される。合宿形式で行うことにより同期のつながりを深めることが大きな目的だ。
内容としては、まず同社についての基本的な知識を学ぶ。コンプライアンスやセキュリティに関することなどを、さまざまな部署の社員が講師となって教えるほか、就業規則についての説明などを3日間で行う。そして、4日目以降はビジネスマナーを教えるといった流れだ。
ビジネスマナーとしては、電話応対、席順、名刺交換、挨拶の仕方などを、繰り返し教える。
人事部人事課主任の遠藤亮さんは、次のように説明する。
「ビジネスマナーの講義のあとは、実際に目の前でやってもらい、それをみんなでチェックし合うということを何度も繰り返します。なぜなら、新入社員研修で教えられたビジネスマナーは往々にして忘れるからです。そうならないために、朝やったことを夕方に再びやるといったことを繰り返します」
エレベーターを模して床にテープを張り、先輩社員や社外の人と乗ったとき、どこに立つかといった実践的なことをみっちりと行う。
また、社外ではだれにみられているかわからないため、たとえば電車のなかでは携帯ゲームをしないよう伝えるなどしているという。新入社員といえども、社外では会社を代表する存在だ。マナーが悪いと、会社自体のイメージダウンにもつながってしまう。
そのうえ、OJTにも影響しかねない。新入社員が失礼な態度では、教える先輩社員のやる気も失せてしまうからだ。
だからこそ、同社では、新入社員研修の段階で、きちんとマナーを教えるのだという。
こうした研修が終わると、最終日に「企業活動のシミュレーション体験」を実施する。まず、1チーム(6〜7人ずつ)ごとに1つの架空航空機メーカーとなり、受講生はその社員となる。そして、同じく架空の航空会社と商談をしてプロジェクトを受注し、機体の製造・納品、損益計算などのさまざまな課題に、PDCAや報連相を意識しながら取り組むのだ。
企業活動をシミュレーション体験し、実務に近い形で学ぶことができるため、仲間と協力して働き、利益につながることを実感できるという。また、チームの得点で競い合い、受講者が自然と白熱するような内容となっている。

▲5泊6日の合宿教育の様子。右は、最終日の「企業活動のシミュレーション体験」にて、課題に取り組む新入社員たち

▲5泊6日の合宿教育の様子。右は、最終日の「企業活動のシミュレーション体験」にて、課題に取り組む新入社員たち

▲5泊6日の合宿教育の様子。右は、最終日の「企業活動のシミュレーション体験」にて、課題に取り組む新入社員たち

総合職を対象に、導入教育幅広い知識をつけてもらう

合宿教育が終わると、総合職を対象に「導入教育」が約1カ月半にわたり実施される。幅広く事業を学んでもらうことが目的だ。研究開発と製造の現場を体験してもらうため、実習を用いた教育も実施する。
まず、本社で行う研修において、製品・消防法の基礎を深めてもらう。そして、宮城工場と町田工場に行き、実際に製造を体験してもらうのだ。
「当社は販売、設計・施工、メンテナンスまで、一貫した火災防災ソリューションを提供していますが、そのうちのどの部署に配属されるかわかりません。私が来年、九州で施工管理をしていてもおかしくないわけです。そのため、一通り現場を見てもらうのです」
同社における配属先は、営業、施工、メンテナンスが約9割を占めるという。したがって、この3つの現場は必ず経験させるようにしている。その際には、各部署の先輩社員が同行して、説明・指導をすることになるが、これには、新入社員に自分がどの仕事に合っているか確かめてもらう、という目的もある。
「昔は、入社したときにミスマッチするなんていうことは思いもしませんでした。しかし、いまの新入社員は、この仕事は自分に合っている、合っていないということを普通にいいます。ですから、現場でどういうことをやっているかを見てもらって、自分たちで決めさせるようにしています」
この導入教育が終わった時点で人事による面談を行い、本人の希望を聞いたうえで、配属を決める。もちろん、配属計画があるわけだが、募集時のエントリーシートでも希望職種を聞いて採用をしているため、実際の仕事とあまりギャップを感じさせないように配属することができる。

ブラザー・シスター教育で新入社員の悩みを解消

合宿教育(総合職は導入教育)の後、実際に配属されると、現場では「ブラザー・シスター教育」が始まり、翌年3月まで続く。各新入社員に先輩社員がブラザーあるいはシスターとしてつき、マンツーマンで指導。仕事に関することはもちろんのこと、プライベートに関することも相談に乗る。同社ではブラザー・シスター教育はかなり以前から行われていて、そのときに培われた関係は、いまでもずっと続いているという。
ブラザーやシスターの人選については、以前は各支店・各支社に任せていたが、いまは人事が積極的にかかわるようになった。どこにどのような人財がいるか把握しているため、特定の社員を指名したり、支店・支社から上がってきた候補者を別の人に替えさせるといったこともしているという。
「人事は、3カ月に1回は全国の各支店や支社、工場を回っています。そこで中堅社員らにヒアリングし、ブラザーやシスター候補者をみつけておくためです。本社の席に座っていることは少ないですね。
また、そうして各拠点の中堅社員と人事担当者が知り合いになることは、新入社員にとってもメリットがあると思います。何かあったときに、この問題についてはあの人に相談するといいよ、などと新入社員にアドバイスすることができるからです」
ブラザー・シスター教育の期間中は、上長経由で報告をあげてもらうようにしている。3カ月に1度ということになっているが、日常的に報告するというよりも、相談が寄せられることが多いという。これも、人事担当者が日ごろから各拠点を回り、ネットワークづくりに力を入れているからだ。

2年目集合教育で自分の立ち位置を振り返る

入社2年目の夏には、1泊2日の合宿形式で「2年目集合教育」が行われる。これまでを振り返り、同期と情報交換をし、今後に向けて視野を広げるのがねらいだ。
前述の合宿教育、導入教育が終了した時点で、新入社員はそれぞれの配属先に散らばっていき、勤務場所は全国に及ぶ。そうして約1年勤務した後、同期と久しぶりに再会することによって、喜びととともに、焦りを感じる場となる。
「自分と比べる人がいないと、ついつい自分は十分に成長していると思いがちなのが人間です。同期で集まり交流することで、自分の足りない部分に気づくことができます」
この研修では、グループワークが中心となる。さまざまなテーマについてグループ内で話し合うことで、自分の成長度合いに気づいてもらうためだ。
気づきを促すために、同じ職種同士、同じ地域同士でグループをつくったり、逆にそうした共通点のない人でグループをつくるなど、テーマごとにグループを意識的に変える。そうすることで、さまざまな視点で自分やメンバーを見ることになり、また、相手からも思いがけない指摘を受けたりして、より多くの気づきを得られるからだ。
これも、入社早々行われた合宿教育の効果といえる。5泊6日の研修で同期同士のつながりができているからこそ、互いのことがよく見えるのである。
「研修の冒頭で、受講生たちに必ず質問するのは、自分が配属されたことで部署がどのように変わったのか、ということです。変わっていなければ、それは自分が成長していないということになる。
ただし、部署の業績が上がったというような大きな変化である必要はありません。合宿教育のビジネスマナーを教える時間では、挨拶を重視するという話をしました。もし、新入社員がずっと挨拶をし続けることで、その部署に挨拶するという習慣が根づいたら、それは立派な変化です」
同期の一言によって、将来のキャリアについての考え方が大きく変わることもあるという。2年目集合教育は、今後のキャリア開発のきっかけにもなっているとのことだ。

3年目集合教育で決意表明次のステップへ向かう

最後は、入社3年目の秋に行われる「3年目集合教育」である。これも1泊2日の合宿形式で行われ、同期で集まる最後の研修となる。
入社からこれまでの振り返りを行い、今後に向けての意識改革を促すのが目的だ。グループワークも行うが、個人発表が中心となる。自分がこれまでどのような仕事に携わり、どのような成果を上げてきたかなど、テーマに沿った話を同期らの前でするのである。
そして最後に、これからどのような仕事をしたいか、どのような姿勢で仕事に向き合おうと思っているか、将来はどうなりたいかについて、1人ずつ決意表明をする。
「個人発表では、各自の自慢をさせるようにしています。たとえば、これまでの最高の体験を話してもらう。すると、営業なら売上げの話、施工では現場を仕切った話などが出てきます。
不思議なもので、そういう話は、ほかの同期のライバル心を掻き立てます。そのうえでの、“決意表明”なのです。話を聞いた同期らは、自然とより高い目標を掲げることになります」
最後は、人事部長からのアドバイスとして、仕事の進め方などについて話をする。そのエッセンスを短文にまとめた「部長訓話」(図表2)は、決意表明した後の受講生の心に深く響くという。メモに取っておき、折に触れて読み返す人も多いようだ。

図表2 部長訓話(一部抜粋)

図表2 部長訓話(一部抜粋)

教育と実際の仕事ギャップをさらに小さくしていく

3年目集合教育をもって、同社の新入社員研修はすべて終わる。これらの研修は、冒頭で触れた新設の技術研修所で行っている。それまでは研修会場を借りなくてはならなかったが、自社に研修所ができたおかげで、かなりやりやすくなったという。新入社員にとっては、今後、思い出の場所になっていきそうだ。ただし、宿泊施設はないので、遠方から参加した社員は、周辺のホテルに泊まることになる。
新入社員研修をとおして、同期のつながりは強くなる。研修が終わってからも連絡を取り合ったり、集まったりしているという。そのネットワークは、仕事でも活かされているとのことだ。
「仕事を進めていてわからないことがあったときに、いちばん聞きやすいのは同期です。ですので、同期のつながりを大切にしなさいということは常々話しています」
今後の課題としては、教育と実際の仕事の間のギャップをさらに小さくすることだという。
当たり前だが、教えられたことが、現場配属後にまったく活かせないものだったら、新入社員の不安をあおることになるだろう。もちろん、教えたことがそのまま現場で役立つとは限らないが、できるだけ教えたことと実際の仕事内容が近いものにするべく、今後も心がけたいとのことだ。

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以上、ホーチキの新入社員教育について紹介してきた。仕事に必要な最低限の知識やスキルを教えながら、同期のつながりづくりに力を入れていることがわかる。
やはり、入社すると同期の存在は大きい。新入社員教育は、そうした同期のつながりを深めるよい機会だ。研修内容を考える際など、重視すべき要素といえるのではないだろうか。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要

社名 ホーチキ株式会社
本社 東京都品川区
創立 1918年4月
資本金 37億9,800万円
売上高 759億円(2018年3月期・連結)
従業員数 2,004人(2018年3月31日現在)
事業案内 火災報知設備、消火設備、情報通信設備、防犯設備等の製造、販売、施工、保守管理
URL https://www.hochiki.co.jp/

人事部人事課
主任
遠藤 亮さん


 

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