事例 No.157 ヴィクトリア 特集 経験値を上げる新入社員教育
(企業と人材 2018年9月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

ゴルフや山登りを実際に体験!
働く自信とサービス向上につながる体験型教育

ポイント

(1)5~6年前から、新入社員研修において、実際にスポーツを体験させる研修に力を入れてきた。今年の研修では、ゴルフ、軽登山、ランニングを体験。

(2)体験型の研修で、専門色の強い売り場担当になったときの不安解消やそのスポーツを始めるきっかけをつくる。接客においても実感のこもった接客ができるようになる。

(3)新入社員の早期育成をめざし、入社から3年程度で、3つの業態の店をすべて経験する方針を策定。若手に、本社業務と店舗業務を兼務させる試みも始めた。

一人ひとりに寄り添う店舗・サービスのために

株式会社ヴィクトリアは1974年に創業。多くのスポーツ用品店が集まる東京・御茶ノ水エリアにいち早く出店し、以来、東京・神奈川を中心とした首都圏に、スポーツ全般(Victoria、スーパースポーツゼビオ)、ゴルフ(VictoriaGolf)、アウトドア(L-Breath)などの専門店を展開している。
同社が重視しているのが、リアル店舗での販売である。一般のスポーツ愛好家からプロ選手、指導者に至るまで、さまざまなニーズをもつ顧客一人ひとりに寄り添う接客・サービスによって、着実にファンを増やしてきた。
同社が所属するゼビオグループの人事を受け持つゼビオコーポレート株式会社グループ人事部マネジャーの三浦耕司さんは、こう語る。
「シューズを1足お買い求めいただく際にも、足形の測定をしたり、お悩みを伺い、プレースタイルや技術レベルなども踏まえて、その人に合った商品をおすすめします。ご購入後の修理・メンテナンスやその後の買い替えを含め、トータルでサポートしていきます。理想をいえば、何十種類と展開しているスポーツのすべてを網羅しつつ、各スポーツの専門知識やメンテナンスの技術を磨き、ネット販売では味わえないようなサービスを、お客さまに提供していきたいと考えています」
新卒採用の人数は例年20人前後だが、今年は30人を採用。東京オリンピックに向けてスポーツへの関心が高まるなか、「店舗運営の経営者」と「スペシャリスト」の双方の育成をめざしている。
人材育成を担当するのは、ゼビオコーポレートのグループ人事部と、ヴィクトリアの店舗サポートグループ。グループ人事部が新卒採用と新人の育成を受け持ち、既存スタッフへの教育は店舗サポートグループが行う――というのが基本的な役割分担だが、実際には、入社時から両者が密に連携をとりながら進めている。ヴィクトリア店舗サポートグループマネージャーの石崎雅彦さんは、次のように説明する。
「店舗サポートグループでは営業寄りの仕事もしており、現場に寄り添った教育をしています。商品知識の研修はもちろん、たとえば、『VMD(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)研修』といって、単なるディスプレイではなく、視覚から購買意欲を生むフロアづくりを教える研修も行っています。グループ人事部だけですべてを抱えることはできませんので、私のほうで営業部や各商品メーカーとも交流しながら、研修を企画しています。いま、採用がどういう状況で、どういう気質の学生をどんなスケジュールで採用する予定かといったことなども踏まえて教育をするべく、グループ人事と活発にコミュニケーションをとりながら企画を検討しています」

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ゴルフ、登山、ランニングを実際に体験

それでは、実際にどのような新入社員教育を行っているのか、順を追ってみていこう(図表1)。

図表1 入社1年目の研修スケジュール

入社1年目の研修スケジュール

まず、内定者には、10月から翌年3月ごろに、ヴィクトリア本店でアルバイトを経験してもらっている。その時期はウィンタースポーツ真っ盛りの時期。スキー用品の取扱いに定評のある同社でその時期に働くことは、これから同社で活躍していくうえでよい経験になる。また、全内定者が1つの店舗に集まることで、同期はもちろん、年の近い先輩やベテランスタッフとの関係も築ける。
入社後は、約2週間の入社時研修を行う(図表2)。社会人としてのマナーや、会社や経営に関する基礎知識、コンプライアンス、電話応対など、一般的な教育もするが、特徴的なのが実際にスポーツなどを体験する、体験型プログラムだ。10日程度の研修期間のうち、半分を占めている。
体験型研修は、この5~6年の間に徐々に拡充してきた。今年は入社時研修でゴルフとアウトドア(登山)を、店舗配属1カ月後のフォロー研修でランニングを実施した。一見、レクリエーションが目的のようにもみえるが、このスポーツ体験が、新入社員の配属時の不安の解消やその後の成長、店舗での接客サービスのレベルアップに大きく影響する。

図表2 入社時研修第1クールのスケジュール

入社時研修第1クールのスケジュール

「当社に入社を希望する人のほとんどは、スポーツが好きな人たちです。しかし、当社には、大きく分けて、スポーツ全般を扱う店、ゴルフ専門店、アウトドア専門店の3種類があり、自身が経験してきたスポーツの売り場を担当するとはかぎりません。とくにゴルフや登山を学生時代に経験している人はあまりいません。しかし、ここで体験しておけば、『ゴルフなんてやったことないんだけど……』といった不安を和らげることができますし、人によっては『ゴルフって面白いんだな』と興味をもつこともあります。
また、スポーツというのは、単に座学で知識を詰め込むより、自分自身が体験し、そこから専門性を高めていくほうが、お客さまに対して、よりていねいにサービスを提供できるようになります。そのきっかけとして、体験してもらっています」(三浦さん)
「専門的なジャンルのゴルフやアウトドアの店舗にいきなり配属になると、やっぱり不安が生じますよね。それを払しょくするために何ができるかをずっと考えてきました。『どこにいても挑戦するんだ』という気持ちになるためにはどうすればよいかと悩み、行き着いたのが、実際に体験させることでした。1回ゴルフコースを回れば、いままで壁に感じていたことも、『こう解釈すれば、自分にもできるかもしれない』と思えるようになります」(石崎さん)
ゴルフ体験は、グループ会社が運営する千葉県のゴルフ場のショートコースで行う。
体験といっても当日かぎりの話ではなく、事前にゴルフに関する知識はもちろん、クラブの握り方、振り方から練習をして、当日に実際にコースを回る。
同社にはレッスンもできるアドバイザースタッフがおり、彼らが指導するという徹底ぶりだ。
続くアウトドア体験では、東京・八王子市の高尾山に登る。
高尾山というと、近年は老若男女問わず訪れる人気の登山スポットであるが、登るコースによっては険しい山道もある。
研修では、登山経験豊富な社内アウトドアアドバイザーが引率し、本格的な登山を行う。メーカーからトレッキングシューズをレンタルするなど、服装や装備にもこだわる。これは、本物の器具や装備を使用することで、よい商品の機能を体感させるのがねらいだ。ちなみに、研修でゴルフや山登りをすることに対して、否定的な参加者はいないそうだ。「うまくいかなくて、悔しい」という声はあるが、それも、そのスポーツの楽しさがわかった証拠だろう。
いずれも体験して終わりではなく、「山登りをしてどう感じたか」など、気づいたことを皆で振り返って話し合い、発表するグループワークの時間を設けるようにしている。
もう1つユニークなのが、入社3年目の先輩たちが、売り場で起こり得る状況に対して、「これは覚えておきなよ」というトピックスを教える「店舗業務の基礎」だ。これから店舗に配属される新入社員が現場でたじろがないようにするために、車座になって先輩がさまざまな相談を受け、アドバイスをする。

配属の約1カ月後にもフォローの研修を実施

入社時研修後は、全員各店舗に配属される。顧客が何を求めているかを体感するべく、いきなり本社部門などへは配属せず、まずは店舗業務からスタートする。
そして、配属から1カ月ほど経ち、ゴールデンウィークを過ぎて各々の職場に慣れてきたところで、フォローアップのために4日間の研修(入社時研修の第2クール)を実施する(図表3)。

図表3 入社時研修第2クールのスケジュール

入社時研修第2クールのスケジュール

「ゴールデンウィーク後にフォローを行うのは、何も知らないなかで難しいことを教えられるより、1回経験してから学んだほうが理解につながるためです。ゴールデンウィークは来店する方も多く、よい経験になりますので、売り場で頑張ってもらいます。初めてのことばかりでしょうが、入社時研修で学んださまざまな知識をもとに、自分の居場所をつくりながら経験を積み重ねてもらいます。
そして、ゴールデンウィークを終えて同期と再会し、互いの悩みや葛藤を話し合いながら、次のステップに向けた知識を入れていきます。一度の研修ですべてをマスターすることは難しいですが、一度習った知識は、現場で必ず思い出すものです。4日間のなかでなるべくいろいろなものを体験させるようにしています」(石崎さん)
この第2クールの研修は、より具体的に商品に触れる構成にしている。たとえば、実際にテニスのガット張りや卓球のラバー貼り、野球のスパイクの補強作業を行い、コンディショニング知識の研修では、プロテインを実際に飲んでもらう。
ガット張りやスパイクの補強体験はスポーツ用品店としては自然な成り行きといえるが、プロテインを実際に飲むのはユニークだ。
プロテインは利用している人でも、種類や味に好みやこだわりがある。また、興味はあるが試したことがないという人もいる。スタッフが実際に飲んでみることで、顧客との会話のきっかけになったり、商品をすすめる際にも、実感をもってすすめられるようになる。
これらの研修の講義では、同社の社員のほか、アドバイザーとして協力してもらっているアスレチック医科学協会の会長やスポーツ用品メーカーの社員にも担当してもらい、取り扱う商品に即した、実践的、専門的な知識を身につけていく。
また、この第2クールでは、ゴルフ、登山に続くスポーツ体験として、皇居ランニングを行っている。ランニングは、ゴルフなどと比べると、比較的経験者が多いが、最上級クラスのシューズや機能性アンダーウェアなど、プロや本格的に趣味として活動している人の装備を、学生時代に使ったことがある人は少ない。そこで、このランニング体験では、そうした装備を身につけて臨む。これも、実感をもって顧客に商品をすすめられるようにというねらいだ。
この第2クールが終わると、配属店でのOJT中心の教育に移っていく。そして、半年後に状況確認を兼ねた研修をし、2年目、3年目研修、昇格のタイミングで行う階層別研修と続いていく。

ゴルフ研修の様子

▲ゴルフ研修の様子

高尾山で軽登山体験

▲高尾山で軽登山体験

皇居でのランニング

▲皇居でのランニング

店舗での教育は、各店の店長の下、店ごとに行うが、すべての店に共通して必要な知識などについては、グループ人事部でツールや資料を作成して提供する。
また、スポーツや新商品をスタッフに体験させる研修は、入社時だけでなく、店舗配属後や既存スタッフも含めて、適宜希望者を募って行っている。たとえば同社は、2~3年前から、「SUP(サップ。スタンドアップパドルボー
ド)」という、サーフィンボードの上に立ってパドルを漕ぐ水上スポーツに力を入れているが、当然、新しいスポーツなので、スタッフのほとんどはなじみがない。そこで、まずはスタッフが楽しさを知るために、体験の場を設けた。さかのぼれば、いまは十二分に認知されているスノーボードでも、そうした試みをしてきたという。
これらの教育・研修に加え、会社が指示しているわけではないが、どの店でも、先輩社員が休みの日などに後輩をスポーツに誘うことが多いそうだ。先輩が後輩を誘い、コミュニケーションをとりながら育てる風土が根づいている。

入社から3年程度で全業態を経験させる

近年は異動・配置にも気を配っており、3年程度で、ゴルフ、スポーツ、アウトドアの3種類の業態の店すべてを経験させる方針で、人事異動を行っている。自社の将来を担う人材に育てるためには、早いうちにすべての業態を経験したほうがよいとの判断からだ。現在、この異動・配置の仕組みを基本的な方針として、推進しているという。
もう1つの取り組みとして、ここ2年ほどは、若手スタッフに、店舗と本社の業務を兼務させる取り組みを行っている。たとえば、月曜日と火曜日は本社の商品部でバイヤーのアシスタント業務を行い、残り3日間は店舗で接客をするという形だ。
「将来的に本社業務の素養がありそうな若手の見極めも兼ねて行っています。若手にいきなり商品部で担当を任せるのは荷が重いですが、このような形であれば、よい経験になります。本社で働くことで、商品を売るだけでなく、商品を仕入れる目線も養うことができます。自分の選んだ用品を店舗に並べ、それが実際に売れていくというのは、小売業の醍醐味の1つです。そこからさらに経験を積んでいけば、商品そのものの開発に興味がわき、自社開発の部署を希望する人も出てくるかもしれません。
いまの若手は、自分なりの手ごたえ、成長実感を求める傾向が強いので、企業から先出しで示していくことで、お互いに未来に向かう道筋をしっかり見据えて進んでいけると考えています」(石崎さん)

一番の課題は次世代リーダーの早期育成

今後の一番の課題は、次世代のリーダーの早期育成だという。
いま、目標にしているのは20代のうちに店長になる社員をつくることだ。
「当社は離職率が低く、業界内でも名前が知れるくらいの知識を持ったベテラン社員が大勢います。そうしたベテランについては、専門知識を活かして活躍できるポジションを設けつつ、次世代のリーダーが活躍していくための仕組みづくりを行っています」(三浦さん)
具体的には、ダブルメンター制度を導入し、店舗の実務レベルでの教育サポートをするメンターに加え、所属店舗の店長がメンターとして新入社員教育に入り込み、店舗運営といった経営幹部に向けての教育サポートを行っている。また、配属店の店長と店舗のメンターに対して、それぞれ新入社員教育に関する研修を定期的に設けており、全店において一定の高い水準で新入社員へのサポートが可能となる仕組みを運用している。
「商品やスポーツの体験研修や、お客さまと一緒に登山に行くなどといったイベントを、もっと広げられたらと考えています。また、入社2、3年目では、入社時研修とより連続性をもたせた研修を行うのもいいかもしれません。今後ももっといい方法を模索しつつ、進んでいけたらと思います」(石崎さん)
スポーツ用品は趣味性が強い分野だ。利用者の気持ちを受け止め、ときにアドバイスも加えながら、よい関係を築いてきた同社。今後もその姿勢で、進化を続けていく。

(取材・文/崎原 誠)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社ヴィクトリア
本社 東京都千代田区
創業 1974年
資本金 1億円
従業員数 546人(2018年3月31日時点)
事業内容 スポーツ用品小売事業
URL http://www.victoria.co.jp/

ヴィクトリア 店舗サポートグループ マネージャー 石崎雅彦さん(左)
ゼビオコーポレート グループ人事部 マネジャー 三浦耕司さん(右)


 

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