事例 No.156 テルモ 特集 経験値を上げる新入社員教育
(企業と人材 2018年9月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

全職種合同で行う共通研修で、互いの仕事を学び合う
長期の営業実習で、「現場のわかる」技術者を育てる

ポイント

(1)入社後の1カ月間は、職種の別なく、合宿形式で「共通研修」を実施。社史を年表化した研修ツールを新たに開発し、理念教育強化に活用。

(2)共通研修の最終日には、研修での学びを企業方針にある「5つのステートメント」に紐づけて理解を深める成果発表会を実施。総勢140人が部署を越えて“ワンテルモ”を体感できるよう、グループ分けを工夫する。

(3)技術職については、共通研修後に約2カ月間、支店に派遣し、実際の営業活動を経験させる「営業実習」を実施。

設立時より社会貢献を掲げ、160 カ国で事業を展開

「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念のもと、医療に貢献するテルモ株式会社。1921 年に体温計の国産化をめざして設立され、3 年後には 100 周年を迎える同社は、現在、世界 160 以上の国と地域に事業を展開している。
同社は、企業理念とともに次の5 つのステートメントを掲げており、後述するように、新入社員研修においても、これらのステートメントに紐づけた取り組みがいくつも組み込まれている。
・開かれた経営
・新しい価値の創造
・安全と安心の提供
・アソシエイトの尊重
・良き企業市民
事業領域は、血管の治療や手術に使用されるカテーテルなどを扱う「心臓血管」、医療現場で使われる薬の投与システムや測定機器などを扱う「ホスピタル」、輸血や血液治療に使われる機器を扱う「血液システム」の 3 つに分かれており、このうち心臓血管領域が売上げの半分を占める。
新卒採用については、2018 年度は、大学・大学院卒と短大卒、高専卒で合わせて約 140 人、高卒約80 人を採用している。今回取材したのは、大学・大学院卒者ら約140 人を対象とした新入社員研修だ。職種としては、企画営業職(MR、スタッフ職など)が約 40 人、技術職(開発技術・生産技術)が約 100 人となっている。
同社の新入社員研修の大きな特徴は、入社後の1カ月間、職種の別なく全員が「共通研修」を受講すること、そして、6 月から 10 月配属までの間に、技術職全員が 2カ月間にもわたって実際に営業活動を行う「営業実習」を組み込んでいることだろう。以下、順を追って紹介していくことにしたい。

新人全員で学ぶ共通研修 理念教育で新たな取り組み

まず、新人育成の基本的な考え方についてたずねると、人財開発室兼ダイバーシティ推進室課長代理の神田尚子さんは、次のように語ってくれた。
「入社にあたっては、学生から社会人に切り替えることが大切です。人財開発室の使命は、その社会人としての根っこの部分、そしてテルモの社員としての根っこの部分を、共通のものとして育てること。根っこをしっかり育てて、それから枝葉の部分を、それぞれの配属先で伸ばし、整えていく。それが基本的な考え方です」
新入社員研修の全体像は、図表1にあるとおりだ。根っこの部分、つまり「仕事に対する基本姿勢」と「テルモの価値観」を身につける第一歩となるのが、4月1日から始める共通研修である。前述のとおり、採用時の職種にかかわらず、140 人全員が1カ月間、行動を共にする。前半は静岡県富士宮市の研修施設で、後半は開発拠点のある神奈川県の湘南センターに移動して、合宿形式で研修が行われる。

図表1 テルモの新入社員研修の全体概要

テルモの新入社員研修の全体概要

富士宮市での研修は1週間、4泊5日で実施される。初日はオリエンテーションが中心で、2 日目は入社式が行われる。式後は、就業規則やコンプライアンス、ソーシャルメディアポリシーなど、社内の基本的事項について学ぶ。3、4日目は「7つの習慣」をベースにしたマインドセット研修。最終日 5 日目はマナー研修やコミュニケーション研修を行う。各日とも夕食後に「レポート作成」の時間を設け、その日の学びを振り返る習慣づけを図っている。
2週目からの、湘南センターでの共通研修のプログラム概要は、図表2のようになっている。1日目に行われるのが「理念教育」のプログラム。今年度から大きく内容を変更し、力を入れているものだという。昨年までは 2 時間程度の講義を組み入れただけだったが、今年はほぼ丸一日を費やして、自社開発したツールを用いた新しい研修を実施した。

図表2 共通研修プログラム(4/9 〜 4/27)

共通研修プログラム(4/9 〜 4/27)

理念教育に注力する背景には、同社のグローバル化の進展がある。人財開発室の大川麻美さんは、こう説明する。
「当社の社員は現在、国内は約 5,000 人ですが、海外も含めたグループでみると 2 万人を超えています。海外拠点に駐在する日本人社員も増えてきていますが、なかには日本人駐在員が、現地社員たちに当社の歴史をしっかり伝えられないケースもみられます。そこで、テルモという会社がどんな会社なのか、どのような歩みでここまできたのかということを、新人のうちからしっかり教えていこうということで始まりました」
そこで、当初から新入社員だけでなく、さまざまな階層、場面で使ってもらうことを想定し、理念教育のツールを開発。国籍を問わず使いやすい教材とするために、日本語版、英語版の 2 種類を完成させた。なお、開発には株式会社インヴィニオの協力を得た。
それでは、このツールを活用した研修の内容について紹介しよう。ツールは、同社のこれまでの歩みを年表化したものだが、ところどころ空欄になっており、番号が振られている(図表3)。

図表3 理念教育ツール(Terumo Dialogmat)

理念教育ツール(Terumo Dialogmat)

人財開発室課長の中澤圭一さんは、次のように説明する。
「ここには、設立から現在まで、全部で 50 項目の主要な出来事が並べられています。そのなかでも、当社にとって大きな転機となったような重要な出来事 14 カ所が空欄になっていて、研修の参加者にはその出来事の内容が記載された14 枚のカードが渡されます。
空欄部分に適切なカードを当てはめていく過程で、当社ではこれまでにどういう出来事があり、そこではどんな経営判断がなされて、いまにつながっているのかを学べるようになっています。体を動かしながら進めるので、覚えやすいようです」
ツールには、さまざまな使い方があるという。たとえば、年表は4 つの時代に区切られており、それぞれをどんな時代か表現してもらう。「創設のとき」、「医療安全」、「多角化」、「M&A」など、受講者からはさまざまな言葉が出てくるそうだ。
また、困難な局面での経営判断について、どのような価値観に基づいてその判断がなされたのかを話し合ったりもする。
たとえば、同社は 1984 年に、当時は主力製品だった水銀体温計の生産終了を決めている。それは、患者さんと製造に携わる社員の安全を守るための決断であり、5つのステートメントの「安全と安心」を実践したものであった。そのようにして、グループでのディスカッションなども交えながら、同社が大事にしてきた価値観について理解を深めていくのだという。

研修での学びを企業方針に紐づける成果発表会

その後は、1 週間ずつ、「自社製品知識」、「生産工程・工場体験」、「医療業界・営業知識」の順に、社内の業務全般を座学中心に学ぶ。大川さんは「営業系も技術系も全員が一緒に学ぶなかで、お互いの業務の内容を理解できるようなプログラム構成にしています」と話す。
はじめの 1 週間は事業分野ごとの製品研修だ。実際の製品を触りながら、自社の製品がどんなものかを知る。3 事業の研修が終わったあとには、「製品研修まとめ」として、半日間の振り返りの時間を設けている。
2 週目は、「生産工程・工場体験」だ。1日目に研究開発から生産・販売までの全体の流れを学び、2日目から二手に分かれて、富士宮と甲府にある4つの工場を順繰りに見学する。最終日は、工場見学の振り返りとして各自まとめ、発表する。
「研修に主体的に参加してもらえるように、座学でも学んだあとに発表してもらうようにしています」(大川さん)。
3 週目に行われるのは「医療業界・営業知識」の研修だ。流通や市場環境、コンプライアンスも含め、販売に必要な知識や医療業界の知識を学ぶほか、診療報酬制度や薬価基準制度、そして治療の流れや病院経営についてなど、幅広く医療業界の知識も獲得する。医師の協力を得ての講話も実施。さらに、グローバル化したビジネス環境に対応するため、異文化コミュニケーションなどの時間もとっている。
そして、共通研修の最終日に行われるのが、この 1 カ月間の集大成ともいえる「成果発表会」だ。神田さんは発表会のねらいについて、こう話す。
「湘南センターでの研修の最終目的は、当社の事業や製品、あるいは工場のなかに、企業理念がどのように反映されているかをみつけること。それを発表してもらいます。
新人たちには、共通研修初日のオリエンテーション時から、共通研修の最後にはこういう内容の成果発表会をやるということを伝えてあるので、皆、集中力を切らさずに取り組めていると思います」
発表会は約 140 人全員が一堂に会して行われる。そのため、発表までのプロセスとグループ分けには工夫を重ねてきたという。実際の進め方は、次のようなものだ。
⑴ グループ分け・テーマ設定
新入社員は、まず 6、7 人ずつに分かれ、24 のグループをつくる。そして、図表4のように、共通研修の研修内容・テーマに沿って4グループずつ、6つのまとまりをつくる。

図表4 成果発表会のグループの分け方

成果発表会のグループの分け方

⑵ 個人ワーク
参加者は、発表会前日の成果発表会準備の時間に、個人ワークに取り組む。ワークの課題は、「各自のテーマにおいて、テルモの理念を感じとった事象を明確にし、その理由を考え、5 つのステートメントとの関連性を見出す」というもの。
⑶ グループワーク1回目
そして、発表会当日に、個人ワークで考えたことをグループごとに共有し、5 つのステートメントとの関連性についてディスカッションする。議論を通じて、各自の関連づけを修正したり、理由づけをより強固にしたりする。
⑷ グループワーク2回目
各グループ内で、一人ひとりの関連づけステートメントが確定したら、今度は同一のステートメントを選んだ人同士で集まり、全体で 5 つのステートメントグループをつくる。
⑸ チーム発表
ステートメントグループごとに資料を作成し、チーム発表を行う(各チーム 20 分)。発表では、なぜその事象に理念を見い出したのか、なぜこのステートメントに関連づけたのか、このステートメントを今後どのように具現化していきたいか、の3点を盛り込む。
チーム発表は、研修施設のいちばん大きな部屋で行われるが、事務局も含め 140 人以上が集まるため、「かなりパツパツ」だそう。それでも、学歴も職種もランダムに組み合わされた新人たちが、1つのチームとしてまとまって発表することには大きな意義があるという。
「最初は自分で考え、グループで議論し、今度は同じステートメントに関連づけた人同士でさらに議論していく。こうすることで、いろいろな考えがそこに反映されていきます。
そこまでやるのは、現場で働き始めると、自分の業務に一生懸命になってしまい、どうしても視野が狭くなってしまうから。それは必要なことではありますが、この最初の段階では、“ワンテルモ”としての根っこをしっかり理解しておいてもらいたいと思っています」(神田さん)。

共通研修の成果発表会の様子(1)

共通研修の成果発表会の様子(2)

▲共通研修の成果発表会の様子。

技術職は 2,3 人ずつ支店で 2 カ月間の営業実習

こうして、1 カ月間の共通研修が終わり、5 月連休が明けてからは、研修内容も配属時期も、職種により異なってくる。なお、各人の配属先は、共通研修の最後に発表される。
MR(営業職)の新人は、まず資格試験に向けた「MR 基礎研修」を受ける。それぞれ配属される事業の内容・製品について、専門的に学んでいく。そして、6 月から7 月初旬には配属という流れだ。
一方、技術職の新人たちは、最初に1カ月間の「技術系合同研修」で、製品の企画・製造・販売プロセスについて共通研修時より深掘りして学ぶ。その後は、「営業実習」、「プラネックス実習」、「育成塾」という3つの研修を順繰りに受けていく。
なかでも特徴的なのが、2カ月間におよぶ「営業実習」である。全国 21 支店に2,3人ずつ派遣され、実際に現場に出て、営業活動を行う。最初は先輩の営業担当者に同行することから始めて、慣れてくれば単独で営業に出るようになる。「技術者として、ユーザー目線をもって開発する大切さを学んでもらいたい」(大川さん)というのがねらいだ。
自身も技術職だったという中澤さんは、「技術職はアイデアだけではモノにならないことを知ってほしい」という。この営業実習は、じつは 20 年ほど前に中澤さんが企画してスタートしたものだ。中澤さんは導入当初の思いを次のように述べる。
「技術者が営業や医療の現場を知らないと、魂のこもったものができないし、開発スピードも長期化してしまいます。私自身、医療現場や営業現場に行ってはじめて、『自分たちの製品を待っていてくださるのはこういう人たちなんだ』ということや、『自分たちが使っている開発投資は、MR が一生懸命営業した結果得られたものなのだ』ということがわかりました。その経験から、新入社員研修に取り入れることにしたのです。
導入当初の新人たちが、いまは中核になってきているので、今後の製品開発に期待しているところです」
実習の期間については、この 20年の間にも変遷があり、最長で2年間の実習を課したこともあったというが、現在は「これ以上短くすると、せっかく営業支店に行っても“お客さん扱い”で終わってしまう」との考えから2カ月間となっている。一方、技術職の新人からは「製品スペックだけでは、お客さまは選んでくれないということがよくわかった」など、おおむね好意的な感想が寄せられているという。
営業部門出身の大川さんは「営業からすると、製品の善し悪しで自分の営業活動や会社の業績が決まってくるので、それにつながる考えをもってもらうためにも、しっかり営業のことをわかってもらいたい、という思いがあります。お互いのことをよく理解することで、ユーザーによりよい製品を提供できます」と話す。ちなみに神田さんは看護師資格をもち、臨床現場を肌身でわかっている立場だ。人財開発室のなかに多様な視点があり、いろいろなアイデアが出るというのが、テルモの人財開発室の強みのようだ。
そのほかの2つの研修についても、概要をみておこう。
「プラネックス実習」は、湘南センターにあるメディカルプラネックスで行う研修で、1 カ月におよぶ。同施設は、最新医療技術の創造と普及をめざして設立された総合医療トレーニング施設で、利用者は医療者、つまり同社のお客さまに自社の医療機器の使用方法をトレーニングすることを主目的としている。
実習では、医療現場で自社製品が実際にどう使われているか、臨床目線で体験する。それによって、自分たちが提供しているものの価値を知り、患者さんに与えているメリットをイメージできるようになることをねらう。
また、「育成塾」は製品に関するプロセスを学ぶ研修で、工場のベテラン層が講師となる。製品のスペックが決まってから、それをどう工場でつくっていくか、生産ライン、品質保証体制、工場の機械の基本、製造時に注意すべきことなどを学ぶ。ここでは工場には行かないが、工場さながらのシミュレーションができる機械を使用して実施する。

今後の課題は研修内容・期間の精査とOJT支援

ここまで、入社1年目の新入社員研修についてみてきたが、配属後に人財開発室で実施されるものとしては、2 年目の 2 月に再び同期全員が集まって行われる「2年目研修」がある。ロジカルシンキングやキャリア研修を中心とした2 日間の研修だ。
同社は「新人は入社から 3 年間で一人前に」としており、2年間を経過したところで、これまでを踏まえ、お互いの現状を伝え合い、それを今後のキャリアにどうつなげていくかを議論していく。

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「企画営業職は、相対的に職種や所属の異動機会がたくさんあります。だからこそ悩むことが多い。一方、技術職のほうでは『10 年同じ部門』という人もいて、そのなかでどう成果を上げて、どういうキャリアを築いていくかを考えていかねばなりません。これはこれで悩ましい」(大川さん)
最後に、新人育成に関する課題についてたずねると、「配属後のOJT 支援」と「研修内容の精査」の 2 つがあがった。
前者については、同社は現在、OJT リーダーなどの制度は導入しておらず、配属後は基本的に現場主導の育成になっているためだという。新人の受入体制が、どうしても部署によって違ってきてしまう点を改善していきたいということだ。
後者については、大川さんが次のように答えてくれた。
「現場での育成につなげるために、本当に新人に必要な研修は何か、もう少し精査が必要だと感じています。新入社員研修の期間も現状のままでよいのか、検討する必要があると思っています」
以上、テルモの新入社員研修についてみてきた。課題点もいくつかあがったが、そうした点も含め、今後はより現場と一緒に育成を考えていく予定だ。多様なメンバーで議論を進めれば、また新たなアイデアも生まれてきそうだ。今後の同社の取り組みに期待したい。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 テルモ株式会社
本社 東京都渋谷区
設立 1921年9月
資本金 387億円
売上高 5,878億円(連結 2018年3月期)
従業員数 4,781人
平均年齢 41.7歳
平均勤続年数 18.4年
事業内容 医療機器・医療品の製造販売
URL http://www.terumo.co.jp/

(左)
人財開発室 兼
ダイバーシティ推進室
課長代理
神田尚子さん

(中央)
人財開発室
大川麻美さん

(右)
人財開発室
課長
中澤圭一さん

※部署・役割は2018年7月取材時


 

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