事例 No.151 北洋銀行 特集 北海道の企業文化と人材育成
(企業と人材 2018年8月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

北海道の発展に貢献できる「専門人材」育成のため
新人教育や職位別・業務別研修の体系を大きく見直す

ポイント

(1)中期経営計画で人材育成強化が打ち出されたことを受け、研修体系を抜本的に見直す。地方創生に向け、顧客企業の成長戦略を「共創」できる人づくりをめざす。

(2)入行後3年間の「新入行員育成プログラム」では、3つの基本業務を確実に習得させるため、業務割当ての期間およびローテーションの仕方を明確にし、研修・必修通信講座をジョブローテーションにリンクさせる。

(3)各職位(階層)に求められる役割基準に基づいた、連続性のある研修体系を整備。1つ上の職位を展望する「NEXT研修」でコミュニケーション力・マネジメント力の向上を図る。

「道内企業の成長戦略を 「共創」できる人をつくる

株式会社北洋銀行は、1917年に創立以来、北海道に根差した地方銀行として地域経済の発展を支えてきた。1998年には北海道拓殖銀行より道内営業を譲り受け、2008年には札幌銀行と合併。現在では、道内での預金・貸出金のシェア、メインバンク取引社数ともに第一位を占め、北海道のトップバンクとして強固な基盤を確立している。
創立100周年を迎えた2017年には、3カ年の新中期経営計画「『共創』〜地域、お客さまとともに新たな100年へ」を始動した。同行経営企画部広報室・室長の太田仁さんは、「厳しい事業環境のなか、『新創業』の志をもって、次の100年に向かっていこうという強い決意を込めています」と語る。
マイナス金利政策により、金融機関はどこも収益が圧迫されているが、同行には課題先進地域である北海道ならではの事情もある。北海道は、全国より10年早いペースで人口減少と少子高齢化が進行しているといわれる。2010年に550万人だった道内人口は、2040年には419万人にまで減少するという推計もある。
「道内の各自治体は、地域活性化に向けてさまざまな施策を進めており、われわれは金融機関としてそれを後押ししていかなくてはいけません。地域のお客さまとがっちりタッグを組んで、新しい価値の創造に取り組み、北海道の発展に貢献していきたい。とくに、北海道の強みである『食』と『観光』については、さらなる成長が期待されています」(太田さん)
こうした状況を踏まえ、新中期経営計画では、次の5つの基本戦略を掲げている。
1)お客さまの潜在ニーズ発掘と最適なサービスの提供
2)事業性評価と地方創生に向けた主体的な取り組みの強化
3)安定した収益を生み出す生産性の高い強靱な組織への変革
4)多様化するニーズに即応する人材の育成・活性化
5)FinTechへの戦略的な対応
2番目にある「事業性評価」とは、融資を行うにあたって財務内容や担保だけでなく、事業内容や成長性を評価するというものだ。同行では、SWOT分析によるディスカッション資料を作成し、顧客企業との対話を通じて経営課題を共有している。そこから、M&Aや海外展開の支援、各分野の専門家への仲介など、それぞれの課題に応じたソリューションを提供しており、それが新規事業の創出や中小企業の成長につながり、地方創生の原動力になると期待されている。
しかし、これを推進していくには、多様な経営課題に対応して、コンサルティングができる人材を行内に増やしていく必要がある。基本戦略の4番目に掲げられた「人材育成強化」の方針を受け、同行人事部では、専門人材の育成や研修体系の抜本的な見直しを進めてきた(図表1)。

図表1 北洋銀行の中期経営計画「共創」における人材戦略

図表1 北洋銀行の中期経営計画「共創」における人材戦略

大きく変更された点は3つある。[1]入行後3年間の「新入行員育成プログラム」、[2]マネジメント力向上を図る「職位別研修」、[3]より実務に則した形での「業務別研修」。変更されたプログラムは、いずれも2018年度からスタートしたところだ。以下、順にみていくことにしよう。

新人の業務割当てを見直し、教育研修を組み合わせる

研修体系の第1の見直しポイントは、新入行員育成プログラムだ。
ちなみに同行は、新卒採用では書類選考は行わず、応募者全員を面接して合否を決めることで知られている。多様な学生に応募してもらうため、拠点を置く札幌のほか、東京でもインターンシップを開催しているが、実際に入行する新人のほとんどは何らかの形で北海道に縁のある人だという。人事部副部長の丹久憲さんは、次のようにいう。
「応募者の多くが北海道出身者です。北海道の大学に進学して、そのまま北海道で就職しようという人はもちろん、東京など道外の大学に進学したが、北海道に戻って働きたいという人が多いですね。それだけに、皆、北海道の発展に貢献したいという思いをもって応募してくれています」
それでは、まず新入行員育成プログラムの全体像からみていこう。プログラムは、入行後3年間で銀行業務全体を幅広く学び、積極的に実務経験を積ませることで、早期育成をめざすことを目的とし、OJTおよびジョブローテーションを基本に、集合研修(業務別研修)、必修通信講座、業法系試験を組み合わせたものだ(図表2)。

図表2 2018 年度新入行員育成プログラムについて

図表2 2018 年度新入行員育成プログラムについて

行員の仕事は大きく3つに分けられる。1つは、支店の窓口で預金や各種届出を扱う対面業務やその後方事務の仕事で、いわば銀行業務の基礎といえるものだ。同社ではこれを単に「業務」と呼んでいる。もう1つは、ローンや一般融資を扱う「フィナンシャル業務」、3つ目はお客さまの資産形成について助言するなどの「アドバイザリー業務」である。
「一昔前の銀行員は、預金をお預かりし、事務処理をこなせるようになり、最終的に融資ができるようになって一人前といわれたものです。しかし現在は、従来銀行が担ってきたフィナンシャル業務に加えて、お客さまの資産形成のお手伝いをするアドバイザリー業務も大きな事業の柱となっています。この2つの業務知識・スキルをしっかり身につけてもらうことが、早期戦力化につながります」(丹さん)
そのために、今回の見直しでは、ジョブローテーション方法・期間を明確化した。たとえば、総合職の場合は、まず「業務」を6カ月間経験してもらう。その後、A、Bの2パターンに分かれ、Aパターンはまず「アドバイザリー業務」を1年間、次に「フィナンシャル業務」を1年間という順番で業務経験を積み、Bパターンは反対に、先に「フィナンシャル業務」を1年、次に「アドバイザリー業務」を1年の順に業務を経験する。
従来は、入行後2年間のうちに、業務、アドバイザリー業務、フィナンシャル業務をそれぞれ半年以上経験させることとしていた。しかし、支店によって業務経験に偏りが生じるケースもあった。広大な北海道では、地域によって支店の規模や事情が大きく異なるため、特定の業務経験が長くなってしまうこともあったという。
また、半年間では各業務の習得が中途半端になってしまうという課題も指摘されていた。
そこで、あくまで目安ではあるが、アドバイザリー業務とフィナンシャル業務の担当期間を1年ずつに延長した。同社では、新人は通常、3年程度で異動となるが、それまでの間に、新入行員がバランスよく各業務の基礎を身につけることができるように、体制を整えた。
そして、このジョブローテーションに合わせる形で、集合研修や必修通信講座も見直した。
「従来は、たとえば融資導入研修を、入行2年目に、全員を一斉に集めて行っていました。しかしそれだと、その時期にフィナンシャル業務を担当していない行員は、経験に即した学びが十分にできません。現場経験のない状態で知識だけ学んでも、なかなか吸収できるものではないので、各業務の担当時期に合わせて受講できるように、開催時期・回数を変更しました」(丹さん)
また、必修通信講座についても同様に、A、Bパターンの担当時期に合わせる形で2パターンのメニューを用意する方式に変更している。

職位別研修を充実させ、連続性のある研修体系に

第2の見直しポイントとして、階層別研修である「職位別研修」も、今年度から大きな変更が加わった。
同行では、図表3のとおり、新入行員から支店長まで7つの職位を定めている。このうち一般から主査までを「担当職」、調査役から次長を「指導職」、副支店長以上を「経営職」と分類している。
「これまでは、新入行員研修後は、新任課長研修まで職位ごとの研修は行われていませんでした。そこで、各職位の役割基準に則った研修を新設し、新入行員から経営職まで、連続性のある研修体系にしました」(丹さん)

図表3 職位別研修の見直し

図表3 職位別研修の見直し

新設されたのは、受講者が現在よりも1つ上の職位を展望することをねらいとした「NEXT研修」シリーズだ。主査クラスを対象とした「NEXT研修(中堅行員)」、調査役を対象とした「NEXT研修(課長展望)」、課長(次長)を対象とした「NEXT研修(経営職展望)」の3つがスタートしている。いずれもリーダーの役割を理解して、自身のキャリアの展望を描くとともに、組織人として求められるマネジメント力やコミュニケーション力の向上を図る内容となっている。
さらに、従来3回行われていた新入行員研修を2回にして、3年目行員を対象とした「初級行員研修」を新たに導入した。最初の異動を迎えるタイミングで志を新たにし、同期との絆を深める貴重な場になると、丹さんは考えている。
第3の見直しポイントとしてあげられるのが、業務別研修である。融資やローンなどの業務ごとに、より習熟度に合わせて研修を受講できるよう変更された(図表4)。

図表4 業務別研修の見直し

図表4 業務別研修の見直し

まず、入行後3年間の新入行員育成の期間中は、前述のとおりジョブローテーションに合わせて担当業務の研修を受講する形となる。フィナンシャル業務担当期間中には、原則全員が「融資・ローン導入」、「融資実務基礎」、「融資基礎力」の3講座を受講する。新人向けとしては、これまで「融資導入」講座1つだけだったが、確実に基礎固めができるよう、3講座に増やしたのだという。
そして、アドバイザリー業務担当期間中には、「投資信託(基礎編・実践編)」、「生命保険(基礎編・実践編)」の4回、計11日間にわたって学ぶ「マスターキャンプ」と呼ばれる研修を受講しなくてはならない。
新入行員対象のもの以外では、融資に関する研修を習熟度に合わせて細分化した。
「従来行っていた融資パック研修では、入行2〜6年目を対象に、基礎力(1)、(2)および実践力(1)、(2)という計4本の研修をまとめて受講する形になっていました。
しかし、課長になるまでに経験する業務は、人によってさまざまです。そこで、入社7年目で初めて本格的な融資業務を担当する人は実践力(1)から受講し、逆にすでにある程度業務知識がある人は実践力(2)から受講するといったように、習熟度別に個別に受講する方式に再編成しています」(丹さん)
さらに、法人渉外実践研修が新設された。これは、ロールプレイングで法人営業のやり方を学ぶ研修だ。また、従来は中級者対象とされていた「業務検証者研修」は、検証業務の経験が浅い調査役から副支店長まで対象層を広げ、受講しやすくしている。

社外の現場で能力を磨くトレーニー制度

ここまで、今回、見直しが行われた施策についてみてきたが、同行は、そのほかにも独自の取り組みを行っている。
その1つは「トレーニー制度」と呼ばれるものだ。顧客の多様な課題に対応するため、銀行にも幅広い業務が求められるようになっており、多様な専門人材の育成が欠かせない。トレーニー制度は、人材育成を目的に、一定期間、外部専門機関および本部に行員を派遣し、特定の業務に従事させるというものだ。
募集する分野はアセットマネジメント、外為、経営改善、マーケットなど多岐にわたる。若手行員を対象に年に1度募集をかけ、人事部の面接と人事考課によって選抜を行っている。選抜されるのは各分野1名程度と狭き門だ。
たとえばアセットマネジメントトレーニーであれば、1年という期間のなかで、東京にある証券会社や運用会社に派遣され、トレーニーとして業務経験を積むことができる。経営改善トレーニーは、札幌の本部にある経営改善支援グループに1年間所属する。
なかでも最も競争率が高いのは、MBAコースだ。小樽商科大学大学院ビジネススクールでMBAを取得するという2年間のコースで、仕事をしながらの学位取得となるためハードルは高いが、毎回多数の応募があるという。

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さらに、自己啓発プログラムも多数用意されている。
その1つに、「AD(アビリティー・ディベロップメント)チャレンジ制度」がある。同社では、それぞれ上位等級への登用要件が定められているが、若手のうちはその要件の一部として自己啓発プログラムの目標単位が設定されている。調査役クラスへの登用には45ポイント以上、主査クラスへの登用には35ポイント以上といった具合いだ。
そして、必修の通信講座を受講したら2単位、銀行業務検定試験2級に合格すると6単位など、各種検定・資格取得・通信講座受講などによって、所定の単位を獲得できるようになっている。若手行員の専門知識習得を支援することで、自己啓発に取り組みやすい風土を醸成しようというのがねらいだ。
加えて今年度からは、新たな自己啓発支援プログラムとして「SD(セルフ・ディベロップメント)チャレンジ制度」がスタートした。すでに第一弾として、インターネット英会話の受講料補助と、WEBセミナー視聴費用の全額サポートが始まっている。今後は順次、メニューを広げていく予定だという。広大な北海道では、研修参加のための交通費などの経費がかさむという問題がある。そのため、より効果的・効率的な方法を模索していく必要がある。
以上、北洋銀行の人材育成の取り組みについて紹介した。前述のとおり、北海道は課題先進地域といわれ、道内産業の中核を担う同行も厳しい事業環境に置かれている。また金融業界には今後いっそうの環境変化が予想され、行員に求められる資質や能力も変わっていくのかもしれない。同行は、今後も試行錯誤しながら、人材育成・活性化の取り組みを続けていくという。
「人材育成の基本方針は今後も変わらないと思っています。しかし、カリキュラムのメンテナンスは必要です。常に内容を精査し、改善を続けていきたいと考えています」(丹さん)

(取材・文/瀬戸友子)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社北洋銀行
本社 北海道札幌市
創立 1917年8月
資本金 1,211億円(2018年3月31日現在)
経常収益 1,149億円(2018年3月期)
従業員数 3,032人(2018年3月31日現在)
平均年齢 40.9歳
平均勤続年数 16.5年
事業案内 預金業務、貸出業務、有価証券売買業務、外国為替業務など
URL https://www.hokuyobank.co.jp/

(左)
人事部 副部長
丹 久憲さん

(右)
経営企画部 広報室
広報室長
太田 仁さん


 

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