事例 No.143 CHINTAI 特集 五感を活かした研修の試み
(企業と人材 2018年6月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

新入社員が役員らと一緒に真っ暗な空間に入る「暗闇入社式」
終了後には距離が縮まるとともに、多くの気づきを得る

ポイント

(1)「インパクトのある入社式」をねらいとして、2014年度から真っ暗闇のなかでの入社式を開催。入社式の朝、新入社員8人と役員・部門長・人事担当の計14人で、特別に作られた真っ暗な部屋に入り、2時間以上を過ごす。

(2)暗闇のなかで、役員と新人が一緒になって、ゲーム要素のあるワークや自分と向き合う個人ワークを行う。最後に、所信表明を一文字で表す書初めをして、外へ出る。

(3)暗闇体験後は振り返りを行い、新入社員が書初めを手に所信表明を行う。終了後は役員も参加して昼食会。打ち解けた雰囲気で、新人と役員との距離が縮まる。

「楽しく便利に部屋探し」の実現のための人づくり

「touchyourheartあなたの心に触れる、心が動く、サービス」をコーポレートスローガンに、部屋探しの検索サイトを運営する株式会社CHINTAI。「心が動く」サービスを提供するには、ユーザーの要望に応えることはもちろん、ユーザー自身も思いつかなかったような斬新なサービスを創出することが必要だ。それを踏まえて同社では、既存の発想にとらわれず、斬新なアイデアを出すことを社員に求め、「手をあげた人にはチャンスを与える」ことを基本としている。
経営管理室人事担当グループリーダーの淺野由里絵さんは、次のように説明する。
「当社は社員約130名と、経営陣にとっても一人ひとりの顔がわかる規模です。そのため、だれがどこで何をやりたいかも把握しやすいこともありますが、そもそも経営陣の人材育成に対する思いとしてあるのは、入社年次に関係なく、手をあげた社員にはチャンスを与えたい、ということです。主力業務である検索サイトでは、部屋を探しているユーザーに、いかに楽しく、いかに便利に利用してもらうかをめざしており、そのためにはどうしたらいいか、若手からベテランまでアイデアを自由に出し合うことを重要視しています」
自主性を尊重する社風のため、全社的に行う研修は新入社員研修や新任管理職研修など限定的である。
「会社から『この研修を』とすべて指定するよりも、ある意味自由に、自分の伸ばしたいところを伸ばすような学びを奨励しています。たとえば自分が受けたいと思う外部の研修があれば、部門長に申請し、受講することも多いです」
新入社員に対しても、内定期間中から、そうした方針を踏まえた教育を実施している。その詳細については後述するが、「新入社員」としての教育の全体像は、図表1のとおりだ。4月初めの入社式に始まり、最初の1カ月間は、社会人としての基本的なマナー研修や社内・不動産業界の現状への理解を深める基礎研修を実施している。

図表1 新入社員研修のスケジュール(2017 年度実績)

図表1 新入社員研修のスケジュール(2017 年度実績)

「自発的に、自分からアイデアの発信をさせたいので、この期間は受け身にならないよう、週や日の目標を自分たちで決めさせたり、日報を書いてもらい、個人ができたこと/できなかったことを掘り下げてもらっています」
5月初旬に個人面談を行って、これまでの振り返りをしたあとは、2カ月間、グループ会社の店舗で接客など現場研修を行う。7月1日に正式配属となった後は、10月と3月に人事との面接があり、振り返りを実施。
淺野さんは「次の新人が正式配属されるのが翌年7月なので、今年は3月から7月までの間に、もう1つ研修を実施することも検討中です」と、新入社員研修がまだ進化中である様子を語る。

当初、探し求めたのはインパクトのある入社式

同社が、ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下、DID)のプログラムを活用した入社式、つまり、暗闇のなかでの入社式を初めて実施したのは、2014年度である。以来、新入社員を採用しなかった2016年度を除いて、毎年実施してきており、今年度で4回目を迎えた。
「もともとは育成というよりも、インパクトのある入社式をして、そこでモチベーションアップをしてもらいたいと考えて始めました」
淺野さんは、そのように導入のきっかけを語る。
なぜ、インパクトのある入社式にこだわるのかというと、「斬新なことをする会社であり、1年目から自由なアイデアをどんどん出していい会社である」と知ってもらいたいからだという。
従来から、同社は会社説明会や採用面接などの場で、事業内容が学生に伝わりにくいという課題を抱えていた。
「いわゆる不動産仲介業と勘違いされることもあり、また、検索サイトを運営しているとわかってはいても、入社後、実際に自分たちはどんな仕事をするのかがイメージできないという声が、学生からよく聞かれました。そこで、事業内容とともに当社の姿勢を伝えるために、選考段階での合宿など、インパクトのあるプログラムを実施し、斬新なことをする会社、それを自分たちでやっていい会社であることを、アピールするようになりました。
そういう選考過程を経て入社したとき、入社式がごく一般的なものだったらどう思うだろうと考えました。それで、あらためて『この会社に入ってよかった』と思えるような、既成概念にとらわれないインパクトのある入社式をしたいと考えたのです」
ちょうどそのころ、淺野さんの当時の上司であった人事課長が個人的にDIDのプログラムを体験し、暗闇で得られる気づきを社内で活用できないかとアイデアを温めていたという。「入社式に使ったらどうか」と話が進み、淺野さんも体験してみることになった。
「実際にやってみると、かなりインパクトがあり、自分自身も気づきがありました。じつは私は人見知りするタイプ。一緒に暗闇に入ったのは初対面の人たちばかりで、通常なら、あまりうまく話せないのですが、暗闇では声を発しないと何もできないため、かえってコミュニケーションがとりやすかった。その体験が新鮮でした。もちろん最初は緊張しましたが、暗闇に入るとむしろリラックスできました」
そうして、「暗闇での入社式」の実施が決定。暗いところが苦手という社長も、最終的には「やってみよう」ということになったという。
「役員からは、最初は抵抗感があるかなと思いましたが、新しいことに積極的に取り組む風土もあって、実施が決まりました」

入社初日の朝から役員らと一緒に暗闇へ

では、具体的な内容についてみていこう。全体の流れは図表2のとおり。実施するのは、まさに入社式当日である。

図表2 暗闇入社式のプログラム(2018 年度)

図表2 暗闇入社式のプログラム(2018 年度)

「今年は、なるべく動きやすい格好で、ヒールは避けて、とアナウンスしただけで、会場の最寄り駅に集合してもらいました。そのため、お花見かなと思った新入社員もいたようです」
過去には、新人に対して、事前に「暗闇のなかで入社式を行います」と伝えた年もあったそうだ。その場合は、DIDの関連書籍を事前に読んできてもらい、体験させた。研修効果としては、どう違うのだろう。
「事前告知ありの年も、なかった年も、どちらも気づきはありました。ただ、インパクトという点では、言わないでいたほうが大きいようです」
駅に集合してからすぐに会場に移動。暗闇に入る直前に、「このなかで入社式を行います」と伝えた。2018年度の新入社員は8人。会社からは役員および部門長の4人と淺野さんら人事担当の2人が参加し、全部で14人となった。簡単に名前だけを紹介し合って、白杖をもち、全員一緒に、どんなに目を凝らしても何も見えない純度100%の暗闇のなかへ。「アテンド」と呼ばれる視覚に障害のあるスタッフが案内してくれる。
暗闇にいるのは、2時間から2時間半だ。なかで行うワークについては、毎年、人事担当とDIDのスタッフとで相談して決め、変化をもたせているという。
まず暗闇に入ると、アテンドのスタッフから白杖の使い方を聞いたあと、全員で自己紹介をする。ニックネームを決め、暗闇ではお互いにニックネームで呼び合う。暗闇を進んでいくうえでは、声が非常に大切だ。自然に声を出すようになり、全員で助け合う過程でだんだんと暗闇に慣れていく。
ある程度、暗闇に慣れてから、いくつかゲーム要素のあるワークを実施した。ワークの具体的な内容は、淺野さんたちにも事前には伝えられておらず、ほかの参加者同様、当日になってわかる。
そのあとは2チームに分かれて、紙粘土のワークを行った。暗闇のなかでのチーム分けは、触覚を使い、違いを楽しみながら行う仕掛けがされていた。
それから、チームごとにテーブルをセッティングする。暗闇のなかでは、こうした何でもないことも、名前を呼び、声を掛け合ってやらないとできない。そして1人ずつ座り、粘土を使って「自分の好きだった時代の家の中にあったもの」をテーマに作品を制作。作品ができあがると、新入社員が、自己紹介を兼ねて、順番に自分の作品に関するエピソードを発表していく。
さらにその後、チームごとに作品を集め、それらを組み合わせて「理想の暮らし」をつくりあげた。それぞれの作品に加えて、必要だと思ったものを作って付け足し、1つのボードにのせていくのだ。
たとえば、家族がいて、猫がいて、こたつがあって……というものだが、合作したものを、暗闇から出てきて明るいところで見ると、サイズ感がばらばらだったりして、ユニークなものになっているという。暗闇のなかでは、どういう暮らしをつくっていきたいかなどを話し合うことになるので、自然にお互いの価値観を知ることができる。
制作のあとはお茶タイム。大きなペットボトルと紙コップが用意され、各自でついで回していく。周囲に気を配ることができるのか、そんな視点も問われる時間となる。最後に行うのは、「書初め」だ。墨、すずり、筆が渡され、一人ひとり、色紙に、所信表明の一字を書き表した。
「新入社員には事前に、『自分を印象づけられるように』とは伝えてありますが、一文字で所信表明をするとまでは伝えていないので、この場でいきなり表現することになります」
今回は、「行動」、「初」、「咲」などバラエティ豊かな所信表明が完成した。
書初めができあがると、ゆっくりと暗闇の外へ。明るさに目を慣らしてから、振り返りを行う。新入社員たちが、所信表明で書いた文字を見せながら思いを伝えたり、チームでつくった粘土作品を見て、感想を言い合ったりした。
最後には「社長からの手紙」が一人ひとりに渡された。手紙には、次のようなメッセージがあった。
「壁にぶつかったとき、CHINTAI社員としての初日が、当たり前では測れない『暗闇』からはじまったことを思い出してほしい」
「境界線を引くのも引かないのも、限界を決めるのも決めないのも、すべて自分次第」
いずれも、暗闇を経験した直後には、ことさら心に響く言葉だろう。入社式終了後は、全員で昼食会。午後は本社に戻り、社内ルールや人事的な手続きなどの説明が行われて、初日は終了だ。

入社式後は緊張も解けて、役員との距離が縮まる

同社のそれまでの入社式は、役員講話と新入社員の自己紹介が中心の一般的なセレモニーだった。
「私自身の経験でもありますが、以前の入社式は堅いまま終わり、緊張したまま昼食会となりました。それが、DIDで入社式を行うようになってからは、暗闇のなかでコミュニケーションがとれるため、そのあとの昼食会も打ち解けた雰囲気になります。暗闇で感じたことや所信表明で話したことなどが話題になり、盛り上がります。インパクトのある入社式を、ということでスタートした取り組みでしたが、結果として役員と新入社員の距離が近くなり、新入社員同士だけでなく、役員とのコミュニケーションが促進されました。また、自分から声を発することの大切さを感じる貴重な経験になっています」
淺野さんはそのように手応えを語る。
新入社員の感想もほとんどが肯定的だ。入社式当日に書いてもらうアンケートでは、DIDでの入社式を終えた心境を3つのキーワードで表してもらい、その理由も書いてもらっている。今年は、コミュニケーション、思いやり、信頼、自由、未知、信などがあがり、その理由として、「目が見えないぶん、ふだんより多くのコミュニケーションが重要だと感じた」、「細やかな思いやりによって相手に安心感を与えられる」といった内容が記されていた。
また、自由記入欄にも「緊張していたが、暗闇のなかではあまり緊張することはなかった」、「周囲の人たちと話をしていると想像力も豊かになった」、「耳を傾けて信頼していないと、恐怖感が一気に増してしまう」、「最後の佐藤社長の言葉と今回の入社式がとてもマッチしていて、限界とは何かを考えさせられた」など、それぞれに気づきを得られたことがわかる内容となった。
役員からも、「初めて参加したときには、声だけでコミュニケーションをとるため、声が印象に残り、新入社員のことをまず声で覚えた」、「暗闇のなかで自己紹介している言葉が響き、印象に残った」などの感想が寄せられた。声しか聞こえない状況だからこそ、より印象に残りやすい。その気づきは、ふだんから「相手の話に耳をしっかり傾ける」ことにつながっていくだろう。
暗闇入社式を経て入社した社員が増えるにつれ、次第に「新入社員だけではなく自分たちもやりたい」という声があがり、2016年度には全社員会議においても、DIDを実施した。
同社が年に一度行っている全社員会議は、「全員で集まり、コミュニケーションをとること」をねらいとした、遊び心のある2日間の会議だ。1日目にチーム対抗でビジネスゲームを行い、その順位によって、2日目に3つのユニークな研修のなかから、1つやってみたいものを選べる。そのコンテンツの1つにDIDがあるのだ。ほかには即興劇のワークショップなどを用意している。
淺野さんは全体会議の位置づけを、次のように説明する。
「ふだんは別々の部署で仕事をしているメンバーが混在するチームで競い合ったり、新しい体験をしてもらうことで、職場に戻ってから、また新しい価値を生み出すことにつなげたいという思いがあります。発想力やアイデアを出すための派生形といえるでしょう」

内定期間中から企画を形にする経験をさせる

前述のとおり同社では、4月の暗闇入社式までの内定期間にも、「自分から動いて、斬新なアイデアを生み出していく」社風を感じてもらう取り組みを行っている。
今年度の内定期間中の取り組みとしては、大きく2つある。1つは「次年度のインターンシップ企画の考案・実施」、もう1つは「オタ活」である。
まず「インターンシップ企画の考案・実施」についてだが、ねらいとしては「企画を提案し、それが承認された先を体験させること」だという。
同社では、採用選考でもチーム単位で企画を考え、プレゼンテーションして、それに対して幹部がフィードバックする。そうしたことを楽しい、面白いと感じた学生が入社してくるわけだが、実際の業務では、企画がとおったその先に、「サービスの構築」や「お客さまへの提供」がある。その部分までを、内定時に体験してもらうということだ。
次年度のインターンシップについて、就職活動を経験した直後の“当事者”として、学生に会社に興味をもってもらうために、どのようなコンテンツが有効かを考えてもらう。そして集客のほか、当日の運営にも参加してもらっている。
もう1つの「オタ活」は、入社するまでの間に、何か1つのことをオタクと呼ばれるくらいまで極めてくるという取り組み。
「内定から入社までの半年間に、業務に関係なく『自分はこれについては社内で1番』といえるように何か1つのことを極めるという活動をしてもらいます。自信をもって、自分の個性を発揮して仕事をしてほしい、やりたいことを自分から発信してほしい。そういうメッセージを込めています」
自分がもともと得意なことをさらに極めたり、これを機に新しいことにチャレンジしたり、内容はさまざま。内定期間中に2回ほど、「目標設定」「中間報告」などの報告会を行い、「仕事のやり方、進め方を自分で考える、ということも意識させています」。この活動については、入社1カ月後の新入社員研修のなかで、プレゼンを行う。
さて、今後の取り組みについて、淺野さんは、暗闇入社式は継続したいと考えているが、会社として「新しいもの」を追求していることもあり、固執しているわけではないという。
「とはいえ、いまのところ、DIDよりもインパクトがあるコンテンツはみつかっていません」

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一方、入社後の人材育成に関しては、淺野さんは見直しの必要性を感じているとする。
「個人の自主性に任せている面が強いので、どこかの時点で横串を刺すことも考えています。新入社員については、ストーリー立てて展開できていますが、その先、どのようなフォローをするのが適切かを検討することも必要だと思っています。
当社では、3年で異動するというような定期的なジョブローテーションはなく、人によって複数の部署を経験している人もいれば、同じ部署に長くいて役割が変わっていく人もいます。そのため、新人からすると、ロールモデルが明確にみえづらいところがあるかもしれません。
やりたい人が手をあげて、それを会社が適材適所やタイミングを考えながら配属しているので、もっと手をあげられる場を増やしたり、制度として受けられる研修を用意したりと、もう少し環境を整えることも検討したいと思います」
インパクトを重視した選考や課題、そして入社式が行われ、次に続く研修・教育がどのようなものになり、どんな成果が得られるのか、今後のCHINTAIの挑戦が楽しみである。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社 CHINTAI
本社 東京都港区
設立 1992年4月
資本金 1億円
売上高 非公開
従業員数 129人(2017年10月期)
平均年齢 35歳
事業案内 賃貸物件の空室情報提供サービスなど
URL http://www.chintai.jp/index.html

経営管理室
人事担当グループリーダー
淺野由里絵さん


 

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