事例 No.135 川崎信用金庫 事例レポート(新入社員教育)
(企業と人材 2018年3月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

メンター制度の導入によって、新人と
先輩双方が成長し育て合う風土を醸成

ポイント

(1)2015年度より、「メンター制度」を導入。メンター(職場の異なる先輩職員)がメンティ(新入職員)の専属の相談役として、仕事や私生活の悩みや不安を聞き、アドバイスする。

(2)メンティに対して、メンターは月1回の面談に加え、週1回以上、電話やメールで連絡を取ってフォローする。また、メンターに対しては、毎月の面談結果報告や、メンター同士の悩みを共有するフォロー研修でサポート。

(3)メンター制度が、新人のネットワーク構築や、管理職登用を見据えた先輩職員の指導能力向上の場になり、お互いが成長し育て合う風土の醸成につながる。

新入職員を対象にメンター制度を導入

「かわしん」の愛称で親しまれている川崎信用金庫は、現在、川崎市に40店舗、横浜市に14店舗、大田区に2店舗の計56店舗を構えている。1923年の創業以来、変わらぬ堅実経営の下、地域に密着した業務運営を展開する“地域密着型金融”に取り組み、「地域の皆さまと共に歩む金融機関」として厚い信頼を得ている。
人と人とのつながりを大切にする同金庫の考え方は、新卒採用にも表れている。パソコンやスマートフォンが普及し、ウェブによるエントリーが一般化するなか、あえてハガキでエントリーを受け付け、本当に関心をもっている人に応募してもらったうえで、応募者全員と説明会で会う。出会いを大切にし、長い付き合いに発展させていくために、一人ひとりと本気で向き合う方針なのである。
この3年ほどは、年40〜50人程度の新入職員を採用しており、2018年度も30人の採用を予定している。
そんな新入職員たちを対象として、2015年度に導入したのが、今回紹介する「メンター制度」だ。
別店舗の年齢の近い先輩職員が専属の相談役(メンター)となり、経験の浅い新入職員(メンティ)が早く仕事や職場に慣れるように、悩みや不安を聞き、アドバイスするものである。
人事教育部研修・採用担当審査役の新倉俊幸さんは、メンター制度導入の背景について、次のように説明する。
「背景として、新入職員を1人だけ配属する店舗が増えたことがあります。2人いれば互いの悩みを相談できますが、近年は1人配属が増えています。そうした小型店舗では、年齢の近い先輩がいないことも少なくありません。
そこで、職場の上司や歳の離れた先輩より身近な存在として、悩み相談に乗ってくれる職員をつけることにしました」
広報企画部副部長の小野寺昌英さんも、次のように話す。
「時代背景として、仕事のあと、職場の上司や先輩と飲みに行く機会が減ったこともあります。とくに新人の場合、上司が気を遣って早く帰らせますので、さらに先輩との接点をもちにくくなっています。
昔は、毎日のように先輩に飲みに連れていかれ、そこで仕事の話を聞いたり、相談したりすることができました。最近、社内運動会などが見直されつつありますが、そうしたコミュニケーションの場が大切なのです」
ただし、同金庫がメンター制度を導入したのは、新入職員から「相談できる人がいない」と訴えがあったからでも、離職率が高まったからでもない。離職率は以前から低く、入庫3年以内の退職者は1人か2人、メンター制度導入後の3年間では1人だけである。メンター制度を導入しなければならない切迫した理由はなかったが、たまたま、当時の人事教育部長が雑誌でメンター制度の記事を読み、より働きやすい環境にするために導入を決めた。
また、メンティに相談しやすい環境を提供するだけでなく、メンターの成長を促すねらいもある。すべての店舗に毎年新人が入ってくるわけではないので、なかには、後輩をもったことのない職員もいる。今後、係長などの管理職に引き上げていくうえで、部下指導の経験を積ませたいと考えたのだという。

他社の事例を参考に制度を設計、運用へ

制度設計にあたっては、当時の部長が読んだ記事に紹介されている会社へヒアリングに行き、参考にした。ただし、そのまま導入するのではなく、同金庫の状況や考え方にあわせて仕組みを決めた。
たとえば、ヒアリングした会社は全国展開しており、支社が離れているため、メンターが電話でメンティの相談に乗っていたが、同金庫の場合は、支店同士が近く、端から端でも1〜2時間で行ける距離にある。それならば、「顔を見て話すほうが表情もわかり、相談しやすい」と考え、メンターは毎月1回以上、メンティと直接会ってもらうという方法にした。
こうして、同金庫でメンター制度を導入し、本格的に運用することとなった。年間の大まかなスケジュールは、次のような流れとなる(図表1)。詳細は後述するが、まず、5月中旬にメンターを募集し、6月にメンターとメンティの組み合わせを決め、メンターを任命する。同月下旬には、メンター向けに事前勉強会を行い、メンターの基本的な役割や話の聴き方を学んでもらう。そして、顔合わせのうえ、7月初旬から翌年3月までの9カ月間、メンターはメンティの専属の相談役として、業務をこなしつつサポートする。

図表1 メンター制度 年間運用スケジュール

図表1 メンター制度 年間運用スケジュール

ちなみにメンティは、4月に入庫してからメンターがつくまでの間、「マン・ツー・マン・シート」という書式を用いて日々の指導を受けつつ、各職場に慣れてもらう。
人事教育部女性活躍推進担当調査役の村上裕子さんはこう話す。
「今日学んだことや疑問に思ったことを新入職員がシートに記し、それに対して、直属の先輩が、『そういうときはこうするんだよ』とコメントを書きます。新入職員と部署の先輩との交換日記のようなものですね。支店長もみて、職場全体で育成してもらいます」

メンターは原則公募本人のやる気を重視

メンターとなるのは、入庫3〜8年目程度の職員。「少し年上のお兄さん・お姉さん」というイメージである。メンタル面のサポートを期待しているので、メンティが相談しやすい年代にした。
「導入初年度は、係長になるためのステップという位置づけも検討していたため、メンターには係長の一歩手前の職員も選びました。しかし、そうすると年齢が離れてしまい、メンティが相談しづらい傾向もみられたため、いまは年齢の近い層にしています」(新倉さん)
メンターは原則公募制で、必要人数が集まらない場合にかぎって、人事教育部から声をかけるが、あくまでも本人の意欲を重視し、応募者を優先する。
「メンティは、最初のうちはなかなか心を開いて相談することができないので、メンターは飲みに連れていったり、自宅に招いたりして、心を開いてあげる必要があります。そのほかに、月1回の面談や週1回以上の連絡も欠かせないので、業務で忙しいなかメンターを務めるには、本人のやる気が何よりも大事です」(新倉さん)
ちなみに、メンターを務めたからといって、評価や昇格に結びつくわけではない。それを目的に手をあげる人が出てくる恐れがあるからだ。メンターの上司がメンターの活動をみて評価することはあっても、それありきにならないようにしている。
メンターとメンティの組み合わせは、人事教育部が決める。男性と女性では悩みも違う。相談のしやすさも考慮し、同性同士で組み合わせることにしているという。ちなみに、同金庫の正職員の4割は女性である。また、キャリアをイメージしやすいよう、大卒には大卒、高卒には高卒の先輩を組み合わせる。
担当業務の違いについては、こだわらない。新入職員は、預金、融資、出納などを一定期間ごとに経験するので、初めに担当業務を合わせても、途中で変わってしまうからだ。
ただし、営業店所属か本部所属かはみるようにしている。本部は専門職が多く、営業店の仕事と重なりがみえづらいため、その点は勘案しているという。
また、当初は「共通点があるほうが親しくなりやすいだろう」と、出身大学や趣味、部活動などが同じ人をマッチングしていた。しかし、定期的に面談をするうえでは面談のしやすさのほうが重要なので、最近は、通勤経路や支店が近いことをより重視している。
性格のマッチングは、あまり気にしていない。メンターになる人に、「評価が〇〇以上」といった条件はないが、自ら手をあげてメンターを務める人たちなので、後輩に悪影響を及ぼすことはなく、皆、メンティの身になってコミュニケーションをとっているそうだ。メンターおよびメンティからの報告書や終了後のアンケトをみても、問題はみられない。
導入初年度はとくに応募が多く、男性は新入職員の倍の人数が集まった。女性の場合、自分から手をあげるのをためらう傾向があるが、本当はやってみたいという人が多く、人事教育部が声をかけると、大半の女性職員が前向きな反応を示す。
なお、「多くの人にメンターを経験してほしい」と考えているため、一度メンターを務めた職員は、翌年以降、対象から外している。
これまでの運用で、途中でメンターとメンティの組み合わせを変えたことはない。期間中に係長に昇格した職員もいたが、そのまま継続した。また、産休に入った女性職員の場合も、そういう先輩と接するのもプラスになるので、電話やメール、手紙のやり取りによって継続してもらった。

月1回以上直接面談、電話やメールも利用

メンターは毎月1回以上、必ずメンティと直接面談をする。また、週1回以上、電話やメールで連絡をとっている。そのほかにも、メンティから相談を受けたら、随時面談や連絡をする。
メンティは、仕事や私生活のことなど、どのような内容でもメンターに相談してかまわない。
「私生活でうまくいかなくて仕事に支障をきたすこともありますので、休日の過ごし方でも恋愛相談でも、何を話してもよいことにしています。皆、本当に仲がよく、一緒に遊園地に出かける女性のペアや、休日に自宅に招いてもてなす男性もいます」(村上さん)
メンターの役割は業務指導ではなく、メンティにとって精神的な面での支えになってもらうことだが、相談内容の8割は、事務のやり方など仕事に関すること。新入職員は定時で帰ることが多く、相談したいことがあっても、残業をしている先輩には声をかけづらい。そんなとき、メンターにならば、気軽にメールできる。
「『係が変わるので不安』、『資格試験はどうすればよいか』、『職場の人間関係に悩んでいる』といったことも、メンターのほうが気軽に相談しやすいと思います。
メンターの側も、相談を受けることで基本事務の見直しができるため、双方にメリットがあります」(新倉さん)
面談は業務時間内に実施してよいが、終業後、食事をしながら行う人が多い。お酒が入ったほうが本音で話しやすく、時間の融通もきく。面談の所要時間は、短い人で1時間程度。メンターには、活動費として、月5,000円の「メンター手当」を支給している。

▲メンターの菅野友梨子さん(左・3年目)とメンティの矢作真利 恵さん(右)が交流する様子

▲メンターの菅野友梨子さん(左・3年目)とメンティの矢作真利 恵さん(右)が交流する様子

面談日も本人たちで自由に決めてもらっていたが、上司に「この日は面談日なので」と言い出しづらい人も多かったようだ。そこで、毎月中旬の金曜日を指定日にした。もちろん、別の日にしたければ、自由に変更できる。指定日を設けることで、「今日はメンターの面談日だから、早く上がろう」という職場内の雰囲気づくりにつなげるねらいもある。

面談シートや研修でメンターをサポート

メンターには、月1回、面談結果を報告してもらう。メンティと何回連絡を取ったか、相談があったか、どんな内容か、解決したか、今後対応が必要か、相談以外で気づいたことなどを「面談シート」に記入する。メンターの負担を考え、簡単な書式にした(図表2)。

図表2 面談シートの主な項目

図表2 面談シートの主な項目

面談シートには、報告してよい内容のみを書き、新倉さん個人あてにメールで送る。自由に相談できるよう、メンティの上司への報告は義務づけず、人事教育部から上司に開示することもない。対応が必要な場合は、まずメンターに確認し、メンティともやり取りをしながら解決を図る。
2017年度からは、メンティにも2カ月に一度アンケトを提出してもらうことにした。そこで本人の気持ちを確認し、必要に応じてメンターにフィードバックする。
また、毎年11月初旬に、メンターフォロー研修を実施する。メンター同士の情報共有を目的とし、どんな活動をしているか、どんな悩みがあるかを話し合い、互いにアドバイスする。これにより、ほかのメンターの上手なやり方を知ることができるし、「自分はなぜこんなことで悩んでいたのだろう」という気づきも得られる。
“メンターのメンター”は人事教育部の役割であり、面談シートを提出する際にも相談できるが、同じ立場の者同士で語り合うのも効果が大きい。
メンターが抱える悩みで多いのは、「メンティからきちんと相談してもらえているだろうか」ということ。「心を開いてくれていないのではないか」、「遠慮があるのでは」と心配する人が多い。メンタル的な悩みがなく、仕事上の疑問は職場内で解決していれば、メンターに相談がなくてもおかしくはない。しかし、メンターはメンティと職場が別のため、働いている様子を実際に見ているわけではないので、「本当に悩みはないのか」と気になるようだ。

お互いが成長し、育て合う風土の醸成へ

翌年3月末に、9カ月間実施したメンターによるサポートが終了する。その際のアンケトでは、9割以上のメンティから「メンターと親しくなれた」、「面談は楽しかった」、「実際に相談ができた」と回答している。「何度も同じ質問をしてはいけないと思い悩んでいたが、メンターに相談して解決した」、「趣味が同じなので話が弾み、面談が楽しみだった」といった声が聞かれた。メンターからは、「支店には後輩がいない。役席になる前に後輩指導の経験ができ、勉強になった」といった声があり、この制度が高く評価されていることがわかる。
また、新入職員は、所属店舗に年齢の近い先輩がいないと、「私もこの人のようになりたい」という目標をもちづらい。メンターは、「数年後の自分」をイメージできるロールモデルにもなる。
メンターには、新人の視野を広げてもらうために、面談の場に同僚を連れていくことを推奨している。メンター同士が知り合いの場合は、合同で会うこともある。そのため、社内の人脈が広がり、ネットワークができるメリットもある。別の支店に知り合いが増えることは、新入職員が長く働いていくうえでプラスになることが多い。
メンターは皆熱心で、月に何十回もメンティと連絡を取り合う人もいる。それぞれ工夫して取り組んでおり、あるメンターは、面談での相談内容や資格試験のアドバイス、お客さまへのアプローチ方法などを新聞形式にまとめ、メンティにアドバイスしていたという。
こうしたメンターとメンティの熱心な活動を、支店の上司はどうとらえているのだろうか。小野寺さんは、2つの店舗で支店長を務めた経験をもつ。
「職場では、『わからないことがあれば何でもいって』と言われますが、新人は、自分が何をわかっていないかがわからない。そんなときに相談できるのが、メンターのよいところです。
また、仕事のやり方にはいろいろな方法があるので、別の支店の先輩に話を聞き、『こういう方法もあるんだ』とわかると、それがヒントになって、仕事が発展することもあります。
一方、メンターも、いくら自身が優秀でも、自分ができることと人を育てること、部下をもつことは違います。それを管理職になる前に経験できるのは、大きなメリットです」(小野寺さん)
制度導入から3年が経過し、かつてメンティとして指導を受けた人がメンターに立候補する好循環が生まれている。また、メンターにならなくても、職場に後輩が入ってくれば、メンターのような視点で接するだろう。メンティのときに感じたことを踏まえ、よりよい指導を心がけるはずだ。
「最近、コミュニケーションの取り方に関する本や講座などが増えていますが、コミュニケーションというのは、本で学ぶものではないと思っています。
実際にやってみないとわからないことが多く、それを学ぶ実践的な教育としても、よい制度だと感じています。今後も、職員同士が育て合うよいサイクルがまわっていくよう、取り組んでいきます」(新倉さん)

制度で縛りすぎないことがポイント

メンター制度は今後も継続するが、スタト時期については、見直しを検討している。いまは7月に開始しているが、それ以前でも、新入職員が悩むことはある。かといって、4月1日にいきなりスタートするのがよいかというと難しいところだが、たとえばゴールデンウィーク明けくらいにスタートし、いわゆる5月病にならないよう、メンタル面のフォローをするといったことが考えられる。入庫時研修の充実も検討しており、それと併せてよりよいタイミングを模索している。
終了時期(入庫1年目の3月末)についても、「もう少し延ばしてほしい」という声がある。2年目になり、営業の仕事をするうえで悩むことも増えてくるので、その辺りのフォローアップをしてほしいという希望だ。
ただ、終了後もメンターと連絡を取っているメンティが多いので、制度自体はいままでどおり3月末までとし、その間によい関係をつくってもらえばよいととらえている。
最後に、メンター制度の導入を検討している企業の担当者に向けて、アドバイスをいただいた。
「制度をガチガチにしないことがポイントだと思います。メンター制度には、仕事だけれども仕事ではない部分もあります。あまり制約を設けて縛ってしまうと、メンターが動きづらくなります。本人たちにある程度権限を与え、なるべく自由にできる環境にしたほうが、本人のやる気も高まり、工夫をして熱心に取り組んでくれます。

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人事の役割は、あくまでもフォローアップ。メンターが解決できないような問題が生じたときに、一緒に支援していく形がよいと感じています」(新倉さん)
「新入職員が、たとえば、大学の友人などに相談したとしても、友人は、当然仕事の実情についてはわからないので、リアルに受け止めてもらえずに終わります。
したがって、新入社員より少し上の「お兄さん・お姉さん」的存在で、しかも、仕事の実情はわかっているけれど職場は別、というほどよい距離感のある先輩の存在が重要となります。
職場の先輩にいわれたことに納得できず、でも、反論できなかったとき、相談できる存在がいてくれるだけでありがたいものです。
最近は、兄弟・姉妹がいない家庭も多いので、悩みを聞いてくれる年齢の近い存在がいることは、とても心強いと思います」(村上さん)

(取材・文/崎原 誠)


 

▼ 会社概要

社名 川崎信用金庫
本社 神奈川県川崎市
創立 1923年7月
経常収益 270億6,498万円(2016年度)
自己資本額 1,527億円(2016年度)
役職員数 1,412人 (2017年3月31日現在)
事業案内 預金・融資・為替業務および、国債や投資信託、生命保険、損害保険の窓口販売など
URL http://www.kawashin.co.jp/

(左)
人事教育部
研修・採用担当
審査役
新倉俊幸さん

(中)
人事教育部
女性活躍推進担当
調査役
村上裕子さん

(右)
広報企画部
副部長
小野寺昌英さん


 

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