事例 No.109 国際自動車 特集 いつから始める? 新入社員教育
(企業と人材 2017年9月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

内定時からさまざまな研修・イベントを通じて
理念を共有し、グループ全体の一体感も醸成

ポイント

(1)内定から入社前までは、料理を通じたチームビルディング研修や運動会を実施するほか、保護者向けに「オープンカンパニー」も開催。さらに希望者には、入社後に必要な資格取得のための研修も行う。

(2)入社後の新人研修では、夕方から夜間に都内を歩いて回る「kmウォーキング」を実施。ハードな環境下で同期との連帯感やホスピタリティにつながる精神の醸成や、歩ききった成功体験、応援する先輩や上司との連帯感を育む。

(3)新入社員研修後は配属部署でOJT指導。現場で学びながらも、3カ月ごとに研修を行い、丸1年後の研修では先輩社員となる心構えを学ぶ。

基本はホスピタリティの精神を浸透させること

タクシーを中心に、ハイヤー、バスをはじめ、自動車運行にかかわるさまざまなサービス部門を有する旅客運送事業の総合企業として知られるのが、国際自動車(km)グループだ。「kmグループは、つねに感謝の気持ちをもって、お客さま満足を追求し、『kmブランド』の向上を通じて業界の発展に尽力するとともに、心豊かで潤いのある社会づくりに貢献します」という企業理念の下、(1)「輸送の安全確保」を大前提とし、コンプライアンスを最優先とする、(2)「人よし」「車よし」「サービスよし」の「kmブランド」を磨き、もって業界全体の社会的評価向上をめざす、(3)社会に貢献する、という3つの経営方針を掲げている。

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さらに、この経営方針の下に、グループのモットーとして「ホスピタリティ・ドライビングkm」を打ち出し、「お客さまのお役に立ちたい」「喜んでいただきたい」というホスピタリティの精神の全社的な浸透を図りながら事業に取り組んでいる。
人材育成に関しても基本となるのが、このホスピタリティ(図表1)だ。管理部人財研修課係長の永原二三男さんは、こう説明する。

図表1 同社グループのモットーより抜粋

図表1 同社グループのモットーより抜粋

「当社のホスピタリティは、言葉にすると、最終的には一人ひとりが感性を活かして、そのときその場でお客さまにベストを尽くすこととなりますが、相当な深みがある概念なので、新入社員が入社したときには、2日間かけてホスピタリティに特化した研修を行っています。その際にテキストとして使用するのが、独自に作成した『ホスピタリティ・ブック』です。これは具体的な業務に即したマニュアルで、タクシーバージョンとバスバージョンの2通りを用意しています」
こうしたホスピタリティの教育をはじめ、同社グループのさまざまな研修を行う自社研修機関が、「kmグループ赤坂ホスピタリティカレッジ」である。2014年1月に創設され、社員に対する研修計画の立案・実施や教材の開発作成等を手がけている。
一方、同社を取り巻く事業環境だが、タクシー業界ではまずタクシー会社同士での競争が激化している。
「たとえば最近は、施設内にあるタクシー乗り場を、特定のタクシー会社に委ねる動きが出てきており、当社も幸い現在22カ所でご指名いただいています。一般のお客さまからの電話での受注も増えていますし、お客さまに選ばれる存在になることが求められているのです。タクシー業界は安全面が第一ということもあり、価格競争は基本的にありませんし、タクシーの車両自体も同業他社でそれほど顕著な違いはありません。大きいのは、ドライバーの対応、運転技術、地理の知識等であり、当社はこれらを含めたホスピタリティで勝負していこうとしています」(永原さん)
また、将来的には、A(I人工知能)、IoT(モノのインターネット)等の技術進化による無人タクシーや、現在、政府で検討されている規制緩和によるライドシェア(相乗り)サービスの登場も予想される。当然、タクシー業界も影響を受けるが、同社ではこうした動きに対しても、ホスピタリティで対抗していこうとしている。
「これは代表取締役社長の西川(洋志氏)が今年の年頭あいさつで述べたことですが、たとえばAIやIoTが進化しても、タクシードライバーという仕事はなくならないし、むしろそうした技術が進歩すればするほど、人でしかなし得ないホスピタリティの部分が輝きを増すだろうと。だからこそ、当社では、より一層ホスピタリティが大切であり、教育でもここ一点に集中して磨いていこうとしているのです」(永原さん)

内定者に手厚く。オープンカンパニーや資格取得研修も

同社では毎年新卒者を採用しているが、2010年からは、タクシー業界として初めて、4年制大卒の新卒を対象にしたドライバー職の採用も行って話題を呼んでいる。管理部人財採用課係長の青木雅宏さんはこう話す。
「最初は総合職で入社した新人の一人が、ドライバーもやってみたいと言ったのがきっかけです。当社では、ある程度社会経験がないとタクシードライバーという仕事は難しいのではないかと考えていたのですが、運転技術やビジネスマナー等の研修を手厚くして対応したところ、予想以上に活躍してくれたので、“アリ”なのではないかということになりました。翌年からは、総合職採用者にドライバーを一定期間経験してもらう形で、新卒ドライバーを増やし、2013年からは最初からドライバー勤務での採用を本格的にスタートして、43人が入社しました。以後、採用を継続しています」
2017年春入社の実績では、新卒者のうち、ドライバー職131人、総合職・一般職8人、整備職3人、ガイド職9人の計151人を採用している。彼らに向けて多様な教育プログラムを用意しているが、まず採用前の内定段階から内定式までの間にも、各種の内定者教育や、内定者のつなぎ止めなどを意識した施策を実施している。
たとえば、毎月開催しているのが、「オープンカンパニー」だ。これは内定者の保護者向けの説明会および事業所の見学会で、内定者本人とその家族が参加する。

▲保護者が事業所を見学するオープンカンパニー

▲保護者が事業所を見学するオープンカンパニー

「そもそもは新卒者の親御さんへの対応策としてスタートしました。いまの新卒者のご両親の世代だと、残念ながらタクシー業界へのイメージはよくありません。大学まで出ているのに、なぜタクシー会社なのかと思われる方も少なくないのが実情です。そこで、大学のオープンキャンパスにヒントを得て、ではご家族の方にわれわれの会社のすべてを見ていただき、会社の理念やキャリアパス等もしっかりとご説明して、理解をしていただいたうえで入社を決めてもらおうと思ったんです」(青木さん)
また、チーム・ビルディングをメインとした内定者研修も実施している。その1つが、7月に行う料理対決の研修だ。
「チームに分かれ、予算の相談から始まり、何を作るかや材料の買い出し、調理の役割分担を相談するといった内容です。一緒に働く同期の結束を深め、この仲間で内定式を迎えるということを目的に実施しています」(青木さん)
同様の趣旨で、9月には運動会も開催するほか、営業所が主体となり、住居の近い内定者を集めてバーベキュー大会や各種のイベントも行っている。これは、配属後の上司・先輩や同僚との人間関係を築くことも大きなねらいになっている。
そして10月1日に、内定式を開催する。その後は、学業がおろそかにならない範囲で、参加可能な人には入社後不可欠となる資格(二種免許および東京のタクシーで必要となる地理・法令試験)取得をめざす研修を行う。内定者とのやり取りを担当する専任の人事担当者が、メールや電話等で内定者一人ひとりに声かけをし、希望者には内定者アルバイトという形で時給を支払いながら運転免許や地理・法令の勉強をさせている。日程は、本人が都合の良いところを選択し、人事担当者が調整する仕組みだ。
研修を続けるなかで合格ラインがみえてくると、内定者には実際に資格取得にチャレンジしてもらう。取得にかかわる費用は、不合格になって何度も受験した場合も含め、すべて会社負担だ。
「ここまでするのは、1つには内定辞退が防げるということがあります。今年入社の社員でいえば、ドライバー131人のうち、約90人が参加したのですが、参加した学生の内定辞退は、いまのところほぼゼロと、数字にも表れています。また、もし131人全員を入社してから一斉に教育するとなると、こちらもキャパシティオーバーになってしまいます。入社前に一定数の社員の資格取得が終わっていれば、その人たちは早く現場に出せますし、新入社員の研修段階がある程度分けられることで、育成計画全体をコントロールしやすいわけです」(永原さん)
「学生にとっても、地理・法令試験と運転は、一番不安に思っているところなので、その教育を事前に受けられるというのは不安の解消になるようです。それが内定辞退を防いでいるという面もあると思います」(青木さん)

夜通しチームで東京を歩く「kmウォーキング」

ここからは、入社後の新人研修について紹介していこう。
入社して2週間は、外部会場を借り、社会人としてのビジネスマナーを習得し、同社グループ全体の考え方や業務を理解するための研修を実施する。ビジネスマナーについては、丸2日間かけて言葉遣い、身だしなみ、電話応対等の基本を教える。また、企業理念、経営方針、モットーはもちろん、事業部門ごとに事業内容の説明等も行う。そのほかにもチーム・ビルディングなどさまざまな研修を用意している。
こうした研修の集大成的に実施している同社独自の取り組みが、“kmウォーキング”だ。これは、今年の場合、都内の42.195kmの道のりを、班(1チーム6人)ごとに夜通し歩くというもの。今年は、木曜夕方から歩いて金曜の朝にゴールするスケジュールだった。
「これだけ長い距離を歩くと、皆、疲れきってぎりぎりの状態になり、会話がなくなったりして、気まずい微妙な空気が生まれます。そういうなかで一歩踏み出して目の前の相手を気遣うことができれば、それこそがホスピタリティにつながるだろうと。それを体験してもらいたいというのが一つ。そして同期の絆を強めてもらうというのが、この研修の目的です。さらにいえば、歩ききったという成功体験をしてもらうこともですね」(永原さん)
また、ドライバーに配属される社員の場合は、東京の道を歩くことで、自分の職場となる街の地理や雰囲気を実感してもらうというねらいもある。
加えて、この研修には新人教育にとどまらない副次的な効果もあるという。たとえばコース内にはいくつかチェックポイントが設けられており、その一つになっている営業所では、社長以下社員たちが自らうどんを作って新人たちにふるまうのだそうだ。
また、約3,300台ある同社のタクシーには、リアルタイムで「現在、ウォーキングの先頭グループは〇〇あたりを通過中」などといったメッセージが発信されており、参加者を発見したドライバーが車のなかから手を振って応援する光景もみられる。
さらには、ゴール近くでは、会社から集合をかけたわけでもないのに、多くの社員が自然に集まって応援する――といった具合いに、新人や採用担当のみならず、グループ全体の一体感を高める効果も生まれているのだ。
このkmウォーキング、全般的に効果が大きく、好評であるため、今後も継続していく方針でいるが、細部については試行錯誤の面も多く、毎年、新人の反応もみながら、改善を重ねている。
たとえば、研修をスタートした年は、距離を50kmに設定していたがリタイアが続出した。そのため、翌年は35kmにしたところ、今度は「楽勝だった」という声が多く聞かれたという。そこで今年は42.195kmにしたのだが、初めて雨天での開催になってしまい、雨中の42.195kmは相当大変だと実感したため、次回どうするかはまた検討中だという。
ほかにも、当初は週の半ばに実施していたが、疲労が抜けきらず翌日の研修参加が厳しいため、木・金に設定して、土日は休養を取ってもらうという形に変更したり、ゴール後はそのまま解散という流れだったのを、温浴施設を借りて疲れを癒してから帰宅できるようにするなど、さまざまな改善を行っている。
なお、研修の企画・運営は、当初は外部に依頼していたが、現在では道路許可を取ったり、万一の事故がないように細かい配置を決めたりするところも含めて、すべてを自社で手掛けている。

配属後はOJT指導。ドライバーはさらに約2カ月研修

ウォーキングをやり遂げたあと、新人研修の最後は、社長や取締役の前で、新人たちが決意発表のプレゼンテーションを行う。
これが終わると、事務職やメカニック担当らは、現場に配属されてOJTでの指導に入り、ドライバーは、前述のホスピタリティカレッジに場所を移して、さらに平均2カ月程度の研修を行う。
この研修では、免許の取得、接客・接遇のマナー、地理・法令の知識等々、専門知識などを学ぶ。
「ドライバーの配属までの期間はバラバラです。新卒の場合、カレッジでは土日祝日を除き、最短でも35日の研修を行うのですが、たとえばメーター機器操作がきちんと理解できているかなど4段階の見極めと、3種類の試験(教習所の卒業技能検定、学科試験、地理・法令試験)があり、これをすべてクリアしないといけません。
また、先に述べたように、内定段階で試験に合格している人もいるので、130人同時に入っても、全員一斉に配属とはならないのです」(永原さん)
同社の研修チームは25人いるが、中途採用者の研修なども合わせて、通年で何かしらの研修を行っており、4〜6月あたりの研修のピーク時はこの人数では対応しきれない。そこで、各営業所の「班長」と呼ばれるドライバーのリーダーや、社内のインターンシップ制度といえるジョブトレーニング(数カ月間ふだんとは別の職場で異なる職務を体験する社員)の応援も得て、40人以上の体制で研修に取り組んでいる。
この研修が終わると、新人ドライバーは、営業所でのOJTに移る。ちなみに、初めて新人が配属になる日は、配属先の各営業所の管理者が、新人を迎えに来るというイベントもあるそうだ。
現場への配属後は、新卒の場合、座学と実習を合わせて、最低でも12日間のOJTプログラムを実施する。座学の場合は、ホスピタリティカレッジで学んだことの復習や、具体的な営業方法などが主だ。実習は、各営業所からの道路や施設との位置関係を確認する研修のほか、新人が運転し、営業所の班長が助手席に同乗して、実際に営業運転を行うものなどがある。
乗客がタクシーに乗車するところから、行先のコース確認、運転、運賃の受け取りまでのすべてを新人に任せ、班長は見守るだけにして、必要なところだけサポートする実習だ。
このOJT期間にとくに問題がなければ、1人で営業を開始するが、当初は短い乗車時間を設定し、徐々に慣らしながら通常勤務に移行していく。
OJT終了後は、ほぼ3カ月に1回の割合で新人を集め、ホスピタリティカレッジでさまざまな研修を行っている。
ドライバーの場合は、まず配属後3カ月経過したときに、これまでの振り返りとともに、たとえば無線を使った営業法など次のステップの技術や地理の知識等を教育する。そして、その3カ月後に行うのが、「ドライビングアップ研修」だ。教習所のコースを借り、運転技術の研修を行うのである。
「半年くらいすると、皆、運転に少し慣れてくるので、油断から事故を起こすというケースが考えられます。そこで油断がないか、基本に忠実な運転ができているかをチェックし、できている場合は、新たなステップの運転技術を教えます。たとえば、車幅ぎりぎりのポールを立てて、当てずに進行するなど、かなり難度の高い内容です」(永原さん)
そして入社から1年経った翌年3月には、全新卒社員に「丸1年研修」を実施する。これは座学になっており、翌月からは次の新人が入ってきて先輩になることへの心構えについてや、業界の動向、一般常識の教育が主体だ。
さらにその後は、入社1年半のタイミングで、ドライバーだけを集めて、一般常識を中心にした研修を行う。現場の仕事に追われていると、社会常識からも疎くなり、乗客との会話についていけなくなる恐れもあるため、ビジネスパーソンとして必要不可欠な知識を身につけてもらうのが最大の目的だ。以降は、丸2年、丸3年と1年ごとに研修を開催し、たとえば問題解決のスキル、ロジカルシンキングなど、より高度なビジネススキル等を教育していく。そしてほぼ3年程度で、新卒が一人前に育つというイメージである。
これらの研修すべてで、それまでの研修内容の振り返りを行い、同時に、傾聴と共感を意識した話の聞き方などのコミュニケーションスキルも磨いていく。これが営業中の乗客とのコミュニケーションにも役立つという。
なお、同社では永原さん、青木さんと、もう一人の研修に携わる係長の全員が産業カウンセラーの資格を取得しており、これらの研修の講師も担当している。
ここまで多様な内定前の研修や新人研修を実施している同社だが、なお課題と考えているのが、まず入社前については、各種の取り組みをいかに実際の入社につなげるかだという。
「ドライバーの場合、内定後の資格取得研修に参加してもらえるほど興味をもってもらえば、実質、内定辞退はまずない状況なので、いかにそこに参加してもらうかですね。内定を辞退する可能性があるから研修に来ないという人もいるのでしょうが、参加率はいまよりもっと上げられる気がするので、いろいろ工夫していきたいですね」(青木さん)
また、入社後の新人研修については、コストとのバランスを考えながら、いかに一人ひとりにじっくりと丁寧な研修を実施していくかも大きな課題となっている。
「たとえば新卒と中途採用の研修が重なる時期は、カレッジ内に全員を収容しきれずに他の施設を借りており、研修スタッフも足りない状況です。とはいえ、いま以上のコストはなかなかかけられませんから、これまでの教育を維持しつつ、より一層の研修内容の充実や細部の改善を積み重ねていきたいと考えています」(永原さん)
一方、オープンカンパニーなどで保護者の理解も少しずつ進んでいるとはいえ、依然として親世代のタクシー業界を見る目は厳しいという。国際自動車では、業界のイメージアップにも取り組みながら、今後も内定者を含めた新人教育に力を注いでいく考えだ。

(取材・文/中田正則)


 

▼ 会社概要

社名 国際自動車株式会社
本社 東京都港区
創業 1920年3月
資本金 1億円
売上高 487億円(2016年3月期)※グループ連結
従業員数 6,836人(2017年7月現在)
事業案内 タクシー事業、ハイヤー事業、貸切バス事業、路線バス事業、シャトルバス事業、オートリース・ 自動車機器リース事業、保険事業など
URL https://www.km-group.co.jp/

(左)
管理部 人財研修課
係長
永原二三男さん

(右)
管理部 人財採用課
係長
青木雅宏さん


 

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