事例 No.107 マルハニチロ 特集 双方に成長を促すOJT指導員制度
(企業と人材 2017年8月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

「OJT制度」でリーダーを中心に
職場全体での新入社員育成をめざす

ポイント

(1)新入社員を指導・育成するのは職場全体であり、OJTリーダーは、あくまでもOJT実施状況の管理やアドバイスなどを行う統括者であるということを徹底している。

(2)OJTリーダーの育成として、OJTリーダー養成研修を実施。必要なマインドとスキルを学ぶ。また、OJT期間の後半には、OJTリーダーの指導方法の見直しも行い、その後のOJTに役立てていく。

(3)OJTリーダーは、新入社員と話し合いながら、「目標管理シート」に基づき、「新入社員OJT指導記録」を作成。OJT目標を達成するための具体的な方策等を四半期ごとに計画し、進める。

民間初の完全養殖マグロに成功、持続可能な事業を展開

2007年10月に、マルハとニチロが経営統合して誕生したマルハニチログループ。約150社から成り、「世界においしいしあわせを」をスローガンに、世界の食に貢献している。そのグループの核を成すのが、マルハニチロ株式会社である。漁業、養殖、水産物の輸出入・加工・販売、冷凍食品をはじめとした加工食品の製造・販売のほか、畜産や物流、そして水産物由来の化成品製造・販売など、事業範囲は多岐にわたる。社員はおよそ1,800人で、毎年40〜50人の新卒者を採用している。
同社は2010年、民間企業として世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功。採卵から孵化、生け簀での養殖まで、すべてのプロセスを管理しながら、持続可能な水産資源の調達に取り組んでいる。商業ベースに乗ったのは近年のことで、事業化している企業はまだ少ない。世界的に天然資源が減少し、天然稚魚を獲ることが大きな問題として指摘されるなか、完全養殖は資源を減らさずにすむとして注目されている。

人材育成のキーワードは「向上心と自律」

「企業は何よりも人にある」を社訓とする同社において、人材育成に関する基本的な考え方は、「向上心をもって自律的に取り組める育成を目指す」である。人事部人事課主任の柏木祥平さんは、このなかの「自律的」について、自社には幅広い業務が存在するとしたうえで、こう話す。
「とくに商社部門は、水産物を獲ったり育てたり、また海外の魚を買いつけたりと、一番川上にある仕事です。こうした仕事については、受け身で待っていても来るものではなく、自律的に自分で組み立てていかないと商売として成り立ちません」
同社では、最初から「自律的」な人を採用するというわけではなく、育成によってそうなることをめざしている。その背景には、「人数を絞って採用し、じっくり育てる」という方針があるからだ。食品メーカーは押しなべてその傾向にあると、柏木さんはいう。
「当社は業務内容に幅があり、それぞれに専門性の高い仕事なので、じっくり育成しています。ただ、育成できない能力や資質については、それをもっている人を採用します」
育成できない能力とは、具体的には「適応力」である。さまざまな商品を扱い、職種も多岐にわたる同社において、仕事の選り好みをする人は採用しづらく、採用したとしても、ミスマッチにつながりやすい。その見極めは採用段階
でしていく。
「ハイパフォーマーがどういうベースをもっていてどのようにハイパフォーマーになっていくのか調査したところ、“選り好みせずに何でも吸収しようとする人”、いいかえれば、すべての場面を糧にしていける人が伸びているという結果となりました」と、柏木さんは、適応力の大切さを話す。

じっくりと育成するため、少数を採用する

同社への就職希望者は、近年、増加傾向にある。夏には1週間のインターンを実施、約50人が参加。1日インターンには500人から600人が参加するという。
「結果的に約3万人がプレエントリーしてくれ、マルハニチロのブランド知名度を上げることに役立っているともいえます」と柏木さん。エントリーシートの提出時は、履修履歴や自己PR動画の任意提出などハードルが上がるが、約3,000人の応募があった。一次、二次の面接を経て、最終的には約50人の採用となる。
採用にあたっては、大学も学部も関係なく幅広く採用している。
「結果的に今年は理系が多かったということはありますが、最初から決めてはいませんし、単に優秀な人ばかりを集めようともしていません。各部署の採用計画に基づきながら、本人の希望と適性をみていきます」と柏木さんは採用方針について説明する。
内定後、入社までの間は集合研修などはないが、簿記3級の取得を内定者全員に義務付けている。その理由は大きく2つある。
「1つは短期的な目的で、基本的な会計知識を身につけてもらいたいということ。日常業務でも行う請求書処理や計上科目処理が問題なくできるようになってもらいたい。
もう1つは長期的な目的で、たとえば営業担当者であれば取引先の与信管理ができるようになること、さらにその先の幹部になったときに自社はもちろん、取引先の財務状況を見られるようになることをねらっています。どんな業務でも数字は扱いますし、とても大事なことなので、基本を知っておいてもらいたいと考えています」

入社式翌日から新人研修を実施

同社の新入社員研修は、4月1日の入社式翌日から行われる2泊3日の合宿研修に始まる。この研修のおもな目的は、社会人としての自覚と責任を認識し、ビジネスマインドの醸成、スキル、マナーの習得をすることである。理念などグループとして大切なことを集中して学ぶため、グループ会社も含め、約190名が参加した。プログラムとしては、マルハニチロの歴史や理念についてなど講義形式を中心に、電話対応や名刺の受け取り方を始めとしたロールプレイング、グループセッションなどである。グループセッションは20チームほどに分かれて実施。ここでさまざまなグループ会社の人と知り合うきっかけが生まれる。グループ全体の仲間意識が醸成される機会は、初日の夜に開催される懇親会にもある。
合宿研修後は本社に戻り、その年にもよるが、その他社会人としての基礎スキルを学ぶ研修も実施している。
そして、翌週からは現場実習に入る。実習先は、例年、加工食品主体の、グループ会社も含めた6工場(釧路、山形、宇都宮、広島、下関、熊本)となる。ものづくりの原点を学び、基本を体感してもらうことをねらいとしている。
そして、工場での研修が終了すると本配属となる。大体4月中旬ころになるが、実は配属部署そのものは、すでに4月1日の入社式の時点で本人に伝わっている。「研修期間に適性をみて配属するのではなく、採用や内定の段階から、本人の希望と適性を確認し、社内の人事異動を踏まえて配属を決めています」と柏木さんは言う。
このほかに夏あるいは秋に、グループ会社の協力のもと2週間の「水産現場実習」を実施している。6月は株式会社マルハニチロ北日本の釧路工場、9、10月は広洋水産株式会社(北海道白糠郡)で行う。実際に魚の加工ラインに入り、ヒレをカットしたり、内蔵をとる機械に魚を投入したりする。
入社後の1週間の工場研修は加工度が高い工場での研修だが、ここではより原料に近い加工工場の仕事を見てもらう。
以上が新入社員研修の流れだが、その他にも、各部門ごとに専門的な研修を実施している。たとえば、水産商事部門では、流通を学ぶ築地市場研修や小売での販売研修、製造部門ではさらに長期の工場研修を複数回行うなど、多様な仕事にあわせた内容を用意している。
他方、同社では3年間を若手教育の期間として、とくに重視している。新入社員〜入社3年目までの各年に、入社からの振り返りと一貫した教育カリキュラムによるフォローアップ研修も実施。これは、一般社会人としての基本を固め、「自律性」と「適応力」をもった人材へ成長させることを目標としている(図表1)。

図表1 新入社員教育とOJT制度

図表1 新入社員教育とOJT制度

2012年にOJTリーダーに改称し、課題に対応

本配属後は1年間、全新入社員に1人ずつ各部署のOJTリーダーがつく。統合以前の1990年代から、マルハにおいては制度として実施されてきた。2011年までは「職場指導者」という名称で新人教育にあたっていたが、2012年から「OJTリーダー」と改称。その経緯について、柏木さんはこう語る。
「指導者という名称のころは、マンツーマンでの教育を想像させてしまい、OJTのデメリットが出てしまうことがありました。
たとえば、指導者側にあまり実力がなければ受ける側はそれ以上に成長しない、指導者が知っている範囲でしか教えてもらえない、教育機会が場あたり的になってしまうといったことです。
さらに、指導側の負担も大きく、指導者になりたがらない、他のメンバーが教育に関与しないことは、大きな問題でした。
こうした要素を排除するために、『職場全体で育成をして、そのOJTを進めるためのリーダー』という位置づけにして、名称も変更したのです」
もちろん、当人も直接教えるが、OJTリーダーはあくまでもリーダーとしてOJTをコントロールする立場であることをめざしている。「OJTリーダーが直接教えることに偏らないようにする」のがねらいの1つでもある。
OJTリーダーの選任は、3月に新入社員の配属先が決定した後、ラインの直属課長が決めたリーダーを人事部でもチェックする。
選出条件は以下のとおりである。

・業務遂行に必要な基本的かつ専門的な知識を有していること(目安として入社5年目以上で非管理職が望ましい)
・組織全体で教育するために、新入社員に対する直接的な教育にとどまらず、チームメンバーや関係者へ新入社員教育の依頼やはたらきかけ、進捗の管理などリーダーとしての役割ができること
・能力開発項目となっている支援・指導力、チーム形成力、相互成長力に基づき、OJTリダー自身の成長機会として役割認識や行動ができること

また、教育していく側として明確なビジョンをもって新入社員の指導を行えるように、OJTリーダー養成研修(1日)を実施している。時期は、新入社員が配属されて1週間後の4月下旬に実施。一緒に働いて感覚的にタイプをつかんだあとで、できるだけ早いタイミングとしてこの時期を選んでいる。
研修の目的は、OJT制度の理解、OJTリーダーとしてのマインドとスキルなどを学ぶ。研修内容について、柏木さんは次のように話す。
「いまの新人がどういう世代で、どう教えればいいか。ティーチングとコーチングの違い、指示の出し方などきめ細かく教えていきます。
新入社員はアイマスクをした状態で入社したようなもの、という前提で、2人1組になり、1人がアイマスクをして相手を導いていくワークもします。
ここでは導くことが大事ではあるけれども、全部引っ張っていったら当人は達成感がないので、その加減を調整しながら、一緒に連れていく大切さを体感してもらいます」

図表2 新入社員OJT制度年間スケジュール表

図表2 新入社員OJT制度年間スケジュール表

「新入社員OJT指導記録」で育成指導のロードマップを描く

OJT制度の具体的な進め方は、まず、前述の「OJTリーダーの選任」に始まり、「課目標共有ミーティング」で、ラインの直属課長が組織目標や部門目標に基づいて課の目標を共有化し、各人の役割を明確にする。
次に、課長とOJTリーダーとが「育成指導方針」をすり合わせる。そしてその指導方針に基づき、OJTリーダーは新入社員と話し合いながらOJT目標を設定し、新入社員と一緒に「目標管理シート」を作成する。
そして課長は新入社員およびOJTリーダーと「個人目標面接」を実施し、互いに最終的な確認をする。とくにOJTリーダーには「部下育成」の重要性を再確認してもらうようにする。
この制度でキモとなるのが、「新入社員OJT指導記録」の作成だ。これは「目標管理シート」に基づき、OJTリーダーと新入社員が話し合いながら作成するもので、OJT目標を達成するための具体的な方策、行動等を四半期ごとに計画する。いわばロードマップを書くわけだ。この記録には「自己啓発目標」の欄もあり、語学など目標を新入社員自身が記入する。
そうしたなか、OJT指導員および新入社員に対するフォローアップ体制も取っており、まず、四半期ごと(6月、9月、12月、3月)にOJTリーダーが新入社員と面談を実施。「指導メモ」に「新入社員ができたこと・できなかったこと、次にやるべきこと」などを書き、フィードバックする。新入社員は、それを意識して次の四半期に臨む。
一方、OJTリーダーはこの面談後、ラインの直属課長に対して進捗状況を報告することになっている。また、課長はこの報告を基に新入社員、OJTリーダー各々と「中間面接」、「評価面接」を実施する。この際、OJTリーダーの指導方法についても見直しを行い、その後のOJTに役立てていく。
そして、指導をした年度末に、「新入社員OJT指導記録」にラインの直属課長およびOJTリーダーのコメントを記入したうえで、人事課へ提出する。
このように、OJTリーダーの役割は大きな比重を占めているが、そこでの働きぶりを評価に入れるかどうかは、各部署に任せている。またOJTリーダーが困ったときの相談先は、人事課となっている。

個人の特性に応じた教育手法の開発をしていきたい

「入社して最初につまづいて辞めてしまう新人をなくしたい。そのために、職場全体で応援する体制にしています」と柏木さんはOJTリーダー制度のねらいをあらためて強調する。現在、同社の3年後離職率は6.1%で、食品メーカー平均の10.8%(平成27年卒)を下回っている。
「職場指導者」としていたころに「教育の偏り」の点に課題を感じたことからOJTリーダーが誕生したのだが、これについて現在は解消されつつあるという。一方で、柏木さんが新たな課題として感じているのは、1つはOJT研修における、個人の特性に応じた教育手法の開発の必要性だ。
「いまは一括教育ですが、教え方の癖や新入社員の特徴など、教える側、受ける側も個々によって違いがあります。そうした特性をフィードバックして、一人ひとりに合ったオーダーメイド的なOJTができればよいと思っています。そのためには、適性検査や制度運営のための管理システムツールも活用し特性を見える化して、現場と人事が共有できるようにしていく必要があります」と語る。
もう1つは研修全体にかかわる課題で、「研修で学んだことを現場で活かせるようにしたい」として、こう続ける。
「研修で『わかった』ということを現場に戻って『できた』といえるまでいくのには、大きな壁があります。現場でスムーズに使えるようケーススダディなどのプログラムの工夫はもちろん、研修後も活用や習慣化ができるような仕組みをつくり、成果につなげていきたいです」

▲ OJT リーダー養成研修の様子

▲ OJT リーダー養成研修の様子

一方で、新入社員育成の成果として、早期の戦力化は進んでいるという。
「企業によっては、半年間人事でみっちり育てて各部署に送り出すケースもありますが、当社の場合、職種も商材も幅広く、統一で教育するメリットが薄い。専門性が高いので、即戦力につなげるには座学では覚えられず、ズレが生じるリスクもある。

《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」 《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」

もう少し幅広く、商社部門の研修、製造部門の研修など各部門の研修をして、実際の業務にあわせた研修をしてもらうような内容のほうがフィットすると感じています」と語る。
新入社員については、前述のように1年目、2年目、3年目にそれぞれフォローアップ研修がある。
「2年目で自立、3年目は自燃とし、これを若手教育の区切りとしています。今後OJTとO-JTの再編で育成し、『成長しつづける人』になってもらえるような若手教育としていきたい」
少数を採用し、じっくり育てつつも、すぐに専門性を身につけてもらえるよう、職場全体で目をかける――安定感のある企業ならではの育成体制であり、こうしたことが商品への安心感・安定感にもつながっているといえそうだ。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 マルハニチロ株式会社
本社 東京都江東区
設立 1943年
資本金 200億円
売上高 8,732億9,500万円(2017年3月期)
従業員数 1,786人
平均年齢 42.0歳
平均勤続年数 17年
事業案内 漁業、養殖、水産物の輸出入・加工・販売、冷凍 食品・レトルト食品・缶詰・練り製品・化成品・飲料の製造・加工・販売など
URL http://www.maruha-nichiro.co.jp/

人事部人事課 主任
柏木祥平さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ