事例 No.106 ニコン 特集 双方に成長を促すOJT指導員制度
(企業と人材 2017年8月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

社内に不可欠な仕組みとしてOJTサポート制度が定着
新人を指導していくなかで指導員自身が成長

ポイント

(1)40年以上前からOJTサポート制度を実施。新人1人に対して指導員(先輩社員)1人がつき、周囲を巻き込みながら新人育成をコーディネートする。

(2)OJT指導員を対象にした「指導員研修」を実施。指導員としての心構えや新人育成についての基本的な考え方、育成計画の立て方、教え方などを教育する。秋以降に行う指導員フォロー研修では、過去の事例も含め、悩みや成功例を共有。

(3)OJTサポート制度は、単なる仕事上の指導という役割だけでなく、指導員と新人の交流が後々まで続くなど、良好な人間関係を築くきっかけにもなっている。

職場全体で新人を育てる風土をめざす

1917年に創立し、今年で100周年を迎える株式会社ニコン。「光利用技術」と「精密技術」を軸とした技術力をもとに、多彩な技術・製品・サービスをグローバルに展開してきた。
地域別の売上高でみると、日本は16.9%(2017年3月期、以下同)、海外では、米国24.2%、欧州16.6%、中国19.9%と、まさに全世界でビジネスを手がけている。
なお、従業員は連結約2万5,000人のうち、地域別では国内が40%弱、それ以外は海外となっている。
一方、事業面では、カメラや交換レンズ等の映像事業を主力に、半導体露光装置やFPD露光装置をはじめとする精機事業、健康・医療・バイオ分野のヘルスケア事業その他と、多岐にわたっている。
同社の企業理念は、「信頼と創造」だ。それにあわせた未来へのビジョンとして掲げる、“私たちのありたい姿”は、「期待を超えて、期待に応える」である。こうした理念やビジョンは、同社の人材育成にも色濃く反映されている。人事・総務本部人材開発部教育課長の石井弦一郎さんは、こう話す。
「ニコングループでは、ニコンパーソンとしてのありたい姿を、求める人材像として定義しています。具体的には、『探究する心』、『誠実な心』、『果敢に行動する力』、『伝え、感じる力』、『多様性を受け入れる力』の5つです。人材の採用・育成・配置等は、基本的にすべてこのキーワードに則った形で行っています。また、とくに新入社員については、配属された職場全体もしくは会社全体で育てていく風土をめざすというのが、育成についての基本的な考え方です」

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同社では新卒者が入社すると、通常は4月1日(今年は曜日の関係で4月3日)午前に入社式を行い、その日の午後から「導入研修」に入る。この研修は企画・運営等をすべて内製化(人材開発部が担当)しており、今年はゴールデンウィーク前までの約1カ月間にわたり、ニコン研修センターで実施した。研修では、「社会人への転換」、「基礎スキル・知識の教育」、「好奇心の喚起」が大きなテーマとなっていて、社会人として、あるいはニコン社員としての基礎を教育する。
その後、技術系の新人の多くは、ゴールデンウィークをはさんでいったん各部署に配属される。そこで1週間過ごして部署内の顔合わせなどを終えた後、専門別研修を実施する。
同社の場合、新人の7〜8割程度が技術系であり、専門別研修は機械系、電気系といったさまざまなコースに分かれ、期間もまちまちだが、おおむね数カ月から長い場合は1年近い研修プログラムが用意されている。一方、事務系の場合は、5月から配属となり、その後何度か研修はあるものの、基本的には職場で実務をこなしながら新人としての1年間を過ごす。
また、新入社員を職場に配属してからの約1年間は、OJT期間と位置づけ、OJT指導員が新人一人ひとりについてサポートしていく。
以下では、このOJTサポート制度について詳しく紹介していく。

OJT指導員は1年間、原則1人の新人を指導

同社のOJTサポート制度は、少なくとも40年以上前から実施されている、非常に歴史のある仕組みである。
まず、新人が配属される部署・職場に対しては、人材開発部が3月ごろに説明会を実施し、新人育成の考え方やOJTサポート制度の意図を伝えている。その主な内容は、図表1のとおりだ。

図表1 新人育成の考え方および OJT サポート制度の意図

図表1 新人育成の考え方および OJT サポート制度の意図

こうしたことを踏まえたうえで、具体的な指導員の選定は、各職場で行う。選定の仕方や対象となる層に決まりはないが、実際に指導員になっているのは、20代後半から30代が比較的多い。ただし、入社2年目の社員だけは、指導員の対象から除外している。
原則として新人1人に対して指導員1人がつく。新人と指導員との組み合わせは、同性、異性などの性別は問わない。また、その新人に対するOJT期間は1年(入社翌年の3月まで)だが、別の年にまた指導員になること自体はとくに制限しておらず、同じ人が何度も指導員を経験するケースもある。
ちなみに今年の場合は、OJT指導員のうち初めて指導員を経験する社員は、約8割であった。
OJTのイメージは図表2のとおりである。所属長が考える、新人に今後期待するキャリアパスを基に、1年間の指導計画を指導員が作成する。職場の他メンバーも巻き込みながら、新人の育成・指導にあたる。所属長は、指導員・新人の双方に対して、OJTを通した期待を伝えるほか、指導がうまくいかないときにアドバイスをするなど、指導員の良き相談役の役割も果たす。指導員以外の職場メンバーをOJTに巻き込むための後押しを、所属長からすることもある。人事部と人材開発部は、基本的には所属長とパイプをもち、OJTに関する所属長の相談役となっている。

図表2 OJT イメージ図

図表2 OJT イメージ図

なお、キャリアパスについては、フォーマットがあり、新人に任せる仕事の内容やそれに必要なスキル等について、このように育ってほしいというイメージを所属長が記入し、指導員や人事部・人材開発部と共有している。
指導員に選ばれた社員は、新人が導入研修を受けている最中に、所属長に対して“上司インタビュー”を行う。ここでは指導員の側から、「なぜ自分が指導員に選ばれたのか」を質問して、所属長がそれに答えるほか、所属長と指導員の間で、1年後の新人に期待する姿についてディスカッションを行い、合意のうえ文書化してからOJTを進めていくようにしている。
また、指導員が作成して新人に渡す指導計画表のなかには、身につけてほしい態度・姿勢、できるようになってほしいスキル、理解してもらいたい知識等と、それらをどの時期・タイミングでどの程度身につけてもらいたいか、そのための指導計画などが記されている。そして、指導員が新人にこの指導計画表を示して、あらかじめ説明をする。
「指導計画表は、上司も随時見て、計画どおりに進んでいるかどうかをチェックしています。もしも遅れている場合には、ではどうやって挽回していくかを指導員と話し合い、軌道修正を図るなどします」

OJT指導員を対象にした「指導員研修」等も実施

OJTサポート制度(および新人研修)のなかでは、人材開発部が主体となり、さまざまな研修やアンケート等を実施している(図表3)。

図表3 OJTサポート制度 研修スケジュール

図表3 OJTサポート制度 研修スケジュール

新人が導入研修を受けている間に、OJT指導員を対象にした「指導員研修」を開催している。これは1日間の研修で、指導員としての心構えや新人育成についての基本的な考え方、育成計画の立て方、教え方のテクニックなどを教育するものだ。
「この研修は、外部の研修会社に依頼して実施しています。意図や目的を事前によく話し合い、研修内容にしっかり反映していただいています。社員の個性や新人の特性などを始め、当社の社風なども考慮に入れて企画していただくよう、お願いしています」
また、実際のOJTが始まる前の導入研修に組み入れられているのが、OJT指導員と指導を受ける新人とを同時に集めて実施する「ペア研修」だ。ここで指導員と新人が初めて顔を合わせ、互いの関係構築を図ると同時に、指導員から前述の年間指導計画の説明などがなされる。配属先の人員構成や、職場の雰囲気、大まかな業務内容を事前に知ることで、新人の不安を軽減させる効果がある。こちらは半日間の研修だ。
その後、秋以降に「新人フォロー研修」(半日間)および「指導員フォロー研修」(半日間)を実施する。これらに先立ち、9月ごろに、OJTのこれまでの状況について、人材開発部が指導員と新人の双方にアンケートを取り、また指導員には指導する新人に向けての手紙を書いてもらう。

▲ペア研修の様子

▲ペア研修の様子

「手紙の内容は、たとえば『この半年間で、君はこんなに成長したね』など、褒めるのが基本ですね(笑)。ただ、ときには『まだ殻に閉じこもっている面がある』といった辛口コメントが出るときもあります。
この指導員からの手紙は、新人フォロー研修のときに渡します。そして、書かれた内容を踏まえ、これまでの反省とこれからの成長に向けた決意の宣言をしてもらいます」
そして、「指導員フォロー研修」では、新人の指導についての悩みや、うまくいっている部分などを指導員間で共有し、過去の課題解決事例なども紹介している。
そして、1年間のOJTがすべて終了すると、最後に新人、指導員および所属長の3者にアンケートを実施。1年間を振り返った感想を記入してもらい、翌年以降のOJTの参考にしている。

OJTサポート制度が人間関係を学ぶきっかけにも

同社の場合、このOJTサポート制度全体を管轄して、各部署のサポートをしているのは人材開発部で、前述した指導員の選任をはじめとした細かい運用のほとんどは、各部署および所属長に任せている。したがって、全社共通のOJTのためのツールなども特別に導入してはいない。
しかし、各部署の過去の成功事例は、人材開発部で情報を収集して指導員研修などで紹介している。
「これまでには、交換日記のようなことをしているとか、毎日数行でもいいので日報を書かせている、新人が言いづらいことがあればメールで送ってもらうなど、さまざまな事例がありました。人材開発部としては、なるべくいろいろな手段を使って、コミュニケーションが途切れないようにしてくださいと話しています。
たとえば、面と向かって話すことが苦手で、隣に座っていてもメールを使うという人も、なかにはいます。仮にそういった新人と指導員との会話が少なくて悩んでいるという場合には、まずはそのままメールでコミュニケーションを取ってみては、といったアドバイスをすることもありますね」
また、指導員が悩んだときには、自分が新人だった当時の指導員の先輩に直接相談することもよくあるそうだ。そのときに先輩から、過去にうまくいったコミュニケーションに関する話題が出て、その方法が自然と受け継がれていくケースもある。
ここまで長年にわたりOJTサポート制度を実施してきた結果、役員も含めて社員の間では、「自分の指導員は○○さんだった」といった話題が出るほど、この制度が完全に定着している。制度の直接的な効果としては、新人が配属された職場では、どのように新人と向き合うかを悩まなくてすむ。また、新人の側も誰に聞いていいかわからないなどと孤立感を抱いて悩むこともなくなり、職場に馴染みやすくなるというメリットがある。
なお、OJT指導員は、制度上は仕事上の指導をするという役割だ。しかし、たとえば年齢が比較的近い場合、指導員が「お兄さん」、「お姉さん」といった立場でプライベートな相談を受けたり、一緒に趣味やスポーツを楽しむこともある。さらには異動になって部署が離れてからも交流が続くなど、親しい良好な人間関係が築かれることも珍しくない。
「OJT期間中は、指導員も新人もお互いに気は遣いますよ。OJTの組み合わせはいったん決まったら、相手を変えることはありませんので、悩むこともあると思います。
たとえば指導員は、どんな言い方をすれば、なるべく相手を傷つけずに伝えられるかと考えるわけですね。親子ほど年の違う新人に対して、怒鳴りつけたくなるときもあるでしょうが、そこをぐっと我慢して笑顔で接していくうちに忍耐力が養われたりすることもあります(笑)。
また、そういった指導員の姿を見た新人も、あれだけの大先輩が自分に気を遣ってくれているのだから、自分も迷惑をかけないようにがんばらないといけないな、と思ったりもする。
OJTサポート制度は、そんな人間関係を学ぶきっかけにもなると思っています」

指導員になってめざましく成長することも

ただし、OJT指導員になると、通常の業務以外に費やす時間がどうしても多くなるため、負担が増える。指導員になったからといって、人事評価が特別にプラスになるということもない。したがって、何回も指導員を務める社員がいる一方で、なかにはあまり指導員になりたがらない社員もいるのは事実だという。
そうしたこともあって、指導員になる社員には、新人を育てるだけでなく、指導員自身の成長につながることをよく理解してもらうようにしている。
「最初は、指導員をやったことがないし、人を教えるのは不安だと尻込みする社員がけっこういますが、実際に1年間やってみると、その社員自身が、新人以上にめざましい成長を遂げたというケースはよく目にしています。
たとえば、非常に口下手で指導員になることをためらっていた社員が、OJT指導が終わった後には、指導員を経験して本当に良かったと話していたこともあります。
それまでは、ただ上司からいわれたとおりにやっていた仕事でも、その仕事の意味について新人に聞かれることもあります。その業務を実施する根本的な理由を新人と一緒に調べていくうちに仕事への理解も深まり、とても勉強になったということもあります」
また、指導員にも出張や外出などが当然あり、現実には新人を1人でずっと見続けることは難しい。そこで人材開発部では、各職場の所属長に対して、指導員だけでなく職場全体で新人を育成することを依頼している。
各職場では、たとえば、指導員が留守の期間は指導員の代替要員を決めておいて、その社員が代わりにみたり、指導員が出張等でいない期間は新人にレポートを提出してもらうなど、指導員の負担も減らしつつ、OJTをスムーズに行えるようなさまざまな工夫もしている。
すでに触れたように、社内でOJTサポート制度がしっかりと定着しているというニコン。細かい点についてはアンケート結果などをもとに絶えず微修正をしていくが、制度の根幹は今後も継続をしていくという。同社は、新人や若手社員の離職は以前からきわめて少ない。それも長年続けてきたOJT制度がうまく機能していることの現れかもしれない。
「企業理念に掲げる『信頼と創造』のうち、とりわけ『創造』の部分が、新人に限らず、社員教育の大きなテーマであり課題です」と語る石井さん。
OJTも含めて、今後は社員の創造性を養い、根づかせるための取り組みが、これまで以上に活発に行われていくことになりそうだ。

(取材・文/中田正則)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社ニコン
本社 東京都港区
設立 1917年7月
資本金 654億7500万円(2017年3月末現在)
売上高 7,488億9100万円(連結 2017年3月期)
従業員数 25,031人(連結 2017年3月末時点)
平均年齢 44.5歳(単体)
平均勤続年数 19.9年(単体)
事業案内 光学機械器具の製造ならびに販
URL http://www.nikon.co.jp/

人事・総務本部
人材開発部 教育課長
石井弦一郎さん


 

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