事例 No.074 日置電機 特集 わが社流! 新入社員教育
(企業と人材 2016年9月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

お寺での合宿研修や1〜3カ月の現場研修、
2年間のマンツーマン研修などで「HIOKI社員」を育成

ポイント

(1)経営理念の1つである「人間性の尊重」を、人材育成においても重視。新入社員研修では、学生から社会人へのスムーズな切り替えを目的に、時間をかけて育成。

(2)お寺での2泊3日の合宿研修で、同期の絆を高める。その後、1〜3カ月の現場研修を実施。技術職配属者は3カ月間の研修で一から製品をつくり上げる工程を体験する。

(3)配属後は2年間にわたるマンツーマン研修で、「HIOKI社員」としての仕事の仕方を学ぶ。そのほか、茶道、華道を学ぶ「一般教養研修」や「社会貢献活動体験」を新入社員に提供。

理念「人間性の尊重」を人材育成でも重視

長野県上田市に本社を置く日置電機株式会社。1935年の創業以来、電気計測機メーカーとして、その道一筋に歩んできた。デジタルマルチメーター、電流センサといった電気計測機は一般家庭では馴染みのないものだが、工場、研究開発施設など、機械を扱う現場ではなくてはならないツールだ。同社の製品は、精度、使い勝手の良さなどから高い評価を受けており、世界中のさまざまな企業で活用されている。
経営理念として掲げているのは、「人間性の尊重」と「社会への貢献」である。総務部人事課長の赤沼徹也さんは、次のように話す。
「理念の1つである『人間性の尊重』は、人材教育においても重視しています。ここでは、人材を大切にするだけでなく、成長のための機会を可能なかぎり与えていくことを、基本的な考えとしています。会社が機会を提供し、社員がそれを活用して成長していくことで自己実現をめざしていくというのが、育成の考え方です」
人に関する考え方は、同社のロゴマークにも表れている。HIOKIの「O」をかたどったロゴマークは、地球が卵を包み込む姿を表しており、ここにも、「『ひと』を育み新しい『もの』を生み出す」という意味が込められている。
そのほか、広大な敷地にある数々の施設からも、人(社員)に対する考えはうかがえる。「HIOKIフォレストヒルズ」と呼ばれる本社敷地内には、たとえば、スポーツ施設、テニスコートや野球場、ランニングコースなどが整備されており、また本社内には、研究開発施設「HIOKIイノベーションセンター」や、約750人が収容できる「HIOKIホール」などもある。社員一人ひとりが、豊かな心をもって能力を最大限に発揮できる環境を整えているのだ。

学生から社会人への切り替えをスムーズに

もちろん、新入社員研修でも「人間性の尊重」は重視されており、とくに最初に行う導入研修のプログラムは、理念に絡めたものが多い。
同社の今年の新卒入社者は技術部門(設計・開発)12人、製造部門3人、営業部門2人、総務部門2人の合計19人。技術部門の多くは大学院卒である。
新入社員の約4割は県外からの入社で、近年、その割合は増えつつある。県外からの入社者、また、県内でも通勤に時間がかかる新入社員のために、敷地内に60室ある独身寮「HIOKILODGE」を用意しているが、いまはほとんど満室となっており、新しい寮の建設着工が始まっている。
新入社員研修のスケジュールは図表1のとおりである。4月の導入研修からはじまり、配属部門にもよるが、現場研修(製造研修)や職種ごとの研修などを受け、7〜8月に配属となる。その後2年間は、マンツーマン研修によるOJTでの教育が中心となる。

図表1 日置電機の新入社員研修(2016年度)

図表1 日置電機の新入社員研修(2016年度)

「新入社員研修で重視しているのは、学生から社会人への切り替わりをできるだけスムーズに行い、少しでも早く会社になじんで、『HIOKI社員』として仕事を行えるよう、時間をかけて育成していくことです。そのためにはまず、きちんとした挨拶ができるようになること。あたり前ですが、挨拶は社会人としての基本であり、職場に早くなじむうえでも大事になります。もう1つは、何事もいったんは受け入れる素直な姿勢を身につけることです。言われたことを、まずは受け入れて確実に行っていくのが、新入社員としての第一歩となります」(赤沼さん)
総務部人事課人材開発担当課長の三井正樹さんは、同社の教育体系や新入社員研修について、次のように話す。
「いまの教育体系は、『HIOKI社員』になるために必要なことは何かを考えて、少しずつ改良してきたものです。新入社員研修にも、いろいろな要素を取り入れてきており、内容は充実していると思います。入社してくる社員についても、上場したり、さまざまな施設を整備したり、人を大切にする会社ということを社内外に伝えてきたことで、優秀な人が集まるようになってきています」

お寺での2泊3日の研修で同期の絆を高める

4月からはじまる1カ月間の導入研修では、座学を中心に、企業理念や社会人・「HIOKI社員」として必要な基本のほか、マーケティングや計測技術の基礎など、仕事をしていくうえでの基礎的な知識を学んでいく。講師の多くは、社長や役員、各事業部長だ。
導入研修のなかでも同社独自のプログラムとしてあげられるのが、お寺で行う2泊3日の合宿研修である。これは2003年から実施しているもので、「座禅合宿研修」とも呼ばれている。
場所は、長野県千曲市にあるお寺。住職はもともと、同じ業界の大手企業で役員を務めており、退職後に住職になったことを当時の総務部長が聞き、日常とは少し離れた場所で新入社員研修をしたいとお願いしたところ、快く引き受けてくれたという。
合宿研修のスケジュールは図表2のとおりである。長年の実績からいまのスケジュールに至っており、ここ数年はだいたい同じスケジュールで実施している。この合宿研修の目的は、仏教について学ぶことではなく、お寺で寝食をともにすることで、同期の絆や仲間意識を醸成するところにある。

図表2 合宿研修のスケジュール(2016年度)

図表2 合宿研修のスケジュール(2016年度)

「お寺は非日常ともいうべき空間です。2泊3日とはいえ、日常から離れた空間で過ごすことで、新入社員には強烈な印象として残ります。随所にある座禅の時間もそうですが、朝は5時起床で就寝は22時、食事にしても修行の一環として、いっさいしゃべってはいけない決まりがあります。また、日程もあえてタイトなスケジュールにしています。このような経験をとおして、同期の団結力は確実に高まるようです」(三井さん)
自分を見つめ直すための座禅の時間のほか、ハイキングやジョギングなども取り入れている。ここでは、最後の人がゴールするまでみんなで待つ、遅れている人がいれば助けるといったことをとおして、同期の絆を深めていく。
お互いを知るうえで重要になるのが、4回にわたって行われるグループディスカッションだ。班ごとに分かれて、テーマに沿ってディスカッションし、みんなの前で発表する。それに対するコメントを住職からもらうというのも、お寺で行う研修ならではといえるだろう。
テーマは、「家族とは」、「仕事とは」といったように、あえて決まった答えのない抽象的なものを設定している。それらについて話し合ううちに、相手の意外な一面がわかり、お互いの理解が深まるのだという。
「新入社員は、入社前にお寺での合宿研修があることは聞かされていますが、中身までは知りません。そのため、最初は戸惑う人がほとんどです。しかし、実施前と後では、確実に意識が変わっているのがわかります」(三井さん)
ちなみに以前は、青年の家に泊まってオリエンテーリングを行ったり、街角でグループインタビューを行うといったプログラムを実施していたそうだ。それをお寺での合宿研修に変えて14年。毎年、多くの新入社員の心に残る経験となっている。
「合宿研修は、落ち着いた場所で自分を見つめることができるため、新入社員教育で重視している、学生から社会人への意識の切り替えにも効果的です。研修の最後には、親に感謝の手紙を書く時間を設けているのですが、なかには涙を流しながら書く人もいるほどです。お寺という場所柄もあるのかもしれませんが、これまでを振り返ることで、いろいろなことが走馬灯のように思い出されるようです。それにより、社会人としての意識も芽生えてきます(」赤沼さん)
▲座禅や掃除などをとおして同期の絆を高める合宿研修
▲座禅や掃除などをとおして同期の絆を高める合宿研修

▲座禅や掃除などをとおして同期の絆を高める合宿研修

1〜3カ月間の現場研修でモノづくりの工程を学ぶ

合宿研修を含む導入研修終了後は、「現場研修」に入る。前述したように、期間は採用した部門ごとに異なり、営業・総務部門は1カ月、製造部門は2カ月、技術部門は3カ月となっている。
内容も部門ごとに異なる。営業・総務部門は、配属後に連携をとることが多い購買の仕事などを体験する。とくに営業部門配属者は、生産計画や納期などを理解するとともに、配属後を見越して現場の社員と人脈をつくっておくことが研修の目的の1つとなっている。
技術部門配属者の現場研修は、3カ月間という長期にわたる。製品の設計・開発を担当する技術者には、最初の段階でメーカーの基本となるモノづくりを現場でしっかり学んでもらうためだ。
そもそも同社の製品は、ほとんどがハンドメイドである。生産の1ラインに1〜2人の社員が入り、組立・調整・包装まですべての行程を担う。そのため、社員一人ひとりの技術レベルはきわめて高い。
そのような現場を体感してもらうため、3カ月間の現場研修では、製品を一からつくり上げるまでの工程を実際に体験していく。もちろん、いきなりラインに入っても手も足も出ないため、ハンダ付け、ネジ締めなど、それぞれの行程でスキル研修を実施し、現場のベテラン社員が合格レベルに達していると認定すれば、そのラインに入ることができるようにしている。
そうやって一つひとつの行程をクリアしながら、最終的には全工程を自分で行えるまでにもっていくという。合格するまで、何度もスキル研修を受ける新入社員も珍しくないそうだ。

配属後2年間にわたるマンツーマン研修

営業・総務部門配属者は現場研修後、コールセンター研修や営業同行研修など1カ月の職種ごとの研修を受け、7月に配属となる。製造部門配属者は2カ月の現場研修後、7月に配属。技術部門は少し遅れて8月である。
それぞれ配属までは人事部門が、配属後は各課で教育を行っていく。ただし技術部門については、開発推進課が教育を担当しており、配属後も3カ月間の技術研修などを実施しているそうだ。
配属後は、OJTによる2年間のマンツーマン研修で仕事を覚えていく。職場での指導担当者は、部署によって異なるが、多くは入社5年以上から30歳くらいまでの社員である。所属長が指導者を指名し、人事に報告、相性などを考慮したうえで決定している。
もちろん、なかには新入社員の指導が初めてという社員もいる。そこで、OJTに入る前に指導者を集めてオリエンテーションを実施している。ここでは、相手の心を開かせるための接し方などを伝える。その後、指導者と新入社員双方が参加するオリエンテーションも実施。これらにより、毎年、ほとんどのペアがよいスタートを切れているそうだ。
「マンツーマンの指導者が、メンター的な役割までできるようになるといいのですが、現状は、仕事の細かい相談に乗るということが多いようです。それでも指導者は、新入社員にとっては頼りになる存在になっています。最近では、指導者を定期的に集めて、こんな相談を受けている、こんな指導をしているといったように横の連携をとり、情報交換・共有を行うようにしています」(赤沼さん)

茶道から地域貢献活動まで幅広く学びの場を提供

同社ではほかにも1年間、さまざまな研修・講座を新入社員に提供している。受講は任意だが、多くの新入社員が参加しているそうだ。
たとえば、電気の基礎を学ぶ「電気基礎演習」。電気について基礎から学んでいくもので、営業・総務部門の新入社員でも理解しやすい内容だ。テキストに沿って自習するスタイルだが、毎週テストも実施している。
「英語講座」は、週1回、就業後の17時30分から1時間、ネイティブの講師が会社にきて教えている。いまは2つのレベルのクラスを設けており、新入社員以外でも参加可能だ。
「一般教養研修」は、茶道・華道を学ぶ講座である。こちらも週1回、講師が会社に来て作法などを教える、30年以上続いている講座だ。以前は新入社員のみだったが、入社2年目以降も続けたいという要望が多かったため、いまは希望すればだれでも受講できるようになっている。
社内には本格的な茶室が2つあり、講座ではこの茶室を使っている。海外からの来客には、茶室でおもてなしをすることもあるそうだ。また、年1回、敷地を開放して開催している「HIOKI祭り」では、一般教養研修の受講生たちが茶道や華道を披露している。
「どの講座を受講してもいいことになっています。女性は茶道か華道、男性は電気基礎演習を受講する人が多いのですが、最近は茶道、華道を受講している男性社員も増えています。
これらの講座は、ふだんあまりできない経験を社員に提供したいと考えて行っているものです。日常生活で茶道や華道に触れることは多くありませんが、それを経験することで、気づくこと、感じることもあります。また、グローバル化が進んだ現代だからこそ、日本の伝統文化を身につけることが大切ではないかとも思っています」(赤沼さん)
そのほか、「社会貢献活動体験」の1つとして行っているのが、「南ジュニアスポーツ活動」である。これは、本社敷地を活用して行っている地域貢献活動の1つで、毎週土曜日の午前、近くの小学生を預かり、ボランティア社員が一緒にドッジボールや鬼ごっこ、サッカーなどを通じ、集団で遊ぶというものだ。この運営アシスタントに、新入社員が交替でかかわっている。
ちなみに、「南」は本社が上田市の南に位置していることに由来している。
新入社員はこの活動をとおして子どもや地域の人たちとかかわるなかで、どのように伝えれば理解してくれるか、動いてくれるか、楽しんでくれるかを学んでいく。毎回、30人ほどの子どもが参加しており、1年経った後もボランティアで参加し続ける社員もいる。
また、同社は敷地内の野球場を使ってリトルリーグも運営しているが、そのスタッフになる社員も多いという。

時間をかけて取り組むプログラムも検討

このようにさまざまな研修・講座を実施し、新入社員に社会人として、「HIOKI社員」としての自覚を芽生えさせている同社。長年にわたって改良を重ねてきたプログラムでもあり、今後もいろいろと考えていきたいという。
たとえば、時間をかけてじっくり取り組むプログラムの追加などを検討しているそうだ。
「新入社員研修は内容が盛りだくさんのため、新入社員にはまだ難しいものもあると思います。また、いまはこちらから伝える一方通行のものが多いとも思っています。今後検討するときには、自律を促すという点から、いま行っている研修とは別に、課題を与えて時間をかけてまとめていくといったような研修も必要かもしれません。

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計測器メーカーは値の正確性が重要なので、時間をかけ、自分で深く考えていくことも大事だと思っています」(三井さん)
あわせて、新入社員を指導するマネジャー層への教育にも力を入れていきたいという。OJTの要となるのは、職場の上司だ。新入社員が研修で学んだことがきちんと身についているかをみて、しっかりフィードバックできる体制を整えていきたいという。
以上、日置電機の新入社員教育について説明してきた。新入社員として必要なスキルはもちろん、お寺での合宿研修や一般教養研修、地域での活動など、いわば人間力といったものを高める研修が随所に盛り込まれているのが特徴といえそうだ。いろいろと参考になる点も多い。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要(2015年12月31日現在)

社名 日置電機株式会社
本社 長野県上田市
設立 1952年1月(創業1935年)
資本金 32億9,946万円
売上高 194億3,200万円
従業員数 778人
平均年齢 41.6歳
平均勤続年数 16.2年
事業案内 電気計測器の開発、生産、販売・サービス
URL https://www.hioki.co.jp/jp/

(左)
総務部
人事課長
赤沼徹也さん
 
(右)
総務部 人事課
人材開発担当課長
三井正樹さん


 

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