事例 No.073 ハブ 特集 わが社流! 新入社員教育
(企業と人材 2016年9月号)

新入社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

英国研修で本物のパブ文化や空気に触れて「感動体験」し
学んだことを入社後の店舗運営に活かす

ポイント

(1)入社後6年間の教育体系を「ハブ大学」として1つのプログラムに集約。内定通知授与式がハブ大学入学式となり、その後、5泊7日の英国研修を含む内定者研修がスタート。

(2)英国研修後には成果発表会を開催。会社への提案を行い、新たな価値を生み出す。入社後の新入社員初期研修では、実際に店舗業務に取り組むオペレーション研修を実施。

(3)配属後のフォロー研修では、新人同士で振り返りや目標を確認し合い、情報を共有。社長講話と営業部長の体験談を組み入れて、理念確認とメンタルケアで精神面から支える。

経営理念実現のために、「人」の育成に注力

「英国のパブ文化を日本に広げたい――」。ダイエー創業者である故・中内功氏の思いにより、1980年に創業した株式会社ハブ。その後1995年に現社長の太田剛氏が、当時の社長に命じられて英国視察に行ったことが大きな転機となり、「英国パブ」という単一事業を貫くこととなった。
現在、20〜30代をターゲットにした「HUB」と、それよりもやや上の層をターゲットにした「82(エイティトゥ)」を、繁華街を中心に出店している。2ブランドあわせて、仙台、関東、名古屋、関西において94店舗を展開。規模の拡大や業態の多様化にとらわれず、ほかのどこの店よりも長く、何年経っても変わらない店づくりをめざしている。
同社の経営理念は、「英国PUB文化を日本において広く普及させるため英国風PUBを通じてお客様に感動をあたえる『感動文化創造事業』を展開する」こと(図表1)。そのための経営方針として、「正直な経営」、「着実な経営」、「常に変革する経営」、「従業員重視の経営」の4つを掲げる。

図表1 ハブの企業理念

図表1 ハブの企業理念

「当社には、経営理念を実現する主役は従業員であるという考え方があります。従業員に主役としていきいき働いてもらうために必要なのは、福利厚生や労働環境、処遇といった側面もありますが、とくに教育に力を入れています。というのも、当社の競争力は『人』に尽きるからです。チェーン店の場合、メニューや店のつくりは真似されがちですが、人だけは真似することができませんから」と、総務人事部採用教育課主任の小川和珠さんは、教育に力を入れる理由を語る。
その教育体系は「ハブ大学」としてプログラムにまとめられている。内容は「プレスクール課程」(内定期間〜入社1年目)、「ストアマネジメント課程」(入社2〜3年目)、「シニアマネジメント課程」(店長1〜3年目)の3課程に分かれている(図表2)。
今回は、このなかから内定期間および入社1年目が対象となる「プレスクール課程」を中心に紹介する。

図表2 ハブ大学の全体像

図表2 ハブ大学の全体像

内定通知授与式と同時に、「ハブ大学」入学式を実施

内定期間と入社1年目の研修内容を説明する前に、同社における新卒者採用の動向について触れておこう。同社は出店計画に合わせた人数を採用している。男女比はおよそ半々で、2017年卒については、40人の採用をめざす。
「新卒者は、ゆくゆくは店長職となるため、接客とマネジメントの2軸で適性をみています。外国の方の来店も少なくありませんが、語学を条件にはしていません。ただ、語学スキルがある人は、十分活かせる職場環境だと思います」
1店舗につき社員は平均2〜3人。うち店長は1人で、それ以外の社員は「店長代行」という立場になる。アルバイトは小さい店では5〜6人、大きい店では40人近く在籍している。

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新卒者は全員HUBブランドの店舗勤務からスタートし、その後はだいたい4年目に店長となる。さらに、店長を経て本部スタッフになるケースもある。
10月1日に内定通知授与式が行われ、同時にこれがハブ大学の「入学式」となる。内定者には、欧米の卒業式などで着用される「アカデミックガウン」と菱形の帽子が渡され、それを身につけ出席する。
そしてこれ以降、計6〜7回程度、「プレスクール課程」の一部として「内定者研修」が行われる。
内定者研修は、
・入社までにインプットしておいてほしいことをレクチャーする
・ハブ自体に興味をもってもらうための社内プログラムへ参加してもらう
・入社に関する手続きなど事務的なことを行うといったことを目的にしている。
1つ目の「入社までにインプットしておいてほしいこと」の代表例は、レシピを覚えてもらうことだ。ドリンクだけで100種類を超え、フードも30種類ほどあるため、入社してから覚えるのでは追いつかない。まずレシピを習得してもらわなくては、仕事はスタートできないという。
ここではレシピを覚えるだけでなく、カクテルやフードの実際のつくり方も覚える。さらに、ホールでサービスをする際には、顧客に対応するためにお酒の名称などの商品知識も身につけておく必要がある。こうしたことは文字だけでは伝わりにくいため、昨年からはお酒の基礎知識、商品知識などを体験的に学ぶプログラムも盛り込んだ。
お酒には醸造酒、蒸留酒などがある、というところからはじめて、ビールやウィスキーなどの特徴を、同社で扱っているボトルの写真を見せながら説明する。また、実際に店舗でカウンターのなかに入ってもらい、たとえば「ステアとはこうやって混ぜること」などと実践を交えながら説明し、シェイカーを振ってもらうなどして、イメージを湧かせる。その後は自己学習で入社前までに覚えてもらうようにしている。
2つ目の「ハブ自体に興味をもってもらう」とは、従業員向けに行っている社内のイベントに内定者を招き、社風に慣れてもらうというものである。
たとえば、社内公募したカクテルで優秀さを競う「サマーカクテルコンテスト」や、アルバイトの接客No.1を決める「ザ・ベスト・エンプロイー・オブ・ジ・イヤー」などである。とくにアルバイトNo.1を決める大会については、「接客が素晴らしく、ドリンクメイクなどのスキルがあるアルバイトが出場するため、ハブが求める人材像をイメージしやすく好評です」と小川さん。
イベントの場で社員から話しかけられることもあり、入社前からコミュニケーションが取れるなど、社風についてもわかるという利点もある。

パブの本場を知る5泊7日の英国研修

内定者研修のなかでも最大の特徴となるのが、5泊7日の英国研修である。「本物を知らないと議論にならない」ということで、社員が初めて英国に行ったのは、1995年のこと。当時の社長に英国行きを命じられた現社長の太田氏が最初である。太田氏は、「この感動は全社員がもつべきだ」と考え、ダイエーグループから子会社として独立した1998年から、全社員に英国研修を実施するようになった。

▲ハブ大学入学式

▲ハブ大学入学式

▲英国研修の様子

▲英国研修の様子

内定者への英国研修を実施したのも1998年から。英国渡航前には事前研修を実施し、「英国パブとは何か」など、成り立ちや歴史から学ぶほか、現地のチェーン店情報の紹介などをしている。
英国研修の目的は、自分の目で本場のパブ文化を見て触れることで、入社後に自分たちの店づくりに活かしてもらうこと。そこで、まずはハブの店舗がどういうものか知ってもらうため、渡航前に国内のHUBまたは82を5店舗以上訪れるタスクを与えている。その後、英国に行って本場を見たうえで、日本のハブの良い点・悪い点やギャップについてつかんでもらう。
英国研修の日程は状況に合わせて変えており、今年度は3月末から4月上旬にかけて実施、英国到着翌日に入社式を行った。
その後はサッカーとパブのつながりを実感してもらうため、サッカースタジアムを見学。それ以外には決まったプログラムは定めず、新入社員同士でグループを組み、自分たちで計画を立ててパブを見て回ってもらった。
長年英国研修を実施しているため、社内でも行くべき店のリストなどが情報として蓄積されている。そのリストを参考に、自由に出かける。訪問ノルマは設けていないが、英国ではいたる所にパブがあるため、1日5〜6軒は回れるそうだ。英国パブは、お酒が飲めなくても入店でき、トイレを借りるだけでもよい。それが本場のパブ文化で、そうした空気を感じてもらうのも英国研修のねらいだ。
帰国後に感想を求めると、ビールのおいしさに感動するのはもちろん、「地元の人や店員さんが、英語がわからない自分たちに丁寧に説明してくれた」といった「感動体験」をあげる人が多いという。
英国研修から戻ると成果発表会を実施する。ここではまずレポートを提出してもらい、そこから数人を選考して、個人発表を行っている。最終的には、審査員を務める社長、役員、本部長に対してハブへの提案をまとめて提出。
ここで重要視しているのは、「自分にとって英国パブ文化とは何か」を考えることだ。英国研修とこの成果発表会は、それを考える良いチャンスなのである。
発表テーマとしては、かつては「椅子の高さについて」、「入り口はガラス張りがよい」など、店舗のつくりに関するものが多かった。しかし、そうしたハード面については、本人が店舗に着任してすぐ実践できるものではなく、専門部署との調整が必要になる。
そのため近年は、自分が配属されてから実践しやすいサービス面を中心にテーマを設定してもらっている。
たとえば、「英国ではお客さまの名前を呼んでビールを提供していた店があったので、店舗で発行しているメンバーズカードを参考に、名前で呼んだらいいのでは」といった提案があった。
「実際に現地に行くと、パブはお酒の好き嫌いにかかわらず、行けば楽しいところで、英国人にとって必要なものなのだと実感します。ねらいどおり、内定者は『こういう文化を広めたい』という思いを抱きながら帰ってきます。
そして、入社後に店長と『あそこのパブがよかった』、『こういうところを取り入れたらどうか』など議論ができるようになります。就職説明会などで英国研修のビデオを流すと、興味を示す学生が多いですね」

配属後もフォロー研修でメンタル面をサポート

成果発表会の後は、名刺交換の仕方や身だしなみなど基礎的なマナーを外部講師から学んだり、社内規則を学ぶ研修を行う。
そして入社後にはじまる「新入社員初期研修」で最初に行うのが、1カ月半におよぶ「オペレーション研修」だ。ここでは内定期間中に覚えたレシピに従い、実際にフードやドリンクをつくったり、ホール、レジ、カウンター、キッチンの4つのポジションそれぞれのオペレーション業務を習得したりする。
具体的には、最初はDVDを観るなどしてO-JTで各ポジションの業務を学び、その後、開店前の店舗でロールプレイングを行ったり、営業時間中にアルバイト用のユニフォームを着て、配属先以外の店舗で働いたりする。初期研修中は、新入社員2人に対してエリアマネージャー1人がついて指導している。
その後、5月半ばに店舗に着任。実際に働きながら、1カ月後の6月と入社6カ月後の10月に、採用教育課による1日のフォロー研修を実施している。
ここでは、スキルの習得に関するフォローというより、環境が変わってストレスを抱えていたり、配属された店舗で悩みがあったりした場合のケアが主な目的となる。
ユニークなのは、各自で「入社前」、「入社時」、「研修中」、「いま」それぞれの時点での自分の状況を記入したモチベーショングラフをつくり、自分自身を振り返っていることだ。
ずっとやる気が続いている人もいれば、配属後に一度落ちたがもち直したという人もいる。それらを振り返りながら、つらいことは何か、やりがいは何か、ギャップに感じていることはあるか、現在の目標と1年後はどうなっていたいかなどを記入。それをグループで共有し、ディスカッションして発表してもらう。
「同期で話していると、『みんな同じ悩みを抱えているんだ』、『自分は人より遅れていない』と心が軽くなります。また、『こういうことをしたら褒められた』、『こうしたら楽だよ』というアイデアも共有できます。
フォロー研修は新入社員たちのガス抜きの側面もありますが、会社側にとっても、いまどういった問題を抱えているかといったことがわかるので、何かあれば直属の上司などと相談し、早期に対応していくことができます」
入社から6カ月後に行う2回目のフォロー研修も同様だが、ここでは営業部長がスピーカーとなり、自らの体験や困難への対処法などを話す。社長からの講和の時間も設けており、経営理念を再度確認する場にもなっている。さらに、外部講師を呼んでストレスマネジメントについての講義も実施している。
このように、新入社員や若手社員に対してとくにメンタルケアに重きを置いているのは、志が高い人ほどがんばりすぎてしまう傾向があるため、早く気づけるようにしたいとの思いからだ。

10年間で独立できるような教育体系を構築

以上が同社の1年間の新入社員研修である。その後「ストアマネジメント課程」、「シニアマネジメント課程」に進み、店長3年目になるとハブ大学卒業となる。
このハブ大学での6年間は、マネジメントを習得する期間である。今後は、ハブ大学卒業後、大学院として「ハブアカデミー(仮称)」の開校を予定している。ハブ大学・ハブアカデミーを卒業するのには10年かかる予定だ。
大学とアカデミーで学んだあと、本人が希望するのであれば独立を支援していきたいという。その際の条件は、業態がパブであること。これは、英国パブ文化を日本に広げることを経営理念としていることからだ。パブ文化を同社だけで広げていくのは難しいため、卒業生にパブを営んでもらい、ともにマーケットをつくっていきたいと考えている。つまり、入社して10年後には経営者として独立可能な教育システムを構築しつつあるということだ。
ハブ大学やハブアカデミーで学んでから10年後に再び同期で英国に行くと、入社当時を思い出すだろう。そこで今後を考えたり、「パブってこういうものだったね」と原点に立ち返って語り合ったりしてほしいという。2016年入社の新人がアカデミーを卒業し、再び渡英するのは2026年になる計画だ。10年後となると、また見方も変わってくるのではないか。それがまた新たな革新を生み出すきっかけになるだろうと、同社は期待を寄せている。
ちなみに、定期採用でアルバイトから社員になるのは毎年2人ほどだ。一方、通年採用は原則アルバイトからしか採らない方針である。その際も、同社が求める社員の基準に達していない場合、特別扱いはしないそうだ。そのため、通年では何人採用できるか不透明なこともあり、新卒を計画的に採用して育てていく人事方針をとっている。
「当社は商品で売っているというより、場の雰囲気を売っています。それをつくりあげているのは人であり、それがわたしたちの生命線ですから、妥協するわけにはいきません」
飲食業界平均の従業員の定着率が69.6%というなか、同社は95%という高い数字を誇っている。社名のハブとは「車輪の中心」、転じて「人が集まるところ」を意味するそうだ。人が集まる場にするには、結局は人の力でしか実現できない。ハブに来店する客はもちろん、働く人にとっても、それだけ求心力のある組織なのだろう。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社ハブ
本社 東京都千代田区
設立 1998年5月
資本金 6億3,100万円(2016年2月29日現在)
売上高 102億1,700万円(2017年2月28日現在)
従業員数 287人
平均年齢 31.9歳(2016年2月29日現在)
平均勤続年数 6.8年(2017年2月28日現在)
事業案内 英国風PUB事業など
URL http://www.pub-hub.co.jp/

総務人事部 採用教育課
主任 小川 和珠 さん


 

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