事例 No.221 ファーストリテイリング 事例レポート(ダイバーシティ教育) (企業と人材 2020年4月号)

ダイバーシティ教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

女性がもつネガティブなバイアスを乗り越え、
自信をつけることでキャリアへの意欲を高める

ポイント

(1)日本ではとくに性差による「気づかぬ偏見」があるうえに、女性自身がもつバイアスも強く、それが女性のキャリアへの意欲を阻害していると感じたことから、ジェンダーバイアス研修を実施。

(2)マネジャー以上の女性社員を対象とした「ジェンダーバイアス&自信創出研修」では、女性自身がもつバイアスと自信のなさを探求し、ネガティブなバイアスを乗り越え、自信を高めるためにできることを体感する。

(3)研修では、4~5人ずつのグループに分かれて、講師が提起したテーマについてディスカッションを行い、バイアスについての理解を深めるとともに、自信のつけ方について学ぶ。

「変革をリードできる人」を育成

中核事業であるユニクロをはじめ、ジーユー、セオリーなど複数のブランドを世界の人びとに提供する株式会社ファーストリテイリング。
「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」を経営理念に、素材調達から企画、生産、販売までの一貫したプロセスにより、高品質な服をリーズナブルな価格で販売している。
2019年8月期の事業概況は、売上収益2兆2,905億円(前期比7.5%増)、営業利益2,576億円(同9.1%増)と、過去最高の業績を更新した。快進撃を続けるなか、人事部採用担当の部長山崎麻紀さんは、「当社は情報製造小売業へ生まれ変わろうとしています」と、さらなる変革をめざす様子を語る。
「当たり前のことなのですが、お客さまが本当にほしいものが、ほしい分だけ、ほしいタイミングでいかにお届けできるかといったことを、誠実に追求していきたいと思っています。
そして、お客さまの要望に応えつつ、ムダをなくして環境にやさしいサスティナブルな事業を実現していくには、これまでの店舗というリアルな場での販売に、オンラインなどデジタルの力を融合させて、新しいサプライチェーンマネジメントをつくる必要があります。ですから、すべての部門のすべての仕事のやり方において、変革が求められます。

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つまり、変革をリードできる人がいなくてはなりません。自ら構想し、それに向けて実行できる人が必要なのです」
同社は現在、中核事業であるユニクロで、25の国と地域に店舗を出店しているが、ブランドメッセージである“あらゆる人に良いカジュアルを”ということを考えると、まだまだグローバル展開の余地があるという。そのため山崎さんは、「とくに“変革をリードする”ことをグローバルでできる人を求めています」と続ける。
より具体化すると、求める人材像として、3つの要件があげられる(図表1)。

図表1 求める人材像要

求める人材像要

まず「高い達成意欲」だ。
「未来に向かって新しいことをするとき、一番の原動力は、『もっとよくなるのではないか』という思いです。会社がそれを指し示すのではなく、社員一人ひとりにそうした思いが湧き起こるかどうかが大事です」(山崎さん)
2つめは「深く考える思考力」。
「表層に散らばる問題ばかりを解決していても、変革にはつながりません。本質的な課題は何か、一人ひとりが考え抜く深い思考力が必要です」(山崎さん)
3つめが「主体性・リーダーシップ」だ。
「自ら考え、提案・行動できること、そして、自ら人とつながって仕事ができるかどうかも大事な要素です。事業会社である当社では、さまざまな部門・職種の人たちが仕事をしており、世界で約14万人が働いています。こうした人々と協違います。そうしたことを認めたう働して、お客さまに喜んでいただくえで努力をしたら、しっかり評価を事業をどう実現するか、という最終しますし、次に向かってどんどんチャ目標に向かうには、不可欠な要素です」(山崎さん)

必要なときに必要な研修を行う

では、そうした人材を育成するための教育制度はどのようになっているのか。
前提として、「年功序列ではなく、“完全実力主義”をとっています」と山崎さん。グレードごとに期待と役割を定義しており、キャリア構築のタイミングやスピードは、一人ひとり異なる。
したがって、教育研修についても、年次で区切って定期的にいっせいに行うスタイルではなく、グレードごとに「必要なときに必要な研修を」ということを基本としている。
「成長の速度は、個人によってさまざまです。当然、強みも弱みも違います。そうしたことを認めたうえで努力をしたら、しっかり評価をしますし、次に向かってどんどんチャレンジできるようにしています」(山崎さん)。
具体的には、各人が半期に一度、目標設定をし、そのためにどんなプロセスが必要かを設計する。それを上司と共有し、期末にフィードバックするという仕組みだ。結果は賞与にも反映される。
ちなみに、同社でいう完全実力主義は、成果主義とは異なる。
「当社の完全実力主義は、成果だけをみるのではなく、プロセスと結果の両方をみています。
たとえば、半期ではまだ成果は出ていなくても、その人がチャレンジしていることは、今後成果になる可能性が高いと判断すれば、そこをきちんと評価します」と、山崎さんは説明する。
「どんなキャリアを思い描いて、どう歩んでいきたいか。一人ひとりのそうした思いと、われわれの事業におけるチャレンジが合致することが、非常に大事なのです」(山崎さん)

「入社1年で店長」をめざした研修

一方、新人については1年間、店舗におけるOJTとOff-JTを組み合わせたカリキュラムを整えている。「入社して1年で店長になれるような」内容だ。Off-JTは進捗にあわせて、スキルやスタンスなどを組み込んだ集合研修を1年で5回実施。1回の研修には1週間をかける。
「今後、どの部門に進むのであっても、お客さまに喜んでいただくという目標は同じであり、そのためにどうあるべきかを一番学べる場所は、現場です。ですから、入社後は必ず店舗に配属し、そこで1年間、OJTとOff-JTを受けてもらう形になります。
ただ“1年で店長”といっても、店長になるには、もちろん試験に合格しなくてはなりません。全員が1年で店長になるわけではありませんし、半年ごとにチャレンジできるので、最短で半年で店長になる人もいます。
その場合、研修が何回か残ってしまう場合もありますが、途中で店長になったとしても、必ず残りの研修も受講してもらいます。この1年間の研修が、当社の基本的な考え方や必要なスキルのベースとなるからです」(山崎さん)
入社後1年間の研修は、店長になるためだけの研修ではなく、「将来、経営を担う人材になるための基礎研修」という位置づけなのである。
2年目以降は、グレードごとの期待と役割にのっとった研修となり、内容も都度必要なものを、フレキシブルに取り入れている。
たとえば、エリアマネジャーには、エリアマネジャー研修を実施し、次世代リーダーをめざす人向けの研修では、国内だけでなく、グローバルで該当するグレードの人を集合させて実施している。

自分がもつバイアスに気づくための研修

このように「必要な人に必要な研修を」というベースがあるなかで、ジェンダーバイアス(性差における偏見)の研修を実施することになった背景について、社長室ダイバーシティ推進チーム部長の小木曽麻里さんは、2つの観点から説明する。
「1つは、グローバル化の流れにより、ジェンダーを含めた多様性が欠かせないという点です。そもそも当社は、さまざまな消費者の役に立てる企業になることをめざしているので、多様性は必須です。また、変革をリードできる人というのは、あらゆる人を受け入れ、その人たちの能力を活かせなくてはなりません。クリエイティビティがキーワードになりますが、変革の力になるには、多様な人がパフォーマンスを出すことが大切です。
もう1つは、リスクマネジメントです。当社では、そうした観点から差別やハラスメントの研修を実施していますが、これらに共通しているのは、自分では気づいていないさまざまなバイアスがあることです。それに気づくためのトレーニングも必要だと考えました」
こうした背景のなか、今回、ジェンダーバイアスの課題に取り組んだ大きな理由は、とくに日本では性差による「気づかぬ偏見」があるからだという。
「海外でのバイアス研修は、女性だけでなく、障がい者やLGBTなども含み、もっと広義な場合が多いのですが、日本の場合は、圧倒的に女性へのバイアスがあります。また、女性自身がもつバイアスも強く、それが女性のキャリアへの意欲を阻害していると感じました。
多様性を受け入れていく素地をつくるとともに、女性のキャリアへの意欲を高めるには、まず女性のバイアスについて取り組む必要があると思いました。
ただし、バイアスをなくすことは、ほぼ不可能です。今回の研修は、バイアスをなくすのではなく、自分のなかにバイアスがあること、そして、どんなバイアスがあるかについて気づいてもらうことをねらいとしました」と、小木曽さんは研修の目的を話す。
同社ではこれまで、対象者を変えて2回、ジェンダーバイアス研修を実施した。講師は2回とも、ダイバーシティ・コンサルタントのパク・スックチャ氏。近年、同氏は、ジェンダーバイアスと自信への問題意識を高める活動に注力している。
1回目は、同社および国内グループ会社の役員と各国の経営陣約100人を対象とした90分間の研修で、「採用や昇進に潜んでしまっている男女の違いに対するバイアスに気づきましょう」という内容だ。

第1回目の役員向け研修の様子

▲ 第1回目の役員向け研修の様子

参加者は、ほとんどが男性だったという。同社は全従業員の7割が女性である。そう考えると、役員以上は女性が少なく、「そこが当社の課題の1つ」と小木曽さんは悩ましげだ。

女性自身のバイアスと自信のなさを探求

2回目は、リーダー(マネジャー以上)になってほしい女性16人を対象に、「ジェンダーバイアス&自信創出研修」を実施した(図表2)。

図表2 「ジェンダーバイアス&自信創出研修」の概要

「ジェンダーバイアス&自信創出研修」の概要

「ジェンダーバイアス&自信創出研修」の様子

▲ 「ジェンダーバイアス&自信創出研修」の様子

小木曽さんによると、この研修は、女性向けのキャリアサポートプログラムの1つだという。キャリアサポートプログラムとは、メンタリングと研
修を組み合わせて実施しているもので、役員が半年間メンターを務める。女性社員とメンター、人事、ダイバーシティ担当者がミーティングをして本人の課題をあぶり出し、どう解決していくかセッションを行うほか、必要に応じて、今回のような研修を実施している。
今回実施した研修は2時間で、ジェンダーバイアスとリーダーシップの関係性や、女性自身がもつバイアスと自信のなさを探求し、ネガティブなバイアスを乗り越え、自信を高めるためにできることを体感してもらうことをねらいとした。
では、以下に研修内容を紹介しよう。
参加者らを4~5人ずつのグループに分け、講師の説明を聞いたあと、グループごとにディスカッションを行う、ということを数回繰り返す形で実施した。
まず、女性の活躍がどれだけ進んだか、結婚・出産しても働き続ける女性が増えていること、世界でも日本では女性の労働力率は年々高まっていること、しかし管理職比率は低いこと……といった日本の現状が、グラフを交えながら講師から説明された。日本で女性活躍が進まない理由については、「男性優位の企業風土」、「男性は仕事、女性は家庭という性別役割分業の意識」などがあることが指摘された。
続いて、スクリーンに映し出された男女の写真を見ながら、どちらがリーダーらしいかを選ぶというワークを実施。能力については何も触れていないにもかかわらず、圧倒的に男性が選ばれたという。その後、各グループで、「男らしさ」、「女らしさ」、「リーダーらしさ」は何かについて、ディスカッションを行った。
講師は、女性のほうが、リーダーは男性が向いていると考えており、女性のほうがバイアスが強いと解説。自分はその器ではないと感じているなど、女性自身が自分に自信をもてていない状態であることを指摘した。その後、「自信がないとどうなるか」、「職場においてどんなバイアスがあるか」などについて、各グループでディスカッションし、考えを深めていった。
意見交換を繰り返した後、「ジェンダーバイアスを乗り越えるためにできること」として、講師は(1)バイアスについて学び、バイアスには根拠がないことを理解する、(2)バイアスのない言葉を使う(3)多様な女性を尊重すると3つが提示された。そのうえで、「行動を変えれば意識も変わっていく」と、行動する大切さを強調。最後に、各グループで「明日から行う具体的行動」を話し合い、終了となった。

多くの参加者がバイアスに気づく

以上の研修を終え、参加者はどう感じたのだろうか。
「終了後のアンケートでは、どちらの研修もおおむね有益との声が多くありました」と小木曽さん。1回目の役員向け研修では、「圧倒的に女性管理職が少ない原因を考えるきっかけとなった」というポジティブな意見が目立った。一方、そうでない人の声としては、「もう知っていた」、「とくに感じていない」などのほか、「周りにはそういう偏見はない」と、そもそもバイアスに気づいていないようなコメントもあったという。
小木曽さんは、「興味深いのは、よかれと思ってやっていたことが、結果的に差別になっていた、という声です。また、優秀な女性人材の成長機会を奪っていたかも、という反省の声もありました。多くの人が、自分のなかのバイアスに気づいたという点で、有意義だったと思います」と振り返る。
女性向けの研修は、より高い評価を得ており、また、「自分を過小評価していた」というコメントがとても多かったという。
「自信をもつことが大事だと気づいた」、「自分で能力に制限をかけていたことに気づいた」という感想のほか、「ほかの部署の様子が聞けてよかった」といった声もあったそうだ。
受講による意識の変化については、「変化があった」とした人は9割を超えた(「少しあった」も含む)。ただ、肝心なのは、この先の行動変化である。これについては、1カ月後に同じ参加者にアンケートをしてまとめる予定だ。

自信をもち、キャリアへの意欲を高めてほしい

海外での勤務経験が長い小木曽さんは、「海外では、ジェンダーバイアスについて、OJTで上司から学ぶのが当たり前になっています。そもそも自分に自信がもてていないと、評価の土俵に上がれません」と、自信をもつことの重要性を指摘する。
その一方で、小木曽さん自身にもバイアスがあるという。
「日本社会で育つと、どうしてもジェンダーバイアスが強くなり、それを払拭することはなかなかできません。先ほども申し上げたように、この研修では、そうしたバイアスをなくすのではなく、バイアスがあることに気づいてもらうのがねらいです。
私自身、バイアスがあることをわかっていたつもりでいました。しかし研修を受けて、自分では気づいていなかったバイアスがあることを知り、ハッとしました。そういう意味では、すでにわかっているという人にも、こうした研修を定期的に実施することは大事だと感じました」
とくに女性には、「自分自身にバイアスがあること、そのバイアスには根拠がないこと、そして自信をもっていいこと」に気づき、キャリアへの意欲を高めてほしい、と小木曽さんは繰り返す。
実際、責任のあるポジションを女性に任せようとすると、自信がないことを理由に断られるケースが多く、そういう人をなくすのが小木曽さんの目標だという。
今後は、役員の女性比率を上げることに加え、より活躍する女性社員を増やしたいという山崎さんと小木曽さん。
「そして、今後は女性だけでなく、外国人や障がいをもつ人など、さまざまな背景をもつ社員を増やしていきたい」とつけ加える。そのために、自分のなかのバイアスに気づく研修を実施しているのだ。小木曽さんは、「自分のなかのバイアスに気づくことがキャリアをつくる」と表現する。
もちろん、男女問わずそれぞれが、自分のなかにバイアスをもっている。とくに女性は「自信がない」と感じている。だからこそ、女性たちが自分に潜むバイアスに気づき、自信をもって行動するようになれば、グローバルに変革をリードできる人が登場するだろう。
女性が多い同社だからこそ、その可能性は高い。そうなれば、「情報製造小売業」の実現が早まるに違いない。

(取材・文/江頭紀子)

※本記事で紹介した「ジェンダーバイアス&自信創出研修」のコンセプトについて、講師のパク・スックチャ氏のインタビュー記事を、姉妹誌『人事実務』2020年4月号に掲載しています。


 

小木曽麻里さんへの3つの質問

Q1 人材開発の仕事で、日ごろ大事にしていることは?
人は一人ひとり違うので、まずは相手を理解するところから始めることを心がけています。そのうえで、表面だけでなく、根幹に眠っている問題は何かを考えるように努めています。

Q2 仕事で気分が凹んだときは、どうしていますか?
お笑い好きの小学生の子どもと話します。なんだかんだ面白いことを言ってくれるので、子どもはすごいポテンシャルをもっているな、といつも感心します。

Q3 いま関心があることは何ですか?
やはり、日本社会において、どうしたらもっと皆が活き活きと楽しく仕事をできる社会になるのか、ということでしょうか。
本業でもあるので、仕事人間ですね。


 

▼ 会社概要

社名 株式会社ファーストリテイリング
本社 山口県山口市
設立 1963年5月
資本金 102億7,395万円
売上高 2兆2,905億円(2019年度)
従業員数 137,281名(連結 2019年8月31日現在)
事業内容 ユニクロやジーユーなどの衣料品ブランドをグローバルに展開
URL https://www.fastretailing.com/jp/

左から
社長室 ダイバーシティ推進チーム 部長 小木曽麻里さん
人事部 採用 部長 山崎麻紀さん


 

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