事例 No.142 日本特殊陶業 事例レポート(ダイバーシティ教育)
(企業と人材 2018年5月号)

ダイバーシティ教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

部署ごとに女性活躍プランを立案
工場では女性だけの小集団チーム

ポイント

(1)経営トップの強い意思表示から、女性活躍推進のための「DIAMONDプロジェクト」が発足。従業員意識調査を行い、風土、意識、環境を変える取り組みをスタート。

(2)全社的な取り組みとしては、講演会や研修のほか、部署ごとの女性活躍のアクションプランを立案・実行したり、女性社員が上司と課題を設定し、半年間かけて取り組むプログラムを展開。

(3)製造部門独自の取り組みとして、女性だけのチームで小集団活動を行う。男性が担っていた包装機の段取り作業を女性が習得し、女性だけの製造ライン化を図るなどして、意識面でも効果が表れてきている。

2013年に女性活躍推進プロジェクトが発足

日本特殊陶業株式会社は自動車用スパークプラグや、排気ガスのなかの酸素濃度を検知するセンサで世界トップシェアを誇る企業だ。スパークプラグはNGKブランドで知られ、世界中の自動車、二輪車メーカーと偏りなく取引をしている。地域別の売上構成比は北米28%、欧州26%、アジア19%、日本17%などとなっている。

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新規事業の創出にも積極的だ。自動車関連事業で培ったノウハウとセラミックスの素材開発力を活かして医療分野にも進出、骨補填材、呼気一酸化窒素計測器なども製造している。
同社が女性の活躍推進に本格的に取り組み始めたのは、現在の代表取締役会長兼社長の尾堂真一氏が社長に就任したのがきっかけだった。海外赴任経験が豊富な同氏は、海外ではビジネス上で女性の活躍が進んでおり、男女の別を意識したことはなかったという。
2011年の社長就任当時、同社の女性社員比率は15%で、技能職と一般職が中心だった。尾堂氏は、経営資源である女性社員の能力を最大限に活かすことが保守的な企業風土を変革する力になると考え、「女性活躍は経営戦略。企業風土改革の推進エンジンになることを期待し、絶対にあきらめない!」と宣言し、強い意思をもって取り組むとした。これを受けて、2013年に始まったのが、女性活躍推進のための「DIAMONDプロジェクト」だ。
プロジェクトは活動期間を5年間に設定し、副社長をプロジェクトオーナーとしてスタート。活動メンバーは、事業部、広報部など、人事部以外の部署からも幅広く集められた。当初から、女性社員だけでなく、男性管理職の意識改革を図ることを行動指針に掲げており、元事業部長、元工場長といったベテランの男性社員をメンバーに加えた。なお、今年の3月でプロジェクト5年間の予定が完了し、現在は戦略人事部に設立されたダイバーシティ推進課に女性活躍推進の精神を引き継いでいる。

従業員調査の結果から意識改革に取り組む

DIAMONDプロジェクトがスタートして、まず行ったのは管理職層から担当クラスまでの約4,800人を対象とした意識調査だった。回答率は72.2%で、約3,500人から回答を得た。
プロジェクトチームが注目したのは、男女で評価に差がある項目だった。採用/配置/異動/育成/昇進・昇格/ワークライフバランス/コミュニケーション/全般という8つのカテゴリーで調査したところ、「育成」と「昇進」では、男女間の意識に明らかな違いがみられた。DIAMONDプロジェクトのリーダーであり、経営戦略本部戦略人事部戦略企画課・副参事の伊藤憲治さんは、「突き詰めると、女性の育成が不足していた」と、当時を振り返って述べる。
育成が十分でないから、昇進に自信がもてず、昇進への意欲も低いものにならざるを得ない、という図式だ。女性社員に対しても十分に育成を行い、昇進する人を増やしていくことができれば、さらに勉強したいという好循環も生まれるはず。と同時に、問題があるとは感じていない男性社員の意識を変える必要がある。
そんな分析を踏まえ、図表1のようにプロジェクトのミッションを掲げ、「風土を変える、意識を変える、環境を変える」を行動指針として、2013年度から取り組みを開始した。2017年度までの5年間の取り組みは多岐にわたるが、ここではプロジェクトチームが直接行った全社的な取り組みと、製造部門で独自に行われた取り組みについて順を追って紹介したい。

図表1 DIAMONDプロジェクトの活動方針

図表1 DIAMONDプロジェクトの活動方針

全社的な取り組みの全体像は図表2のとおりだ。まず1年目は、「管理職層の意識改革」をテーマに取り組んだ。具体的には、部長、次長クラスを対象に講演会を開催。社長が自ら登壇し、女性活躍推進の意義を説いた。さらに、部門長らによるパネルディスカッションも実施した。
また、基幹職と呼ばれる課長および課長代理向けの研修も行った。これは、社内では「耳タコ研修」とも呼ばれているそうだ。現在、同社では、基幹職が約900人いるが、研修は年10回以上開催しているため、2年間で一巡することになる。そこから、また内容を変えて、もう一度実施する。基幹職の社員は1年おきにこの研修を受けることになる。

図表2 DIAMONDプロジェクトの全体像

図表2 DIAMONDプロジェクトの全体像

「意識や風土というものは簡単には変わりません。基幹職に対して、なぜ女性活躍推進が必要なのかを伝える活動は繰り返し続けています」(伊藤さん)
女性の意識改革をめざす取り組みも、1年目から始まっている。女性総合職フォーラムでは、女性総合職を集めて、役員を交えた座談会を行うなどした。
これらの多くの取り組みには、社長をはじめとする役員が参加し、お題目だけではないトップダウンが活動に組み込まれていった。それによって、プロジェクトは社内に急速に浸透していったという。
翌2014年度は、本格的に「女性の意識改革」に取り組んだ。次世代女性リーダー研修や、育休からの復職者向けキャリア研修などを実施した。
次世代女性リーダー研修は、管理職に上がるタイミングで実施された。座学だけではなく、役員と面談する機会があったり、役員の打ち合わせに同席するといった実践的な内容も盛り込まれている。
「そのほかの取り組みも含め、ディスカッションの時間を多く取ったことが特徴です。これはネットワークづくりがねらいです。たとえば育休復職者研修では、毎年60人くらいが育休から復帰してくるのですが、少人数であると、事業所や部署もバラバラなので、孤立しやすいのです。そういった社員に悩みや問題を共有してもらいました」(伊藤さん)
そして、その後の2015~2017年度は「組織力の向上」をテーマに、それまでの取り組みが継続・強化されていった。2016年度からは、女性社員とその上司が一緒に参加する製造部門リーダー研修も始まっている。

部署ごとに女性活躍計画を立案・実行

以上、年ごとの取り組みを順番に紹介してきたが、2013年度から継続して行われているものもある。その1つが「各部署ごとのアクションプランの立案・実施」である。
これは100ほどある部署ごとに女性社員の能力開発、働きやすさ向上に関する取り組みを立案し、実施していくというもの。四半期ごとに進捗状況をプロジェクトチームがチェックし、必要に応じてアドバイスする。毎年、優れた取り組みには奨励賞を授与し、それらを集めた好事例集の冊子を作成して、全社に紹介している。
2016年度には、プロジェクトメンバーが全部署をまわってヒアリングし、実際にどのように行われているかを確認した。それまでは、メールなどで取り組み内容や進捗チェックを行っていたのだが、実際に現場で話を聞いてみると、書面上は簡単にしか書かれていないことが、手間暇をかけた熱心な取り組みであったり、またその逆もあったりと発見が多かったという。
もう1つ、当初から継続されてきた取り組みとして、「女性活躍支援プログラム」がある。これは、女性社員が直属上司のサポートを受けながら、半年間かけてワンランク上の業務にチャレンジするというもの。女性社員は、中長期のキャリアプランを視野に入れ、自ら課題を設定(アクションプラン)・実施・解決する。これに対し、上司はその人のキャリアプラン、アクションプランを把握し、コミュニケーションを通じて、業務コントロールする。最後に成果発表会を行うという流れだ。
なお、DIAMONDプロジェクトとは別の施策となるが、同社では2014年度に地域限定総合職が新設され、女性一般職から職群転換する社員が増加した。その結果、女性総合職が83%増加したという。

工場では女性検査員の働きかけで生産数増加

次に、製造部門の取り組みとして、プラグ事業部小牧製造部(以下、小牧製造部)の活動を紹介しよう。
小牧製造部は同社の小牧工場にあり、女性社員比率は、全体の約18%となっている。
この5年間の小牧製造部の取り組みの概略は図表3にあるとおりだが、このうち★印のついていない「現場改善ワークショップ」と「K・製方針連携」が小牧製造部独自の取り組みで、小集団活動をベースに行われたものである。
2013~2014年度にかけて、小牧製造部はDIAMONDプロジェクトのモデル部署に認定され、プロジェクトチームの支援を受けながら、活動を開始した。

図表3 プラグ事業部小牧製造部の取り組み内容

図表3 プラグ事業部小牧製造部の取り組み内容

「最初は、それこそ何をすればいいのか見当がつかないような感じでした。プロジェクト事務局の話を聞き、コンサルティングを受けながら、1年目は女性活躍支援プログラムと管理職層の意識改革の活動を同時並行で始めることができました」
そう話すのは、プラグ事業部製造本部小牧製造部・主管の飯塚誠二さん。しかし、2年目の2014年度には、事業部からも意見を出し、次世代女性リーダー育成にも取り組むことにした。これは、上司面談やヒアリングのほか、「理想のリーダー像」を考えたり、ケーススタディを行う研修に参加する一連のプログラムで、リーダーへの意識づけをねらったものである。2016年度までの3年間で16人の女性社員が参加している。
ここで、小牧製造部の女性活躍支援プログラムの取り組みを1つ紹介しよう。2016年度に行われた取り組みで、対象者は、小牧製造部組立1課検査包装係の長峰陽子さんである。
プラグ製造の最終工程である完成検査を担当する長峰さんは、上司と相談し、1日あたりのプラグ生産数を1.5倍に引き上げるという目標を設定した。
同社のプラグ製造工程は、鋼材を切り出すところから始まる一貫製造だ。自身が担当している工程のメンバとその上司、支援部署である品質管理部門を巻き込み、総勢25人で何か省略できることはないかを相談したという。半年間の取り組みの結果、最終的には生産数を1.25倍にまで引き上げることができた。
目標には達しなかったが、大きな改善となった。本人にとって大きな自信となったことは想像に難くない。

女性チームによる小集団活動で職域が広がる

続いて、小牧工場独自の取り組みについてもみていきたい。モデル部署としての取り組みから継続して行われていったのが、「現場改善ワークショップ」だ。
これは、女性社員だけのチームで、小集団活動を行うという取り組みだ。部署によってチームの人数はまちまちだが、2016年度までは、毎年12~15人のメンバーを選出して取り組んできた。2017年度からは、DIAMONDプロジェクトから通常の小集団活動に移管され、職制を通じて活動するようになっている。
具体的な取り組み例としては、重量のある粉末素材を女性でも持ち上げられるように昇降装置の導入を提案して認められたり、従来は男性が行っていた溶接機の部品交換を、マニュアル作成により女性だけでできるようにしたなどの実績がある。
「最初のころは、選ばれてしまったので仕方なく、という感じの女性社員も少なくなかったのですが、いざ活動が始まると楽しくなっていくようでした。
やっていくうちに実際の成果も出て、ますますやりがいを感じて取り組むようになる人が増えてきています」(飯塚さん)
もう1つ、「K・製方針連携」という取り組みも行っている。Kは小牧のKで、小牧製造部の方針と連携したテーマで行われる小集団活動を指す。2017年度は23名と一気に選出メンバーが増え、以下の4テーマに取り組んだ。
(1)単独包装機の女性ライン化
これは、プラグの包装機について、それまで男性が段取りや保全を担当し、女性は操作を担当するというように役割分担されていたものを、すべて女性が行えるようにする取り組みである。
同社のプラグは、製品の種類が非常に多い。包装機だけをとっても、包装材の切り替え、設備の切り替え、保全作業や部品の発注など、1日のなかでもさまざまな作業が発生する。
とくに包装材の変更や設備の切り替えなどの段取り作業は、設備1台につき、1日に15回程度必要となり、通常は1回15分程度、長いと40分から1時間もかかる。その都度、女性社員が段取り作業を担当する男性社員を呼んできて作業をしてもらうよりも、女性が段取りを行うほうが効率がよいのは明らかだ。
女性ライン化を進めるため、まず作業の洗い出しを行った。すると、男性社員は全作業を経験していたのに対して、女性社員には経験したことがない作業が多いことが見える化された。
「できないのではなく、やらせていなかった」(飯塚さん)
そこで、一つひとつの作業について計画を立て、女性社員に教えていくことにした。その結果、いまでは担当の女性社員全員がほぼすべての作業を習得し、女性社員の単独ライン化を実現できる感触が得られているということだ。
(2)完成検査員の品質過去トラブル巡視
これは、検査で不具合がみつかった事例について、完成検査員がその発生工程に出向いていき、不具合の原因について説明を受けたり、決められた対策をきちんと行っているか確認したりするというものだ。
「これは、基本的には不具合が出た工程に、検査員からフィードバックするという取り組みなのですが、人材育成という点でも大きく2つ意味があります。
1つは検査員の視野を広げること。プラグの製造工程全体を知ることで、完成検査の仕事についてもより深く理解してもらうためです。もう1つは、検査員のほうから前工程の担当者らに質問したり、対策の遵守をお願いしたりしなければならないので、コミュニケーション力の向上に役立つと考えています」(飯塚さん)
完成検査員は全員女性で、入社以来、その仕事に携わっている。
これまでは不良品の選別はできても、なぜそれが発生するのかについて知る機会はなかったのだという。下欄のコラムにもあるとおり、参加した女性社員にとってはよい刺激となったようだ。
(3)他社・他工場交流会
小牧製造部の女性社員を近隣の他社の工場や、鹿児島県にある宮之城工場に派遣し、お互いの取り組みを紹介し合ったり、テーマを決めてグループディスカッションを行ったりする取り組みだ。
「工場の女性社員には、いままでこういう機会がなかったためか、本当に乾いたスポンジが水を吸収するように、いろいろな知識を吸収してくれますし、いろいろなことに興味をもってくれます。互いの取り組みに刺激を受けて、自分たちの工場でも同様の取り組みを始めるといったこともみられるようになってきました」(伊藤さん)
このほか、整理・整頓・清潔の3S活動を女性目線で見直す (4)現場美化改善活動 も実施された。
一連の取り組みが評価され、同社は2017年に経済産業省の新ダイバーシティ100選にも選ばれている。
「5年間の活動によって、企業風土も職場環境も、そして社員一人ひとりの意識も、確実に変わってきました。今後はこの流れを、女性活躍だけでなく、多様な人材の活用──ダイバーシティの取り組みにもつなげていきたいと思っています」(伊藤さん)

(取材・文/小林信一)


 

 

製造部門での取り組みに参加した女性社員に聞く

プラグ事業部製造本部小牧製造部組立1課・検査包装係の長峰陽子さんは、本文で紹介した「女性活躍支援プログラム」や「完成検査員の品質過去トラブル巡視」の活動に参加した一人だ。後者では、過去に不具合があった事例について、その部分を担当している製造工程に出向き、どうしてそのような不具合が発生したのか、それに対してどのような対策を取ったのか、それがきちんと守られているかなどを話し合った。
「すごく勉強になりました。活動後は、不具合をみれば、どこで発生したものなのか、だいたいわかるようになってきています」と話す。
本文で説明したように、この取り組みの目的は女性従業員の育成だ。見学ではなく「巡視」で、いうべきことは言う必要がある。そのため、コミュニケーション能力を鍛えることにもつながる。
「質問も自分たちで考えるのですが、最初は何を聞いていいかわかりませんでした。でも、何度か行くうちに、これを聞けばいいということがわかってきて、もっとこんなことも聞いてみようと考えるようになりました。
後輩の女性社員も一緒に行き、話し合いの場の進行役を務めたりもしたのですが、すごく緊張したけれども良い経験ができたと喜んでいました。私自身も、別の部署の人たちと交流を図れましたし、今後につながる経験になりました」
それまで自分から積極的に質問するようなタイプでなかったと、長峰さんはいう。しかし、この取り組みにより、自分から質問できるようになった、大勢の前で話すことも苦ではなくなってきたという。
同社の女性活躍推進の活動は、着実に成果を上げているといえるだろう。


 

▼ 会社概要

社名 日本特殊陶業株式会社
本社 愛知県名古屋市
設立 1936年10月
資本金 478億6,900万円
売上高 3,729億円(2017年3月期)
従業員数 5,852人
事業案内 プラグ、センサなどの自動車関連事業、半導体などのテクニカルセラミックス事業
URL https://www.ngkntk.co.jp/

(左)
プラグ事業部
製造本部小牧製造部
主管
飯塚誠二さん

(中央)
経営戦略本部
戦略人事部
副参事
伊藤憲治さん

(右)
プラグ事業部
製造本部小牧製造部
組立1課検査包装係
長峰陽子さん


 

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