事例 No.093 キリン 特集 一緒に育てる女性活躍教育
(企業と人材 2017年4月号)

ダイバーシティ教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

女性リーダー育成の数値目標を掲げ、取り組みを加速化
育児未経験者が「営業ママ」を疑似体験する実証実験を実施

ポイント

(1)全国に「キリンウィメンズネットワーク(KWN)」の推進委員会を設置。年1回の経営陣へ の提言で課題を吸い上げ、ワークライフバランスに関して多様な選択肢を制度化。

(2)2013年に「2021年までに女性リーダーを3倍の300人にする」との数値目標を策定。女性社員の意識改革を目的とした「キリンウィメンズカレッジ」をリニューアルし、管理職手前の女性総合職を対象とした経営戦略などを学ぶ研修に。

(3)女性営業社員向けの取り組みとして、「新世代エイジョカレッジ」に参加。育児未経験の社員5人が1カ月間、子育て中のママの生活を疑似体験する実験を行う。上司や同僚も巻き込んで大幅な残業削減に成功し、高い評価を得る。

女性活躍推進を重要な成長戦略として位置づけ

キリングループは、2007年に純粋持株会社制を導入し、キリンホールディングス株式会社の下に事業会社が置かれる形となった。今回取り上げるキリン株式会社は、国内飲料メーカー3社(キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャン)を傘下に置く事業会社として、2013年に発足した。「あたらしい飲料文化をお客様と共に創り、人と社会に、もっと元気と潤いをひろげていく。」をミッションとして掲げ、国内向けに酒類および清涼飲料水の製造・販売を行っている。
同社は、新会社発足以前の2007年に女性活躍推進の取り組みを本格化させている。きっかけは、当時の経営トップの抱いた危機感だった。人事総務部多様性推進室の人事担当、金惠允(キム ヘユン)さんは次のように説明する。
「総合飲料事業を手掛ける当社にとって、お客さまの半分は女性であるはずなのに、社内での女性の活躍はまだまだ進んでいないという課題がありました。今後ますますニーズが多様化していくなかで、私たちももっと多様性のある組織になっていかなくては、お客さまに価値ある商品をお届けできないという思いがありました」
人口減少時代に入り、とくに若手人材の確保が年々難しくなるなか、従来のように日本人の男性を中心とした新卒採用だけでは、やがては要員を確保できなくなるという懸念もあった。女性活躍推進は、企業として持続的な成長をめざすうえで、避けて通れない課題だったのだ。
「当時は女性を採用しても出産、育児を機に退社していく例も多く、どちらかといえば男性中心の画一的な組織だったといえるかもしれません。当時のテーマは『半歩でもいいから前へ』。以来、女性活躍推進はキリンの成長戦略の1つに位置づけられ、さまざまな活動が行われています」

地域ブロックごとに多様なメンバーが課題を考え、経営陣に提言

もともとはトップダウンで始まった同社の女性活躍の取り組みだが、同時にボトムアップの活動も進められた。その中心は、2007年に発足した社内組織「キリンウィメンズネットワーク(以下、KWN)」であった。
KWNは、女性の自己成長やキャリア形成、ネットワークづくりを推進する、草の根の組織である。地域ブロックごとに推進委員会が設置され、さまざまな活動を展開していった。人事部門は予算や納期を提示する程度で、どんな活動をどのように行うかは、すべて各チームに任されていたという。
推進委員の任期は2年間。基本的にボランティアで、公募して自ら手をあげた人が選出されるため、エリアによって人数は異なっていた。世代も新卒入社して数年程度の若手からベテラン層まで幅広く、地域限定職、総合職など職掌もさまざま。また、必ずしも女性ばかりではなく、男性社員もメンバーに加わっていた。
KWNは各エリアでワークショップを開催するなど啓蒙活動を進めながら、女性が活躍するための課題や解決策を考えていった。年に一度、経営陣に直接提言する場が設けられていて、提言がきっかけになって生まれた制度も多数あるという。
たとえば、ワークライフバランスサポート休暇制度は、社員が配偶者の転勤や留学などにより職場を離れざるを得ないような場合に、最大3年間休職できる制度だ。また、子育てが一段落したなどによる復職希望者を再雇用するキャリアリターン制度も、KWNの提言によって新設された。さらに、本人の希望により一定期間、転勤を回避する措置が適用される制度も導入されている。
一般的な女性問題だけを対象としたKWNの草の根活動は、キリン内における女性活躍が進展するとともに現在は終了。近年は女性問題に限らない「多様性推進委員」として、同じように草の根で幅広い活動を展開している。男性の育児参加をテーマにしたイクメン・イクボスフォーラムの開催などに加えて、障害理解の啓蒙活動として、ハンディキャップをもつ社員を講師に「目が見えなくてもメッツコーラが買えますか?」ワークショップを実施するなど、新しい試みを重ねているところだ。

女性リーダー育成の数値目標策定により施策の方向性が明確化

女性活躍推進の取り組みも、実績を積むごとに少しずつ変化している。当初は社員の意識改革や基本的な環境整備に力を入れてきたが、2014年からは女性リーダーの育成を最優先課題として取り組むようになった。
これは、2013年に策定された「KWN2021(キリンウィメンズネットワーク2021)」という女性活躍推進長期計画に沿ったものだ。そこでは、中期経営計画の年度に合わせて、2013年時点で100人(4.2%)だった女性リーダーを、2021年までに3倍の300人(12.0%)に引き上げるという数値目標が明確に掲げられている。そして、トップダウンとボトムアップの両輪で目標達成に向けた取り組みを行い、「女性社員が仕事と生活それぞれが充実する働き方を実現し、自己成長と会社貢献をしながらキャリア形成できる組織風土の実現」をめざすとしている。
「2021年までに女性リーダー300人」という目標は、決して簡単なものではないだろう。年々人数は増えているものの、2016年時点で116人(5.0%)となっており、まだまだ道半ばというのが現状だ。「高い目標ではありますが、さまざまな施策を通じて、達成できるように全力で取り組んでいます」と金さんはいう。
ちなみに、キリングループ全体の社員構成をみると、女性社員の数は増えてきてはいるものの、全体としては男性が約8割、女性が約2割と、まだ圧倒的に男性が多い。製造業のなかでは平均的な数値といえるが、年齢別の内訳では、40代後半から50代では男性がきわめて多いのに対して、30代以下の若手では女性比率が高くなっている。現在では新卒採用も、男女ほぼ半々くらいだという。
また、上の世代では地域限定職で採用された女性が多かったのに対し、30代後半より下の世代では男性と同じ全国転勤型の総合職で採用された女性が多い。さらにKWNなどの地道な取り組みにより、就業を継続して順調にキャリアを積んでいる社員が増えている。
「現状ではまだまだ歩みは遅いですが、いまは就職氷河期に採用された世代が管理職に登用され始める時期に来ており、そもそも男女とも母数が少ないという事情があります。その後ろの20代後半から30代前半くらいの層をいかに育てていけるかが、数値目標達成の鍵になると思っています」
ちなみに同社が目標に掲げる「女性リーダー」とは、管理職と、一部に地域限定職のチームリーダーを含んだ数字となっている。ただし、現在では地域限定職の採用はほとんど行われていないため、実質的には女性管理職を増やしていくことが「KWN2021」の実現に近づいていくことになる。

3年目女性社員と上司が一緒に参加する「キャリアワークショップ」

数値目標を掲げたといっても、数ありきでは意味がない。社員一人ひとりがしっかりと仕事経験を積み、リーダーとして成長していけるように育成することが重要になる。そのための育成方針が、「前倒しのキャリア」という考え方だ。
「前倒しのキャリア」は、同社の女性リーダー育成研修の講師を務める株式会社プロノバの岡島悦子氏が提唱する考え方で、出産や育児などのライフイベントを迎える前に、早めに仕事経験を与え、成功体験を積ませ、得意領域をつくらせるというものだ。
「これまでは男女とも新入社員として入ってきて、同じようなタイミングでチャンスを与え、同じようなスピードで経験を積ませてきました。ところが女性は、産休・育休を取得することで昇格のタイミングが遅れたり、復帰後も子育て中であることに上司や同僚が過剰な配慮をしてしまい、バランスを欠いた業務分担になっていたりするケースもありました。
これに対し、女性社員にはある種、優先的に仕事経験を積ませていくということを推進しています。若いうちから複数部署を経験させたり、少し大きな得意先を任せてみるなど、一皮むける体験を先にさせておくことで、彼女たちがライフイベント期を迎えたとしても、自信をもって早期復帰できるでしょうし、職場の側も仕事ができる人が帰ってくることの安心感が得られます」
同社の女性社員がこうした考え方に最初に触れるのが、3年目の女性総合職社員が対象となる「女性社員キャリアワークショップ」だ。女性社員がその上司(一次考課者)と一緒に研修を受講する。毎年秋に開催され、対象者全員の受講が義務づけられている。
約3時間半のプログラムで、まずは「前倒しのキャリア」についての講義があり、その後「キリングループで女性リーダー比率を高めるには」というテーマで、女性総合職チームと上司チームとに分かれ、それぞれ5,6人ずつでグループディスカッションを行う。
「女性社員も上司との接し方は人それぞれで、たとえば『彼氏ができました』といったプライベートな話までオープンに話している人もいれば、個人的な事情はなかなか言いにくいという人もいます。そうした議論を進めるなかで、キャリアを築いていくうえでは、自分からきちんと伝えていくことが重要だと気づいていきます。
上司の側にも、いろいろな気づきがあります。女性社員から『上司を見ていると、いつも大変そうなので、管理職にはなりたくない』と指摘を受けると、皆ショックを受けて『今後は、もっとマネジメントの魅力や仕事の面白さを発信していきたい』という声が出てきたりします」
この研修の最大の目的は、女性社員とその上司がキャリアに関して共通の言語をもつこと。いわばベクトル合わせだ。双方に「前倒しのキャリア」を浸透させ、職場での日常的な指導や面談でのコミュニケーションを深めてもらうことが期待されている。
2016年時点ですでに女性メンバーとその上司合わせて約800人が受講した。一次考課者となる上司はほぼ全員が受講したので、今後は二次考課者にも対象を広げ、より多くのリーダーが受講できるようにしていく予定だ。

管理職手前の総合職がマネジメントを学ぶ「ウィメンズカレッジ」

基本的な考え方を広く浸透させるワークショップとは別に、「キリンウィメンズカレッジ(KWC)」という研修も開催している。それまでは、女性社員全員を対象に、「考え抜く力を身につけたうえで、総合職リーダーや経営職へとチャレンジする意識と機会を醸成する」ことをねらいとして行われてきたが、2014年にKWN2021の数値目標達成をめざすものとして、内容をリニューアルした。
対象は、入社7年目から35歳未満の全国転勤型の女性総合職で、定員は25人。月1回のセッションが6カ月間続くプログラムで、全体の概要は図表1のとおりとなる。各回のセッションはマネジメントに直結する内容が中心だ。経営戦略の基礎を学ぶと同時に、役員からキリンの経営戦略について直接話を聞く機会も設けられている。最終セッションでは、一人ひとりが自分の職場への提言をプレゼンテーションする。

図表1 キリンウィメンズカレッジ(2014年〜)

図表1 キリンウィメンズカレッジ(2014年〜)

この研修は、キリン傘下にある3社だけでなく、キリングループ各社からもメンバーが集まるので、人的ネットワークを広げられる場としても機能している。メンバー間で横の絆が生まれると同時に、KWC卒業生によるパネルディスカッションを組み込むことで、縦のネットワークづくりもねらいとしている。
なお、この研修はライフイベントに対する配慮として、地方からの参加者が日帰りでき、首都圏在住の社員であれば保育園の送迎に間に合うことを想定して、午前10時から午後5時30分までという時間帯で実施されている。また、従来は全7回・7カ月間のプログラムだったが、そうすると毎回、参加者のなかに、出産が重なって最終プレゼンに参加できない社員が出ていたため、期間を1カ月短縮し、全員で修了できるようにしたそうだ。
基本的には自ら手をあげて受講する形だが、必ずしも強い意思をもって管理職をめざしている人ばかりではないという。
「この先自分はどうしたらいいのかと悩んでいたところに、上司に勧められたとか、研修に参加した先輩から話を聞いたとか、1つのきっかけとして受講してみたという人も少なくありません。そうした人が劇的に変わって職場に戻っていくことも少なくないので、上司に勧められてという人も年々増えています」

子育て中の営業ママを現場で疑似体験する実験周囲も巻き込み大きな反響

ここまでみてきた取り組みによって、女性活躍推進への意識改革はある程度、全社的に浸透したといえる同社。近年は、その次のステップとして、部門別の取り組みに力をいれている。すでに営業部門での活動が具体的な成果に結びつきつつあり、さらに生産部門での活動も始まっているという。
「製造業である当社では、営業と生産の人員が多いのですが、ともに女性比率が低くなっています。とくに子育て中の営業職女性は社内に10人もいないのが現状です。そこで人事と営業等の各部門が連係して、さまざまな取り組みを進めているところです」
その1つが、営業女性の活躍推進のための異業種合同プロジェクト「新世代エイジョカレッジ」への参画である(新世代エイジョカレッジについては本誌1月号P.26以下を参照)。2017年2月に開催されたエイジョカレッジ・サミットでは、営業の労働生産性向上をテーマにした実証実験コンペで同社チームが大賞を受賞した。取り組んだのは、出産も育児も未経験の女性社員たちが疑似的に「営業ママ」を体験するという「なりキリンママ」実験だった。
同社チームの5人のメンバーは、所属するグループ会社も部門やエリアもバラバラ。子育て中の先輩も身近にいないため、この先ライフイベントを迎えたときに営業職を続けていけるのか、漠然とした不安を抱えていた。そこで、実際に営業ママの生活を1カ月間、自分たちでやってみようというのが、そもそもの発想だったという。
実験にあたっては、子育て中の社員にインタビューをして、詳細なママルールを策定(図表2)。定時出社・退社はもちろんのこと、エイジョカレッジで一緒に活動する他社のメンバーに協力してもらい、予告なしでランダムに「子どもが熱を出した」という連絡をしてもらうことにした。連絡が入れば、得意先との商談も再調整したり、上司に代わりに行ってもらうなどの対応を取り、すぐに迎えに行けない場合は、ベビーシッターを利用したことにして、実際に各自治体で定める金額を罰金として支払うという徹底ぶりだ。

図表2 「なりキリンママ」実験概要(ママルールの策定)

図表2 「なりキリンママ」実験概要(ママルールの策定)

実験を行うなかで、日ごろから上司ときちんとコミュニケーションを取っておくことの必要性や、同僚との情報共有が欠かせないことがみえてきた。自分たちの仕事のやり方も見直して、細切れの時間を有効に活用するなど地道な努力を積み重ねた結果、1カ月間の残業時間は51%削減、業績は全国平均を上回る結果となり、素晴らしい成果が得られた(図表3)。
「本人たちも『これなら働き続けていけそうだ』という手応えを感じ、上司や同僚も営業ママがいるチームはどういうものか、かなり具体的にイメージができたようです。当初は、業務に差し支えると実験の実施に猛反対していた部もありましたが、実験終了後には組織長から『ぜひ全社的な仕組み化を』という言葉をもらいました」

図表3 「なりキリンママ」実験の振り返り(エイジョカレッジ・サミット資料より)

図表3 「なりキリンママ」実験の振り返り(エイジョカレッジ・サミット資料より)

現在は、この取り組みを研修として全社に展開することを企画している。経営陣への提言に盛り込まれる予定だ。取り組みに参加したメンバーとその上司らの実体験に基づき、本人・上司・同僚の心得をまとめたマニュアルを作成中だという。
提言にはさらに、社会を変えていく第一歩として、「ママ名刺の作成」も盛り込まれるという。子育て中の社員であることがわかるマークを作成して名刺に入れ、浸透させることで、社会の理解を広めていこうという取り組みだ。

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なお、生産部門でも、他社の生産系女性社員とのネットワーキングづくりや共同での研修実施などに取り組む予定だという。
「人事としては、こうしたさまざまな取り組みを支援しながら、女性リーダーを3倍にという数値目標の達成に向けて全力を尽くしていきます。その過程で、男女を問わずより健康で働きやすい職場となり、多様な社員が活躍していくことで、新しい価値の提供につなげていければと考えています」

(取材・文/瀬戸友子)


 

▼ 会社概要

社名 キリン株式会社
本社 東京都中野区
設立 2013年1月
資本金 5億円
売上高 2兆750億7,000万円(連結 2016年12月期)
従業員数 単体876人、連結39,888人(2015年12月末現在)
平均年齢 41.6歳
平均勤続年数 16.8年
事業案内 国内における酒類・飲料の製造・販売
URL http://www.kirin.co.jp/

人事総務部
多様性推進室 人事担当
金 惠允さん


 

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