事例 No.092 清水建設 特集 一緒に育てる女性活躍教育
(企業と人材 2017年4月号)

ダイバーシティ教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

女性社員のネットワークづくり、男性上司向け研修などで
女性活躍への理解を深め、社内の意識・行動変化を促す

ポイント

(1)長期ビジョン「Smart Vision 2010」による事業領域拡大を受け、人材ニーズも多様化へ。2009年にダイバーシティ推進室を設置する。

(2)先輩女性社員がトレーナーとなって指導する「女性社員フォローアップ研修」で同性同士の絆を深める。毎年テーマを変えて開催する「女性活躍推進フォーラム」には、国内外の女性約300人が集う。

(3)男性上司は、「女性活躍推進マネジメント研修」で女性に対する理解を深める。そのほか、部下の立場になって考える「イクボスセミナー」などで、男性側の意識も変革していく。

世の中のニーズの多様化に応え、求める人材も変化

日本を代表する大手総合建設会社の1つとして知られる清水建設株式会社。
同社は、1804年に初代清水喜助氏が江戸で創業した大工店がはじまりで、創成期には明治を代表する実業家・澁澤榮一氏を相談役に迎え、「論語と算盤」の教えを経営の基本に据えた。これは、道徳と経済の合一を旨とし、道理にかなった企業活動によって社会に貢献することで、結果として商売ができるという考え方が基となっており、いまなお同社の原点となっている。

《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」 《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」

この思いは、経営理念「地域社会への貢献(Socio-dynamism)、人間尊重(Humanity)、革新志向(Innovation)、顧客第一(Market-in)、情熱(Zeal)」(頭文字をとって「Shimz」)となって受け継がれている。
また事業面では、もともと創業者が宮大工だったこともあり、建築事業をはじめ土木事業なども手がけて発展してきた。2010年には長期ビジョン「SmartVision2010」を策定(図表1)。めざすべき姿を、「建設事業を核として、社会と建造物の持続可能性(サステナビリティ)を徹底的に追求し、お客さまの期待を超える価値を提供し続ける『スマートソリューション・カンパニー』」とし、従来のコアビジネスである建設事業のほかに、多角的な不動産事業をはじめとするストックマネジメント事業、グローバル事業、環境分野を中心としたサステナビリティ事業を重点注力分野と位置づけ、事業地域・領域を拡大。世の中のニーズの多様化に応える。

図表1 Smart Vision 2010

図表1 Smart Vision 2010

それに伴い、同社が求める人材も変化してきた。従来は、建築・土木の知識を学んだ男性を中心に採用してきたが、さまざまな専門性や観点をもつ人を必要としている。こうしたなか同社では、2009年に人事部内にダイバーシティ推進室を設置し、女性の活躍を含めたダイバーシティ推進に積極的に取り組んでいる。人事部ダイバーシティ推進室室長の西岡真帆さんは、こう話す。
「世の中のニーズの多様化に伴い、専門性に関しても建築・土木に限らず幅広いものが求められるようになりました。また、これまでは圧倒的に日本人、それも男性が中心でしたが、これからは女性や障害がある人、外国籍の人など、さまざまな属性の人材に活躍してもらう必要があります。
そこで、ダイバーシティについては経営の一環として取り組むと同時に、そうした多様な人材の採用・育成にも力を注いでいます」
求める人材像としては、同社はものづくりの会社であり、男女を問わず誠実にものづくりをする人間であることが第一だという。

女性の総合職本格採用に際し、2つの研修をスタート

女性の活躍推進に関する部分では、まず採用面では、同社が本格的に女性の総合職採用を開始したのは2008年。以後は技術系も含めて新卒採用全体の20%の女性比率をめざしてきた。その結果、徐々に女性の採用者数が増え、昨年4月入社の新卒社員は、24%が女性であった。また、人材育成面では、ダイバーシティ推進室を設置した2009年に、男女問わず実施している従来からの階層別や専門系統別の研修に加え、2つの新たな研修を導入した。
その1つが、「女性社員フォローアップ研修」。入社2年目の女性社員を対象に、熱海にある研修センターで実施する1泊2日の研修である。
ここでは、1日目にこれまでの1年間の振り返りを行う。そして2日目は、午前中に現在の自分を見つめ直し、午後に将来の自分を見つめるという内容で、さまざまなプログラムを組んでいる。たとえば、現在を見つめ直すところでは自己分析をしたり、行き詰まったときに考えを切り替える「リフレーミング」の考え方を学んだりする。
また、この研修は、こうした学びの場であると同時に、社内のネットワークを構築する場とも位置づけられている。同社は全国に拠点があり、同期でも配属先はさまざまなため、とくに女性が少ない現場勤務などの場合、孤独を感じやすい。そうしたなかで、同期女性が一堂に会し、互いに悩みを話し合ったり連絡先を交換したりしながら、相互の連帯感を深めることも目的としている。
さらにこの研修には、同期だけでなく、グループワークの際のトレーナーとして女性の先輩社員も参加しているので、何かあったときに相談できる先輩・後輩のタテのネットワークも築けるようになっている。西岡さんも初年度からトレーナーを努めており、これまで担当した受講生と、現在でも食事に出かけたり、話を聞くなどの交流が続いているという。
研修のスタート当初は、1チーム5〜6人の4チームで実施していたが、近年は参加者が増え、8チームほどになっている。各チームに1人ずつ付くトレーナーは、全国各拠点の幅広い部署から、後輩のマネジメントができる層の女性を選んでいるという。
これまでは先輩世代の女性社員の数が少なかったため、トレーナーになる人も限られていた。しかし最近は女性が増えてきたため、研修を受ける社員が自身の成長をイメージしやすいように、トレーナーの人選に際しては、部署のみならず世代も広げるようにした。最近では、フォローアップ研修を受講した世代から、トレーナーになるケースも生まれている。
そして、同時期に導入したもう1つの研修が、「女性活躍推進マネジメント研修」だ。こちらは、初めて女性の部下をもつ男性上司を対象にした、半日間のプログラムである。これをスタートした経緯やねらいを、人事部企画グループ長の秋山栄一郎さんは、次のように話す。
「多数の女性総合職をいっせいに採用するというのが初めてのことだったので、社内には実際に入社してきたときに、上司がしっかりとマネジメントをできるのかという不安がありました。そこで、まずは直接の上司となる社員が部下育成の認識、理解を深める研修をしていくことになったのです」
男性の場合、女性の部下をもつのが初めてだと、どうしていいかわからず戸惑うケースは珍しくない。とくに現場関連の部署では、かつては女性の現場監督などはほとんど皆無だったため、自分がいちから育てる場合に、男性部下と同じように扱っていいかどうか考えてしまう上司も多い。
そこでこの研修では、男性と女性との違いについて、脳科学的な知識も含めてものの見方や考え方、言葉の発信の仕方といったところから、女性特有のバイオリズムなどの身体的な部分までを知り、女性の部下に対応する際に注意すべきことなどを学んでもらう。これまでに延べ200人ほどが受講した。
女性社員フォローアップ研修と女性活躍推進マネジメント研修は、現在も継続して実施している。
「女性社員フォローアップ研修については、開始当初は参加者も身構えていましたが、最近では人数も増えて先輩も多人数いるので、和気あいあいとした雰囲気になってきています。そうはいっても、まだ男性に比べると女性の数は少ないですから、女性同士のネットワークでメンタル的に支えるという部分は必要だと考えています。そういったものがいらなくなるまでは、続けていかなくてはと思っています」(西岡さん)

女性300人が国内外から参加し、年ごとにフォーラムを開催

その後、2013年にスタートしたのが、「女性活躍推進フォーラム」である。これは女性社員約300人を対象に、経営トップのメッセージ、基調講演、パネルディスカッション、懇親会などを行うものだ。
これまでに年1回ずつ開催されていて、毎回テーマは変えている。第1回は「頑張っている女性を応援する」、第2回は「キャリアを見つめる〜輝く明日へ」で、基調講演は、それぞれ他社で経営層として活躍している女性に依頼した。また、パネルディスカッションのパネリストは、社内の各部門から選ばれた、第一線で働く女性社員が担当した。
第1回、第2回は、主に女性のキャリアという部分に焦点をあてていたが、第3回は、キャリアを積むためには心身双方の健康が必要という観点から、テーマを「私にとってのウェルビーイングとは」というものに大きく変更した(図表2)。

図表2 2015 年度女性活躍推進フォーラム プログラム内容

図表2 2015 年度女性活躍推進フォーラム プログラム内容

「女性社員のなかには、『いまさらがんばれといわれてもがんばれない』という人もいるかもしれないし、『キャリアアップはめざさない、私は好きな仕事ができればいい』と思う人もいるのではないでしょうか。だとすると、居住地も専門性も年齢も関係なく、だれもが気になるのは『健康』ではないかという理由から、テーマを変えることにしたのです」(西岡さん)
基調講演は、大学教員の女性医師に依頼し、その講師自身のこれまでの歩みを語ってもらうと同時に、ライフステージに応じた身体の変化やそれに伴う注意点などについても講演してもらった。パネルディスカッションは、同社の健康管理グループ長がファシリテーターを務め、社内の産業医と保健師が2人ずつパネリストとして登壇した。
そして昨年12月に実施した第4回では、基調講演については心のケアに焦点をあてて「自分らしく働くために」をテーマにした。また、このときはパネルディスカッションではなく、事例発表を行った。近年、全国各地の拠点で女性がチームをつくって自主的な活動に取り組む事例が増えてきたため、そのいくつかを紹介したのである。
たとえば、職場の環境を良くするためのパトロールや、勉強会をして皆で資格を取得しようという活動を行うなど、さまざまな事例が紹介された。フォーラム開催後には、それに影響を受けて、別の拠点で新たな活動を始めようとする動きも生まれているという。
このフォーラムは自由参加で、交通費のみ人事部が負担(宿泊する場合の宿泊費は本人負担)している。東京本社で実施しているが、各拠点・各部署からの参加者も多い。ちなみに海外からの参加者もあり、第4回はシンガポール勤務の日本人社員4人が参加した。

▲女性活躍推進フォーラムの様子

▲女性活躍推進フォーラムの様子

当初は仕事が多忙な部署などでは、本人が希望しても参加しにくいといった状況も考慮し、ダイバーシティ推進室から各拠点の上司に対し、「部下が希望する場合にはできるだけ参加させてください」というアナウンスをしていた。3回目からはアナウンスをしていないが、以前と変わらぬ申込があることから、フォーラムの存在がある程度浸透し、参加したいのにできないといった問題はほぼ起きていないものと思われる。

男性も参加のセミナーがイクボスセミナーへと発展

第1回、第2回の女性活躍推進フォーラムの後に、参加者の声を聞いてみたところ、「女性だけではなく男性にもこうした集まりに参加してほしい」という声が非常に多いことがわかった。そこで2015年には、男性も参加する「女性活躍推進セミナー」を開催した。
「当初は女性のモチベーションを上げるとか、望めばどんどんキャリアアップできるということを伝えるのがコンセプトだったのですが、そのためには周りの同僚や上司の理解が必要です。そこで、男性にも参加してほしいとなったわけです」(西岡さん)
このセミナーには、海外を含む全国の拠点から指名した女性社員とその直属の上司各60人が参加。基調講演の後、ワールドカフェ形式で女性社員・上司が各3人ずつ計6人の小グループとなり、さまざまな意見交換をした。女性社員とその上司は同じテーブルにつかないようにして、お互いに本音で話し合ってもらうような工夫もした。そして最後の懇親会では、上司と部下がセットになり、感想などを話し合ってもらった。
「終了後に女性社員側から出てきた声としては、いろいろ話してみるなかで、上司世代の人たちは意外と自分たちのことを考えてくれているとわかった。だから自分の上司にももっとやさしくしてあげようと思った、というのがありました(笑)
一方、男性上司の側からは、ふだん自分の部下には聞けないようなことを同世代の女性に聞くことができて、とても参考になったという声がありました。女性社員も上司も、お互いのことをこれまでよりさらに理解し合うようになるよい機会だったと思います」(西岡さん)
このように、男女両方が参加する効果が確認できたため、2016年には、これをより幅広いテーマに対応できるように発展させる形で、「イクボスセミナー」に切り替えた。女性活躍のためには部下の私生活とキャリアを応援できる「イクボス」が必要であり、イクボスがいれば、女性のみならず全員が活躍できるというコンセプトである。
第一線で働く45歳前後の管理職と、これからいろいろなライフイベントが起こると予想される30歳前後の一般社員を60人ずつ集め、半日のプログラムで実施した。参加者は国籍・年齢・性別を問わずに選抜。管理職は男性のみだったが、一般社員は女性や外国籍の人もいた。
講師はNPO法人ファザーリング・ジャパンに依頼。セミナーでは、基調講演後のグループワークのなかで、管理職と一般社員各3人が1チームとなり、お互いの役割を入れ替えてロールプレイを実施した。つまり、チーム内を1つの現場に見立てて、一般社員が所長、副所長、主任の役をやり、逆に、管理職はその部下になってもらったのだ。
そして、たとえば25歳の東京勤務の女性社員が、遠距離恋愛をしているといったケースを設定。彼は大阪にいて、結婚したら大阪に住みたいと思っているが、このことをまず現場のだれに相談しようかと考えたり、その上司役の人は相談されたらどういうリアクションを取るか、といったワークを行った。
「ロールプレイを終えたあとの参加者の感想は、全体として役割を変えたときに、相手の立場に立って考えることがとても重要だと気づいたという意見が目立ちました。
そのほかにも、社員の側からは、講演で聞いたイクボス像をめざしたい、逆に管理職からは、いまの自分を反省しているといった声もあり、なかなか好評でした。次回以降も、同じコンセプトで継続していく予定です」(西岡さん)

男性の意識や働き方を改革する「男性活躍推進」も同時進行

このように、さまざまな施策により、女性活躍推進に取り組んできた結果、社内の意識は少しずつ変わってきたという。昨年は大手ゼネコンとして初めて、女性活躍推進に関する企業を認定する厚生労働省認可の資格「えるぼし」の3つ星を取得した。
「トップが率先して、女性活躍推進について絶えず発信してきたこともあり、40代半ばくらいの層の男性社員は、かなり考え方を理解していると感じます。ただし、それより少し上の50代前後の層には、まだまだ『女は現場にはいらない』という人もいますし、逆に、40歳くらいの新任管理職のなかには、これからイクボスをめざしたいという人もいるので、いまは過渡期だと感じています。
全社的にさらに意識を変えていくというのは、今後の課題です」(西岡さん)
また、女性の総合職を本格採用するようになったこの10年間ほどで、「女性が入社し定着する」というところまではある程度来た。そこから「活躍する」状態になるまでは、これからだという。
今後、女性社員に関する新たな取り組みとして構想しているのは、育児休職を取得した女性をターゲットにした、ランチミーティングやランチセミナーを実施することだ。新卒で女性総合職の採用を本格的に開始してから入社してきた人たちが、ちょうど育児休職や復職の時期に入ってきたこともあり、復職後の働き方やキャリアの積み方などについて考える内容の小規模なセミナーなどの開催も検討中だという。
さらに、女性の活躍を推進していくためには、働き方改革も同時に進める必要があり、とくに男性の働き方を変えていくことが重要だと、秋山さんたちは話す。
「成長したいと思う女性を本当に伸ばしていくためには、制度だけではなく、職場の上司や部署長の日ごろのマネジメントが重要となります。そして、それは職場の風土などに左右される部分が大きく、とりわけ、男性の働き方が大事になってくると思います」(秋山さん)
「男性の理解は深まってきているとしても、それがなかなか行動として表れにくいように感じます。今後は、男性社員にもっと育児休暇を取得してもらい、家事や育児に積極的に参加してもらうように、強く働きかけていく予定です。そういった『男性活躍推進』も同時に進めていきたいですね」(西岡さん)
各種施策により、女性活躍を進めてきた清水建設。今後、男性社員の意識をより高めていくことで、ますますその勢いが加速していくだろう。

(取材・文/中田正則)


 

▼ 会社概要

社名 清水建設株式会社
本社 東京都中央区
創業 1804年
資本金 743億6,500万円
売上高 1兆6,649億円(2015年度連結)
従業員数 1万751人(2016年4月1日現在)
平均年齢 44歳
平均勤続年数 19.1年
事業案内 建設・土木等建設工事の請負(総合建設業)
URL http://www.shimz.co.jp//

(左)
人事部
企画グループ長
秋山栄一郎さん
 
(右)
人事部
ダイバーシティ推進室室長
西岡真帆さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ