事例 No.071
ガイアックス
事例レポート(ダイバーシティ教育)

(企業と人材 2016年8月号)

ダイバーシティ教育

LGBT への理解を深め、ダイバーシティを
自分自身の問題としてとらえ直す

ポイント

(1)問題意識をもった社員の提案からLGBT支援企業への出資が決まり、さらに当人の希望により転籍して直接事業に携わるように。

(2)全社員を対象にLGBT研修を実施。セクシュアリティのあり方を身近な問題としてとらえ、「無自覚な差別発言」について考えるなかで、自分自身の偏見に気づく。

(3)会社として「LGBT支援宣言」を発表。結婚祝い金、慶弔休暇などの福利厚生規程や採用ガイドラインを見直す。エントリーシートの性別記入欄も「任意・自由記述」式に改める。

始まりは1人の社員の問題意識から

株式会社ガイアックスは、2015年からLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー等の総称)フレンドリーの取り組みを始めている。全社員を対象としたLGBT研修を実施し、社内規程や人事制度の見直しも行ってきている。2015年8月には、「LGBT支援宣言」を発表。広く社会に向けてLGBTフレンドリーを呼びかけている。
東京都渋谷区などで同性パートナーシップ条例が成立し、国会でもLGBT差別禁止法案が提出されるなど、社会的な関心は高まっているものの、企業において具体的な対応を行っているところは、まだそれほど多くはないだろう。
ガイアックスが取り組みを本格化させたのは、2014年、さまざまなLGBTに関連するサービスを提供する株式会社レティビーに出資してからだ。
そのきっかけをつくったのが、現在、レティビー代表取締役の榎本悠里香さんである。榎本さんは、もともとガイアックスの社員だった。2012年同社に新卒入社し、海外のカスタマーサポート事業部の運用や新規事業本部で営業系のクラウドソーシングサービスなどに従事していた。
「私自身もLGBT当事者であり、問題意識をもっていたことから、会社として何かアクションを起こしたほうがよいのではないかと社長(同社代表執行役社長の上田祐司氏)に提案したんです。そうしたら、たまたま社長がレティビーのことを知っていて、『じゃあ、一度皆で会ってみようか』という話になり、最終的に出資することが決まりました。
その後、自分から願い出て、レティビーに出向させてもらいました。当初、出資先に社員を送り込む予定はなく、私もまったく別の業務に就いていたのですが、やはり自分がこの事業に携わりたいと思ったのです」(榎本さん)
榎本さんは2015年5月に取締役としてレティビーに参画し、2016年には代表取締役に就任。現在、LGBTに関するメディア運営や企業向け研修などの事業を手掛けている。

ベースにあるのは「フリー・フラット・オープン」な社風

ガイアックス管理本部人事採用担当の藤堂和幸さんによると、このような迅速な意思決定や柔軟な対応は、同社の経営理念や社風によるところが大きいという。
ソーシャルメディアの構築・運営を行う同社は、「人と人をつなげる(Empoweringthepeo-pletoconnect.)」というミッションを掲げている。ソーシャルメディアの普及によって、ほとんど知り合う機会のなかった人や、まったく異なる文化や価値観をもつ人同士がつながることができるようになった。しかし、単に人をつなげることが目的ではない。人と人がつながり、コミュニケーションを促進することによって、広く世の中の問題を解決に導くことをめざしている。
「身近な友だちや知り合いなど強い関係性が築けている人に対しては、相手の問題を自分のことのように考えたり、相手のために動くことができるでしょう。
それと同じように、レビューサイトに投稿してくれた人や、シェアリングサービスでつながった人など、自分の世界から少し外側にいる人たちともコミュニケーションを重ねていくことで、見ず知らずの人の気持ちに思いを馳せたり、無関係だと思っていた遠い世界に関心をもてるようになる。そうすることで、さまざまな社会的課題を自分の問題ととらえて、解決に向けて行動を起こす人も増えていくはずです。
そういうビジネスを手掛けていることもあり、社内でも、広く社会や環境に意識を向けて自己責任の範囲を広げていく姿勢を重視しています」(藤堂さん)
広く社会への関心をもち、自ら見つけた課題の解決に向けて、自ら行動を起こす。たとえば、同社のスクールガーディアン事業部は、中学・高校で深刻な問題となっているネットいじめの対策に取り組んでいる。これは「オンラインコミュニティを提供するからには、その陰の部分にも目を向けていかなくてはいけない」と考えた社員が声を上げ、自ら立ち上げた事業だという。
同社の文化は、「フリー・フラット・オープン」と表現される。そのなかで人事の役割は、「社員一人ひとりが主体的に動いていける環境を整備すること」(藤堂さん)だという。
具体的には、情報は徹底的にオープンにし、一人ひとりが的確な判断ができる環境を整えている。取締役会の議事録も全社員に公開しているので、M&Aの進捗も、既存事業の撤退も、重要メンバーの異動も、一瞬で全社に伝わるという。
「変化の激しい業界なので、逐一上層部の指示を仰ぐよりも、現場の若い人が思いついた新しいアイデアをどんどん進めるほうが、成功する可能性に近いこともあります。あらゆる情報をオープンにして、現場で的確な判断ができるような環境をつくっておかないと、経営上、致命的な状態になりかねないのです」(藤堂さん)
また、機動的に動いていくために、組織体制もフラットで柔軟性が高い。新卒採用と初期配属こそ人事が行うものの、入社後は個々人が上司と相談しながら、自分でキャリアをつくっていくのが基本だ。そのため、もし別の事業領域に移りたければ、現在の上司と異動希望先の部門の上司に、自ら交渉して調整する。場合によっては、社内で新しい事業部が立ち上がったり、役割に応じて新しい役職が生まれることもあるという。
やりたい仕事がみつかっても、それを社内で実現するのは難しいとなれば、グループ会社に出向したり、自ら起業することも珍しくない。起業をめざす社員が上司や経営陣に独立の相談をしている姿は、社内ではよくみられる光景だ。起業した元社員とパートナーシップを結んで新たな事業に取り組む例も多いという。
LGBTフレンドリーへの取り組みも、そうした風土のなかで生まれてきた。ガイアックスに在籍していた当時を振り返って、榎本さんはこう語る。
「周囲には、自分の問題意識を掘り下げていき、どうしたら課題を解決できるのか、プロジェクトとして立ち上げて進めているメンバーがたくさんいました。そのなかで、じゃあ自分は何ができるだろうと考えていったとき、私の場合はLGBTだったのです」

LGBT理解を超えて  セクシュアリティはグラデーション

2015年6月には、レティビーが提供するLGBT研修をガイアックス社内で開催した。
最初に、事業部長以上のマネジメント層を対象に実施した。その後、全社員に向けた研修を実施。レティビー創業者であり、現取締役の外山雄太さんを講師に迎え、約70人を一堂に集めて開催した。
上述したような社風から、もともとダイバーシティとの親和性は高かったが、LGBT研修の全社開催に関してもとくに疑問の声があがることもなく、社員にはすんなりと受け入れられた。ちなみに上田社長からは「当然、うち(ガイアックス)でも研修やるんだよね、と言われました」(榎本さん)という。
約2時間半の研修プログラムは次のような構成になっている。
(1)LGBTをめぐる日本と世界の状況
(2)LGBTの基礎知識
(3)企業とLGBTのかかわり
(4)ワークショップ:これってどうなの?LGBT一問一答
プログラムの前半は、セクシュアリティを構造的に理解し、LGBTに対する日本と世界の認識の違いについて紹介するものだ。
まず一口に「性別」といっても、生物学上の性別(セックス)だけでなく、「男/女はこうあるべき」といった社会的な性別(ジェンダー)があり、さらに恋愛感情などの性に関する包括的な概念(セクシュアリティ)がある。LGBTはセクシュアリティにおける少数派(マイノリティ)を総称する言葉であり、それぞれの違いは「身体の性」、「心の性(性自認)」、「性的指向(恋愛対象)」という3つの要素で整理すると理解しやすい(図表1)。

図表1 セクシュアリティの違い

図表1 セクシュアリティの違い

「トランスジェンダー」は、身体の性と心の性が一致しない人を指す。これに対して、身体の性と心の性は一致しているが、恋愛対象が同性である人が「ゲイ」および「レズビアン」と呼ばれ、男女両性を恋愛対象とする人が「バイセクシュアル」である。
ただし、これらは飽くまでも便宜的な分類に過ぎないという。実際には「身体は女性、心は男性、恋愛対象は男性」のトランスジェンダーのゲイというパターンがあったり、さらにこの3要素では区分しにくいタイプの人もいるなど、セクシュアリティはきわめてバラエティに富んだ概念であることが紹介される。
そして、そのことから、「セクシュアリティは無限であり、グラデーションである。カテゴリーは便宜的にある程度のもの」という本質的なコンセプトが提示される。
こうして研修参加者は、身体の性と心の性が一致し、恋愛対象が異性である多数派(「ストレート」と呼ばれる)のなかにもグラデーションがあり、女性的な男性や男性的な女性がいること、LGBTもそうした人たちも1つの大きなグラデーションのなかにある存在、という視点を学ぶことになる。
たしかに、かわいらしいものが好きで、周囲から「女の子っぽい」と言われていた男性や、同性の先輩に真剣に憧れている女性が身近にいたという人は少なくないのではないか。
「どういう状態が心地良いのかは、人によって異なります。でも、あなたは男、あなたは女と明確に規定されて育っていくと、自分の心のなかにある女性性、男性性を否定してしまうのです。それを否定しないで、皆それぞれ『私はこれが好きだ』と素直に言えるようになれば、男だ、女だ、という前に『私は私』という状態になれるのではないでしょうか」(榎本さん)
このように研修では、LGBTについて学ぶことを入口に、性のあり方を自分の問題として向き合う機会にすることを1つのねらいとしている。

無自覚な差別発言を題材にグループ討議

後半は、企業内でLGBTダイバーシティを推進していくための知識、考え方として、当事者たちが何に困っているか、どういった言動を不快に思うのかといった問題を深く掘り下げるプログラムだ。
電通ダイバーシティ・ラボの2015年の調査によると、日本の人口の7.6%がLGBT当事者だという。これは日本人13人に1人という割合で、だれにとっても身近な問題であることがわかる。
では、LGBT当事者は、どんな困難を抱えているのか。研修では「法的困難」と「社会的困難」という2つの面から,具体的な状況が取り上げられる。たとえば、同性婚は法的には婚姻として成立せず、家族としての権利が認められない。トランスジェンダー当事者の場合は、トイレや更衣室の使用など、日常生活のなかに不快に感じる場面があるといったようにである。
しかし、より大きな問題としてあるのが「承認」をめぐる社会的困難の状況である。だれであっても自然な自分を出せない状況はストレスが溜まるものだ。
「なによりも、LGBT当事者にとって難しいのは、自己承認を高めることです。社会から存在を認めてもらえる社会承認、他者に自分を受け入れてもらえる他己承認があってこそ、自己承認も得やすくなると思います」(榎本さん)
欧米の先進国ではLGBTを人権問題ととらえ、企業が社内環境の整備に乗り出している段階であるのに対して、日本ではまだほとんど対応が進んでいないのが現状だ。
レティビーの調査によると、「職場で差別的な発言がある」と答えたLGBT当事者は回答者のおよそ7割にも上るという。厄介なのは、まったく悪気なく、無自覚に差別発言をしてしまう人も少なくないことだ。
そこで研修では、自分の偏見レベルを確認するQ&Aに挑戦する。図表2のような発言を10程度例示し、LGBT当事者にどのように受け取られるかをグループ別に考えてもらうというものだ。
「『オカマ』とか『同性愛は気持ち悪い』といった、明らかな差別発言とは違って、日常生活のなかでつい口にしてしまったり、素朴な疑問として出てしまう言葉もあるでしょう。私たちの経験を踏まえて、微妙なグレーゾーンにある発言を紹介しています。
もちろん、当事者のなかでも人によって受け止め方は違いますし、これらの発言がどんな状況でもNGだと一概にはいえません。時間の許すかぎりディスカッションしてもらい、あらためて考える機会にしてもらえればと思っています」(榎本さん)

図表2  「これってどうなの?」LGBT一問一答(一部)

図表2 「これってどうなの?」LGBT一問一答(一部)

LGBTフレンドリー推進企業として採用ガイドライン等も見直し

研修の最後は、すべての人が活き活きと働ける環境をつくっていくために、個人として、企業として、何ができるかを考えていく。
自らの振る舞いを改めるだけでなく、LGBTのアライアンス(支援者)として、より積極的に発信していこうとする人も少なくない。見えないマイノリティともいわれるLGBTを支援するということは、当事者のカミングアウトを待つことではない。カミングアウトする必要がなくなるほど、人々の意識を変え、環境を整え、社会を一歩前に進めていかなくてはならない。そのため、研修受講者に配られるステッカーを、自分のパソコンや名札に貼り、LGBT支援の姿勢を外から見えるようにしている人もいる。
「受講者のほとんどが研修内容に満足していましたが、ごくわずかですが、やはり『どうしても受け入れられない』という人もいます。それも多様性の1つだと思っています。大切なのは現実を認識すること。それによって一歩前に進めると考えています」(藤堂さん)
会社としては、研修の開催と並行して、社内環境の整備も進めている。さまざまなセクシュアリティをもつ社員、人事・採用責任者、執行役によって構成されるLGBT委員会を設置。LGBTフレンドリー、多様性のある職場環境を維持するため、社内外に向けいろいろな施策を実施していくという。
2016年度からは、社内規程の一部を変更し、異性間のカップルに適用していた結婚祝い金・結婚休暇・忌引きなどの福利厚生の権利を、同性間のパートナーにも同様に提供することとした。
また、採用に関しても、採用ガイドラインに「性的指向、性同一性障害などによる差別をしないこと」を明記し、エントリーシートや履歴書の性別欄を自由記述とした(図表3)。

図表3 ガイアックスの「2017新卒エントリーシート」性別記入欄

図表3 ガイアックスの「2017新卒エントリーシート」性別記入欄

制度改定の議論のなかでは、異性間カップルの事実婚についてはどうかといった議論ももち上がったという。LGBT対応を進めるなかで、ダイバーシティ実現に向けた新たな気づきを得ることは多い。
冒頭で述べたとおり、2015年8月にはこうした取り組みを「LGBT支援宣言」としてプレス発表している。企業としてLGBTアライアンス活動を進めていく姿勢を、広く社会に向けて明らかにした形だ。
「宣言のインパクトは大きくて、就職活動中の学生にもよく知られているようです。先日は、LGBT当事者の方からキャリア採用についての問い合わせを受けました。
もちろん、一度研修を実施しただけで満足してはいけないと思っています。今後は社内の取り組みはもちろん、IT業界全体への働きかけを行うなど、社外に向けた活動にも力を入れていく予定です」(藤堂さん)
以上、ガイアックスのLGBT研修および関連の取り組みについて紹介した。本稿で取り上げた研修は、セクシュアル・マイノリティに関して理解を深めると同時に、参加者一人ひとりが無意識のうちに自分に設けてしまっている枠組みに気づくための場にもなっている。多くの企業では、LGBTに対する取り組みは「まだ自社には縁遠いもの」だろうが、広くダイバーシティへの認識を深めるための研修ととらえれば、また別の見方ができるかもしれない。

(取材・文/瀬戸友子)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社ガイアックス
本社 東京都品川区
設立 1999年3月
資本金 1億円
売上高 52億1,400万円(連結)
従業員数 単体 126人、連結 347人 (2016年3月現在)
事業案内 ソーシャルメディア・シェアリングサービス事業など
URL http://www.gaiax.co.jp
(左)
レティビー
代表取締役
榎本悠里香さん
(右)
ガイアックス
管理本部人事採用担当
藤堂和幸さん


 

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