事例 No.214 東洋紡 特集 中堅社員のフォロワーシップ
(企業と人材 2020年2月号)

中堅社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

クラウドファンディングを活用した「みらい人財塾」で、
20〜30代に挑戦する機会を与え、
事業創出ができる人材を育てる

ポイント

(1)「新規事業の立ち上げに挑戦する人材の育成」をねらいとして、クラウドファンディングを活用して新商品開発をめざす研修「みらい人財塾」を開始。

(2)第1期は20〜30代中心の30人・6チーム編成で実施。進捗状況から、途中で「いけそうなチーム」と「追いかけるチーム」とを分ける。最終的には全チームが商品企画を形にしつつ あり、挑戦意欲の醸成がみられる結果に。

(3)最終日の役員へのプレゼンで「研修終了」ではなく、クラウドファンディングで目標額を達成した商品について、どのように事業化するのがよいかを提案するところまでをめざしてほしいとして、研修後も取り組みを続ける。

理念を体系化し、変化を恐れず事業創出に挑む

明治初期の創業以来、大規模紡績会社として日本の経済成長を牽引してきた東洋紡株式会社。時代のニーズに応じて少しずつ業容を拡大し、現在は工業用フィルムやペットボトルなどの包装用フィルムを扱う「フィルム・機能性樹脂事業」、浄化用フィルターやエアバッグ素材などをつくる「産業マテリアル事業」、高機能衣料繊維などを中心とした「繊維・商事事業」、医療素材や医療機器を扱う「ヘルスケア事業」の4つの事業領域で、ビジネスを展開する。

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2019年3月には、企業理念をあらためて整理し、体系化する取り組みも行った。創業者渋沢栄一の座右の銘の1つとされ、創業以来掲げる「順理則裕」を、今日の「CSV」の考え方を先取りするものとして見直し、全社員に根づかせられるよう力を入れている。また、この理念の下、同社グループの全員が共有する価値観として、「私たちは、変化を恐れず、変化を楽しみ、変化を作ります」を掲げる。
そうしたなか、同社が2018年11月から開始したのが、「みらい人財塾」である。そこでは、社内公募から選ばれた20〜30代中心の社員が、自社の素材・技術を活かした新商品を企画開発し、クラウドファンディングを活用して商品化までをめざす取り組みが、「研修」として行われているという。インターネットを通じて出資者を募り、期日までに目標額に到達すれば出資を受けられるというクラウドファンディングのシステムは、企業側のリスクも少なく、企画から販売まで一連のプロセスを経験できる。
ここでは、現在、第2期が活動中という、みらい人財塾の取り組みについて、詳しく紹介しよう。

熱意も素質もある20〜30代社員に機会を与えたい

前述のとおり、同社は4事業体制を推進しているが、近年は売上げの4割弱をフィルム・機能性樹脂事業が占めている状況で、長らく新規事業部が立ち上がっておらず、社内には新規事業を立ち上げなければ先細りするという危機感があったという。そうした思いが背景となって、みらい人財塾が創設された。
立ち上げから携わってきた経営企画部みらい戦略グループマネジャーの飯塚憲央さんは、みらい人財塾の位置づけについて、あくまで新規事業の立ち上げに挑戦する人材の育成をねらいとしたもので、人事部門が主管する研修とは異なるものであるとする。
「もちろん、従来から人事部門では、階層別研修や職種別研修、あるいはその両方をかけ合わせた研修などを実施しています。これら人事部門が主管する研修は、役職や階層に応じて公平かつ平等に行うことを基本としており、長期的な視点に立って設計されています。
それに対して、みらい人財塾は、公募で特定の人材を集めて行うものであり、人事教育体系上にあるものではありません。参加したことは人事記録に残りますが、昇格要件にひも付いているわけでもありません。実際に始まればそれなりに大変なので、履歴欲しさではなく、本気で事業立ち上げをやってみたい人を集めたいと思っていました。職場の上司を自分で説得してくるようにと伝えていたくらいです」
それまでにも、新規事業を立ち上げられる人材輩出のための取り組みは行っていた。スタートアップ企業のメンバーを社内の研修に招いたり、自社社員を新規事業立案に関するセミナーに行かせたりしていた。
「いわばオーダーメイドで、スポット的にそうした研修を開催していました。参加した社員は、そのときは盛り上がり、熱を帯びて帰ってくるのですが、職場に戻ると、その熱の受け入れ先がない。すぐに日常の仕事で手一杯になってしまい、新規事業どころではなくなってしまいます。熱意があり、素質もあるのにもったいない、なんとかしたいと思っていました」
飯塚さんは、20代、30代の社員は、その上の世代に比べると、新しいことへの挑戦意欲があり、また素質もあるとみており、「そうした人たちをつぶしたくない」との思いがあったという。
そのように、何か対策を講じたいと思案していた飯塚さんのところに、同じ職場で働いていた、経営企画部みらい戦略グループ主幹(当時)の楠本敏晴さんが、クラウドファンディングの企画書を持ってきた。楠本さんはキャリア採用で入社してきた社員で、たまたま前職でクラウドファンディング運営企業の株式会社マクアケの人と知り合い、「一緒に何かできないか」と話していたのだという。
「私自身は記憶にないのですが、彼がいうには、私は当初、その提案をすぐに却下したそうです」と、飯塚さんは笑いながら当時を振り返る。しかし、却下された楠本さんは、ほどなく提案を練り直して、飯塚さんに再提案した。すると今度は、飯塚さんも「単にクラウドファンディングを活用して商品開発するだけでなく、事業立ち上げのできる人材の育成につながる」と感じたのだという。
そこで、飯塚さんは企画の実現に向け、動き出した。まず、経営陣に対しては、そもそもクラウドファンディングがどのようなものか、なぜ必要なのかといったところから説明する必要があった。クラウドファンディングは、あくまで企画に対して支援がなされるものであり、企画が受け入れられなければ製造には至らず、在庫リスクを抱えることがないことを説明してまわったという。
「過去の商品企画とはまったく違うことを強調しました。そして支払いを含め、当社が1対1でダイレクトに支援者とつながることができる点が最大のポイントだと説明しました。たとえば、商品企画に関してアンケートをとるにしても、実際にお金を出してくださる方の意見は、無責任なものではありません。当社は素材メーカーなので最終的な顧客の声を吸い上げにくく、そのため、世の中の流れに対して遅れをとっているのではないかという反省がありました。
また、社内で新商品をつくるとなると、通常は企画からデリバリーまで、それぞれの部署に分かれて対応することになりますが、研修ではそこを一貫して担当できるので、当人たちにとって大きな学びとなります。この点も大きなポイントでした」
このように、クラウドファンディングの「リスクの少なさ」と「育成効果の大きさ」を訴え、上層部を説得することに成功した。

クラウドファンディングを活用した研修がスタート

こうして、みらい人財塾がスタートした。第1期は2018年9月に募集を開始、第2期は2019年7月から募集を開始し、現在も進行中だ(図表1)。

図表1 みらい人財塾の募集要領(第2期)

みらい人財塾の募集要領(第2期)

「みらい人財塾」の塾生募集ポスター(左が第1期、右が第2期のもの)

▲ 「みらい人財塾」の塾生募集ポスター(左が第1期、右が第2期のもの)

第1期のときは、2018年7月から急ピッチで準備を始め、本部長級以上の役職者に「募集開始」を宣言。9月20日に、滋賀県大津市の研究所と大阪本社の2カ所で説明会を実施した。その様子は各オフィスにも中継され、延べ100人近くが参加したという。
「説明会では、マクアケの担当者に話をしてもらいました。やはり、これまでも自分で会社を立ち上げてきた方なので、説得力が違います。失敗も含め実感のこもった内容で、参加した社員は刺激を受けたのではないかと思います」
その後、応募期間を3週間程度としたところ、すぐに10人ほどが応募してきた。飯塚さんは、応募者の顔ぶれをみてショックを受けたという。
「じつは、最初の応募者のほとんどがキャリア採用の社員でした。プロパー社員の応募があったのは、締め切り間近になってからです。そのこと自体が『様子見の社風』の表れであって、当社の課題そのものではないかと感じました」
応募にあたっては、社歴も過去の業務経歴も問わず、A4の応募用紙に「応募動機」と「やりたいテーマ」を自由記述式に書いてもらうことにした。ちなみに、2019年夏に募集を開始した第2期では、それらに加え、「自己PR」も書かせるようにしたという。
そして、ワークショップ全体のスケジュールを提示したうえで、「全日程に参加できること」、そのために「上司を説得してくること」を参加申し込みの条件とした。
選考基準については、「ほぼ応募動機しかみていません」と飯塚さん。第2期の説明会では、そのことをあらかじめ伝えたそうだ。その理由について、飯塚さんはこう話す。
「自分のテーマが明確な人は、そのテーマが採用されなかったとき、モチベーションを失ってしまうことがあります。そうではなく、『とにかく何かしたい』というマインドが先にある人を選ぼうと考えました。応募動機をしっかり読めば、そこはわかります」
第1期の応募者数は最終的には43人と、予想以上に集まった。そのため、定員20人のところ30人を合格とした。参加者は、年齢的には20〜30代の総合職社員が中心で、そこに40代が少数入る形だ。平均年齢は35歳。女性比率は25%で、とくに意識したわけではないが、同社の総合職中の女性比率とほぼ同等になったという。
「ただ、30人は多すぎました」と飯塚さんは振り返る。一つひとつのチームを個別に支援するには人数が多すぎたのだ。後述するが、これが研修開始後にチーム間に差が生じる遠因となったという。この第1期の反省から、第2期は、当初から定員20人の厳守を絶対条件としたそうだ。

先行チームには優遇措置最終的には全企画が商品化

第1期のプログラムとスケジュール概要は、図表2および図表3のとおりだ。

図表2 みらい人財塾のプログラム概要(第1期)

みらい人財塾のプログラム概要(第1期)

図表3 みらい人財塾のスケジュール概要(第1期)

みらい人財塾のスケジュール概要(第1期)

研修のスタートは、11月の合宿形式のワークショップからである。ここで、あらためて1人ずつ、事業化したいテーマをプレゼンテーションし、テーマのイメージを固めた。それらを書き出したものを飯塚さん、楠本さんとマクアケの担当者で仕分け、同じような課題感をもつ人たちで5人1組のチームをつくった。同じ会社とはいえ、知らない人同士がほとんどで、むしろそれも目的の1つであった。初日の夕方には懇親会が開かれ、6つのチームごとに集まって交流した。合宿2日目には、チームとしてどのようなテーマで進めるかを決め、解散となった。
以降、翌2019年2月25日の役員へのプレゼンまでに5回のワークショップが実施された。2回目以降のワークショップでは、ファシリテータが「何が問題か」、「だれが何に困っていて、だれがお金を払うのか」といったことを徹底的に追求。テーマを深堀りするのに時間を要し、12月ごろまでは「屍(ボツとなった企画を指す)ばかりだった」という。
一連のワークショップでは、マクアケが進行を担当。ワークショップの合間の期間に、飯塚さんら事務局メンバーとマクアケの担当者とで打ち合わせを行い、どのように進めるかを決めていった。
「ある程度うまくいかなくて当然だろうと考えていましたが、3回目のワークショップあたりから、明らかにチーム間で差ができていました」と飯塚さんは振り返る。それが明確になった時点で、「いけそうなチーム」と「難しそうなチーム」に分けることとした。
「次の回のワークショップの冒頭で、私から『2つのチームを優先するので、あとのチームはそれを追いかけてください』と伝えました。優先チームには、ここからビルドアップに向け、個別指導が入りました。
それ以外のチームからみても、企画の進行状況やチームの熱量がちがうのは明らかだったので、仕方がない、という見方だったと思います。むしろ、『ゆっくりでいい』といわれたことで、ほっとしているような印象でした」

ワークショップの様子。右の写真も同じ

▲ ワークショップの様子。右の写真も同じ

それでも、最終の役員プレゼンでは、6チーム中4チームが合格となった。機能性素材・技術を応用したドッグウェア、肩の負担を軽くする多機能ビジネスバッグ、オフィスで体を楽にするクッション、寝かしつけ専用抱っこ紐が合格。ドッグウェアについては、すでに目標金額を達成し、出資した支援者の方々に商品を届けることができた。ビジネスバッグとクッションは2019年12月23日現在、クラウドファンディングで募集中である。
じつは、合格しなかったチームのなかにも、社長に再度プレゼンテーションしてクラウドファンディングに上がり、目標金額をクリアして商品化が決まったものもある。アウトドア用ブランケットだ。
残る1つは同社の特殊フィルム素材を使ったカードゲームで、「クラウドファンディング向けではない」と指摘されたものの、「ノベルティで配布すればよいのでは」と評され、自主的に製作して社内イベントなどで配布しているという。つまり、結果的に6チームすべての商品が形となりつつあり、新しいことへの挑戦意欲の醸成という点では、成果があったといえそうだ。
こうした第1期の経験を踏まえて、2019年9月から第2期の活動がスタートしている。第2期の参加者は15人である。第1期からのいちばん大きな変更点は、チームビルディングのタイミングだという。初回のワークショップを合宿形式にしたところは同じだが、2期目では初日夕方の懇親会で、お互いにいろいろな話をして各人のことを知ったうえで、2日目にチーム決めを行うようにした。
「2日目に各自のテーマを一覧にして貼り出し、そこに、それぞれの参加者が付箋で第1希望と第2希望を貼り付けていくようにしました。当然、希望者が少ないテーマ、多いテーマと偏りが出てきますが、その状況をみて、再度希望を貼り直します。そうやって、自分たちで3〜4人ずつのチームをつくるようにしました」
チームづくりのポイントとしては、「役割分担の大切さ」として、「自分にないカラーの人と組まないと苦労する」ということを強調した。12月の中間審査を経て、2020年4月に最終プレゼン・審査を行い、来夏以降にクラウドファンディングの実施を予定している。
通常の研修は一定期間後に終了するが、このみらい人財塾では、クラウドファンディングが決まり、サイトにあがった後、目標額に到達するまで、あるいは期日が来るまで続き、さらに商品の配送やフォローアップまで、と長いスパンでかかわることになる。目標額が達成できないと商品化されないため、各チームは広告宣伝にも知恵を絞る。たとえばブランケットチームは、各地のキャンプフェアに参加したり、駅前でビラ配りをしたりと、知名度を上げる活動も自主的に行うようになっていったという。
「広告に対するリターンの比率を考えさせたりしていました」と飯塚さんは、結果的に教育内容が多岐にわたった様子を話す。

事業化の考え方を身につけるまでが研修

みらい人財塾の参加者は、どのような感想をもっているのだろうか。第2期募集の説明会では、第1期参加者が経験談を話す時間も設けられたという。そこで第1期参加者から出たのは、次のような感想だった。
「最初は、上司も周囲も『何をしているのか』と、やや白い目で見ていたが、あまりにも楽しそうに見えたようで、しばらくすると『楽しそうだから良しとしようか』という見方に変わっていきました」
他方、「具体的な内容がわからないので、労務管理が大変だと上司に言われました」という参加者もいたという。
「そもそも応募してきたメンバーはポテンシャルが高く、行動力もあります。そういう人たちが今後、日常業務もあるなかで、いかに新しいチャレンジをしてくれるか」と飯塚さんは今後に期待する。
クラウドファンディングで目標達成した商品の今後については、支援者のレスポンスを見ながら、どういう形で進めていくかを考える予定だという。
「そもそも当社はコンシューマーグッズを持っていない以上、商品化する場合には別の企業にお願いすることになるでしょう。そのときに、消費者からのダイレクトな意見をまとめ、きちんとした提案書が書けるかどうか。そこが重要です。自分たちだけで進めることだけが事業化ではなく、他社と組んでやるのも事業化の1つの方法です。
『消費者からのこうした意見があるから、自分たちでやらせてください』なのか、『こうした意見があるから、○○社と一緒にやらせてください』となるのか。そこまでの提案はしてほしいと思っています。要は、最終目的である新規事業の創出に到達するには、どうすればよいか。その考え方を身につけてほしいということです」
じつは飯塚さんは、このプログラムは「3期まで」と決めている。
「慣れてしまうと、あまり効果は期待できないと思うからです。社会環境も変化していくので、また違う形で、事業創出人材の育成方法を考えたい。たとえば、みらい人財塾は短期決戦型ですが、もう少し時間をかけてやらないといけない案件もあるのではないかと思います。そこから、とんがった研究や商品企画のアイデアが出る可能性もあるでしょう。
最終的に、自分のため、世の中のためにつながっていると考えて、常に目線を上にして取り組んでほしいですし、『余計なことはするな』ではなく、『やってもいいんだよ』とチャンスを与え続けていきたいと思います」
自分たちもトライ&エラーで進めている段階、と話す飯塚さんだが、クラウドファンディングを活用して、新事業の創出と人材育成を両立させようとするチャレンジそのものが、同社の社員に大きな刺激を与えているに違いない。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 東洋紡株式会社
本社 大阪市北区
設立 1914年6月(創業1882年5月)
資本金 517億3,000万円
売上高 3,367億円(2018年度)
従業員数 3,108人(2019年3月31日現在)
平均年齢 41.0歳(2019年3月31日現在)
平均勤続年数 17.3年(2019年3月31日現在)
事業内容 フィルム・機能樹脂、産業マテリアル、衣料繊維などの分野での製品製造、販売
URL https://www.toyobo.co.jp/

経営企画部 みらい戦略グループ
マネジャー 飯塚憲央さん


 

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