事例 No.212 チューリヒ保険会社 特集 中堅社員のフォロワーシップ
(企業と人材 2020年2月号)

中堅社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

自らのキャリアを自分で定め、社内公募や
リーダープログラム参加を通じて変革を起こせる人材へ

ポイント

(1)リーダー=ポジションや肩書とは考えず、成長意欲をもち、社内のどんな立場にあっても、良い影響を周囲に与えたい、そういうマインドをもった「変革を起こせる人材」の育成を進める。

(2)会社におけるCEOのように、自分のキャリアは自分で責任をもって築いていく“CEO of My Career”の考えのもと、マネージャーとの1on1ミーティングなどを通じて自分の強み・育成課題を明確にして、キャリアを自律的に考える習慣をつくっている。

(3)社内公募を、キャリア形成や育成の制度としても活用。合否にかかわらず手厚く選考のフィードバックを行うことなどにより、前向きにキャリア開発を考える機会にする。

人事部設立、新卒採用開始など時代とともに変化

チューリッヒ・インシュアランス・グループは、1872年、スイスで設立された。現在は世界210の国と地域で事業を展開しており、従業員数は約54,000人。世界有数の保険グループである。
日本支店であるチューリッヒ保険会社の設立は1986年。従業員は約1,050人で、東京本社のほかに大阪、長崎、札幌、富山に拠点を置いている。
組織としては、自動車保険を扱うダイレクト事業本部と、傷害保険や医療保険を扱うホールセール事業本部の2つが売上げの柱になっている。ダイレクト事業本部が扱う自動車保険については、テレビコマーシャルを見たことがある人も多いのではないだろうか。
各事業本部は、それぞれ営業方法が異なる。ダイレクト事業本部の自動車保険は、ウェブ広告やテレビコマーシャルで魅力を訴え、インターネットや電話などで申し込みを受け付ける形が中心だ。国内の損害保険会社の多くが採用している代理店方式と比べると、中間プロセスがない分、保険料を安く抑えられるのが特徴となっている。
一方のホールセール事業本部が取り扱っている傷害保険・医療保険では、クレジットカード会社や銀行と提携して、それぞれの会員や口座保有者にダイレクトメールで保険の案内を行っている。こちらも順調に加入者を増やしている。
このほか、部門としては、事故が起きたときのさまざまな対応や、保険金の支払手続きなどを担当する損害サービス部門と、商品管理部門、ITなどの管理部門がある。ダイレクト事業本部のカスタマーケアセンターや損害サービス部門は、もっとも顧客に近い部門といえる。配置する人数としても、かなりの人数を割いており、新入社員も、まずはこれらの部門に配属になることが多いという。

<デジタル雑誌 販売中!>ワクチン接種において、労務担当者が知っておきたい法的留意点とは?

その配属の意図について、人事部マネージャーの岡村安紀さんは次のように語る。
「当社の事業は、一般的な損保とはスタイルが少々異なり、ダイレクトビジネスが中心のため、お客さま応対に力を入れています。社員にお客さま応対の経験を積ませ、当社の商品・サービスを熟知させるうえでも、まずは同部門に配属するようにしています」
現在、このような体制で事業を展開している同社だが、とくに人事に関しては、いくつかの節目を経てきたという。
設立当初は、人事部として全体の人事を統括する部署はなく、部門ごとに採用を行ったり、制度を整えたりしていた。しかし、1997年にダイレクト事業本部が誕生し、企業規模が大きくなるにつれて、全社的な視野に立った採用や配属、制度の必要性が高まった。そこで、本格的に人事部をつくり、採用・配属・制度づくりなどを行うようになったという。
また、7年ほど前から新卒採用をスタート。一からの人材育成にも力を入れるようになっている。
人事部採用担当の佐藤なぎささんは、新卒採用の状況について、次のように述べる。
「おかげさまで、新卒については質量ともに順調な採用を続けられていますが、中途採用については、優秀な経験者がなかなか市場に出てこなくなってきています。そうしたことを踏まえ、現在力を入れているのが、未経験の中途──いわゆる第2新卒の方の採用です。この層の採用でも、質の高い人材の採用ができています。採用した社員の能力を伸ばすためにも、制度やプログラムの充実を図っていきたいと考えています」

周囲を巻き込み変革を起こせる人材をめざして

特集テーマである中堅社員教育についてみていこう。中堅社員ともなれば、自身の仕事をこなすだけでなく、チームや部門で協力して、成果を出していくことが求められる。そのためにはリーダーシップ、あるいはフォロワーシップを発揮していくことになる。
そこで、同社の考えるリーダー像を尋ねたところ、「変革を起こせる人材」というキーワードが出てきた。人事部兼ダイバーシティ推進室マネージャーの梅沢房代さんは、これに対し、次のように説明する。
「リーダーというと、ポジションや肩書と結びつけて考える人が多いと思います。しかし、リーダーとは、ポジションや肩書ではありません。社内のどんな立場にあっても、良い影響を周囲に与えたい、そういうマインドの持ち主のことだと思います。
新しい考え方を柔軟に取り入れて、周囲を巻き込み、実行に移していける人材。部門の壁を取り払って何かを進めていこうという人材。そんな人が、各部署のいろいろなポジションにいることが重要です。たとえば、当社は国内に複数の拠点がありますが、本社だけではなく、各拠点にもそのような人材がいることも重要です。そしてもちろん、そういう人がマネージャーなどのポジションに付けば、さらに変革を起こしやすくなると考えています」
保険会社というと、決められたことをしっかりやりきるという堅実なイメージが強いのではないだろうか。実際、金融業では守らなくてはならない手続きや事柄がたくさんあり、堅実、ともすれば保守的な人材が求められる側面があることもたしかだ。
「しかし、そういう人材ばかりでは、これからの厳しい時代を乗り越えていくことは難しいと思います。会社を変えるような変革を起こしてほしいのはもちろんですが、それぞれの担当レベルでも、目の前の業務の変革など、取り組むべきことはたくさんあります。その際、ポイントになるのは自分自身が変われるかです。
たとえば、これからはAIの活用が進むことでしょう。それにより業務の進め方が変わることが大いに考えられます。そんな変化に対応して自分を変えていける、言い換えれば高い成長意欲の持ち主。それが当社の考えるリーダーといえるでしょう」(岡村さん)

社内公募制で自らキャリアを築く

同社では人材育成、とりわけリーダー育成のための手段として、社内公募制度を積極的に活用している。ここでいう社内公募制度は、いずれかのポジションが空いたとき、希望者を募る制度だ(図表1)。

図表1 社内公募制度の概要

社内公募制度の概要

じつは、同社には一律のジョブローテーションが少ない。それが社内公募制を導入した大きな理由でもある。
「当社は、職務ベースの採用と処遇を行っていて、組織もその形でできあがっています。そのため、常に一定の余裕人員を抱えながら、一律かつ大規模なローテーションを行うのは難しい面があります」(岡村さん)
しかし、人材育成、とくにリーダーシップをもつ人材を育成するためには、さまざま部署や職務を経験して、広い視野や自分の適性の見極めを行う必要がある。
また、自分が昇進する際に後任を指名したり、外部から連れてきたりといったことがよく行われてきたが、それでは人が育ちにくいという判断も、導入の理由だ。
「もう1つ重要なのが本人の意思です。当社には、人材育成に対する基本的な考え方を表した言葉として、“CEO of My Career”があります。会社にいわれて次のポジションや役割を考えるのではなく、自分のキャリアはCEOのように自分で責任をもって築いてほしいという考え方です(図表2)。

図表2 「CEO of My Career」の考え方

「CEO of My Career」の考え方

それを体現し、実際に本人が望む分野でキャリアを積むことができる制度としても、社内公募制は大きな意義をもっています」(佐藤さん)
前述の、成長意欲が高く、変革を起こせる人材にもつながる考え方といえるだろう。もちろん、キャリア形成について、全部を社員個人個人に任せきりというわけではない。
各部署では、少なくとも四半期に一度は1on1ミーティングを行い、キャリアに関する対話を上司と部下の間で重ねるようにしている。自分の強み・育成課題を明確にして、キャリアを自律的に考える習慣をつくっているのである。こうした下地もあるため、社内公募への応募者は多いという。
公募の具体的な仕組みとしては、欠員ができた部署から人員補充の申請が人事部に届き、人事部から募集を告知する形だ。退職などにより空いたポジションや、新規プロジェクトの発足などで生まれた新たなポジションが公募の対象となる。ただし、部長以上の役職については、会社の戦略や要求水準が高いことから、この制度では対象から外している。
また、公募にあたっては、決まった時期にまとめて行われるのではなく、空きができ次第すぐに行われる。
「当社の場合、必要なポジションに必要な人員を配置しているという前提に立って運用していますので、ポジションが空いたときは、できるだけ早く、なるべく社内の人材で埋めるというのが基本的な考え方です。そのうえで、自身がやりたいこと、キャリアを実現するために、積極的に活用してもらっています」(岡村さん)
応募条件は、現職に就いて1年以上であること。1年は経験しないと、いまの仕事を理解して、きちんと検討できる下地ができないだろうという考えによるものだ。
また、応募者には若い社員が多いため、1年は同じ業務を担当して、きちんと基礎を身につけてほしいというねらいもある。
応募にあたって、回数に制限はない。ただし、育成をねらっての制度であることから、やみくもに応募するのではなく、自分のキャリアや成長を考えて応募するということが前提となる。
そのフォローとして、選考結果のフィードバックについては、手厚く行っている。合否にかかわらず、選抜が行われたあとに、どこが良かったのか、どんなスキルが足りないかなどのフィードバックを人事部から必ず行い、キャリア形成に前向きに役立ててもらうようにしているのである。
なお、応募の際には、現在の所属部門の了解を得る必要はなく、直接人事に申し込む。ポジションへの異動が成立したときのみ、現在の所属部署に告知がなされる形になっている。現在の所属部門の人員補充を、いかにスムーズに行うかなどの課題はあるが、概ね、制度が浸透してきたことで、自社のスタイルとして受け入れられてきているという。
また、たとえば、本来は課長職を埋めるための公募ではあるが、その部署での経験が重要になるなど直接の公募が難しい場合もある。その場合は、いずれ課長となることを前提に補佐や代理といった1つ下のポジションで募集をかけ、しばらく経験を積んでもらうといった運用もしている。
そのあたりの判断は、各部門の状況に合わせて臨機応変に行っているそうだが、一般的な異動がない分、より現場に即し、かつ人材育成も加味した運用となっているといえるだろう。

選抜研修や社内留学でグローバルで活躍する人材へ

中堅社員の育成にあたり、同社の考えるリーダー像や、公募制とキャリア意識、育成の連動について紹介してきたが、そのほかの研修プログラムについても紹介しよう。2019年にスタートしたのが、「次世代リーダー育成プログラム」だ。
「新卒入社の場合、2年間は全社員を対象にしたさまざまな教育プログラムがあります。しかし、そのあとは各部門内での専門スキル研修が主体になります。また、中途採用の場合は、皆さまざまなタイミングで入社してくるため、一律の年次研修を行いません。そこで、採用区分や年次にかかわらず、当社の将来を担うと期待される社員を、早期に特定して育てるために始めたのが、次世代リーダー育成プログラムです」(梅沢さん)
このような趣旨から、同プログラムの対象者は、まだ管理職についていない層の社員から、各部門の推薦で選ばれる。具体的な目的は、職場に変革を起こしグローバルな環境で最大限の力を発揮できる人材の育成だ。2019年に選ばれた受講者は、16人。2年間に渡り、プログラムを受けることになる(図表3)。

図表3 次世代リーダー育成プログラムの概要

次世代リーダー育成プログラムの概要

「忙しい業務の合間を縫っての受講になりますので、集合研修は、多くても月に1回くらいの頻度での受講となります。知識やスキルを身につけるだけではなく、マインドセットを変えることも大きな目的です。また、日ごろ接点のない他部門のメンバーと刺激し合い、絆を深め、視野を広げて会社の将来を考えるリーダーを育てたいと思っています」(梅沢さん)
2019年のプログラムのテーマとしては、図表4のとおりとなる。

図表4 次世代リーダー育成プログラムで学ぶテーマと研修内容

次世代リーダー育成プログラムで学ぶテーマと研修内容

能力開発、キャリア形成、ネットワーキングといったテーマに沿ってプログラムが構成されている。具体的には、マーケティング、ストラテジー、リーダーシップ、ロジカルシンキングなど、知識やスキルを学びつつ、経営層のサポートなども受けてキャリアの形成も進めていく。グローバルで活躍できる人材の育成ということから、集合研修は英語で行われている。
同プログラムは、前述のように、推薦による選抜式のものだが、たとえばこの研修を受けた社員が将来のリーダーになる、つまり、幹部候補が受ける必須プログラムという位置づけにはなっていない。人事部としては、プログラムが展開されることで、変革を起こせる人材ができるだけ多く育つことを期待している。
このほかにも定期的なプログラムではないが、「社内留学プログラム」もある。会社の将来を担う人材育成を目的に、部門間で一定期間、人材を異動させるというものだ(図表5)。

図表5 社内留学プログラムの概要

社内留学プログラムの概要

対象となるのは、現職で1年以上の社員。公募や上司からの推薦によって参加が決まると、2カ月~2年程度、受入部門で経験を積むことになる。
また、グループ内のアジアの拠点で、3カ月間の就業体験ができる機会も用意されている。昨年は日本から3人が海外拠点に行き、海外拠点からは日本に5人を迎え入れている。海外拠点に行く社員だけでなく、受け入れる側としても成長が期待できるプログラムだ。
そのほかにも、ダイバーシティの観点からは、2016年に女性管理職育成のプログラムを開始するなど、同社では、さまざまな視点から種々の課題解決に、積極的に取り組んでいる。
以上、チューリッヒ保険会社のリーダー育成について紹介してきた。自社の特性を明確に自覚しながら、さまざまな制度を展開してきた同社。紹介した次世代リーダー育成プログラムも、これからの展望が期待される施策だが、この先の課題や取り組みについて、どのようなことを考えているのだろうか。
「新卒採用が始まって7年。新人から中堅社員になるところまできています。今後は、そうしたステップに入った彼らの成長をさらに後押しするような教育制度を、早く形にしたいと思っています」(岡村さん)
企業にとって、次の時代にリーダーシップを発揮してくれる中堅社員の教育が重要なのはいうまでもない。しかし、あたり前だが若手社員をきちんと育てないことには、教育すべき中堅社員は存在しない。結局、人材教育に一番重要なのは長期的な視点ということになるだろう。変化の激しい時代に、いかに先を見通した教育を実施できるか─人事担当者の果たす役割は、ますます大きくなっていくだろう。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要

社名 チューリッヒ保険会社
本社 東京都中野区
設立 1986年7月
持込資本金 59億3,300万円(2018年度)
収入保険料 917億円(2018年度)
従業員数 1,050人(2019年3月現在)
事業内容 損害保険業
URL http://www.zurich.co.jp/

(左から)
人事部採用担当 佐藤なぎささん
人事部 マネージャー 岡村安紀さん
人事部兼ダイバーシティ推進室 マネージャー 梅沢房代さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ