事例 No.154 サッポロドラッグストアー 特集 北海道の企業文化と人材育成
(企業と人材 2018年8月号)

中堅社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

1年目からマネジメントの基礎を学び、少人数店舗に対応
2年目研修では現場の問題を持ち寄って共有する

ポイント

(1)教育部のテーマは、自ら学びたいと思える「やりがい」のある教育。階層別研修は、大半を社内講師で実施。店長就任を見据え、1年目からマネジメントの基礎を学ぶ。

(2)2年目研修では、事前に「現在悩んでいること」を提出させ、それをドラッグストア運営部マネジャーに回答してもらう「現場問題解決研修」を組み入れる。受講者同士で悩みを共有することで、安心感も生まれる。

(3)企業ブランディングの一環として、多様な働き方を認める制度を一括導入する「サツドラジョブスタイル」を実施。採用にも好影響が表れる。

ドラッグストアを中心に 北海道全域で事業を展開

1972年、札幌市内のスーパーマーケットの1角、わずか15坪の小さな薬屋からスタートした株式会社サッポロドラッグストアー。現在は北海道全域を中心に国内202店舗、海外3店舗を展開するなど順調に成長。店舗展開だけでなく、地域マーケティング事業や卸売事業の子会社を設立し、東証1部上場も果たした。2016年8月には、持株会社としてサツドラホールディングス株式会社(以下、サツドラHD)が誕生。その中核企業として発展を続けている。
サツドラHD傘下には、サッポロドラッグストアーのほか、AI事業やPOSシステム開発事業などを行う会社もあり、グループとしてITを活用したデジタルトランスフォーメーションを推進している。たとえばAIを使って来店者の滞留時間を計測し、AIで人流分析をすることで、店舗運営の課題発見につなげることを模索中だという。
サッポロドラッグストアーは、現在、「ドラッグストア事業」、「調剤事業」、「北海道くらし百貨店事業」の3つの柱で事業を展開する。ドラッグストア事業が中心ではあるが、道内の一部でしか流通していないような、北海道の魅力ある商品を集め、小売・物流で培ったノウハウを活かして販売する「北海道くらし百貨店」は、同社のリテールとしての発信力を地域貢献に結びつけた、新たなチャレンジといえよう。

1年目からマネジメント教育を組み入れる

このように、「ドラッグストア」の枠を打ち破るような事業展開を行う同社だが、その人材育成は教育部が中心となって実施されている。教育部ゼネラルマネジャーの高橋剛志さんは、教育部のテーマは「やりがい」だとして、こう語る。
「やらされ感のある教育ではなく、自ら学びたいと思える教育であり、その学びがお客さまに還元される——それを根本に据えています。
そのためには、教育の環境づくりや教育部としての教え方、そして知識だけでなく人間性の部分も伝えることが大事です。教育を行う目的はお客さまのため。その軸をぶらさずに取り組んでいます」
図表1は、教育部が担っている階層別研修の体系である。同社の等級制度では、まず新入社員はS1(一般社員)に格付けられ、おおよそ3年目でS2(店長代行、一般社員)、5年目でS3(バイヤー、店長)と昇格していく。従来と比べ1店舗あたりの正社員数が少なくなっている現在は、S2で店長になるケースが増えてきているという。

図表1 サッポロドラッグストアーの 階層別研修・勉強会体系図(一部)

図表1  サッポロドラッグストアーの 階層別研修・勉強会体系図(一部)

そうしたこともあって、同社では新入社員研修からすでに、マネジメントに関する基礎研修が組み込まれている。4月に行われる新入社員第1次研修は一般的な導入研修だが、9月に行われる第2次研修、翌3月の第3次研修は、それぞれマネジメントS1研修を兼ねた内容となっている。
マネジメント研修の内容は多岐にわたる。具体的な項目としては、作業マニュアル、コミュニケーション、労務管理、計数管理、販売強化、稼働計画・作業割当、クレーム対応などとなっている。
たとえばコミュニケーション研修であれば、S1で「基礎理論」を学び、S2になると「ミーティングの実施」、「表情・態度の変化への気配り」などとなり、S3では「作業チェック・改善」、「ティーチングとコーチングの使い分け」といったように、次第に内容が深まっていく。
また、新入社員は第1次研修後に現場に配属となるが、各店舗でのOJTにも工夫がある。高橋さんはこう説明する。
「じつは以前は、第1次研修後の教育は、各店舗の裁量に任せていました。しかしそうすると、教えた人によって差が出てしまいます。そこで、入社時に『スタートプログラム』を使用して、2カ月間で最低限の業務は覚えてもらうようにしました」
スタートプログラムは、同社の分厚い業務手順書「サツドラウェイブック」から、レジや接遇など、最初の2カ月間で必ず覚えてほしい部分を抜き出してまとめた冊子だ。店舗配属時に、新人に1人ずつペアリングされる「フレッシュマントレーナー」が、この冊子を元に指導していく。
「スタートプログラムのねらいは、1つは、2カ月間で皆が同じ思い・状態で働けるようになること。もう1つは、フレッシュマントレーナー自身の成長です。トレーナーは2〜3年目と若手なので、新入社員を教育するということが、自身の教育にもなっています」(高橋さん)
なお、同社ではパートタイマーをパートナー社員と呼んでいるが、スタートプログラムはパートナー社員に対しても活用している。内容を覚えてもらい、しっかり習得できたら、店長が「指導完了報告」を教育部に届け出ることになっている。

中核となる2年目の研修は「悩み」解決・共有が軸に

2年目の中心は、「2年目研修」という2泊3日の研修だ(図表2)。前述のとおり、店舗数が増加する一方で、1店舗あたりの正社員数は少なくなってきており、最近は2年目社員が核になってきている店舗が増えている。そのため、2年目社員の教育には力を入れているという。

図表2 2年目研修プログラム(2017年度)

図表2 2年目研修プログラム(2017年度)

2年目研修は、毎年、40〜50人の対象者全員を、札幌に集めて実施している。研修のハイライトは、2日目に組み込まれた「現場問題解決研修」だろう。これは、受講者に事前に「実際に現場で働き、現在困っていること、悩んでいること」をアンケート調査し、それについて店舗運営を直轄するドラッグストア運営部のマネジャーに、研修の場で回答・解説してもらうというものだ。
2年目社員の悩みには一定の傾向があり、例年「売り場づくりやパートナー社員とのコミュニケーションに関する悩みが多い」という。各人が提出した悩みは、名前を伏せて一覧にし、研修の場で配布している。
「すると、私だけじゃない。みんな同じようなことで悩んでいるんだということがわかります。それがお互いに安心感や励みになっています」(高橋さん)
その「悩み一覧」をみながら、ドラッグストア運営部のマネジャーが解決策をアドバイスしていくのだが、全員分の悩みに対してコメントを書き込んだうえで、配布しているという。
このほか、2年目研修では「店舗業務理解」もテーマとされており、発注・在庫管理の仕組みやシフトの組み方など、店長代行として働くための実務を習得する。講師は、すべて担当部門の各マネジャーが務める。
さらに、将来のステップアップのため、どの部署でどんな仕事が行われているかを知る「部署紹介」にも多くの時間が割かれている。
最終日には、受けっぱなしにならないように、2日間で学んだことのテストを実施する。その結果が出るまでの間に、「接客・応対研修」や、教育部のヘルストレーナーとビューティトレーナーによる「医薬品販売研修」、「化粧品販売研修」も行われる。かつては化粧品は女性、医薬品は男性と分かれて受講した時代もあったが、現在は全員合同で両方受講している。
テスト結果の発表後、研修で学んだことなどをレポートにまとめて、研修終了となる。
なお、教育部の担当者は、計3日間の研修をすべてオブザーブし、3日目までにテスト問題を作成しているのだという。テストの採点も結果発表までの間に総出で行っていて、舞台裏では大忙しなのだそうだ。

新任店長研修は宿泊型で、今後はウェブ研修も活用

4年目以降になると、店長になる人が出てくる。店長就任時に行われるのが新任店長研修だ(図表3)。ここでは、悩みの共有や計数管理・労務管理といった、主に店長が行う業務に必要な知識・スキルのほか、店舗スタッフを評価するための「評価者訓練」を織り込んでいる。

図表3 新任店長研修プログラム(2017年度)

図表3 新任店長研修プログラム(2017年度)

新任店長研修は年に2〜3回実施している。各回の受講者数は12〜13人、1泊2日の宿泊研修で行っている。冬になると大雪で交通網が混乱したり、遠隔地から時間をかけての参加もあったりと、運営側としては、広大な北海道ならではの悩みも抱えながら開催しているという。
新任店長研修にかぎらず、そうした離島や遠隔地でも教育を受けやすいよう、昨年からはウェブ研修を取り入れている。高橋さんはこう説明する。
「実地で行ったほうがよいものとウェブで対応できるものと、使い分けています。新任店長研修の場合、お互いの悩みを共有し解決する場にもなっているので、この場合は集合研修が適切です。一方、知識中心の研修に関してはウェブ研修で対応可能だと思っています」
道外にある店舗に向けては、札幌本部での集合研修を撮影したものを配信して、タブレットなどの画面で受講する方法も始めている。
「逆に、トレーナーが地方で行っている研修を撮影してもらい、本部にいる私が確認して、今後の研修に反映させるということも始めています。集合研修は時間も交通費も膨大になります。加えて、店舗では研修参加者をシフトに入れられず、遠方の場合は丸1日以上、人が抜ける事態になることもあります。ウェブ研修であれば、その日の数時間だけシフトを外れればいいわけです。
また、ウェブ上では同じ内容を複数回流しているので、教育を受けられる対象者が広がりました。ただ、やはりその時間にいないと受講できないという点ではまだ非効率なので、現在はeラーニングを構築中です」(高橋さん)

▲遠隔地の店舗でのウェブ研修の様子

▲遠隔地の店舗でのウェブ研修の様子

このeラーニング化は、教育部の現在の課題の1つでもある。研修数が増えるほど、店舗では店を運営しながら時間を割かねばならず、負担増になってしまう。そう考えると、だれでも同じ条件で学べるeラーニングを充実させたいと、高橋さんは話す。
実際、店舗からは「雨が降って来客数が少なくなったときを教育の時間にあてたい」という声があるそうで、そんなときに対応できる教育ツールの開発が期待されている。

良い仕事に光をあてる「サツドラアワード」

同社は、組織が大きくなるにしたがって、組織活性のための活動にも力を入れるようになってきている。2017年に始まった「サツドラアワード」もその1つ。「サツドラらしさとは何かを言葉にする」ことをテーマにスタートした、表彰制度である。「社員の部」と「パートナーの部」があり、全社員が「アワードに推薦したい人」を投票し、一時選考で各部門3人ずつ、優秀賞を選ぶ。
推薦のポイントは、「その人のどんな仕事ぶりか」、「その仕事をするために、その人はどんな工夫をしていたか」、「その結果、何がどう変わったか」、「その人のまねしたい部分はどこか」の4点だ。「あの人の笑顔がすばらしかった」などと漠然としたものになりがちなので、具体的な記述を求めているという。
目的は大きく2つで、1つは良い仕事をまねしてほしいということ。
「この人の仕事のやり方がすごくいいと思う点を具体的に書くこと、また、最終的に選ばれた6人の発表を聞くことで、『私もこんなふうに仕事をしたい』と思ってほしい」(高橋さん)
もう1つは「褒め合う文化」の醸成だ。だれかを推薦するには、まわりの人の良いところをよく観察する必要がある。そういう目線で注意を払うと、いろいろなことに気づくことができる。推薦文はすべて匿名にして、本人に届けられる。本人はものすごくうれしい気持ちになるという。
第2回となる今回の推薦件数は630件。アワードのプロジェクトメンバーがそれを13人にまで絞り込み、役員会で3人ずつ選出した。そして表彰式当日、その6人のスピーチと、各人の仕事の様子を撮影した動画上映を行い、会場に集まった全店長と本社の参加できる人たちで投票して、最優秀賞を1人ずつ決定する。プロジェクトのリーダーも務める高橋さんは「まだ始まったばかりですが、回数を重ねるごとに文化風土になっていくと思います」と期待する。
表彰を受けるのは、日ごろから活躍が目立つ人ばかりではないという。ふだんは口べたで地味な印象の人が「こんな仕事をしていたんだ」という気づきにもなり、「目立たないけれども努力している人」の仕事を吸い上げるきっかけにもなっている。
なお、スピーチの様子は録画をして、全店舗でウェブ上で視聴できるようにしているという。

多様な働き方を認める制度を一括導入し、発信

中期経営戦略のテーマの1つとして、「活躍し続ける人材」と「多様性のある組織づくり」が掲げられたことを受けて、同社は、2017年7月に「サツドラジョブスタイル2017」を発表した。
オープンイノベーション制度、チャレンジJOB制度、多様な働き方促進制度と大きく3つの柱で、働き方の選択肢を広げる制度をまとめて提示している(図表4)。サツドラHD執行役員で、グループ人事部ゼネラルマネジャー兼グループ経理・総務担当の金澤一敏さんは、こういった形での発表について、こう語る。

図表4 サツドラジョブスタイル2017の各制度の概要

図表4 サツドラジョブスタイル2017の各制度の概要

「北海道では生産人口が減少しており、近年はわれわれも新卒採用に苦労しています。人材確保のため単発の施策を打つ企業はありますが、私たちはそうではなく、企業自体のブランディングを考えて、多様性のある働き方を推進する姿勢を打ち出そうとしています」
同社の施策がバラエティに富んでいるのは、社員の声を吸い上げ、現場に沿った制度をつくりあげているからだ。「サツドラジョブスタイル2017」発表後も、個人面談での相談をきっかけに、「ウェルカムバック制度」などを追加して策定している。
「こうした取り組みが評価されたのか、今期は新卒採用の応募数が、昨年をかなり上回っています。採用は相互拘束ではなく相互選択。こうした制度をつくることでいろいろな方を受け入れられる組織にしていきたい」(金澤さん)
近年、従業員満足度調査も始めた。「問題点を見える化して、働きがいのある会社をめざしたい」と意気込む金澤さんは、契約社員についても全員と面談し、潜在的なニーズをすくい上げている。「今後も、サツドラジョブスタイルをバージョンアップしていく」(金澤さん)と、さらに変えるべきところを検討中だ。
最後に、人材育成に関する今後の課題について聞くと、高橋さんは、先に出たeラーニング作成のほか、「マネジャー層以上の教育の充実」をあげた。
「私が働き始めた20数年前と違い、業界は大きく変わり、仕事の進め方も変化しています。とくにこの数年はスピード感がより強く出てきましたが、これまでどおり、人を大切にする働き方も大事にしたい。教育でもそれを伝えていきたいと思います」(高橋さん)

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もう1つ、高橋さんが指摘する課題は、サツドラHDとしての経営方針の全体像を、現場にまでしっかり浸透させることだ。
「本社の社員はともかく、現場が理解しきれていない面もあると感じます。そこがうまくかみ合ってくれば、もっといい会社になれるでしょう」(高橋さん)
「道内の現状を考えれば、進化していかないといけない、変わらざるを得ない状況もあります。これからも、さまざまな制度を既成概念にとらわれずに考えていって、変革を起こしていきたいと思っています」(金澤さん)
人事制度をはじめ、さまざまなチャレンジを続けるサッポロドラッグストアーは、10年後には私たちが想像もつかない“ドラッグストアの先の先”へと変貌を遂げているかもしれない。そんなワクワク感をつくり出すのも、小売業の大切な使命なのだろう。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社サッポロドラッグストアー
本社 北海道札幌市
設立 1983年4月
資本金 1億円
売上高 784億8,200万円(連結 2018年5月期)
従業員数 982人(2018年5月15日現在)
平均年齢 33.6歳
平均勤続年数 6.1年
事業案内 地域医療対応型ドラッグストアチェーンの営業、運営
URL https://satudora.jp/

(左)
サツドラホールディングス
執行役員 グループ人事部
ゼネラルマネジャー
金澤一敏さん

(右)
サッポロドラッグストアー
教育部
ゼネラルマネジャー
高橋剛志さん


 

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