事例 No.152 石屋製菓 特集 北海道の企業文化と人材育成
(企業と人材 2018年8月号)

中堅社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

新たに導入した階層別研修を中心に人材育成施策を展開
理念に沿って次代を担う人材を育成

ポイント

(1)「しあわせをつくるお菓子」を企業理念とし、お客さま、地域、従業員の幸せのために何ができるのか、多面的な視点で物事を考えられる人材になってもらうことをめざし、育成に注力する。

(2)2007年に教育制度を改革し、階層別研修を中心に人材育成施策を進める。入社1年目から課長までを対象に実施。課長よりも上の役職者には、外部講座などに参加して他企業のさまざまな考え方に触れてもらうようにしている。

(3)社員のモチベーションアップを図り、広い意味での育成にもつながる仕組みとして、表彰制度を設けている。毎年、副部長以上の幹部が、活躍した社員を推薦し、サプライズで表彰。社長賞の受賞者は、海外研修に派遣される。

変化を恐れず多面的思考ができる人材を育成

北海道の土産菓子として名高い「白い恋人」などで知られる石屋製菓株式会社。同社は、1947年に政府委託のでん粉加工業として創業し、その後、北海道の良質な原材料を使い、手間暇をかけておいしい菓子を低温低湿な環境である北海道でつくることにこだわってきた。現在、「白い恋人」をはじめとする同社の菓子は、北海道はもちろん、日本を代表する土産菓子として、海外の人たちにも親しまれるようになっている。
1995年に本社敷地内にオープンした「白い恋人パーク」は、工場見学やお菓子づくり体験などができ、地元の人や観光客に人気の施設となっている。
また、昨年4月には、東京・銀座に北海道外初の直営店舗となる「ISHIYAGINZA」をオープンさせたほか、同年7月には、北海道北広島市に主力商品「白い恋人」、「美冬(みふゆ)」の新工場を完成させるなど、新たなチャレンジを続けている。
なお、同社は分社化をしており、菓子の製造や事務管理部門は同社(石屋製菓)、卸および小売りは石屋商事が手がけるという製販分離の形態をとっている。
同社では、現在の石水創社長が就任した2013年から、「しあわせをつくるお菓子」という企業理念を掲げている。この理念について、人事部副部長の青木龍司さんは次のように説明する。
「この企業理念に込められているのは、お客さま、地域、従業員、この3つが幸せでなければならないという思いです。
もしも何か迷ったときや、仕事で行き詰まったときなどには、この3つが幸せなのかを考えれば自ずと答えが出てくるので、従業員には、そのために何ができるのかを考えられるような人材になってほしいと、常に社長は述べております」
また、経営理念については、図表1のとおりである。

図表1 石屋製菓の経営理念

図表1 石屋製菓の経営理念

こうした企業・経営理念に沿って、同社は次のように人事理念を掲げる。
・従業員一人ひとりのチャレンジ精神を最大限に尊重する
・変化することをおそれない
・常時思考と多面的視点
・次代を担う人材を育成する
「この理念の根幹にあるのが、会社はいまどこをめざしていて、どんな能力が必要かということがわかれば、会社と従業員は同じ目標に向かって一緒に成長していけるのではないかという考え方です。
たとえば、銀座の直営店や北広島の新工場は、5年前はほとんどの従業員が想像もしていませんでしたが、いまはそれが現実になっている。今後も、想像していなかったことが、数年後には現実になっていることがあり得るわけです。
そういう変化をおそれず、新しいことにどんどんチャレンジしていけるような人を育てていきたいと思っています。
また、会社目線のみの一方的な考え方ではなくて、お客さまの目線、従業員の目線など、多面的な視点で物事が考えられることが大切だと考えています。
そして、人事だけでなく、従業員一人ひとりが次の世代を育成していく、ということを頭に入れて行動することをめざしています」
このような人事理念の下、人材採用に関しても、「必ず世代がつながるように採用していくことが重要」との思いから、近年は人数の増減はあっても、毎年必ず定期採用を行うという方針を継続している。ちなみに新卒採用においては、とくに北海道出身者を意識しているわけではないが、道外の大学からのUターン組も含めると、結果的には北海道出身者が多くなっているという。

2007年に教育制度を改革階層別研修を柱に人材を育成

同社の人材育成策のなかでも、とくに現在、核になっているのが、階層別研修だ。同社では2007年に賞味期限改ざんの不祥事が起こり、これを機にさまざまな社内改革を断行した。その1つとして社員教育にもメスを入れ、新たに導入したのが、階層別研修である。
「当時、40代という中核の層が圧倒的に不足していました。過去に、人が充足しているからと、定期的に新卒を採用していなかった時期があり、そのツケがまわってきていたからなのです。
そのため、社内で中心になっていたのは20代、30代で、これらの層を早急に育成していく必要がありました。
私たちのような、ある程度上の世代の人間は、たとえばマネジメント論であれば、こうやって教わってきたからこういうふうにやればいいというように、感覚で身につけてきたものがあります。しかし、それはいまの若い世代にはなかなか通用しません。感覚ではなく、理論で教え、それを実践する必要があると考えました」
正社員の場合、まず新入社員教育があり、その後、入社1年目、2年目、3年目、主任、主査、係長、課長までを対象に、階層別研修を実施している(図表2)。

図表2 階層別研修制度(入社1年目〜課長までを対象)

図表2 階層別研修制度(入社1年目〜課長までを対象)

新入社員教育においては、入社式やガイダンスが入社初日にあり、2日目には外部講師を招いて、ビジネスマナーの研修を行う。その後、部署別のオリエンテーションなどが終わると、各部署に配属されてのOJTとなる。
販売部門の社員の場合は、いったん前述の白い恋人パークの売店に全員が配属される。そして20代の先輩社員1人が新人2〜3人の担当となり、仕事を一から手取り足取り教えていくのだ。この指導は、白い恋人パークが最も混雑するゴールデンウィークが終わるころまで続けられる。
「なかには、新入社員から私生活の相談を受けている人もいるかもしれませんが、社としては、先輩社員にそこまでの役割を求めているわけではないので、メンター制度とまではいかないですね。
ただ、仕事については徹底的に指導してもらうようお願いしており、出勤日も完全に担当する新人と同じにしてもらっています」
製造部門に配属された場合は、さまざまな部署をまわって、どんな工程があってどのように仕事をしているのかを、1〜2カ月程度かけて自分の目で見て学んでいく。
これらの研修・OJTを終えて、ようやく本来の部署に配属されるという流れである。
なお、同社の場合、新卒の新入社員のほとんどは、製造か販売に配属となる。それ以外の本部スタッフなどは、製造や販売の現場で経験を積んでから、数年後に配属されるのが一般的だ。

▲主任昇格者を対象に行われた研修の様子

▲主任昇格者を対象に行われた研修の様子

入社1年目〜課長まで対象に階層別研修を実施

新入社員以外の階層別研修は、いずれも毎年秋ごろに、原則として丸1日の研修を2回行う。通常は1回目が基本編で、少し日を置いて応用編を行うという形式だ。
入社1、2、3年目社員については、5S、報連相、ヒューマンエラーなどをテーマに研修を実施。
「これには副次的な効果もあります。新入社員も秋になると各部署に配属され、場合によっては勤務場所も異なってくるので、同期といえども交流が少なくなるケースも出てきます。
とりわけ2年目や3年目になると、その傾向は顕著になります。そうした時期に行われるこの研修は、同期が集まって旧交を温める貴重な機会となっているのです」
次に、主任、主査、係長については、毎年人事部内でどのようなテーマにするかを話し合い、そのテーマで実施をするというスタイルをとっている。ここ2年ほどは、「タイムマネジメント」をテーマにしているという。
「働き方改革が叫ばれていますが、仕事自体が減るわけではありません。では、どうすればよいかということで、外部の講師を招いて、時間管理について学びます。
ただ、これらの層の社員は非常に多忙なため、業務に支障が出ないよう、今年は主任の研修、来年は主査というように分けて実施しています。また、同研修を別の日にも実施することで、全員が受講できるよう配慮もしています」
1回目の研修の終わりには、各自に、職場にもち帰って上司や部下と相談しながらでないとできないような自己課題が与えられる。職場を巻き込む形にすることがねらいだ。
課長に関しては、2日間かけてマネジメント論の研修を実施する(図表3)。たとえば、一昨年と昨年は、2年計画で特別教育プログラムを組んだ。ここでは、課題解決の方法や、キーパーソンとなる部下の育成について学び、最後は、その成果を役員の前でスライドを使ってプレゼンテーションするといった試みを、初めて実施した。
なお、課長よりも上の役職者(副部長、部長、経営幹部)には、階層別研修ではなく、社外の公開講座などに積極的に参加してもらうようにしている。

図表3 課長研修のスケジュール例

図表3 課長研修のスケジュール例

「いわば他流試合で、ほかの企業の方も参加する場所で、いろいろな考え方に触れて、もまれてきてください、というイメージです。
そもそも副部長以上では、会社が集合研修を用意するのではなく、自分たちで必要なものを探してきてもらうのが基本スタンスです。ただ、副部長以上の役職者にふさわしい公開講座の候補を研修会社に選定してもらい、人事から、こういう講座を受講してみてはどうかといった提案をすることはあります」
なお、階層別研修は必要に応じて内製と外部委託を使い分けている。講師や研修会社のもつ豊富な事例を活用したいときや、社員により緊張感をもって研修を受けてもらいたいときなどは、外部に依頼しているのだという。
さらに、これら正社員向けの研修以外に、パートタイマーに対して研修を行っているのも、同社の人材育成策の大きな特色だ。
内容は、主に製造面での安心・安全な菓子づくりの基礎などで、外部講師に依頼し、勤務時間内に約3時間の座学研修をしている。

外部講習への参加を奨励意欲向上を図り表彰制度も

このほかの研修として、過去には幹部候補が期待される20代後半から30代前半くらいまでの若手を対象に、各部署から数人ずつ選抜して、マネジメント関連をはじめさまざまな研修を2年間かけて行う選抜教育も実施している。
また、各業務に直結するスキル教育などは、外部の講習会への参加を奨励している。
「たとえば、営業や製造といったさまざまな技術・技能関連の講習は、自分たちで探して自分たちの部署の決裁権で受講してもらうようにしています。
私自身も、人事の前はお客さまサービス室という部署にいましたが、新たに生まれた部署だったこともあり、一からつくり上げねばなりませんでしたから、クレーム対応のやり方なども自分たちで講習を探して受講しました。
こうした活動は各部署でやっており、人事は口を出しません。なお、各部署で認めた講習の費用は、すべて会社が負担しています。
また、北海道内で開催される講習の場合は勤務時間中の参加としますが、東京など道外のものの場合は、出張扱いにしています」
このほか同社では、直接的な人材育成策ではないものの、社員のモチベーションアップを図り、広い意味での育成にもつながる仕組みとして、表彰制度を設けている。
これは毎年、副部長以上の幹部が、部署を問わず、活躍したと思う社員(課長以下)を数人ずつ推薦。それをもとに社長・取締役会で社長賞や表彰者を決定し、サプライズで表彰するものだ。社長賞の受賞者(石屋製菓・石屋商事各1名の計2名)は、1週間〜10日程度の海外研修にも派遣される。

今後も階層別を中心に人材育成策を進めていく

このように多様な人材育成策を整えている同社だが、今後の課題の1つとなっているのが、中途入社した社員への教育である。同社の場合、即戦力としての中途採用も多く、近年では毎年20〜30人が入社している。入社後、前述の階層別研修を受講するが、中途入社者だけを対象とした研修はいまのところ実施していない。
「当社の場合、中途入社者の人数が多いので、受け入れる側は慣れていますが、入社した人のなかには、新たな人間関係がなかなか構築できない人もいます。
そうしたことで悩んで本来の実力を発揮できないのは非常にもったいないと思うので、中途入社者同士で悩みを共有し、その解決のために互いに横連携を図りながら、パフォーマンスアップもできるような新しい研修のプランを練っています」
一方、現在の人材育成策に関しては、これまで約10年にわたり実施してきて、その成果がすでに表れ始めているという。
「社員の成長度合いは人によって異なるので、すぐに成果が出る人もいれば、時間がかかる人もいます。
けれども全体的には、若い社員の成長を確実に感じています。たとえば若手の選抜教育を受けた社員のなかから、実際に各部署で認められ、管理職に昇格するといった実績が出ているのは、その証しだといえるでしょう。
ちなみにその1人は33歳で、現在最年少の課長です。階層別研修をまじめに受講して、その内容を積極的に業務に取り入れてやっていこうとしている人は、確実に結果を出していますね」
同社の管理職への昇格は、所属部長や役員からの推薦をもとに、昇格試験を実施して決めている。試験内容は役職によって異なるが、たとえば課長昇格試験の場合、自分が課長になるにあたり、担当する課をどうしていきたいかといったビジョンや、それを実現していくための具体的なプランを社長や担当役員、部長の前で発表。それに対して、社長以下がフィードバックするというプロセスが、
試験に組み入れられている。いずれにしても、どの役職でも、潜在能力よりも現在のパフォーマンスを中心に昇格・昇進を決めているので、管理職になることは、本当に成長していることの証明というわけだ。
ただし、むしろこれからが重要と青木さんは言う。
「この10年で成果が表れてきているとはいえ、見方を変えればまだ10年。教育というのはすぐには成果が見えづらいものです。長い時間をかけて同じことをコツコツ続けていくことで、初めて結果が出ると信じています。

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また、今後は、この会社を将来どうしていきたいかという夢を、上司が部下に対してもっと語れる会社にしていきたい。育成や教育を通じて、それをサポートできるようにしていければと思います」
同社では、階層別教育を中心とした人材育成策を今後も改良を加えながら継続していくという。
こうして次代を担う人材を育て、新たなことに挑戦するときや判断に迷ったときに、「これは、お客さま、地域、従業員の幸せにつながることだろうか」そう振り返り、新たな一歩を踏み出せるようになってくれることを同社は願う。そして、この3つの幸せのため、今後も「しあわせをつくるお菓子」を追求し続けていくだろう。

(取材・文/中田正則)


 

▼ 会社概要

社名 石屋製菓株式会社
本社 北海道札幌市
設立 1959年10月
資本金 3,000万円
売上高 165億4,700万円(連結 2017年4月期)
従業員数 558人(2017年4月現在)
事業案内 菓子製造業
URL http://www.ishiya.co.jp/

人事部 副部長
青木龍司さん


 

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