事例 No.132 東日本電信電話 特集 チームビルディングの活かし方
(企業と人材 2018年3月号)

中堅社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

事業の変革を牽引するマインドと発想力を引き出すために
若手向けの研修にチームビルディングを組み入れる

ポイント

(1)課長クラスへのアンケート調査での「風土として安定志向が強く、挑戦意欲が低い」という結果を受け、5年目社員対象の「DD研修」を大きくリニューアル。

(2)座学中心だったDD研修を、チームビルディングやマインドフルネスを取り入れ、マインド醸成を目的としたものに。チームビルディングのパートでは、アクティビティとリフレクションを繰り返しながら、「変革」に対する理解や思いを深める。

(3)受講後のフォローとして、「職場実践シート」を活用。受講後1週間以内に「職場で実践すること」を宣言。そして1カ月後に、それについて上司と面談を行う。

安全・確実の先の変革人材育成を方針に掲げる

東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)は、今年度から若手向けの研修にチームビルディングを取り入れた。現在、同社では「変革」を旗印に、各種育成施策において積極的に新たな取り組みを進めている。チームビルディングの導入もその一環だ。
背景にあるのは、事業環境の激変だ。ICTの進化により、情報通信の世界には新しいサービスが続々と登場しており、しかもその領域はビジネスや生活のあらゆる分野にわたっている。

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そのなかで、同社は2015年、「ビジネスユーザ市場の攻略」、「光コラボレーションモデルの推進」、「経営効率化・生産性の質的向上」という「変革の3本柱」を掲げ、ビジネスの拡大を図っている。通信回線を守るだけではなく、既存の枠組みにとらわれず、時代のニーズに即した新しいサービスの提供をめざすというものだ。そうしたなか、総務人事部人材開発部門長の飯沼浩規さんは、基本的な人材育成方針についてこう語る。
「まったく異なる領域の企業と連携して新たなビジネスを立ち上げたり、中堅・中小から大企業まで多様なビジネスユーザーを取り込むなど、これからは、いままで経験したことのない取り組みを自ら進めていくことが求められます。そのため、『変革を牽引し、環境に応じ自ら進化し続ける人材』を人材育成方針として掲げ、さまざまな施策を進めています」
なかでも若手社員については、「世の中に通用するビジネスパーソン」をめざし、4つの基本スキルの習得と、自ら学ぶ意欲の醸成に力を入れている(図表1)。

図表1 NTT 東日本の入社3〜5年目(相当)社員の育成方針

図表1 NTT 東日本の入社3〜5年目(相当)社員の育成方針

「じつは、2016年度にグループ全社の課長クラス約4,000人を対象に実施したアンケート調査の結果から、会社の風土として安定志向が強く、現時点では、新しいことに挑戦したり、難しい資格を取得したりする人の割合が低いことが明らかになりました。
安全・確実に仕事を進めていくことが悪いわけではありませんが、いまのビジネス環境を考えると、よりスピード感をもって物事を進めていくことが求められます。育成においても、これまでとは違うものを取り入れていかなければいけないと感じました。
そして、なにより人材開発部門の私たち自身が、率先して新しいチャレンジをしていく必要があると考えたのです」(飯沼さん)

5年目研修を一新し体験型プログラムを導入

そうした新しいチャレンジの1つが、今回紹介する「ディベロップ&デザイン研修」(以下、DD研修)である。若手社員を対象に
数年前から実施していたが、今年度から内容を見直し、大幅にプログラムを作り替えた(図表2)。

図表2 2017年度 ディベロップ & デザイン研修(DD 研修)実施概要

図表2 2017 年度 ディベロップ & デザイン研修(DD 研修)実施概要

新DD研修は、変革を牽引するために必要なマインドや発想力を醸成することを目的に掲げている。人材開発部門能力開発推進担当課長の真下実輪子さんは次のように話す。
「以前は、ビジネススキル向上を目的とした座学中心のプログラムでした。講義の内容は充実していたのですが、変革を牽引していくには、スキルを身につけるだけでは不十分で、やはりマインドを醸成していくことが大切です。そこでチームビルディングを取り入れ、体感的に学びや気づきを得られる内容としました」
具体的には2日間の研修で、1日目にアクティビティ型チームビルディング、2日目にマインドフルネスと有識者講演会というプログラム構成である(クラスによっては、1日目と2日目のプログラムが入れ替わる)。体験学習を通じて、自らの強みや弱みを認識することが1つのねらいとなっている。前半のチームビルディングのプログラムは、株式会社チームビルディングジャパンが企画・実施を受け持った。
もう1つ大きく変えたのが、受講要件だ。従来は、入社5年目の社員を対象としていたが、今年度からは対象者の年次を入社3~5年目として幅をもたせた。
また、従前から、営業、設備、開発などの業務分野別にリスト化された取得推奨資格一覧から比較的難易度の高い資格を選んでポイントを設定し、分野ごとに一定のポイントを獲得することを受講の前提条件としていたが、今年度からは、対象年次の社員全員に資格取得を求めるのではなく、「学ぶ意欲のある人が資格を取得し、研修に来ればよい」という考え方で運用することになった。ねらいは「自ら学ぶ意欲の醸成」だ。人材開発部門能力開発推進担当の紅野かおりさんはいう。
「最低限のスキル習得の場として、入社後の研修では一律の教育機会が提供されますが、それ以降は会社に強制されるのではなく、必要なスキルを自ら選択して磨いていくのが基本です。これまでは、たとえば出産などのライフイベントが重なって受講できないケースがありましたが、今期からは求められるレベルに達していれば3年目から受講できるので、自分のタイミングで受講ができます。
年次によって横並びで教育機会が与えられるのではなく、自発的に学ぶ意識を、若手のうちから身につけてほしいと思っています」
DD研修は、ふだんはかかわりの薄い業務分野や勤務地が異なる人材が集まるため、多様な考え方や価値観に触れることができるのもメリットの1つだ。リニューアル1年目となった2017年度は、合計334人が受講した。約50人を1クラスとして6回開催した。受講者の内訳としては、職種別では技術系157人、事務系177人とおおむね半分ずつ、また入社年次でみても、5年目が112人、4年目が103人、3年目が119人と、バランスよく分散した。

段階的に難しい課題に挑戦。信頼関係と一体感が高まる

今期のDD研修は、8月下旬から9月上旬にかけて、同社の研修施設内で実施した。チームビルディングプログラムでは、1回あたり約50人の受講者を十数人ずつに分け、4チームを編成。大半の時間は、チームごとに別の部屋に集まり、それぞれファシリテーターのサポートの下、1日かけてアクティビティに取り組んでいく(図表3)。

図表3 チームビルディングプログラムのタイムテーブル

図表3 チームビルディングプログラムのタイムテーブル

まず最初に30分程度、研修の目的や1日の流れの説明と、アイスブレイクを行う。メンバー全員の名前を覚えるワークなどを通じて、コミュニケーションをスムーズにし、チームとして活動しやすい雰囲気をつくっていく。
また、ファシリテーターから「あなたにとって『変革』とはどのようなことですか」という問いが投げかけられ、1人ずつ付箋に自分の考えを書いて、ホワイトボードに貼っていく。この「変革の定義」の付箋が、その後、アクティビティとセットになっているリフレクションで考えを深めていく基点になる。
緊張が解けてきたころに、いよいよアクティビティ開始となる。基本的には1日かけて、3つの課題に取り組むが、どんなアクティビティにするかはメンバーの状態をみて、その場その場でファシリテーターが判断する。
たとえば、あるチームは、オールアボード、フープリレー、蜘蛛の巣という3つに挑戦した。1つだけ紹介すると、フープリレーは、全員で手をつないでつくった輪にフラフープを通し、そのフラフープを全員がくぐるというもの。タイムを競うアクティビティだ。

▲アクティビティに取り組んでいる様子

▲アクティビティに取り組んでいる様子

ただ楽しいだけではなく、チーム戦略の立案と実行を確実に進めていかなくては課題をクリアできない。また、1つのやり方にこだわっていては、なかなかタイムを短縮することができない。努力次第でタイムを5秒縮めることはできても、30秒縮めることは難しい。そのためには根底から発想を転換する必要も出てくる。
3つのアクティビティは、実施する順番にも意味があり、だんだん難易度が上がっていく。最後に行う蜘蛛の巣では、1人のミスが全体の失敗につながるため、強い信頼関係と集中してチームに貢献する意識が欠かせない。
どのチームも、3つ目のアクティビティに取り組むころには結束力が強まり、一体感が生まれて非常に盛り上がったという。

リフレクションが「変革」の実感を探る時間に

チームビルディングのような体験型の研修は、新たな気づきを得たり、コミュニケーションの大切さなどを実感できるといったメリットがある一方、「楽しいだけで終わってしまうのではないか」という懸念もある。
DD研修では、アクティビティを終える度にすぐリフレクションを行い、アクティビティで起きたこと、感じたことを全員で振り返った。これにより、たとえ課題をクリアできなかった場合でも、なぜうまくいかなかったのか、どうすれば成功できたのか、それを次の課題にどう活かせるのかなど、お互いの意見を共有しながら、学びを深めていくことができるのだ。
「朝の『変革の定義』のワークで、『変革とは、既成概念にとらわれず新しいことにチャレンジすることだと思う』と書いた受講生がいました。彼女は、チームが発想の転換がうまくできず課題をクリアできなかったときに、ファシリテーターに自分の付箋を確認するよう促されて、まだまだ自分が『とらわれている』ことに気づいて、ハッとしていました。そこで、もう一度、変革について考えたことを書くワークを行います。
アクティビティとリフレクションを繰り返していくなかで、変革とは実際にどういうものなのかが腹落ちするというか、『こういうことを言ってもいいんだ』とか、『自分が動けば、まわりが協力してくれる』といった気づきが生まれていきました」(紅野さん)
「最初の『変革の定義』は抽象的、概念的でしたが、リフレクションを重ねるうちにちょっとずつ良い言葉が出てくるようになり、参加者の表情も活き活きしていきました」(真下さん)
そして、1日の最後は4チームが大教室に集合し、全体の振り返りを行う。ここでユニークなのは、ワールドカフェ方式を採り入れている点だ。15~25分ごとにメンバーを入れ替えながら、4、5人のグループで話し合いを続けていく。チームごとに行っていたアクティビティ+リフレクションのなかでの気づきや思いを全体で共有することが目的だ。体験のなかで思ったこと、感じたことをグループごとに模造紙に書き出していく。

▲ワールドカフェのあとのまとめタイム

▲ワールドカフェのあとのまとめタイム

そして、最後のまとめとして、全員で輪になって、最も印象に残ったことや、職場に戻って実践したいことを宣言する。
ここでは、あえて指名ではなく、自主性に任せて挙手で発言してもらうことにした。なかなか手があがらなかったが、緊張感が高まるなかで手をあげ発言した人たちの意見には、素晴らしいものが多かったという。最初は漠然としていた「変革」の概念が、数回のリフレクションを通じてより具体的になり、またほかのメンバーの意見を踏まえて厚みのあるものになったということだろう。

フォローとして受講後の上長面談を組み込む

DD研修では、職場に戻ってからのフォローアップにも力を入れている。「職場実践シート」を活用して、受講者が研修当日、1週間後、1カ月後に振り返りができるようにしている(図表4)。
シートでは、まず研修参加前に本人と上司が話し合い、習得したい、あるいは伸ばしたいスキルを記入する。研修が終わると、その当日に学びや気づき、職場で活用したいことをプログラムごとにまとめる。
さらに、受講後1週間以内に、職場の上司に「職場で実践すること」を宣言。そして1カ月後に、その宣言内容がどこまで実践できたのか、上司と面談を行って、本人の振り返りと上司からのアドバイスを記入するという流れになっている。

図表4 2017年度 ディベロップ&デザイン研修 職場実践シート

図表4 2017 年度 ディベロップ&デザイン研修 職場実践シート

これに加え、研修アンケートについても、受講直後と3カ月後と2回実施している。3カ月後のアンケートには、「チームで働くことを意識したことで、タスク内で一人ひとりが声をあげる機会が増えた」、「トラブルや疑問を呟くだけで周囲が助け合う風土が生まれた」、「仲間と一緒に成果を出す場合はゴールの方向性があっているか確認することを意識して進められている」など、職場に戻ってからの意識・行動の変化が書かれたコメントも寄せられている。
アンケートでは、ほかにも「人事が変革を求めていることがプログラム内容の変化から感じられた」、「人事の変革を感じ、この雰囲気が全体に伝われば、会社がより良くなると感じた」などのコメントもあがっており、“人材開発部門としての変革チャレンジ”という意図も、受講者に伝わったようだ。
一方、人材開発部門としても、こうしたアクティビティを含む研修は初めての試みであり、当初は不安を感じたこともあったという。
たとえば、事前にチームビルディングのアクティビティを実施することを伝えてしまうと、ネット検索などで「予習」してくる受講者もいるため、当日まで詳細を明かさなかった。
「事前に伝えたのは、『体を動かすプログラムがあるので、運動のできる服装で来てください』という程度でした。私たちも予想がつかず、どうなることかと思っていましたが、何をやるのかわからずに集まった受講生も不安だったと思います」(真下さん)
また、当初、チームビルディングのパートは、変革の意識醸成の前段として、自分の強み・弱みを認識することに主眼が置かれていたが、ファシリテーターと相談して企画を詰めていき、また当日の様子などから判断して、「変革」というテーマを強く打ち出す形に調整していったという。チームビルディングといえば、コミュニケーションの活性化やビジョンの共有、リーダーシップ育成などがすぐに思い浮かぶが、変革マインドの醸成にも有効な手法であることを実感できた。
開催してみると「受講生の評価はきわめて高かった」と人材開発部門能力開発推進担当主査の丸山浩之さん。
「受講生の表情がこれほど活き活きしているのは、ほかの研修ではあまりみたことがありません。アンケートでも『こんなに本気になったのはいつ以来かわからない』といった声があがっていました。楽しく積極的に学んでいる様子をみることができ、やってよかったと思っています」
DD研修は来年も継続する予定だが、チームビルディングの活用については、より対象を広げていきたいという構想も持ち上がっている。今後は、実際にリーダーとして変革を牽引するマネジャー層にも、チームビルディングプログラムを導入していくことを検討中だ。
また、チームビルディングで得られた学びをいかに定着させるかについても、引き続き検討していくという。職場での実践にスムーズにつなげることができるような仕組みや仕掛けを整えることも必要だろう。
「講義形式の研修で講師から教えてもらうことも知識としては役立ちますが、今回の研修では、自ら気づくことがたくさんあり、体感した分だけ心に強く刻まれる。講義形式とはまた違った気づきが得られるので、その良さをうまく活用しながら、変革に向けた社員の意識醸成を進めていければと考えています」(飯沼さん)

(取材・文/瀬戸友子)


 

▼ 会社概要

社名 東日本電信電話株式会社
本社 東京都新宿区
設立 1999年7月
資本金 3,350億円
営業利益 1,891億円(2017年度)
従業員数 4,850人(2017年3月31日現在)
平均年齢 40.2歳
平均勤続年数 16.7年
事業案内 音声伝送サービス、データ伝送サービス等の電気通信業務
URL https://www.ntt-east.co.jp/

(左から)
総務人事部
人材開発部門
能力開発推進担当
主査
丸山浩之さん

総務人事部
人材開発部門長
飯沼浩規さん

総務人事部
人材開発部門
能力開発推進担当
担当課長
真下実輪子さん

総務人事部
人材開発部門
能力開発推進担当
紅野かおりさん


 

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