事例 No.122 水戸農業協同組合 事例レポート(中堅社員教育)
(企業と人材 2017年12月号)

中堅社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

アセスメントツールを用いた研修で
コミュニケーション力向上を図る

ポイント

(1)JA自己改革により、全国均一のサービスを提供できる組織から、それぞれの強みを活かして地域ニーズに応えていける組織へ。職員の意識改革をめざし、アセスメントツール「Everything DiSC」を使った研修を実施。

(2)DiSCは、「主導」、「感化」、「安定」、「慎重」という4つの行動特性のバランスで、各人のスタイルを測定。それに基づいて、動機や欲求、その結果表れる行動を分析していく。

(3)研修では、事前に自分の行動特性のスタイルを測定したうえで、「自分を知る」→「相手を知る」→「相手にかかわる」という流れで、コミュニケーション力向上を図る。

農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化などを実現するために、全国の農協が取り組んでいる「JA自己改革」。水戸農業協同組合(以下、JA水戸)も、八木岡努代表理事組合長のリーダシップのもと、改革に積極的に取り組んでいる。
その一環として、「人づくり」に焦点をあて、アセスメントツールを活用したコミュニケーション能力向上の研修を導入。人材育成にかける八木岡さんの思いのほか、導入過程や内容、研修受講者の声などを紹介する。

地域で一番に信頼される組織をめざす

北海道に次ぐ農業生産県である茨城県。地理的に平野部が多く、温暖な気候であることから、多彩な作物が生産でき、メロン、水菜、鶏卵など12品目が農業産出額で全国1位となっている。東京から約100km、東北・北陸にも近いなど流通拠点としての条件もよく、東京の卸売市馬のシェアは12年連続トップだ。

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そうした恵まれたエリアのなかでも、茨城県の中央部に位置し、県都の水戸市を中心に、大洗町茨城町、城里町(常北地区、かつら地区)の1市3町をエリアとするのがJA水戸だ。「貢献・絆・信頼」を経営理念に、職員数435名、組合員は約2万3,000人(2017年1月現在)を抱える。
「地域で一番に愛され、一番に信頼される組織をめざしています」と、2012年に代表理事組合長に就任した八木岡努氏は組織のめざす姿を語る。
JAの事業は幅広く、大きく5つの事業に分けることができる。そして、それぞれに対応して中央会および連合会が設置されている。
このうち中央会は、JA全体のリーダー的な存在で、全国のJAや連合会の指導、情報提供、監査、農業政策への提言などを行っている。また、経済事業については、全国組織として全農、各都道府県の全農県本部とJA経済連とで行われている。そのほかに以下の3つの連合会がある。
・信連(組合員などから貯金等を預かり、貸し出しを行う信用事業)
・共済連(組合員・利用者に生命と損害の両分野の保障を提供する共済事業)
・厚生連(病院等の運営や健康診断、高齢者に対する介護などの保健・医療・福祉事業)
各地のJAは、それぞれの事業ごとにある都道府県単位の連合会(県連)と密接にかかわりながら、事業を推進している。そうした構造をもつJAが、農業者の所得増大、農業生産の拡大、地域の活性化などを実現するために実施しているのがJA自己改革だ。八木岡さんは改革において、一人ひとりの意識の大切さを説く。
「全国には約650のJAがあり、これまでは連合会の指導に支えられ、全国どこでも均一のサービスを提供してきました。それがある意味、強みであり、求められていたことですが、いまはそれぞれの組織でそれぞれの強み・弱みを活かし、独自性を出して地域のニーズに応えていくような自己改革が求められています。
そこで大切なのが、職員一人ひとりの意識改革です。JA水戸が今後、どういう方向に進んでいくか。同一の価値観のもとで、いかに地域に貢献できるか。職員一人ひとりが考え、力を発揮していくことが必要なのです」

農協改革に向け、最優先課題は「人」

「一人ひとりの力の大切さ」を強調する八木岡さんは、改革にあたり、「人づくり」を最優先課題にあげる。「育成だけでなく、評価制度も見直しました。人事考課をしっかりやって、努力している人が報われるような組織にしていきたい。地域の若い世代に、生涯の仕事としてJA水戸が選ばれるようにしていきたい」と改革の方向性を話す。
人づくりに注力する背景には、「高齢化する現場組合員とのコミュニケーションの活性化」と「縦割り事業から脱却し、総合力を発揮する」という課題がある。
JA水戸に限ったことではないが、農業に従事する組合員には70歳代も珍しくなく、高齢化が著しい。その一方で、JA水戸の職員は平均年齢38.8歳で、現場をまわる職員は20代、30代が中心だ。いわば「おじいさん、おばあさんと孫」のような年齢差で、話を聞きに行っても本当に必要としていることが把握しづらいケースも少なくないという。年齢的なギャップを超え、いかに現場としっかりコミュニケーションを図り、ニーズを掘り起こしていくかは、すべての事業に共通する課題となっている。
JAの上記事業は組合員の生活のあらゆる面にかかわっているため、実際の現場では、たとえば営農指導に行った担当者が共済の相談を受けたりすることもある。現場で求められることはさまざまで、それらに柔軟に対応していく力や、発信していく力も求められている。
「現場で要望をうかがうときにも、『何かありますか?』では、何も出てきません。そうではなく、相手が言葉にできていないことを引き出すような聞き方をする必要があります。そのためには、信頼関係を構築することも大事ですし、相手の立場に立って考える力も強化する必要があります。そうしたことができる職員が多くなるほど、結果として組織の力になると思っています」(八木岡さん)
職員同士や組合員とのコミュニケーションだけでなく、系統団体である県連や県内にあるほかのJAとの情報共有や連携も欠かせない。多方面にわたって、円滑なコミュニケーションができる力が必要だ。
「JAの事業は多岐にわたります。地域の方のニーズは農業の生産部門だけではないのですが、事業ごとに縦割りになってしまっているのが現状です。そこに横串を刺して連携していき、総合事業としての良さを出していきたい。自分の担当以外のことは関係ないというのではなく、総合事業体としての強みを活かせる人を育てたいのです」
八木岡さんはそのように、人づくりに対する思いを語る。

4つの行動特性で分析するDiSCモデル

そこで八木岡さんが導入を検討したのが、「EverythingDiSC」というアセスメントツールを活用した研修プログラムである。
これは、1920年代に米国の心理学者ウィリアム・M・マーストン博士により提唱されたDiSCモデルに基づいたアセスメントで、日本ではHRD株式会社が販売元となっている。D(主導)、(i感化)、S(安定)、C(慎重)という4つの行動特性のバランスで、人の動機や欲求、その結果表れる行動を分析していくもので、それぞれの特性のポイントは図表1のとおりだ。

図表1 DiSCモデルの4つの行動特性

図表1 DiSCモデルの4つの行動特性

設問に回答してくことで、自分のスタイルが導き出され、それに基づいて「モチベーション要因」など、さらに詳細に自分の特性が分析されていく。ただし、DiSCアセスメントで測定すると、誰もがDiSCの4要素を組み合わせたスタイル、つまり、1つの要素だけではなく、2つ、なかには3つの要素が突出している人もいる。
このアセスメントのもっとも基本的な考え方は「人はそれぞれにスタイルが異なるが、それは決して間違いではない」ということを理解しようという点にある。これをお互いが理解することによって、社内における部門間・部門内のコミュニケーションがより良いものとなり、健全な組織を築くことにつながる。

課長候補、渉外担当を対象に研修を実施

DiSC研修の開催はすでにいくつかのJAで始まっているが、JA水戸が試験的に実施したのは2016年5月であった。
このときの受講者は、一般職から支店長、課長、部長と幅広い職員を対象に、13人を選抜。八木岡さんは、「当初は、説明を受けたものの、中身はあまりよくわかっていなかった。正直、未知数でした」と率直に振り返る。
「けれども、じつはかなり以前に受けたことがあるという職員が何人かいて、彼らの感想は皆『良かった』というものでした。意味がなかったなどという人は皆無で、それを聞いて、試してみる価値はあると考えました」(八木岡さん)
研修の企画・実施を担当した総務管理部人事課課長の添田茂治さんも、次のように語る。
「経験者がいたこともあり、スムーズに実施できました。研修は盛り上がりましたし、研修後も職場で話題になっていました。反響は大きかったですね」
受講者は分析内容の精度の高さに驚いていたという。以前に受講したことがある職員の分析結果が前回とほぼ同じだったことも、継続的な研修実施を決断する決め手となった。
2回目の研修は、2016年12月に実施した。このときは、34〜45歳の課長候補に相当する層を対象に、17人を選抜して実施。続いて3回目は、2017年5月に実施。今度は「次代を担う職員に気づきを与えたい」(添田さん)として、25~38歳までの一般職を対象として19人が選ばれ、研修に参加している。このときは、前述の世代間ギャップ問題への対応策という点から、ライフアドバイザー、マネーアドバイザーといった渉外担当者を中心に受講者を選抜したという。
初回は半日間のコースだったが、2、3回目は1日間の研修で、スケジュールもほぼ共通である(図表2)。講師を務めたのは、この研修のJAへの普及を推進する一般社団法人農協協会の特別相談役で、Innerbrain株式会社代表取締役の村田興文氏である。

図表2 DiSC 研修のプログラム概要

図表2 DiSC 研修のプログラム概要

午前中は、座学でDiSC理論を理解したのちに、自分のスタイルをより詳しく知るワーク。4つの行動特性のうち、自分はどれが強いのか。受講者は事前にウェブ上で質問に答え、測定を行って
くることになっており、研修開始時には自分のスタイルに関する測定結果を手にしている。研修当日はそれを用いて「当てはまっているかどうか」を確認し、さらにさまざまな設問に答え、自分の行動志向を深堀りしていく。
午後は、まず他者を知るワークである。相手がどのスタイルかを見分けるためのポイントを学び、ビデオを見て登場人物のスタイルを当てたりする。
そのうえで、自分のスタイルを基点として、どのスタイルの人にはどのような対応をしたらよいのかを学んでいく。ビデオのやりとりを見て取り入れたい点をまとめたり、自分とは異なるスタイルの人とグループを組み、その人の取り入れたい部分をまとめたりするワークを実施。最後は、スタイル別のグループごとにアクションプランをつくって発表するという流れだ。
「受講者からは、相手によってどうアプローチしていけばいいかとか、相手とどんな違いがあって、どう適応すればいいかがわかるようになったという感想が寄せられています」
添田さんは手応えを感じているようだ。

「自分を知る」ことから組織を変えたい

試験的実施を含め、DiSC研修を3回やってみて感じたことを、八木岡さんはこう語る。
「まず、自分をよく知ることができるという点が、最大の魅力。自分を客観的にみることで、自分の強い部分とそうでない部分がわかります。強みがわかれば自信にもなるし、それを活かそうとします。そうではない部分は克服しようとするきっかけになります。
そして、もう1つの良い点は、相手のことがよくわかるようになること。その結果、組織間のコミュニケーションが円滑になり、組織力の強化につながることが期待できます」
さらに八木岡さんは、この研修を「従来から行われているスキルを習得する研修を担保するもの」と位置づける。
「だれもが同じレベルでサービスを提供できるように、これまでもスキル重視の研修は実施してきていますが、DiSC研修のテーマはコミュニケーション力。その力が養われることで、まずは横のつながりを強くしたい。
総合事業としての良さを活かし、連携して仕事を進めるためには、ふだんの人間関係が重要です。それには組織の風通しを良くすることが第一。風通しが良くなれば結果的に効率も上がりますし、店舗にいらしたお客さまも雰囲気の良し悪しを感じるはずです。
そのようにして、コミュニケーションを改善するサイクルをまわしていけば、やがてはリーダーシップやマネジメント力の強化につながっていくと期待しています」(八木岡さん)
今後の研修活用のイメージとしては、新入職員時、中堅になってから、そして幹部候補になったときというように、節目の各段階で実施することで、各人の成長度合いを確認したり、あるいは部下育成の参考にしたりと、人事ツールとして活用していくことを検討している。

▲第3回 DiSC 研修の様子(右も同じ)
▲第3回 DiSC 研修の様子(右も同じ)

▲第3回 DiSC 研修の様子

一方で添田さんは、課題もあるという。
「有効利用のためには、組織としてDiSCを理解しておくことが必要です。それに1回やっただけでは、しばらくすると意識が離れてしまうかもしれないので、節目でフォローアップができるよう、研修を内製化する必要性を感じています」
折しもJA自己改革により、研修についても各JAで独自性を出すことが求められている。添田さんは次のようにも述べる。
「業務が多彩であるなか、いかにJA水戸として体系化された研修プログラムを作成し、実施できるか。そのなかでDiSCについても検証を続け、今後全職員に受けさせるかどうかを検討していきたい。受けさせること自体が目標になるのではなく、受けた人が『次も』となり、自身を確認することで好循環になるような取り組みが必要だと思っています」。
農協協会でDiSC研修の普及推進を取りまとめる農業協同組合新聞・営業企画部長の佐々木毅さんは、「組織を強くするには、2つの方法がある」として、こうしたアセスメントを活用した研修のメリットを語る。
「1つはシステムをつくって組織の機能を強くすること。もう1つは組織を構成する人を強くすること。後者の手段が研修です。専門性を高める定型的な研修も大事ですが、それだけでは不十分です。DiSCのような非定型研修、すなわち、人を見ていく研修をすることで、組織は強くなるでしょう。
組織に必要とされるリーダーシップ、ファシリテーション、コーチング、これはすべてコミュニケーション力です。ここを強化することが重要で、その方法としてDiSCは有効です。JA単体での研修の内製化への支援を含み、今後も農協を側面から支えていきたいと思います」(佐々木さん)
子どもたちへの食育にも注力しているJA水戸。「農畜産物の提供」という役割だけでなく、「こんなところで働きたい」と思うような人づくり、組織づくりに向けて、挑戦は続く。

(取材・文/江頭紀子)


 

 

DiSC研修(第3回)を受講して

河野睦美さん

JA水戸渡里支店マネーアドバイザー
河野睦美さん

私の仕事は信用渉外です。具体的にはマネーアドバイザーとして、年金や貯金に関してお客さまの相談にのっています。お客さまは農家の方だけでなく地域の方すべてが対象で、ほぼ毎日、お客さまを訪問しています。
私は初任配属の支店が長く、いまの支店には3年前に異動してきました。ただ育児休暇を挟んでいるので、実質1年ちょっと。以前務めていた支店であればお客さまの顔もほとんどわかっていて話しやすいのですが、異動後に訪問するのはほとんど初対面のお客さま。契約のない方を訪問することもあり、その瞬間瞬間でどんな方か見極めるのは、本当に難しいと感じています。
その意味では、DiSC研修はとても役立ったと思います。たとえば、自分がいいと思ってお勧めしている商品でも、相手にとってはそうではないなど、その方の本当のニーズをつかむことが大事だということです。
また、相手は変えられないけれども、自分は変えられるので、臨機応変に対応していくこと。「この人とは合わないから」と受けつけないのではなく、「そういう考え方もあるんだ」と受け入れていくことの大切さも実感しました。そうやっていろいろな意見を取り入れていくことで、職場内のチームワークができ、お客さまともコミュニケーションがしっかり図れていくのだと思います。
DiSCは、自分の上司が受けていて「面白かった」と聞いていたので、それほど抵抗感なく受けることができました。事前にパソコンで入力し、その結果を見て「こんなに細かく分析されているとは!」と驚きましたが、内容については、とても納得できるものでした。私はSCスタイルで、「熱意があってもチャレンジしていない」ことがわかったので、渉外の仕事をするうえでは、ここは克服しないと、と思っています。
同僚たちについても、ふだん積極的な人はDだったりと、「この人はこうだろうな」と思う人がまさにそのスタイルで、アセスメントの正確さに驚きましたね。ふだん集まっている人が同じスタイルだったりして、似た人たちはなんとなく固まることがみえたのも面白かったです。
研修当日、午前中の座学では聞き慣れない言葉もあり、難しさも感じましたが、午後のグループワークは、同じグループで話をしていると似たような意見が出るなどして、楽しく受講できました。同僚たちと結果を見せ合うのも楽しかったです。受講したことから得られた学びを業務に活かし、これからも頑張りたいと思います。

▼ 会社概要

社名 水戸農業協同組合
本社 茨城県水戸市
設立 1993年8月
出資金 29億5,221万円
販売高 70億5,500万円(2016年度・農産物)
職員数 435人(2017年1月31日現在)
事業案内 農作物の販売、営農指導、信用・共済事業など
URL http://www.mt-ib-ja.or.jp/

(左)
代表理事組合長
八木岡努さん

(右)
総務管理部
人事課 課長
添田茂治さん


 

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