事例 No.052 大日本印刷 特集 実務につなげる中堅社員教育
(企業と人材 2016年3月号)

中堅社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

行動指針「対話と協働」をベースに、1年間かけて
異職種チームで新規事業や働き方の変革を会社に提言

ポイント

(1)中堅層に対しては、管理職手前の上級職への昇格時に「新任上級職研修」を実施。経営に近い立場になる社員としての心構えと、職場でのリーダーシップ発揮について学ぶ。

(2)新任上級職研修後に、約7カ月間の「フォローアップ研修」を実施。部門横断的に約50チームが編成され、外部コンサルタントの指導を受けながら、会社への提言をまとめる。優秀作は経営トップに発表する機会を与えられる。

(3)長時間労働を廃し、能動的に付加価値の高い仕事をしていくための「働き方の変革」を進める。顧客の課題を見つけ出すソリューションビジネス実践研修や、女性が活き活きと自立して働くための女性活躍推進ミーティングなど、人材育成面からも意識改革に取り組む。

「対話と協働」を掲げ、多角的に事業展開

1876(明治9)年、「文明の業を営む」を社是に、「秀英舎」という社名でスタートした大日本印刷株式会社(DNP)。印刷技術がまだ木版印刷であった明治初期、大量印刷が可能な活版印刷で広く文明を広げようという志で創業した。以降、書籍や証券印刷のほか、戦後は食品などのパッケージ印刷を開始。1951年には壁材印刷等を行う建材分野にも進出。さらに、1958年には、活字をつくるための微細エッチング技術を応用し、カラーテレビ用シャドウマスクの試作に成功、カラーテレビの国産化を可能にするなど、わが国の文化・文明の発展に貢献している。
創業時の精神が引き継がれた現在も、出版や商業印刷をはじめ、証明写真事業やICカードの製造、ビッグデータの解析なども行う「情報コミュニケーション部門」、各種包装材、住宅や施設などに使われる建装材などの製造のほか、空間設計の提案も行う「生活産業部門」、液晶カラーフィルターや光学フィルムをつくる「エレクトロニクス部門」の3部門で、多角的な事業を展開している。
2015年には「企業理念」、「事業ビジョン」、「行動指針」の3つを織り込んだ「DNPグループビジョン2015」を策定、DNPグループのあらゆる活動を支えるものと位置づけた(図表1)。

図表1 DNPグループビジョン2015

図表1DNPグループビジョン2015

具体的には、「人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する」を企業理念に据え、印刷機能と情報機能の革新により、「知とコミュニケーション」、「食とヘルスケア」、「住まいとモビリティ」、「環境とエネルギー」の4つの成長領域を軸に事業を拡げていくことを事業ビジョンとし、行動指針としては「対話と協働」を掲げて、さまざまな人との対話を促している。
研修部部長の芝田和明さんは、「とくに、社員の日常の行動において、この“対話と協働”を重視しています」と強調する。それにより、新たな創造が生まれるとの考えからだ。
「世の中がどう変わるか、頭のなかで考えていてもわかるものではなく、いろいろな人と対話をすることにより、気づきが得られ、他者との協働も生まれてきます。そしてそれが、われわれがメッセージとして発信している“未来のあたりまえをつくる。”ことにつながると考えています」
DNPグループは、2000年ごろまでは、いわば黒子に徹して産業界を支えていた。しかし、「これからは産業界だけでなく、広く一般生活者にも事業内容を理解してもらい、身近に感じてもらいたい」(芝田さん)と、現在は自分たちの事業や思いを発信することに注力している。

変革に向けてチャレンジできる人を育てたい

この背景には、他業界同様、事業環境の変化がある。印刷業界ではデジタル化が進行し、市場が全世界に広がる一方で、印刷と密接に関係する出版業界には大きな変化が訪れている。また、少子高齢化によりさまざまな食品パッケージも需要減が想定される。エレクトロニクスに関してはとくに進化が速く、韓国、台湾、中国企業との競争も激しくなっており、研究開発・設備投資は欠かせない。
「製品やサービスのライフサイクルが短くなってきているなかでは、新しいものもすぐに陳腐化してしまいます。ですから、いち早く次につながるものをみつけ、またわれわれ自身の事業がどうあるべきかを考えていかねばなりません。中堅社員には、そうした会社の未来をしっかりと考えられるようになってほしい。ビジョンのなかでは、会社は具体的に何をつくれとはいっておらず、非常に抽象度が高くなっていますが、それは対話をしながら自分たちで考えてほしいという思いがあるからです。
ビジョンを組織のなかにしっかり浸透させ、社会が求めていることを実際のビジネスに反映させられる人材、つまり、新たな事業戦略を考え実行できる人、変革に向けてチャレンジできる人を育てることが、非常に重要になってきています」と、芝田さんは求める人材像を描く。

図表2 大日本印刷の階層別研修体系(必修・2015年度)

図表2大日本印刷の階層別研修体系(必修・2015年度)

そうした人材を育てるために、DNPグループでは多彩な研修制度・仕組みを用意している。研修制度は、芝田さんが部長を務める本社研修部が行う研修と、事業部やグループ会社が主催する研修の大きく2つに分かれる。研修部が行う研修は、リーダーシップ研修などすべての部門に共通する汎用性の高いもので、「知恵や気づきを提供する」との位置づけだ。
一方、事業部やグループ会社が主催する研修は、OJTや実務研修など各職場で必要な知識やスキル、あるいはその部門の課題に沿ったものを実施。事業部およびグループ会社ごとに「教育委員会」が組織され、各組織のトップが委員長、総務部長が事務局長、本部長クラスの社員が委員となって運営されている。
研修部で行っている研修の全体像をみると、階層別研修、職種・テーマ別研修、eラーニング、通信教育の4つを柱とする体制になっている。階層別研修は図表2のとおりであるが、今回のテーマである中堅層を対象としたものは、「新任上級職研修」および、それに続く「新任上級職フォローアップ研修」が該当する。
他方、職種・テーマ別研修は、スタッフ職、営業職、企画開発職、研究開発職、技術開発職、生産管理職、製造技能職の7職種に区分され、それぞれ選択あるいは選抜型で実施される。さらにeラーニングは、「内部統制の基礎知識」、「知的財産ケーススタディ」など40講座を用意。研修部から対象者をピックアップして受講させるようにしており、1人1回の受講が基本だが、「情報セキュリティ」、「個人情報保護」など最新情報を知っておくべきものについては内容を変え、繰り返し受講を促すという。通信教育は、業務に関する内容を中心に広く200講座を用意し、自己啓発を促す。修了すれば受講費が補助される。

経営マインドを養う「新任上級職研修」

それでは、中堅社員を対象とする「新任上級職研修」と、これとセットで実施される「新任上級職フォローアップ研修」について詳しく説明しよう。これらは、入社10~12年目くらいの、新任上級職(組合員から非組合員になる移行過程の層、平均年齢は35歳くらい)の社員が対象で、導入してすでに四半世紀を超える。「新任上級職研修」は全職種を対象に上期に行われ、「新任上級職フォローアップ研修」は同じ年の下期から翌年度にかけて、製造技能職以外の部門を対象に行われている。
まず、「新任上級職研修」についてだが、上級職となった社員に対し、経営に近い社員としての心構えをもってもらうと同時に、職場においては管理職の補佐として組織を牽引できる人材になってもらうことを目的としている。研修は1泊2日で行われ、1回の参加者は40人前後。これを1シーズンに10回から12回、東京と大阪で実施する。全部で400人から500人近くが受講する(図表3)。

図表3 新任上級職研修のプログラム

図表3新任上級職研修のプログラム

内容としては、まず意識を変えるために社長の訓示からスタートし、その後、本社各部門長による人事・労務制度、歴史と現況、DNPグループビジョン、事業戦略、企業倫理や情報セキュリティ・CSR活動などの講義が行われる。グループディスカッションも行い、DNPグループの今後の事業展開やそれを実現するための「働き方の変革」について、受講者それぞれの立場で考え討議させることで、新たな気づきを得、行動変容できるよう促している。
初日の講義終了後には、懇親会を開催。この場には、副社長、専務、本社の各部門長(講師)も参加し、経営トップとの「対話」の機会を設けることで、受講者に強い動機づけを行っている。
「副社長や専務にとっても、中堅社員の考えを聞く場になっています。社員は自分たちの思いや考えを伝えるチャンス。講義自体は、経営側の一員となることへの心構えや自社を再確認する場として機能しています」と芝田さんは意義を語る。

部門横断のチームで事業や働き方を提言する「フォローアップ研修」

図表4 新任上級職フォローアップ研修の全体スケジュール

図表4新任上級職フォローアップ研修の全体スケジュール

その新任上級職研修の受講者たち(製造技能職以外)が、チームに分かれて取り組むのが「新任上級職フォローアップ研修」である(図表4)。こちらは、毎年10月から次年度前半にまたがる長期間のプログラムだ。これまでよりも高い視点と広い視野をもち、新任上級職に期待される意識と行動をしっかりと身につけるのが目的で、チームで課題に取り組む活動となる。
異なる部門と職種で編成されたメンバーでチームを組み、チームごとにテーマを決めて数カ月間議論を重ね、年度末に提言を提出する。半年以上にわたる活動を通じ、受講者はリーダーシップやフォロワーシップ、対話の重要性を学ぶ。さらには社内外の人脈形成を行い、DNPグループ全体のリソースについて理解を深めてもらう。
提出された提言は、外部コンサルタントと本社の部長が審査し、4月中旬に各チームに講評をフィードバックする。この時点で研修としてはいったん終了となるが、講評で優秀とされたチームには、さらに社長および経営陣の前で提言を発表する機会が与えられるという。
テーマは「新規事業立案」、「働き方の変革」、「生活者視点での当社の活動」の3つのカテゴリーから1つを選び、各チームが設定する。
ステップ1では、外部コンサルタントによる動機づけとテーマ検討の研修を2日間にわたり実施。ステップ2では、ステップ1で作成したテーマ活動案に対し、外部コンサルタント4人が各チームに直接指導をする。さらにステップ3では、中間発表が行われる。各チームの発表に対し、コンサルタントおよび他チームのメンバーが質問するチーム討議で、ブラッシュアップを行う。ステップ2および3も1日研修を複数回実施している。そして最終的に、経営陣に提言を出すという流れだ。
全部で約50チームにもなるが、経営陣への提言発表ができるのは3~4チームという狭き門である。トップに認められれば、該当部門に提言企画が引き継がれ、具体化の検討に入る。過去には「事業化」したものもあれば、「社内制度」として運用されているものもあるそうだ。
「選出にあたっては、実現に向けての思いなども加味しながら行っていますが、あくまでもこれは研修の一環であり、事業化が目的ではありません。そこを勘違いしないように、チームとしてのコミュニケーションを深めたり、他部門へのヒアリングなどで対話の機会をつくり人脈を広げていってもらいたい。
新しい事業領域や制度を考えるには、相当自社を研究しなくてはなりません。いままでは自分の業務周辺のことを考えていればよかったわけですが、今後は会社全体のことを考える視点が大事。その視点も養ってもらいたいと思っています」と芝田さんは研修のねらいを話す。
フォローアップ研修はグループ会社も含めて行うため、メンバーが全国に散っていて簡単に集まれない場合もあるが、テレビ会議の利用など、各チームで工夫を凝らして議論を深めているという。
なお、このフォローアップ研修に参加しない製造技能職の人たちには、別途、製造班長研修、係長研修を実施している。

「働き方の変革」につながる人材育成へ

同社には、そのほかにも中堅社員が対象になっている研修プログラムがいくつかある。
職種別研修のなかでは、製造部門以外の営業職、企画開発職を対象とした「ソリューションビジネス実践研修」がある。これは、入社5年目以上の若手から中堅クラスが対象で、1日研修と2日間研修の2種類がある。1日研修は、お客さまの課題を引き出す手法を学ぶもの。これに対し2日間研修は、課長と部下の社員が2人一組になって参加し、実際に現場で発生している業務課題を研修に持ち込んで、研修講師の指導を受けながら、より戦略的な課題解決策を見出すというものだ。
また、女性幹部の養成および女性活躍支援を踏まえた制度やプログラムの構築にも力をいれているという。同社グループにおける女性管理職比率は現在2~3%。それをいかに引き上げるかが課題だが、そもそも「ロールモデルがいない」との課題があった。
そのため、「メンター育成プログラム」として、まず中堅層の女性社員に対し、直属ではない事業部長・本部長クラスをアドバイザーという位置づけで結びつけ、同じ職場では相談しづらい悩みや後輩の指導、ワーク・ライフバランスのあり方まで、話ができる時間を設けている。まずは彼女たちをメンターとしてしっかり育成し、そこからメンティである若手社員の成長促進に広げていこうと考えているとのことだ。
同社はまた、この間継続的に、「働き方の変革」活動に取り組んできた。「時間資源の創出」を掲げて2009年からスタートしたこの取り組みは、2013年からはさらに「創出した時間の有効活用とそのことによる新しい付加価値の提供」を目標として再スタートし、進められている。「ソリューションビジネス実践研修」で待ちの営業姿勢から主体的に顧客の課題を引き出すことを学んだり、女性活躍支援に取り組むことも、この「働き方の変革」活動につながっている。

今後も受け身体質の改革を進める

紹介してきたように、DNPグループにはすでに多彩なプログラムが整っているが、芝田さんは「世の中がどう変わるのかを考えながら、変化に果敢にチャレンジする人材を、教育や研修だけでなく、さまざまな制度や組織も含めて考えて、つくっていかねばなりません」と、組織として包括的に考えていく必要性を語る。すでに自己申告制度、社内人材公募制度、グローバル研修制度など多彩な制度が導入されているが、変化に応じて柔軟に対応していくことも視野にいれているようだ。

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さらに今後の課題についてこう語る。
「まずはお客さまの課題に対して応えられる人材の育成が必要です。ただ今後、『人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する』企業をめざすには、生活者の指向や行動を把握することが欠かせず、そのためには、より能動的に動く必要があります。BtoBビジネスを行ってきたわれわれは、これまで生活者視点に立つということに慣れていなかったこともあり、“意識の変革”がキーワードになるでしょう。そう考えると、意識変革は中堅社員だけでなく、それを指導する上司にも必要です。新しいことへのチャレンジの芽を摘まない組織になるよう、研修でも促していきたいと思います」
DNPグループが大事にしている「対話と協働」の「対話」について、同社の北島義俊社長は常々「自分の思いをただ発するのではなく、むしろ相手が何を望んでいるのかしっかり聞く耳をもとう」と社員に呼びかけているという。
「トップのいう“対話”ができる人材をつくって、これからの50年、100年に向けてどうしていくべきか、自分事として考えられる人を増やしていきたい」と芝田さんは意欲的に語る。人への投資が企業存続に欠かせないことを体現している事例といえそうだ。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要(2014年6月1日現在)

社名 大日本印刷株式会社
本社 東京都新宿区
設立 1894年(創業1876年)
資本金 1,144億6,400万円
売上高 1兆4,559億1,600万円(連結・2016年3月31日現在)
従業員数 10,697人
平均年齢 40.1歳
平均勤続年数 16.3年
事業案内 出版印刷などの情報コミュニケーション事業をはじめ、ディスプレイ関連製品などのエレクトロニクス事業、生活・産業関連事業など
URL http://www.dnp.co.jp/

研修部 部長
芝田和明さん


 

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