事例 No.050 住友電装 特集 実務につなげる中堅社員教育
(企業と人材 2016年3月号)

中堅社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

資格・役職に求められる人材要件を整備し、
中堅社員研修や異業種交流研修などで「心・技・体」に基づき育成

ポイント

(1)入社5年目を対象とした「中堅社員研修」では、縦・横のコミュニケーションを取りながら情報を集め、曖昧な指示に対応していくなど、中堅社員に求められるやり方を学ぶ。

(2)資格・役職ごとに求められる行動基準を明文化した「人材要件」を整備し、昇格時研修などの場で徹底して教え込む。

(3)他社と行う異業種交流研修や海外トレーニー制度で新たな刺激を与えることで、自分と異なる考え方や視点を発見し、視野を広げる。

「心・技・体」に基づきトータルに人材を育成

自動車のさまざまな製品に電力や信号を伝えるワイヤーハーネスのリーディング・カンパニーとして知られる住友電装株式会社。1917年に電線製造会社として創業して以来、その歴史はまもなく1世紀に達する。
戦後、クルマ社会の到来を見据えて自動車用ワイヤーハーネスの開発に着手し、高速化、軽量化、省エネ化などのニーズの変化に対応してきた。電線、コネクタからエレクトロニクス製品まで、社内で一貫して開発・生産する「フルシステムサプライヤー」を特徴とする。

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同社の製品は世界中の自動車に搭載され、生産のグローバル化も進んでいる。欧米、アジア、アフリカなど、海外拠点は30カ国以上におよび、いまや海外での生産が9割以上を占める。
同社が掲げる人事理念・人事方針は次のようなものである。
[人事理念]
一人ひとりの可能性を信じ、一人ひとりのチャレンジスピリットに共感し、一人ひとりが前向きに働くことのできる企業文化を創造していきます。
[人事方針]
(1)自主性を尊重します。
(2)業績主義を促進します。
(3)多様な人材を育成します。
これらに基づき、人づくりの3側面「心・技・体」をトータルに伸ばす人事・教育施策を、全社一丸となって推進している(図表1)。人材開発部能力開発グループグループ長の神口一将さんは、こう説明する。
「『心』は、住友電装グループ全体の共通の価値観である『SWSWAY』を理解して事業のグローバル展開に対応していくこと。『技』は、専門知識や技術を習得すること。そして『体』は、体験や経験を積むことを意味しています」

図表1 「心・技・体」に根ざした人材育成

図表1 「心・技・体」に根ざした人材育成

「SWSWAY」とは、「これまでに伝承されてきた仕事に対する基本的な考え方や取り組み姿勢といったDNAを、今後グローバルに拡大、発展し、顧客の要求に応えていくために必須のこととして、2005年に明文化した」行動原則だ。この考え方をまとめた冊子は21カ国語に翻訳され、世界中の関係会社社員に配布。各国の歴史や文化・習慣を尊重しつつ、世界同一水準の品質を保つDNAとして、浸透させている。
同社は組織がフラット化しており、係長といった役職は存在しない。総合職の若手・中堅は、入社1〜3年目はG-1、4〜8年目はG-2、9年目以降はG-3といった3つのグレードに分かれる。G-3のなかにはチームリーダーがおり、その上に課長以上の役職者が続く。
同社の中堅社員は、入社4〜10年目くらいを指すため、G-2の社員とG-3の一部社員が該当する。なお、チームリーダーは管理職(基幹職)一歩手前の社員をいい、入社13、14年目くらいの社員となる。
中堅社員に期待される役割としてあげているのは、(1)実行部隊としての業務遂行能力、(2)後輩の指導育成力、(3)組織管理に向けた目線(組織の方針を上から下に橋渡しする役目)の3つである。
同社の教育体系は図表2のとおりだ。中堅社員向けの教育プログラムとしては、文字どおり「中堅社員研修」と銘打った入社5年目社員に対する研修、G-1からG-2へ、G-2からG-3へ上がる際の昇格時研修のほか、各々の職務に必要なスキルを身につける選択型研修などがある。また、G-2およびG-3の社員を対象とする異業種交流研修、入社3〜10年目の社員を対象とする海外トレーニー制度もある。以下、それぞれについて詳しく紹介する。

図表2 住友電装の教育体系

図表2 住友電装の教育体系

チームメンバーと課題に向き合う中堅社員研修

まずは、入社5年目の総合職社員に向けて実施している「中堅社員研修」についてである。これは2日間の集合研修で、後述する海外トレーニー制度で出向している社員を除く全員(中途採用者も含む)が対象だ。
研修の目的は、前述したような中堅社員として期待される役割を一人ひとりに自覚してもらい、必要な言動を考えるきっかけを与え、スキルを学んでもらうことだ。
ちなみに同社では、入社すると1カ月半の新入社員研修を受けたあと各職場に配属となり、半年後に海外工場研修、1年後にブラッシュアップ研修を実施。そのほかは、プレゼンテーションスキルやロジカルシンキングといった、ビジネススキルの選択型研修が中心となるため、全員を対象とする研修は数少ない。
そのようななか、5年目という節目で行う中堅社員研修は、入社後4年間の経験を踏まえて、会社のなかでさらに重要な役割を担うための自覚を新たにするとともに、後輩が増えていくなかで、より広い視野をもってもらうための意識づけにもなる。また、生産が海外にシフトしている状況で、国内社員に求められる使命について考える契機にもなっている。
1回の参加者は20人ほどで、4〜5人に分かれてグループワークを中心に進めていく。少人数で行っているのは、密度の濃い研修にするためだ。
中心は、組立ブロックを活用したゲーム形式のロールプレイングだ。時間内で求められる品質のブロックを完成させるというもので、ポイントは、最初からすべての情報を全員に与えるのではなく、曖昧な指示や少ない情報で、みんなで協力して課題に取り組むようにしている点だ。
たとえば、制限時間をチームの1人だけに伝える、課題遂行に必要な情報を1人にしか伝えないといったように、さまざまな制限を課す。人材開発部能力開発グループチームリーダーの古谷健一さんは、このねらいを次のように説明する。
「中堅社員には、上からの指示を下に伝えたり、仲間同士で情報を交換したりすることが必要になります。このロールプレイングでは、縦・横のコミュニケーションを取りながら、お互いがもっている情報を寄せ集め、曖昧な指示に対応していくやり方を学びます。取り組んでいるうちに、『言われている指示は、こういうことだったんだ』と気づいたり、少しでもいいものを仕上げるために、積極的にコミュニケーションをとるようになったりします」
でき上がった作品は当然、グループごとにばらつきが出る。そのときも、うまくできたグループはどのような点を大事にして作業を進めたのか、うまくいかなかったグループは何が足りなかったのかを、グループや全体で振り返る。その過程でもさまざまな気づきがあるそうだ。最後は、各人がアクションプランを作成。研修後に、そのアクションプランを基に、上司と面談を行う。
「アクションプランの作成と面談では、上司が『研修でこういう気づきを得て、こういう目標を立てたのなら、次はこんな仕事の与え方をしていこう』というように、具体的な業務のブラッシュアップにつなげられるように心掛けています」(古谷さん)

役職・資格で求められる人材要件を整備

G1からG2へ上がるのは入社4年目、G2からG3へ上がるのは入社9年目である。昇格時研修では、会社のビジョンや事業環境についてあらためて確認するとともに、新たなグレードで求められる役割について考えていく。
その際に軸になるのが、SWS WAYの内容をそれぞれの階層ごとに具体的に落とし込み明文化した「人材要件」である。神口さんは、「SWSWAYのなかに散りばめられている言葉を、体系的に要件分類して、資格・役職ごとの行動基準としてまとめたものが人材要件です」と説明する。
人材要件は、まず2011年に一般職のものを、続いて2014年に総合職・基幹職のものを策定した。その目的について、人材開発部長の八島崇さんは次のように話す。
「SWSWAYはわが社の共通の価値観です。これをもう少しかみくだいて、わかりやすくしたのが、人材要件になります。一人ひとりの立場や役割に応じて期待される行動などを示すことで、人づくりにつなげていこうとしたのです」
具体的には、抽出した人材要件を組織マネジメント、業務の推進や改善、部下の指導・育成、チームワークといった項目に分け、それぞれの項目ごとに、各資格・役職で求められる行動を整理した。同社の資格・役職は基幹職・総合職13種類、一般職5種類のため、全部で18種類の人材要件が定められていることになる。
人材要件は人事評価にも連動している。同社は目標管理制度を導入しており、評価項目の行動評価の基準が、人材要件になるというわけだ。18種類の資格・役職ごとに、各項目で求められる行動例を0〜3点のレベルごとに提示。2点が基本レベルで、0点や1点は努力が必要な行動となる。
以前はSWSWAYそのものが行動評価の基準となっていたが、人材要件が定められたことで、より基準が明確・具体的になり、公正・公平な評価が可能になったという。ただし、人材要件が定められたのは最近であり、まだ十分に浸透していない部分もある。そのため、各資格・役職の内容を解説した、30分ほどのeラーニング教材を作成。中堅社員研修や昇格時研修の事前課題としている。
昇格時研修は2日間。G-1はG-2と、G-2はG-3との人材要件の違いをしっかりと伝え、新たな人材要件を満たしていくためにはどのような行動をすればよいかを学んでいく。このうち半日を費やして行っているのが、「これまでとこれからを考える」ワークだ。人材要件の項目ごとに、自分がこれまでやってきた実績を書き出し、そのうえで、新しいグレードに上がったらどう変えていくかを書く。その後は、グループごとに各人の内容についてアドバイスをし合う。
「アドバイスを受けることで、人材要件を確認・共有することができるのはもちろん、資格が同じ者同士でも具体的な行動内容が違ったり、ほかの人のレベルの高さを目のあたりにしたりといったことがあります。そこから、自分ももっと行動のレベルを上げていこうといったような刺激を受けるのです」(神口さん)
昇格時研修ではほかに、役員による講話や、原価管理に関する講習、コンプライアンスや人権(ダイバーシティ)、品質に関する内容などがある。G-2、G-3の昇格時研修のカリキュラムはほとんど同じだが、人材要件については、講師が資格・役職に応じて伝えるなど工夫しているそうだ。
なお、一般職(技能系と事技系)については、E-1〜5まで5つのグレードがあり、E-3(班長・入社10年目以上)は総合職G-2に相当する。総合職と同様、昇格時研修・試験があるが、一般職は昇格時研修前に合宿研修を行っている。
合宿では、人材要件の確認・認識に特化し、今後新しいグレードで求められる人材要件について、ケーススタディを通じて理解していく。そして、昇格後どのように活躍していきたいかをみんなの前で発表する。この合宿を踏まえて昇格時研修では、人材要件について徹底的に学んでいくという。

選択型研修や他社との研修で学びや気づきを促す

次に選択型研修についてである。選択型研修は「推奨選択型研修」と「選択型研修」からなる。前者は27種類、後者は22種類で、合わせて49種類のメニューを用意している。
選択型研修は本人の意思に基づいて受講するもの。推奨選択型研修も考え方は同じだが、こちらは各資格・役職に上がるまでに受講しておいたほうがよい研修という位置づけだ。ただし、海外出向などにより昇格と受講のタイミングが合わない社員もいるため、昇格の絶対要件とはしていない。
前述したように、同社の人事理念には「一人ひとりのチャレンジスピリットに共感し」という文言がある。研修も一部選抜のものはあるが、基本は選択制で、社員の主体性を尊重し、やる気のある社員に機会を与え、積極的にバックアップするのが基本的な姿勢なのだ。
目標管理制度のなかにも、自己啓発目標を立てる欄があり、社員もそれを理解しているため、階層や業務内容に応じて自ら必要だと思う科目を選んだり、または上司が推奨する科目を受講したりしている。
そのほか、2年ほど前から始めた、他社と行う異業種交流研修もある。年2回、1回2日間で、輸送系会社との間で実施。1回約10人を選抜しているが、対象はG-2あるいはG-3の中堅社員だ。これは、日常業務のなかで提携先企業と話し合い、仕事を進めていく役割を担う中堅社員に、刺激を与えたいと考えたからだ。
多角的に事業を展開している相手企業とは、業態やクライアント、企業風土などがまったく違う。そのようななか、同年代の中堅社員同士で意見交換をすることで、得られるものも多い。
研修のメインはグループワークで、たとえば「もし両社が合併するとしたら、どのような事業計画を立てるか」といったテーマでワークを行う。事業計画を検討するにあたっては、両社の強み・弱みを分析し、比較検討していくが、そのなかで自社の強み・弱みに気づくこともある。
受講者からは、「異業種でも感じていることが類似していると気づき、親近感がわいた」、「自分の視野の狭さに気づいた」、「経営的な視点で物事を考える力を身につけなければならないと感じた」といった感想が寄せられている。また、「業界ではあたり前と思っていたことが、そうではないと気づいた」、「自分にはなかった新たな着眼点を身につけることができた」といった声もあがっている。
今後は、タイアップ企業を増やしたり、対象とする社員の層を拡大したりといったことも検討していきたいという。

グローバルで活躍できる社員を育成していく

「心・技・体」のうちの「体」、つまり座学ではなく経験・体験をとおして育成する代表的なプログラムが、海外トレーニー制度である。入社3〜10年の総合職社員が対象で、年間約50人を選び、世界各地の工場や製造・販売拠点に、半年から1年ほど出向させている。
ここでは、自分の所属する事業部の仕事が海外現地法人でどのような機能を果たしているかといったことを、現地駐在員の仕事に触れながら実地に体験・学習していく。出向中は1つあるいは複数のテーマを与えられ、それに取り組む。価値観の多様性を実感したり、組織マネジメントのあり方を学んだりするなど、得たことを今後のキャリア形成に活かしていくのが目的だ。
そのほか、中堅社員に求められることとしては、新入社員の教育・フォロー役があるが、同社ではそれをOJT指導員といい、入社5年目くらいの中堅社員が担っている。OJT指導員は登録制で、後輩育成研修(推奨選択型研修)を受講した後、1年間、担当する新入社員の成長を見守り、必要に応じてアドバイスなどを行う。OJT指導員制度は、20年以上の歴史をもつ同社の重要な教育支援策だ。
「OJT指導員は、新入社員が配属になれば職場の仲間として受け入れる準備をします。また、スムーズに職場に溶け込めるように配慮しながら、きめ細かく観察し、必要なときにはアドバイスなどの援助を行います。この流れは、いまも昔も基本的には変わりません」(八島さん)
このように、上と下をつなぎ、視野を広げていくことが求められる同社の中堅社員。今後の課題は、海外の現地法人スタッフに対するマネジメント力を、どうやって身につけてもらうかという点だ。海外駐在がごく普通のことになった今日、中堅社員もその例外ではない。
「G-3の社員が海外に行って現地マネージャーになるのはあたり前になりました。それより上の役職につくケースもあります。そうしたときに、何を、どうしたらいいのかを、もう少し早い段階から学べるような教育カリキュラムが必要だと感じています。
いろいろな国籍のスタッフを束ねなければいけないので、ダイバーシティの考え方を理解しつつ、自分たちのもっている知識やスキルを教える力、発信する力を鍛えていかないと、グローバルでの品質維持が難しくなります」(神口さん)
「若手・中堅層から選抜して研修を行っている会社もありますが、わが社はまだそこまではと思っています。それよりも、グローバル化が進み、海外拠点が自立してきているなかで、日本全体のレベルを上げていくことが重要です。グローバルヘッドクォーターとしての日本の存在意義を上げていくためにも、きちんとした経験値をもつ社員を育てていきたい」(八島さん)
中堅社員に向ける期待は大きく、異業種交流研修や海外トレーニーのように、さまざまな刺激を与えて、視野を広げていく取り組みをさらに拡大していく考えだ。
以上にみてきたように、住友電装では、今後ますます重要な層となる中堅社員に、「心・技・体」といった多様な側面から丁寧にアプローチをしている。社員一人ひとりの可能性を信じ、大切に育てようとしている姿勢が伝わってきた。

(取材・文/北井弘)


 

▼ 会社概要(2015年3月31日現在)

社名 住友電装株式会社
本社 三重県四日市市
設立 1917年12月
資本金 200億4,200万円
売上高 4,418億円(2015年3月期)
従業員数 6,529人
平均年齢 37歳
平均勤続年数 13年
事業案内 事業内容自動車用・機器用ワイヤーハーネスの製造販売、ワイヤーハーネス用・電気機器用部品の製造販売、自動車用電線の製造販売
URL http://www.sws.co.jp/

(左)
人材開発部
能力開発グループ
グループ長
神口一将さん
(中)
人材開発部
能力開発グループ
チームリーダー
古谷健一さん
(右)
人材開発部長
八島崇さん


 

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