事例 No.049 ブリヂストン 特集 実務につなげる中堅社員教育
(企業と人材 2016年3月号)

中堅社員教育

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

プレマネジメントと3つの研修からなるMOP4コースで
次代のマネジメント人材として中堅社員を早期育成

ポイント

(1)中堅社員にあたる開発企画職上級には、メンバーの指導・育成と組織の成果創出への貢献、管理職候補としてマネジメントスキルを身につけることを期待としてあげる。

(2)マネジメントができる人材の早期育成をめざして、「プレマネジメント」、「コーチング」、「変革対応リーダーシップ」、「意思決定/計画と組織化」からなるManagement OrientationProgram(MOP)4コースを実施。

(3)応募型・全員対象のプレマネジメント研修では、いまの課題に即したロールプレイングを実施。やりとりはビデオで撮影し、自分の癖や長所・短所を客観的に振り返る。

OJTとOff-JTを組み合わせ効果的に人材を育成

乗用車やトラック、航空機などのタイヤ製造・販売で有名な株式会社ブリヂストン。ほかに、クローラー、産業用防振ゴム、高機能化フィルム、スポーツ用品などの多角化事業も展開している。
生産拠点は世界中に171カ所(うち国内52カ所)、技術センターが6カ所(うち国内2カ所)のほか、さまざまな路面を再現したプルービンググラウンドと呼ばれるテスト施設も10カ所(うち国内2カ所)設けるなど、国際化も進んでいる。現在、海外での生産比率は約7割、海外売上高は約8割。2014年のタイヤ市場の世界シェアは14.5%で、トップを占める。

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同社では、創業者である石橋正二郎氏が掲げた「最高の品質で社会に貢献」を不変の使命として掲げ、それを実現するために従業員が常に意識する心構えとして、「誠実協調」、「進取独創」、「現物現場」、「熟慮断行」の4つを示している。
この4つの心構えは、たとえば、「誠実協調」であれば「Seijitsu-Kyocho」といったように、海外でもそのままローマ字で表記。これは、制定の際にグローバルワーキンググループで検討したところ、海外の参加メンバーから、日本発祥というアイデンティティを正しく伝えるためには日本語のままがよいという意見があり、そのまま使用することになったという。
人材育成の基本的な考え方は、「能力開発基本要領」にまとめられている。グローバル人材開発第1ユニットリーダーの後藤淳さんは、次のように話す。
「人材育成の基本的な考えは、自己啓発を前提としたOJTです。ただし、業務を離れて知識やスキルを学ぶOff-JTも必要です。そこで、OJTを中心に教育しながら、Off-JTで補完して、相乗効果で育成していくこととしています」
同社では、「企業理念」、「安全」、「防災」、「コンプライアンス」、「ダイバーシティ」など従業員として身につけておくべき基盤的知識は、「CSR研修」として、eラーニングなどを活用して毎年繰り返し実施し、定着を図っている。
そのうえで、階層別研修、選抜研修、職能研修などを実施している。なお、全社に共通する職務遂行能力・マネジメント力に関する研修は人事・労務本部が、部署・業務ごとに必要な職能専門知識に関する研修は部署の研修部門が担当している(図表1)。

図表1 ブリヂストンの人材育成の考え方

図表1 ブリヂストンの人材育成の考え方

マネジメント人材の早期育成をめざしたMOP4コース

同社の資格等級は、開発企画職5〜3級、開発企画職上級、基幹職(管理職)と続く。中堅社員に該当する開発企画職上級は、管理職一歩手前の社員で、年齢は30歳代が多い。
開発企画職上級の位置づけとしては、自分の担当する分野の業務については上司の助言やチェックなどがなくても自分で判断・処理することができること、若手の指導も十分に行うことができ、必要な場合には課長の代行も広い範囲で行えることとしている。また、全従業員に求めるスローガン「コミュニケーション」、「チームワーク」、「ボトムアップ」を推進していくうえでも、中堅社員がキーになる。
そのうえで、会社からの期待としては、「個人の業務遂行はもちろんのこと、プレマネージャーとしてメンバーの指導・育成を行いつつ、組織としての成果創出に貢献する」、「将来の基幹職(管理職)候補として、マネジメントスキルを身につける」などをあげている。
現在、同社が人材育成上の重点課題としているのは、(1)事業体経営ができる人材の育成、(2)マネジメントができる人材の早期育成、(3)若年層の早期戦力化の3つである。このうち中堅社員に関するものは、2マネジメントができる人材の早期育成だ。
「新任の管理職に、昇格してすぐマネジメントを実行してもらうためには、その手前での教育が重要となってきます。また、管理職の手前というのは多くの実体験を積むことができる時期です。それも、上司からの指示をこなすだけではなく、自分で考えて業務を進めていくことが求められます。つまり、いちばん伸びしろの大きな世代ともいえるのです。そこに適切な研修を企画・実施していけば、大きな成長が期待できます」
こう話すのは、グローバル人材開発部長の江渕泰久さんだ。
同社の研修体系は図表2のようになっている。開発企画職上級が対象となるのは「プレマネジメント」、「コーチング」、「変革対応リーダーシップ」、「意思決定/計画と組織化」の4つを入れた「マネジメント早期育成」部分である。

図表2 ブリヂストンの人材育成体系

図表2 ブリヂストンの人材育成体系

これらのうち「プレマネジメント」は階層別研修にあたり、応募型となっているが、ほぼ全員が受講する。その他の3つは選抜型研修で、「プレマネジメント」研修修了者のなかから選んでいるそうだ。これらの4つの研修を合わせて、同社では「MOP(ManagementOrientationProgram)4コース」と呼んでいる。
MOP4コースでは、「マネジメントができる人材の早期育成」を図るため、職務遂行能力やマネジメント力強化に向けたプログラムを提供し、プレーヤーとマネージャーの違いや、人を通じて成果を生み出していくために必要な基本的知識・スキルを学ぶ。
このときに核となるのが、マネージャーとして早く身につけてほしい「7つのコンピテンシー」だ。7つのコンピテンシーとは、後述する基幹職向け選抜型研修「GDC」のプログラム内で活用している、将来同社のグループ経営を担う人材に必要なコンピテンシーのなかから、中堅社員に必要と思われる7つを取り出したものである。「コミュニケーションスキル」、「顧客重視」、「多様性の尊重」、「変革の遂行/変革志向」、「他者育成/コーチング」、「意思決定」、「計画と組織化」の7つで、MOP4コースはこの強化を目的に企画されている。
プレマネジメント研修で、これら7つのコンピテンシーを網羅的に押さえ、ほかの3つの研修で、7つのコンピテンシーのうちのいくつかについて、さらに深く学んでいくのだ(図表3)。

図表3 MOP4 コース

図表3 MOP4 コース

座学で学んだことをロールプレイで深める

では、MOP4コースについて詳しくみていこう。まず、柱となる「プレマネジメント」研修である。これは7つのコンピテンシーをベースに、自己の現状を把握し、マネジメントの基本を身につけることがねらいだ。
1回3日間の研修で、2016年は5回開催予定。1回の参加は約30人。座学でマネジメントやリーダーシップに関する基礎知識、プレーヤーとマネージャーの違い、メンバーやチームのモチベーションとロイヤリティを高めるための職場環境の整備や維持などについて学んだあと、受講者同士でロールプレイングを行い、理解を深めていく。
面白いのは、このロールプレイングだ。5〜6人のグループに分かれて、上司・部下の面談場面を演じるのだが、上司役はもちろん、部下役もグループのメンバーから選ぶ。その際、いま職場で困っている後輩や、こういうときにどう注意したらいいかといった場面を部下役に伝えて、その役になりきってロールプレイを行ってもらうそうだ。やりとりは毎回ビデオで撮影し、あとで見ながら皆で振り返りを行う。
「映像はグループメンバー全員でチェックし、良いところ、悪いところをフィードバックしていきます。ビデオ撮影をすることで、自分が部下と接するときにどのような表情や姿勢をしているかを、映像を見ながらチェックできます。たとえば、親身に話を聞いているつもりでも腕組みをしていたり、相手を否定する言葉を発していたりといった、思わぬ発見があります。
自分が喋っている映像を見るのをいやがる受講生も多いのですが、ちゃんと振り返りをすることで自分を客観的にみることができ、非常に役に立ったという声が多く上がっています」(後藤さん)
3日間の研修中、1人4回ぐらいロールプレイングを行うそうだ。受講者からは、「講義内容がよく理解できた」、「視覚的に自分の長所と短所がよく理解できた」、「実践できている部分と改善すべき点が明確にわかった」、「頭で描いている自分とのギャップを感じることができた」といった感想が寄せられている。受講報告書での評価も、4点満点中、理解度が3.7点、有効度が3.8点と高い。
そして、プレマネジメト研修修了者で、各部門から選抜された社員に実施しているのが、「コーチング」、「変革対応リーダーシップ」、「意思決定/計画と組織化」の3つの研修だ。こちらは、各人・各部門のニーズに合わせて、必要なコンピテンシーを習得していく強化研修といった意味合いである。
コーチング研修は、「コミュニケーションスキル」、「他者育成/コーチング」の2つのコンピテンシーの強化が目的で、個人やチーム・部門・組織の成功のための能力開発の重要性の認識や、コーチングによる成功へ導くスキルやプロセス、支援方法などを学ぶ。ここでも、プレマネジメント研修と同様、ロールプレイングも実施している。
変革対応リーダーシップ研修は、7つのコンピテンシーのうち「コミュニケーションスキル」、「変革の遂行/変革志向」、「顧客重視」の3つの強化を目的に実施している。内容としては、効果的に変革を推進する方法や、メンバーのコミットメントを引き出すアプローチ方法などを学ぶ。
意思決定/計画と組織化研修では、「コミュニケーションスキル」、「意思決定」、「計画と組織化」、「多様性の尊重」の4つのコンピテンシーを強化する。事実や制約条件、予測される状況などを踏まえた行動や、最適な選択の仕方、情報やデータの収集・評価方法などについて学ぶ。
なお、3つの研修は1回2日間で、年2〜3回ほど実施しており、毎回30人ほどが参加している。
また、中堅社員の選抜型研修としてはJDC(JapanDevelopmentClass)がある。これは、開発企画職上級のなかから選抜した人材に実施しているもので、期間は2年間。はじめにコンピテンシーのアセスメントを行い、自身の強み・弱みを把握したうえで、能力開発計画書を策定し、OJT、Off–JTによる能力開発を進めていく。
「JDCは毎年20人ほどが選抜されます。プレマネジメント研修などの応募型による全体へのアプローチと、JDCなどの選抜型のアプローチといったように、目的や対象を分けながら研修を提供しています」(江渕さん)

若手の段階からさまざまな機会を提供

以上が同社の中堅社員教育の主なものである。若手社員の早期戦力化については、「早期戦力化育成制度」に基づくOJTで育成を図っている。
この制度では、新入社員を3年を目安に一人前に育成することを目的として、配属部署の所属長および指導社員が、3年間を指示期、支援期、自立期の3つのステージに分け、育成計画を作成。計画立案にあたっては、ステージごとの期待レベルを明確に設定し、ステージ終了時に振り返りを実施している。一人前のレベルとは、「特定領域において海外でも業務遂行できるレベル」という位置づけである。
指導社員は2日間の「指導社員研修」を、所属長は半日の「OJTガイダンス」を受講。指導社員研修はロールプレイングを取り入れた内容で、自分が担当する新入社員に対して興味をもつことからはじめ、新入社員への接し方、指導方法、所属長との効果的な連携などについて学ぶ。OJTガイダンスでは、指導社員と一枚岩となって新入社員を育成するための考え方や、新入社員が配属されたことを組織活性化につなげる方法などのポイントを学んでいる。このように、3年間をかけて新入社員を指導することは、指導社員・所属長の成長にもつながっている。
そのほか、全社員対象の教育制度としては、自己啓発支援制度がある。通信教育約130コースという充実した内容で、社内のイントラネットから申し込む。資格取得に向けた教育のほか、リーダーシップやコーチング、英語、パソコンスキルなどさまざまなコースを取りそろえており、修了すると会社から費用の50%の補助がでる。
提携している英会話学校の利用や、指定するマネジメントスクールなどの社外研修の受講費用を会社が助成する制度もある。
また、早期にグローバルで活躍できる人材を育成するための制度としては、「海外トレーニー制度」がある。これは開発企画職5〜3級の若手が対象の制度で、期間は2年以内を目安に実施している。
内容は、部署の要望や派遣先によって異なるが、研修の管理は部署と現地トレーナー、海外育成責任者が行っており、この三者が個々人の研修計画を策定し、いくつかの研修テーマを設定。派遣期間中は現地トレーナーのもと、OJTを中心にテーマについて実践・改善していく。毎月レポートを提出してもらうほか、帰任後には成果発表会も実施している。また、派遣期間中に海外での語学研修、短期MBAコース、セミナー参加なども組み合わせて、ビジネス・スキルをアップさせている。
現在、北米・中南米拠点に14人、欧州拠点に7人、アジア拠点に12人の、合わせて33人を派遣している(2016年1月1日時点)。
このように、若手の段階からさまざまな機会を提供することにより、中堅社員になってからの育成にも良い影響が出ているそうだ。
中堅社員以後の管理職に向けた研修としては、選択型のGDC(GlobalDevelopmentClass)などを実施している。GDCは将来のグループ経営を担う人材を各国から選抜し、6年間かけて行うもの。同社の経営人材として必要なコンピテンシーの評価を行い、その結果を踏まえて策定した個別の能力開発計画を基に、能力開発を行う。プログラム期間中には、リーダーシップや企業理念に関する3回の集合研修も実施している。
このように同社では、管理職・中堅社員・若手社員それぞれに必要なコンピテンシーの提示と開発のための研修を提供することで、軸のある人材育成を可能にしているのだ。

成長の糧となる経験をどうやって与えていくか

中堅社員の育成に関する今後の課題としては、「OJTの形骸化」、「経験の計画的付与の難しさ」、「事業環境の激変」などにどう対応していくかだという。
「近年は組織の細分化が進んでいます。昔は1つの部署でやっていた仕事が、課の仕事になり、さらに細分化されてきたことで、社員にいろいろな経験をさせることが難しくなってきました。また、海外の現地化が進んでいることで、日本人が赴任するポストも減っています。そのなかで、どうやって計画的に経験を付与していくかが大きな課題です(」江渕さん)
グローバル化や新しいビジネスモデルの登場で、事業環境が目まぐるしく変わっている時代に、成長の糧となる経験を、より多くの社員に、どのように提供していくかが悩みどころだ。
「これらの課題に対応するためには、OJTとOff-JTの連動をいままで以上に図っていく必要があると思います。研修内容の見直し、体系の整理だけでなく、部門内の育成的・計画的ローテーションをしっかりと行い、部門をまたいだ経験の付与にも積極的に取り組む必要があると考えています」(後藤さん)
人材育成全般に関しては、投資対効果を最大化させる施策の検討を進めている。たとえば、各研修で事前課題を課し、基本的な知識を身につけたうえで研修へ参加してもらうことで、研修当日は知識を実践する場として活用したり、受講から一定期間後に理解度テスト、実践度アンケートを実施し、研修での学びを有効活用しているかを確認するといったことを考えている。これらにより、上司に部下育成に目を向けてもらうというねらいもある。ここでも、核となるのは中堅社員であり、そこへの支援が欠かせない。
以上、ブリヂストンの中堅社員教育についてみてきた。変化の激しいビジネス環境においては、中堅社員の育成が企業の将来を大きく左右する要素といっても過言ではない。自社の育成方法について、いま一度見直してみてはどうだろうか。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要(2014年12月31日現在)

社名 株式会社ブリヂストン
本社 東京都中央区
設立 1931年
資本金 1,263億5,400万円
売上高 3兆6,739億6,400万円
従業員数 14,248人
平均年齢 40.7歳
平均勤続年数 14.2年
事業案内 乗用車、トラック・バス、航空機、二輪自動車などのタイヤの製造・販売、自動車関連部品・電子精密部品・スポーツ用品などの製造・販売
URL http://www.bridgestone.co.jp/

(左)
グローバル人材開発部
グローバル人材開発
第1ユニットリーダー
後藤淳さん
(右)
グローバル人材開発部長
江渕泰久さん


 

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