事例 No.202 日清食品ホールディングス 事例レポート(キャリア開発) (企業と人材 2019年9月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

シニア社員対象のキャリア開発研修で
自身の持ち味を認識し、役割を考える

ポイント

(1)シニア社員に対して、自身の生きがいを言語化したうえで、好きなこと、得意なことを仕事にして、活き活きと働いてほしいという想いから、キャリア開発研修を導入。2018年度は52歳以上の非管理職を対象に実施。

(2)キャリア開発研修では、「役割創造(注)」をコンセプトとし、自身のスキル、知識、経験などの持ち味と価値観を“キャリア資産”として認識したうえで、それを活かしてどんな領域で価値を提供していくのかを考える。

(3)社内で新規役割に本気でチャレンジしたいと希望するシニア社員には、役員面接においてプレゼンテーションの機会を設け、有益性があると認められれば、希望した公募ポストへ異動となる。

(注)「役割創造」は、ライフワークス社の登録商標 です。

生きがいを言語化し活き活きと働く

近年、バブル時代に大量採用された人たちが50代を迎え、シニア層の活躍が、企業の生き残りやさらなる成長に影響するのは間違いない。しかし、役職定年などで意欲やパフォーマンスが低下している人がいるのもたしかである。これは明らかに、企業や社会にとって大きな損失である。
インスタントラーメンのパイオニアである日清食品ホールディングス株式会社においても、例外ではない。同社のミッションは「食を通して、お客様に楽しさや喜びを提供する」。それを受けて人事部では、「会社ミッションの実現に向け、“企業価値向上”に資する組織・人を創る」というミッションを設定している。そのためには、新しい価値、新しい役割を発揮することを、組織に所属する一人ひとりが考える必要がある。モチベーションが停滞気味のシニア層にも、それぞれの価値を発揮してもらわなくてはならない。

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しかし、経験値が高く得意分野が多様なシニア社員に対し、会社側が画一的に役割を求めるのは難しく、やはり役割はシニア自身でつくり出していく必要がある。
同社グループ全体の人材育成に取り組む、人事部係長の大西剣之介さんは、そうしたことを踏まえ、会社がもつシニアへの思いを話す。
「自身の生きがいを言語化したうえで、好きなこと、得意なことを仕事にして活き活きと働いてほしい。そのためには、自分の実現したいことは何なのかを整理して、やり遂げる一歩を踏み出してもらいたいのです」

公募ポストの年齢制限を撤廃し、チャンスを拡大

そもそも同社には、年齢にかかわらず、個人の成長を促し、その成長を公正に処遇する「成長実感カンパニー」に進化しようという会社の方針がある。その方針に基づき、年功よりも能力を重要視することを推し進めようと、2017年よりHRビジネスパートナーを事業会社の日清食品株式会社に配置し、人事制度の一部を改定している。具体策の1つとして、「年齢によらない昇降格・昇給」の実現に向けた取り組みを推進している。
具体的に実施したのは、公募ポストの年齢制限の撤廃である。これまで同社では、若手〜中堅社員にチャレンジしてもらいたいとの理由から、50歳になると管理職への昇格機会を停止していた。また、公募ポストへの挑戦資格も50歳までとしており、52歳になると、公募任用期間を強制終了させていた。しかし、それでは優秀で活力のあるシニア社員の活躍機会を阻むことになるとして、2018年から、公募制度の年齢制限を撤廃。年齢に関係なく、だれでもチャレンジでき、そのなかから企業価値向上に資する社員を公募ポストに登用する、というルールに変更した(図表1)。

図表1 人事改革方針に基づく公募制度の見直し

人事改革方針に基づく公募制度の見直し

公募任用期間が強制終了となる52歳以降は、非管理職社員の能力発揮の度合いに応じて、役職継続コースと役職定年コースに分かれる仕組み(キャリア・チャレンジ制度)があることから、一部の社員はモチベーションが低下したまま働かざるを得ない状況だった。
「こうした52歳以降で非管理職のシニア社員に焦点をあて、年齢に関係なくチャレンジできる機会をつくることにしたのです」と大西さんは話す。
とはいえ、これまで活躍機会が制限され、「自分は社内で特別活躍しなくてもいい」と考えていた人に、「制限をなくしたから積極的にチャレンジしてください」といっても、そうすんなりと手をあげてはくれないだろう。
「そこで、まず公募ポストにチャレンジする社員を募る前に、自分の強みを振り返り、今後のキャリアを見つめ直してもらう機会を設けようと考えました」
こうして導入したのが、「キャリアコンセプト開発研修(詳細は後述)」だ。この研修との連動性を意識して、公募制度のプロセスも見直し、公募ポストを公開する2カ月前に研修を実施することとした(図表2)。

図表2 公募制度の実施プロセス

公募制度の実施プロセス

「役割創造」をコンセプトとした教育研修を導入

キャリアコンセプト開発研修については、外部研修機関である株式会社ライフワークスの協力を得て、「役割創造」というコンセプトで行うことにした。
役割創造とは、ライフワークス社独自の定義で、「仕事・職務や社外活動において、主体的に自分のキャリア資産を活かして価値提供している状態」のこと。自分の強みを知り、自分の役割を自ら創り出すことが、シニアにとって、今後、充実した人生を送るカギとなるわけである。
したがって、研修では、自分の可能性や知識、能力を駆使して自分の役割を創造できる可能性を考えていく、という構成になっている。詳細は後述するが、たとえば、幼少のころから現在までを振り返って、自分の価値観や実現したいことを考える。ただし、一人で考えても気づけないことが多いので、グループメンバーからフィードバックをもらったりする。そうすることで、自分のスキルや知識を、「持ち味」として認識してもらう。
そして、その持ち味を使って、これからどんな領域で周囲に価値を提供していくのか、ということを考えていくといったものだ。なお、研修対象者は、日清食品グループの事業会社6社のうち、日清食品の営業部門に絞って実施した。
「全社で進めようとすると、各部署での調整に時間がかかるため、まずは試験的に、効果がありそうな部門を対象とすることにしました」と大西さんはその理由を語る。
営業部門には約350人が在籍し、そのうち52歳以上の非管理職は40人ほど。この40人が研修対象者である。2018年度は、全国から28人が参加し、そのうち、公募ポストに応募したのは5人、うち合格したのは2人だったという。

「自分史マップ」で自分の原点を徹底的に探る

では、研修内容について詳しく見ていこう(図表3)。

図表3 キャリアコンセプト開発研修の概要

キャリアコンセプト開発研修の概要

プログラムは、2日間にわたり実施。1日目は、「これまでの提供価値を知る」、「自分の原点を探る」など、内省を中心としたもので、2日目はそれを踏まえて自分のキャリアを具体化していく。
研修は、基本的に4人1組のグループワークで進行し、1日目は、まず「イントロダクション」から始まる。同じ営業職とはいえ、全国各地に営業所があり、お互いをよく知らないという社員もいるため、グループ内で自己紹介を行う。また、話しやすい雰囲気をつくるため、「50代になって感じること」など簡単な議論もする。
次に行うセッションは、「これまでの提供価値を知る」。「仕事・職場」、「社会・地域」、「家族・友人」それぞれの分野において、自分がどんな提供価値を発揮できているか、付せんに書いて各分野の部分に貼っていく(図表4)。

図表4 提供価値マップのイメージ

提供価値マップのイメージ

これまで内省する機会がなかったため、なかなか貼れない人が多いという。最終的に、ここにたくさん付せんを貼れるようになることが、研修のゴールでもある。
午後は、「自分の原点を探る」セッションで、事前課題として出されていた「自分史マップ」を使用する(図表5)。

図表5 自分史マップのイメージ

自分史マップのイメージ

これは、幼少期からこれまでを思い出して、「好きだったこと・もの」や「夢・憧れ・なりたい職業」など5つの質問に答える形で、成長段階ごとにマップに埋めていくというものだ。自分自身の活躍のあり方を考えるには、自分の原点を徹底的に見つめる必要があるからだ。
事前に埋められなかった部分があってもかまわない。グループ内で、自分はどんな人間で、どんなことに憧れて、どんなことに夢中になったのかということをディスカッションするなかで、気づいたことがあれば、随時埋めていく。
ほかのメンバーは、その人の価値観や判断基準、思いや欲求を想像しながら聞くことになる。「あなたの価値観はこうでは?」、「こういう点が一貫している」など、感じたことを付せんに書いていき、お互いにフィードバックしあう。
マップは「思い起こす」きっかけとするために作成するものであり、埋めることが目的ではない。重要なのは、「話すことで気づきがあり、さらにフィードバックによっても気づきが得られること」である。これらのワークにより、自分の価値観や人生観、仕事観などが明らかになっていく。

キャリア資産を内省し、自分の持ち味を知る

次のセッションは、「キャリア資産(知識・スキル、行動特性、価値観・動機)をとらえる」。ここでは2つのワークを行う。
1つは、ライフワークス社独自のアセスメント「自己理解検査SAI」を用いたものだ。SAIは、ウェブ上で176の質問に回答して得られる自己理解のための検査で、事前に回答し、当日渡される結果を見ながら自己分析していく。
SAIは、「性格特性」と「基礎力」の2つの領域を測定し、さらに「性格特性」から推定される「仕事志向」が示される。
「性格特性」とは、行動や物事の見方・考え方の基となるもので、社会とのかかわり方の特徴が表わされる。ここでは、まず「自分らしさ」を知ることをねらいとする。
「基礎力」とは、「強み」をとらえる指標のこと。対課題、対人、対自己の3領域から構成されており、どんな仕事にも共通して必要とされる能力だ。
SAIでは、結果を良い・悪いで判断するのではなく、自分自身の能力の「特徴」としてとらえる。個人ワークでは、結果を整理するとともに、過去の経験と紐づけて内省することで、その特徴をより実感値をもって受けとめることができる仕掛けになっている。
自分自身の強みや持ち味、自分らしさの輪郭がはっきりしてくるので、今後、自分を活かす方向性や働き方を考えていくうえで、参考となるワークだ。
もう1つのワークは、キャリアの振り返りである。時系列で振り返るのではなく、これまでの仕事のうち、とくに心血注いだ仕事にフォーカスしていくのが特徴だ。なぜその仕事をやろうと思ったのか、困難をどう乗り切ったのか、お世話になった人はだれか、どんな成長が得られたのか、といったことを徹底的に内省していく。印象に残った1つの仕事に絞るのは、そこに自分自身の本音や価値観が出てきやすいからである。
この2つのワークについても、グループメンバーと共有し、お互いの強みを確認しあう。こうした過程で、活躍できる武器があるのだと、自己肯定感が高まっていく。

役割創造を実現する様を4象限で考える

2日目は、明らかになったキャリア資産を活かし、どのように価値を提供していくのかを模索するワークを行う。
午前中のセッションは、「役割創造の視点をもつ」。ここでは「新分野・未経験領域」、「既存・経験領域」、「社内」、「社外」というフレームで4象限に区切って整理する(図表6)。

図表6 役割創造実現のための4象限

役割創造実現のための4象限

まず、「新しい領域に挑戦して価値を発揮する人」なのか「これまで積み重ねてきた経験など、既存の領域で価値を発揮している人」なのかを分ける。そして、その価値を発揮する場面が「自社のなか」なのか、あるいは「会社の外でつくった役割のなか」なのかを分けたうえで、自身の役割について付せんに書き、4象限の適切な位置に貼りつけていく。
このとき、一人で考えるのではなく、思いを共有したグループメンバーにも考えてもらいつつ、アイディアを広げる。
たとえば、図表6の「A.クリエイティブ専門領域創造」の部分に「起業参画にチャレンジ」と書いた付せんを貼ったり、「C.熟達第一人者」に「定年再雇用後、ノウハウや技量を使命感を持って指導・伝達」と書いた付せんを貼るなどするのである。
こうして、どんな場面でどのような活躍の可能性があるかがわかってきた段階で、キャリアコンセプトを言葉にする作業に入る。このワークも、グループメンバー全員で考え、生み出していく。コンセプトとして書かれる内容は、たとえば、「笑顔あふれる世の中に関わる人の幸せは自分の幸せになる」、「遊び心を忘れずに、挑戦し続ける」、「社会貢献のために新しい可能性の道を切り開く」といったものだ。
最後に具体的なアウトプットとして、「キャリア実現計画」を作成する。いわゆるプランシートで、まず、自身のキャリアコンセプトを記入する。そして、それを具現化するための「実現計画」を書き込んでいく。
これは、「役割創造している状態」を念頭に置き、そのために、いつ、だれと、どんなキャリア資産を使って、どのような価値提供をするか、どんな役割を担うか、を記入するものだ。この実現計画は、可能性をたくさんもってもらうため、2パターン作成する。そして、2パターンそれぞれに対して、「やること」、「時期」、「具体的な取り組み」を記入すれば、完成である。

受講者が気兼ねなく相談、発言できるよう配慮

同社が研修設計時に重視したことは、自由参加にしたことと、研修受講者が気兼ねなく相談・発言できるように配慮したことである。
「参加を強制するよりも、意欲のある人に自由に参加してほしいと考え、参加者と同年代の研修講師に依頼しました。また、参加者らが作成した成果物を人事部が回収することはない旨を周知したほか、研修の間、人事部は同席しないことで、参加者に気兼ねなく発言してもらえるように配慮しました」
さらにライフワークス社に対し、事前に次の2点を重点的に依頼したという。
(1)好きなこと・得意なことを仕事にしてほしいので、各自の役割創造を検討する際は、社内だけでなく社外の可能性も含めて、総合的に検討するようにしてほしい。
(2)参加者全員ではなく、自燃型・可燃型人材のマインドチェンジを図ることに注力したほうが効果を出しやすいと考えたため、すでに火がついている人・つきそうな人を手厚めにフォローしてほしい。
「きっかけさえつかめれば、自分のリソースを活かして価値を提供できる可能性のあるシニア社員がたくさんいます。そうした人たちにチャンスをつかみ取ってほしいと考えました。研修はあくまでもきっかけに過ぎず、受講後に自身がどう変わるかが大事です」

参加対象範囲を広げつつ継続していきたい

「この研修を受けたことで、社内で新規役割に本気でチャレンジしようと公募ポストへ応募した人が5人もいたことは、本当にうれしかったです」と大西さんは話す。
そして、役員面接を経て2人が合格。そのうち1人は営業所所長、もう1人は業務課係長に就いた。彼らが意欲的に仕事に取り組んでいる姿勢は、周囲にも良い影響を与えているという。
「この研修では、自分の得意なこと、好きなことを再認識し、活き活き働こう、という人が出てくることがねらいです。したがって、社内にそう感じる仕事がなければ外に飛び出してもいいですし、社内で強みに磨きをかけてもらってもよいと思います。その選択肢の1つに、公募ポストへの応募もあるわけです。役員面接で、新たなポストを自分で創設することをプレゼンすることもできます」
この会社にいれば安泰、という終身雇用の時代ではなくなっているいま、その価値観で長年働き続けてきた現在の50代以上にとって、考え方や働き方を変えるのは容易ではないかもしれない。そうしたなか、同社の先進的な取り組みをヒントに、シニアに対する人事課題を解決できる企業が増えれば、個人の意識も変化していくに違いない。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 日清食品ホールディングス株式会社
本社 大阪市淀川区
設立 1948年9月
資本金 251億2,200万円
売上高 4,509億円(連結 2019年3月期通期)
従業員数 12,539人(連結 2019年3月末現在)
平均年齢 40.1歳(2019年3月31日現在)
平均勤続年数 11.8年(2019年3月31日現在)
事業内容 即席麺等の製造および販売
URL https://www.nissin.com/jp/

人事部 係長 大西剣之介さん


 

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