事例 No.223 前川製作所 特集 50代人材の開発と活躍支援
(企業と人材 2020年6月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

50歳時の「場所的自己発見研修」で行動変容を促進
受講後に職場で自己変革を宣言、その後も面談でサポート

ポイント

(1)「健康である」、「やりたいことがはっきりしている」、「周りがその人を受け入れている」の3つを条件に、60歳以降も上限なく継続雇用を更新。現在も、最高年齢80歳の社員2人が、それぞれ知識とスキルを活かして活躍する。

(2)50歳時に全社員が受講する「場所的自己発見研修」。他者視点で自分を見つめ直し、60歳時までに周囲とうまくやっていける人材になれるようワークキャリア計画表を作成。

(3)研修受講後に、職場リーダー、同僚の前で計画表を発表し、「自分はこう変わる!」と宣言。その後も、年1回のリーダー面談のなかで、計画について話し合う。59歳以降は、継続雇用者用のキャリア希望シートを使って面談を継続。

年齢に関係なく人材を活用、役最高齢は80歳

株式会社前川製作所は、創業から間もない1934年に冷凍機の自社製作を開始して以来、冷却技術およびそれに不可欠な圧縮技術をベースに、産業用冷凍機やガスコンプレッサー等の製造、販売、施工を一貫して手がける企業として発展してきた。現在、産業用冷凍機で国内シェアトップクラス、冷凍運搬船の冷却設備では海外シェアトップクラスを誇るほか、自然冷媒のヒートポンプなど環境に配慮した製品開発に力を入れている。全国に拠点を置き、営業やサービスを行うソリューション事業本部、茨城の守谷工場を中心に製造を行うモノつくり事業本部、技術開発を担う技術企画本部、スタッフ業務を担うコーポレート本部と、大きく4つの事業部に分かれている。
また、同社は以前から、高齢者活用の先進企業としても知られている。現在も多くの高齢者が活躍する。もともと同社には、定年という発想がなかったという。
コーポレート本部人財部門係長の大嶋江都子さんはこう語る。
「私も新入社員のとき、60歳以上の社員に仕事を教わりました。当時から、高齢者と一緒に働くのは当たり前でした」
そこには、同社の企業風土が大きく影響している。同社の創業の地である東京・深川は、町工場も多い職人の町として知られる。職人の世界は、本人に意欲と能力があれば、何歳になっても現役で働き続ける。長年にわたって自らの技術を磨き、経験を積んで、シニアといわれる年齢になっても能力を向上させていく人が珍しくない。
翻って同社が扱う製品は、大量生産されるものではなく、顧客ごとにカスタマイズされる部分も多い。定期的なメンテナンスも必要で、高度な技能や繊細な感覚が長期にわたって求められる。自らを磨く努力を続けるかぎり、人はいくつになっても成長できるという考え方は、そうした事業特性とも呼応し、同社の企業文化として深く根づいている。
同社には、年齢や肩書きにかかわらず一人ひとりの成長を支援し、活かしていこうという文化があり、組織の階層構造もシンプルだ。各部門から人材を集めて、受注から設計、製造、施工、アフターサービスまでを一貫して行えるようなグループ制を導入しており、リーダー以外は、肩書きにとらわれないフラットな組織になっている。
では、具体的な高齢者活用の仕組みをみてみよう。同社も人事制度上は60歳を定年と定めている。その後は継続雇用となり、契約社員として1年ごとに更新される。ただし契約更新に上限年齢は設けていない。
勤務時間はフルタイムが基本だが、希望があれば短時間勤務にすることもできる。仕事内容は、基本的に定年前と同じ仕事に就くことが多い。定年後も毎年人事評価が行われ、異動となることもある。2018年度時点の人事構成では、国内従業員2,316人中、60歳以上が285人(12.3%)、65歳以上が151人(6.5%)となっている。
ちなみに、2020年4月現在、最高齢の社員としては80歳の方が2人いるという。1人は、コンプレッサーの性能の試験を担当してきた技術者で、自ら試験を手掛けると同時に、長年の知見に基づいて製品改良時にアドバイスをしたり、若手の指導にあたっている。もう1人は、同社の小集団活動の基礎をつくり、長年にわたって推進活動を担当してきた社員で、最近も韓国の工場でQCサークルなどの活動を立ち上げるにあたり、自ら何度も現地に出向き、現場への浸透に大きく貢献したそうだ。
以前は、製造部門の技能系の仕事でベテラン高齢者が多く活躍していたが、近年ではソリューション部門やコーポーレート部門など、高齢者の活躍の場がさらに広がっているという。

50歳の節目に今後を考える「場所的自己発見研修」

ただし、本人が望んでも、だれもが無条件に働き続けられるわけではない。継続雇用にあたっては、「健康であること」、「やりたいことがはっきりしていること」、「周りがその人を受け入れていること」という、3つの条件が定められている(図表1)。

図表1 前川製作所の「場所的自己発見研修」について(研修テキストより)

図表1 前川製作所の「場所的自己発見研修」について(研修テキストより)

自らも継続雇用で働いている、モノつくり事業本部圧縮機製造部門品質保証グループ監事の渡辺兼一さんは、次のように解説する。
「単に自分が働き続けたいというだけでは不十分だということです。続けていきたい仕事が明確にあり、そのためのスキルを磨いていくことが重要です。最も大切なのは、周囲とうまくやっていけるということ。職場で一緒に働く人たちにも、自分自身を受け入れてもらえるかどうかが鍵になります」
そうした意識を高めるために重要な役割を果たしているのが、50歳時に実施される「場所的自己発見研修」だ。渡辺さんはこの研修のファシリテーターを務める1人でもあるが、50歳という節目に、自分を見つめ直し、今後の職業人生と20年、30年の人生計画について考える内容となっている。いわゆるキャリアデザイン研修だが、場所的自己発見研修というネーミングにも、同社独自の価値観が表れている。
「『場所』というのは、当社が昔から大切にしている概念です。私たちはその環境、その場所のなかで生かされているということから、場所のなかで自分をみつめ、行動を変えていこうというものです」(大嶋さん)
場所的自己発見研修は、2007年にスタートして以来、10年以上継続して実施されてきた。当初は定年直前の57、8歳ごろに実施されていたが、「行動を変えていくのには時間がかかるため、もっと早めにやってほしい」という参加者の声を反映して徐々に対象年齢を引き下げ、現在は50歳の時点で必ず受講するものとされている。つまり、全社員が50歳から10年間かけて、60歳以降も周囲とうまくやっていけるよう、自己変革に取り組むという考え方なのだ。
研修の流れとしては、事前調査、1泊2日の宿泊研修、職場での実践という形になる。研修はグループ討議などワークが中心となることから、1回の人数は20人から24人くらいにおさえている。
まず、事前調査としてワークキャリアチェック表を作成する。
同社では、仕事で求められる5つの能力として、「挑戦力/行動力/信頼性/関係性/専門性」を定めている。ワークキャリアチェック表では、挑戦力であれば「従来の習慣にとらわれない発想や行動で現状を改善しようとしているか」、行動力であれば「困難な問題に対してもねばり強く取り組んでいるか」など、能力ごとに5つの質問が用意されており、計25項目について、5段階で評価を行う。
注目したいのは、本人が自己評価するだけでなく、上司や同僚、後輩など本人をよく知る5人にも同じ項目を評価してもらう点だ。非常に手間のかかる作業ではあるが、自己評価と他者評価のギャップを冷静に受け止めて、行動変容につなげていくことが、この研修の最大のねらいとなっている。

他者視点で自分をみつめ、変革後の姿を作文に表現

2日間の研修のスケジュールは図表2のとおりだ。研修はグループワーク中心となる。4人1組のグループを作り、グループごとに1人ずつファシリテーターがついてサポートを行う。グループ分けにあたっては、仕事上の関係があったり、日常的に顔を合わせている人は、同じグループにならないように配慮している。「グループ分けにはかなり気をつかっている」と大嶋さん。利害関係がないほうが本音で話しやすいからだ。また、ほぼ初対面同士なので、先入観をもたずに相手を見ることができるというメリットもある。

図表2 場所的自己発見研修のプログラム

図表2 場所的自己発見研修のプログラム

最初のワークは、事前調査で記入したワークキャリアチェック表を見て、自己評価と他者評価の平均をグラフ化し、それらのギャップを見える化する作業である。そしてそこから、他者評価が高い7項目を「強み」として、他者評価が低い7項目を「弱み」として選び出す。
「グループのメンバー同士でお互いに確認しながら、強みと弱みを確定させます。自己評価と他者評価に大きなギャップが生じて、少し落ち込んでしまう人もいますが、これは正しいとか間違っているということではなく、他者からはこのように見えているということ。まずは受け止めようという話をしています」(渡辺さん)
ここからさらに自己分析を深めていく。7つの強み、弱みからキーワードを拾い、周囲に映っている自分の姿を明確にする。改めて自分の行動の特徴を振り返り、なぜそのような行動を取ってしまうのか原因を掘り下げていく。
1日目のまとめとして、そうした分析結果から浮かび上がってくる自分の姿を、作文Iにまとめる(図表3)。職場での自分の行動をイメージしながら、できるだけ具体的に描写する。ポイントは、「私」を主語にするのではなく、あくまでも他者視点で書くことだ。厳しい表現になることもあるが、徹底的に自分を客観視することで、ふだんは気づいていなかった自分の姿が見えてくる。それが翌日の討議に活きてくるのだという。

図表3 作文Iの作成例(研修テキストより)

図表3 作文Iの作成例(研修テキストより)

2日目は、交替で進行役を務めながら、1人につき1時間ずつ、グループ討議を行う。前日にまとめた分析表や作文を発表してもらい、メンバー全員でその原因を探ったり、改善策を考えていく。
たとえば、周囲とうまく関係性が築けていない場合には、メンバーから「毎日職場で自分から挨拶をしてみたらどうですか」、「自分の場合は、なるべく若い人に声をかけるようにしていますよ」など、具体的な行動変容につながるようなアドバイスが投げかけられるという。
「個人を批判したり、追求するような険悪な雰囲気になることはないですね。初日の懇親会で打ち解けた雰囲気になっていることもあって、2日目は安心して本音を言える環境で、お互いにフォローし合いながら進んでいきます。1人1時間はあっという間に過ぎてしまいます」(渡辺さん)
そうして、今度は1人ずつ、討議の内容を踏まえて「ワークキャリア計画表」を作成する。「こんなことができる自分になる」という開発目標を立て、そのための重点課題を2つ掲げる。そして、それを実現するための行動を、いつ/どこで/何を/どのように、という形でまとめるというものだ。
さらに、その計画が達成されたときの職場の自分の姿を想像して、作文IIにまとめる(図表4)。これも他者視点で書くのだが、イマジネーションをふくらませて、最も理想的な姿を描く。渡辺さんは研修をファシリテートするときは「バラ色の未来を書いてください」と、受講者たちに伝えるそうだ。

図表4 作文IIの作成例(研修テキストより)

図表4 作文IIの作成例(研修テキストより)

ワークキャリア計画表と作文IIは、グループメンバーの前で1人ずつ発表する。皆の前で大きな声で読み上げることによって、各自のなかで決意を強くしてもらうことがねらいだ。
研修では、ライフキャリア、仕事と生活全般を含む人生計画について考える時間もとっている。あらためて自分の人間関係を整理したり、「私の役割」として現在と65歳時点での「私の役割」の変化を考えたり、タイムマネジメントの考え方を学ぶ。そして、読むだけで元気が湧いてくるような詩を、代表者に声を出して読んでもらう。それぞれが勇気と自信を深め、雰囲気もぐっと盛り上がるという。
最後は、メンバー同士でプレゼントカードを贈り合う。相手の印象や良いところ、激励の言葉を書き込み、メンバー全員が順番に読み上げて、本人に進呈。皆で拍手で締めくくって研修を終える。

研修後に職場で宣言、その後も面談でサポート

ここまで同社の場所的自己発見研修を詳しく紹介してきたが、じつはこの研修にはもう1つユニークな特徴がある。研修で作成したワークキャリア分析表やワークキャリア計画表が独りよがりのものになっていないか、職場のリーダーやメンバーの考え・思いとのずれはないかどうかについて、職場ですりあわせを行うのである。
手順としては、まず研修終了後、リーダーと打ち合わせを行い、自身の計画表がリーダーの考えと合っているかを確認する。そのうえで、職場ミーティングを開催し、メンバーの前で自らの分析表、計画表について発表する。メンバーから意見やアドバイスが出されることもあり、それを受けて計画表を修正することもあるという。
ベテランの50歳社員にとって、職場ミーティングへの抵抗感が大きいことは容易に想像できる。リーダーだけならともかく、メンバーの前で自己開示するのは相当、気恥ずかしく感じるそうだ。それをはねのけて、皆の前で「自分はこう変わる!」と宣言することの意義は、本人にとっても周囲にとっても非常に大きいにちがいない。
ミーティングの内容は、職場ミーティング報告書にまとめ、リーダーにも感想を書いてもらい、研修後2週間以内に人財部門に提出する(図表5)。これをもって一連の研修プログラムは終了となる。「とにかくこの研修は、徹底的に書かせます。文字にして見える化することがポイントだと思っています。そして、研修をやりっぱなしにしないこともポイントです。事後のサポートとセットで行うことで、研修も活きてくると感じています」(大嶋さん)

図表5 職場ミーティング報告書

図表5 職場ミーティング報告書

さらにその後のサポートとして機能しているのが、リーダーとの年1回の面談だ。58歳までは、いわゆる人事評価面談のなかで、目標設定なども含め、計画表に書かれた内容が繰り返し話し合われることになるという。60歳以降の雇用継続の可否判断が行われる59歳時からは、雇用継続者用のキャリア希望シートを使った面談が行われる。ちなみに、以前は継続雇用に関するヒアリング担当者が、リーダーと本人の双方に対して個別にヒアリングを行っていたが、取り組みが浸透するにしたがってリーダー層の面談力が向上し、現在はリーダーと本人が直接面談を行うようになっている。
59歳時からの面談では、本人とリーダーとがそれぞれ専用のヒアリングシートに記入をして面談に臨む。本人シートでは、現在の仕事や今期の成果の振り返り、来期の目標を記載するほか、引き続き働きたいか、勤務日数・時間に希望があるかなど、いくつかの質問に答えていく(図表6)。質問項目は高齢者の人事評価基準ともリンクしており、本人シートでのチェックが自己評価となる。一方のリーダーも、専用のシートに当人に対する評価をつける。リーダーシートには、「来年も勤務してもらいたいか」「他部門に異動させたいか」など、シビアな選択をする欄もある。

図表6 継続雇用者用のキャリア希望シート(本人シート)

図表6 継続雇用者用のキャリア希望シート(本人シート)

面談では本人シートだけが開示され、それをもとに話し合いが行われる。面談の結果を踏まえて人事評価が決まり、給与に反映される。同社にとって高齢者は、補助的な役割を担う存在ではなく、重要な戦力である。そのため、継続雇用後も、一人ひとりの成果やスキルを厳正に評価し、契約を更新するか否かを判断する。
実際には、本人の意向に反して契約更新が打ち切られる例はほとんどないが、あまり成果が出なかった場合には、本人とも話し合ったうえで、能力を活かせそうな部門に異動となるケースもあるという。評価が分かれたり、リーダーから本人に話しにくいといった場合には、別途、担当役員との面談を行って調整することもある。

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現在、場所的自己発見研修の受講者は年間80人程度。だが、ボリュームゾーンとなっている団塊ジュニア世代が対象年齢に入ってくるため、今後はさらに人数が増える見通しで、事務局側の負担増は避けられない。それでも、研修とそれに続く面談などの仕組みを通じて、50代社員が行動変容しながら成果に貢献し続ける姿を見せていることは、若手社員にもよい影響を及ぼしているという。
「ただ、以前に比べると仕事が専門分化していっているため、いまの若手が高齢者になったときにいまと同じような働き方ができるのか。その点は、今後の課題として考えていかなくてはならないと思っています」(大嶋さん)
少子高齢化の進展に、直近では定年延長の流れも加速し、高齢者活用が重要な経営課題であることは疑いようがない、高齢者が重要な戦力となり、活き活きと働く環境を整えるために、同社の取り組みに学ぶことは多い。

(取材・文/瀬戸友子)


 

大嶋江都子さんへの3つの質問

Q1 人材開発の仕事で、日ごろ大事にしていることは?
私は「人の能力はいつまででも伸びる」という当社の考え方はいいなと思っていて、これが若い世代の人たちにも継承されていくようにということを、いちばん大事にしています。

Q2 仕事で凹んだときは、どうしていますか?
いま私は家では子育てをしているのですが、会社で失敗したことは家で気をつけたりとか、子どもとのやりとりが会社で活きたりとか、うまく切り替えができる環境にあると思います。

Q3 いま関心があることは何ですか?
介護を理由に雇用継続しない、時間短縮したいという人は多く、これからは介護の問題、ライフサイクルの波をうまくかわしながら長く働いていくための方策を考えていきたいです。

▼ 会社概要

社名 株式会社前川製作所
本社 東京都江東区
設立 1937年(創業1924年)
資本金 10億円
売上高 非公開
従業員数 4,721人(うち国内2,483人、2019年12月末現在)
平均年齢 41.1歳
平均勤続年数 15.5年
事業内容 産業用冷凍機、各種ガスコンプレッサー等の製造販売
URL http://www.mayekawa.co.jp/ja/

(左)モノつくり事業本部 圧縮機製造部門 品質保証グループ 監事
渡辺兼一さん

(右)コーポレート本部 人財部門
係長 大嶋江都子さん


 

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