事例 No.155 中外製薬 事例レポート(キャリア開発)
(企業と人材 2018年8月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

シニア人財の活躍推進策を展開
60歳社員には研修や休暇で意欲を刺激

ポイント

(1)54歳到達年に、「キャリアデザイン研修」(1泊2日)を実施。55歳以降の制度やライフプランについてのレクチャーのあと、外部講師を招いてキャリアの棚卸しをする。

(2)55歳到達年には、1定年前に退職して第二の人生・キャリアに移行するか、260歳で定年退職するか、365歳まで定年延長して“シニア社員”として働くか、3つの選択肢からキャリアプランを選択する。

(3)シニア社員は、60歳到達年の「チャレンジアップ60研修」で残り5年の働き方や貢献について考え、翌年、「チャレンジアップ60休暇」取得により、さらに考えを深めてもらう。

「イノベーションを生み出す人財」を育成

「すべての革新は患者さんのために」を事業哲学とする中外製薬株式会社は、関東大震災後の薬不足を憂いて、1925年に創業した。60年代には、大衆薬から医療用医薬品を中心とする事業へと転換。80年代には、他社に先駆けてバイオ医薬に着手するなど、リスクを恐れずに変革に挑んできた。

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2002年には、世界有数の製薬企業であるスイスのロシュと戦略的アライアンスをスタート。コストのかさむ海外開発・販売において、ロシュのネットワークを活用する。そして、経営資源を研究開発に集中させることが可能となった結果、アライアンスから15年で、売上収益、営業利益ともに3倍以上となった。収益構造の変革を実現したとともに、これまで以上に徹底したイノベーションを追求することができる組織となっている。
「当社におけるキーワードは、イノベーションです」と人財育成部副部長の染谷武さんがいうように、同社ではイノベーションを生み出すことにこだわりをもつ。
背景には、少子高齢化、地球環境の悪化といった持続可能性の危機、AIやナノテクノロジーなどの技術革新、ヘルスケア産業を取り巻く環境激化などがある。これらに対応するには、イノベーションの追求が重要であるとの思いがあるからだ。したがって、求める人材像も「イノベーションを生み出す人財」を掲げる。
創薬に注力してきた同社には、もともとサイエンスを突きつめて「これをやってみたら面白そう」と、研究者が自由な発想でのびのびと研究を行う風土があるが、それは研究開発だけでなく、すべての事業分野にもあてはまる。
研究者の場合は、研究とイノベーションを結びつけやすい。では、そのほかの分野における「イノベーションを生み出す人財」とは、具体的にどのような人財なのか。
「経営トップが、メッセージとしてあらゆるシーンで伝えているのは、自ら考えて行動する『自律した人財』です」(染谷さん)
このメッセージをもとに、同社では、組織能力の向上に対する重点課題を次のように設定。この3本柱での育成を行っている。
(1)トップ製薬企業像の実現と経営戦略の推進役となる人財の育成・確保に向けた「タレントマネジメント」
(2)処遇制度を通じた組織と個人の能力向上に向けた「コンピテンシーに基づく育成」
(3)ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進による組織風土醸成などの「人財マネジメント基盤の構築・強化」
上記のうち、3D&I推進の1つの要素が、今回紹介するシニア人財の活躍推進策である。

54歳時の研修で自分の活かし方を考える

同社では、高年齢者雇用安定法の法改正や、厚生年金支給開始年齢の引き上げという外的要因に加え、要員構成に伴いシニア世代の社員が増加。社員にいかに高いモチベーションを保ってもらうかが、企業がより発展するうえでの重要な課題となった。
そうしたなか、シニア世代の社員によりいっそう活躍してもらいたいという思いから、2008年より、シニア活躍推進の取り組みを本格的にスタート。さまざまな制度や研修を導入した。
また、2013年には、「5つの期待役割」((1)新たな業務・課題への挑戦、(2)自身の能力の把握と発揮、(3)上司の良きフォロワー、(4)若手社員への支援と育成、(5)活気ある職場づくりへの貢献)として、会社が求めているシニア世代社員の役割を明確化した。
活躍推進策としては、まず、54歳社員を対象とした「キャリアデザイン研修」に始まる。
研修は1泊2日で、初日の半日は55歳以降の制度について、人事による説明が行われる。そのほか、退職金や年金を含めたライフプランのレクチャーも実施。
その後の1日半は、外部講師を招いてキャリアの棚卸しをする。ここでは、グループワーク形式で、自分の強みや弱み、やりたいこと、周囲から求められていることなどを共有しあい、それにより気づきを得てさらに自分で考える、ということを繰り返す。
そして、研修の最後には、参加者が一人ずつ1分スピーチを行う。スピーチの内容は、「65歳まで働きたい」という思いを伝える人もいれば、「もう一度家に帰って考える」という人までさまざまだ。
この研修への参加は任意だが、社員の9割以上が受講している。
じつは、こうした制度を設計している人事部部長の黒丸修さん自身、54歳のときにキャリアデザイン研修を受講した一人だ。
「キャリアデザイン研修は、自分の今後を考えるうえで、とても役立ちました。当時は、人財育成部で研修を担当していました。これから先、会社や世の中にどう貢献していこうかと、自分の強みや経験を振り返ったとき、“人のキャリアを支援する仕事”をしたいと思ったのです。そこで、まずはキャリアに関する資格の取得を目標に設定しました」
黒丸さんは、研修終了後、米国CCE,Inc認定の国際的キャリアカウンセラー資格「GCDF-Japanキャリアカウンセラー」の資格を取得。キャリア相談室で、人事部人事グループ課長の山本秀一さんと社員向けのキャリア相談室の仕事をするようになった。
「いまの仕事ができているのは、この研修を受けて、考えたことを実行したからです。これからの自分の活かし方を考える非常によい機会でした」と振り返る。

55歳時に、3つのキャリアプランから選択

キャリアプラン研修の翌年6月(55歳時)になると、社員は、(1)定年前に退職して第二の人生・キャリアに移行するか、(2)60歳で定年退職するか、(3)最長65歳まで定年延長して“シニア社員”として働くか、3つの選択肢からキャリアプランを選ぶことになる(図表1)。

図表1 55歳時のキャリアプランの選択

図表1 55歳時のキャリアプランの選択

(1)を希望する社員は、「キャリアチェンジ支援制度」の対象となる。これは、定年前に退職を選択し、次のキャリアへ円滑に移行できるよう支援する制度。退職金は会社都合扱い(雇用保険上は自己都合扱い)としている。
(2)を選択した社員は、いままでどおり社員として、定年の60歳まで同社で働く。
そして、(3)を選択した社員には、シニア社員制度が適用される。これは、55歳の12月末日に一度退職し、所定の手続きにより、翌年1月1日から“シニア社員”として65歳を上限に再雇用契約を結ぶというもの。退職金は55歳時点で受け取る。これまでマネージャーだった社員はマネジメント職からは外れるが、実際の働き方の変化は、正社員のときと比べてさほど大きくないようだ。また、高い技能をもつ社員への手当は継続される(以下、シニア社員は、この65歳まで働くことを選択した社員を指す)。

研修、休暇や手当でシニア社員の意欲を向上

同社では、シニア活躍推進策のスタートから8年が経った2016年、推進策をさらに検討しようと、各部門からシニア社員の代表を11人選出し、「シニアタスク」というプロジェクトを結成した。
当事者の立場から提言してもらい、出てきた意見を集約すると、「活躍機会」、「環境整備」、「意識改革」の3つに大別された。それぞれ具体的施策(図表2)を考案して提言したところ、2017年より実現の運びとなった。

図表2 シニア社員の活躍推進(2017年期〜)

図表2 シニア社員の活躍推進(2017年期〜)

「活躍機会」の施策としては、各部門でシニア社員の専門性や能力・経験が活かされる役割・業務を可視化・公開することにした。これは求人票のようなイメージで、若手の育成、部門の生産性向上など、シニア世代に期待する業務を各部門から出してもらい、人事部のホームページで公開している。また、55歳になった社員全員が、「今後5年あるいは10年で何をしたいのか」を人事に申告する「貢献職務申告制度」もさらに活用していく。
「環境整備」施策としては、健康で安心して働ける環境を整備しようということで、2018年より、60歳以上のシニア社員の療養休暇および私傷病休暇の日数を、90日から180日に拡大した。
そして「意識改革」のための具体的施策として2017年に導入したのが、シニア社員を対象とした「チャレンジアップ60研修」と「チャレンジアップ60休暇」だ。シニア社員が自身のキャリアプランについてあらためて考え、仕事へのモチベーションを保ちながら能力を発揮して、最後まで組織に貢献しつづけてもらうことを目的としている。
まず、チャレンジアップ60研修(図表3)は、60歳到達年の秋に1日間実施。外部講師を招き、キャリアの振り返りや自身の立ち位置の確認、これからの人生について、グループで話し合ってもらう。
黒丸さんはこの研修の意義について、次のように説明する。

図表3 チャレンジアップ60研修の内容(2017年度)

図表3 チャレンジアップ60研修の内容(2017年度)

「54歳のキャリアデザイン研修を行ったあと、65歳まで働く社員個人に向けて、人事としては何のフォロー施策もしていませんでした。シニア社員の場合、55歳から65歳まで10年あり、60歳はちょうど折り返し地点です。その地点で、あらためて自分の意識や思いを問い直すのがこの研修です。
シニアタスクでの『これからは楽させてもらうよ』とつぶやかないマインドセットをする研修をしたらどうか、という意見を具現化しました。そして残り5年において、守りではなく挑戦する姿勢を貫きたいという想いを込めて、タスクメンバーの総意で「チャレンジアップ60」と名づけました。
60歳というと、定年退職を選んだ同期が卒業していく時期でもあり、人によっては取り残されてしまった感もあります。そうしたなかで、65歳まで働くことを選んだ仲間たちと、54〜55歳当時の気持ちを再度思い返してもらおうと考えました」
研修の主な内容は、「会社の制度、ライフプランツールの紹介」と「自己理解とキャリアデザイン」の大きく2つに分かれる。前者については、たとえばそれまで管理職だった場合、時間管理が変わるなど労働条件の変更があるので、それらが人事より説明される。
後者については、54歳時のキャリアデザイン研修と同じ講師を招いて実施。この5年間でどこまで実行できたかなどを振り返り、65歳のときどういう姿で会社を去りたいか、そのゴールに向けて残り5年間に何をしていくかを考えるワークを行う。
「54歳時と同じ講師にすることで、参加者と講師のつながりが再構築され、コミュニケーションをとるうえでよい影響をもたらすのではないかと考えました」(山本さん)
「シニア社員が刺激を受ける場づくりをねらいました。もちろん講師自身も年を重ねているわけですが、54歳のときに出会った講師が変わらずエネルギッシュに働いている。そうした講師の姿そのものが刺激になります」(黒丸さん)
研修後のアンケートでは、「60歳以降の自分の役割が明確になった」、「モチベーションが再度アップした」などのほか、同世代が集まれたことへの感謝の気持ちを述べる社員も多くいたという。
ユニークなのは、この研修によって、65歳までの5年間およびその後を熟考し、そのうえで翌年の1〜6月までに「チャレンジアップ60休暇」を申請・取得するということだ。
研修で考えた残り5年間の働き方や貢献について、連続5日間の有給休暇と資金5万円を使ってさらに深め、コミットしてもらうのがねらいだ。
「5万円の使い道については、事前審査や事後報告書提出などの義務はありません。
しかし、こちらとしては、やはり外部セミナーに参加するなど、“自己啓発のきっかけとなる予算”として、シニア社員にはぜひ有効活用してほしいと思っています」(黒丸さん)
2018年6月が同休暇制度の第1回目の締切であったが、対象者の大半が取得済みだという。

シニア社員の増加に伴いさまざまな施策を展開

同社では、シニア活躍推進をスタートしてから、シニア社員の数が年々増加しているそうだ。
推進策に取り組み始めた当初、シニア社員を選択する社員は対象者の16%であった。しかし、2013年に高齢者雇用安定法が改正されたことに伴い、選択率が増加し、現在では対象者の5割にまで上昇。単体社員約5,000人のうち、シニア社員は約400人となり、その内訳は、60歳を超えて働く社員が約80人、55歳以上は320人ほどである。
「当社では、2014年から65歳を上限とした無期雇用としたので、それが安心感となり、シニア社員を選ぶ社員が多くなったのでしょう」(山本さん)
こうしたシニア社員の増加に伴い、2014年に2つの施策を導入した。1つは、シニア社員への高度専門職(プロフェッショナル職=プロ職)の認定だ。「プロ職」は部門ごとに基準があり、それぞれのマネジメントによって認定され、役職手当がつく。これまでは、プロ職に認定されていても、シニア社員になると役割が異なるとして認定を外されてしまっていたが、そうした動きをなくし、シニア社員も認定することとした。
もう1つは、処遇制度の改定である。いままでは成果があっても処遇は一定であったが、2014年からは、成果に応じて処遇にメリハリをつける評価をすることとした。
また、同年、マネジャーを対象に「ダイバーシティマネジメント研修」を実施。年上の部下への接し方などを学ぶ場を用意した。
「このように、シニア社員増加に伴い、さまざまな施策を展開していますが、けっして、シニア社員を増やすことが目的ではありません。
シニア社員になっても、雇用は65歳まで。当然それ以降の人生もあります。そうしたことを踏まえながら、社員自身でベストと思う道を選択してもらう。そしてシニア社員を選択した社員には、最後まで学び成長し続け、現役プレイヤーとして活躍していただきたい、というのが人事のスタンスです。
こちらは、あくまでもその判断材料を提供しているにすぎません」(山本さん)

キャリアを切り拓く姿部長自らが提示

もうすぐチャレンジアップ60研修を受講予定の黒丸さんは、じつは薬学博士でもあり、会社人生の3分の2は研究開発に従事していた。その後、教育研修などを担当する人財育成部に移り、部長として1つの組織をリードしてきた。
「創薬でのキャリアが長く、人事教育部門への異動は自分の意思ではありませんでしたが、実際に仕事をしてみると、自分に合っているかも、と感じるようになりました。
何事もそうですが、やってみて初めてどんな仕事なのかを知り、自分にとって向き不向きかもわかります。こうした自分の経験も、『人のキャリアというものは面白い』と感じたきっかけです」(黒丸さん)
部長職である黒丸さん自身がこうしたキャリアを歩むこと自体が、同社の社員にとっては1つのロールモデルになるといえそうだ。
「次のマネジャーを支えるなど、マネジャーをしていたからこそできることが、役職定年者の役割としてあると思います」(黒丸さん)
「組織をリードしてきた立場であり、しかも部長職の者が自ら新しいキャリアを切り拓いていくことは、社員にとって、自分のキャリアは自分でつくっていくものだという大きなメッセージになるでしょう」(染谷さん)
こうして、当事者の意見を吸い上げながら、会社にとってもシニア世代にとってもよりよい施策をつくりあげてきた同社だが、今後の課題として3点をあげる。
「1つは、成果に見合った処遇をきちんとしていかねばならないということ。マネジャーよりも年上の社員が部下になることが多いので、そのマネジメントもしっかりと行えるようにしていきたいと考えています。
2つめは、ダイバーシティ&インクルージョンの活動をさらに進めることです。これに関しては、シニアにかぎらず、世代間の協働を大事にしていきたいという思いがあります。
そして3つめは、現在は60歳あるいは65歳までの雇用ですが、それ以降のキャリアも考え、リカレント教育を意識した対策の検討もしていきたいと思っています」(山本さん)
「シニアだけでなく、さまざまな社員に働く場を提供し、世代を超えてイノベーションにつながるような組織をめざします」(染谷さん)
実際、営業(MR)では、育児勤務のMRとシニア層のMRが同じエリアで組み、互いに補完し合うなど、さまざまな立場の人が活躍できる場はすでにでき上がりつつあるという。
黒丸さんは、「チャレンジアップ60研修の受講が楽しみ」だと話す。こうした活き活きとしたシニア世代の社員が増えることが、イノベーション創出要因の1つになることは間違いないだろう。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 中外製薬株式会社
本社 東京都中央区
設立 1943年3月
資本金 732億200万円
売上高 5,341億9,900万円 (連結 2017年12月31日現在)
従業員数 7,372人 (連結 2017年12月31日現在)
事業案内 医薬品の研究、開発、製造、販売および輸出入
URL https://www.chugai-pharm.co.jp/

(左)
人事部
人事グループ
課長
山本秀一さん

(中央)
人事部
部長
黒丸 修さん

(右)
人財育成部
マネジメント強化グループ
副部長
染谷 武さん


 

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