事例 No.139 古河電気工業 事例レポート(キャリア開発)
(企業と人材 2018年4月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

自社版の職種ガイドブックを作成
RPG風に社内キャリアを伝える

ポイント

(1)社員のキャリア形成についてまとめたガイドブックを作成。新しい職種に挑戦する楽しさを伝え、異動や自身のキャリアに不安を抱える若手社員を支援する。

(2)ガイドブックでは、同社内の34職種について、業務内容や求められる能力、職種変更などを、ロールプレイングゲームになぞらえて掲載。仕事がさらに楽しくなるようなワクワクするものになっている。

(3)ガイドブックで各職種の情報が共有されたことによって、社員がキャリアを主体的に考えられるようになってきた。今後は、キャリア教育に加え新人研修などでも活用していく。

異動やキャリアの不安抱える社員のために

銅の精錬や電線の製造から始まった古河電気工業株式会社。いまでは、事業領域を情報通信、エネルギーインフラ、自動車部品、電子部品などに拡大し、世界トップシェア製品などを展開している。
同社では、2013年度から定期的なジョブローテーションを実施しており、キャリア希望を上司に伝える制度とあわせて活用することで、主体的にキャリアを形成することが可能となっている。
ところが、若手社員のなかには、異動や自身のキャリアに漠然とした不安を抱える人が増えているという。そのため、キャリアを考えるうえでの情報提供や、キャリアについて考えることを難しくとらえすぎず、楽しいと思ってもらえるための仕掛けが必要であった。
そこで、人事部門は、社内にある34の職種を分析してガイドブックとしてまとめた。ここでは、社内で複数の職種を経験することを、「冒険」と表現。ロールプレイングゲーム(以下、RPG)の世界観を活用し、不安を抱える社員にジョブローテーションを楽しく前向きにとらえてもらい、自身のキャリアを主体的に考えてもらえるようにするのがねらいだ。
以下では、このガイドブック作成の経緯や概要、社員のキャリア形成への効果などについて取り上げてみたい。

新しい職種に挑戦する楽しさを伝えよう

前述のように、同社では人事施策の一環として、ジョブローテーションを重視している。その理由は、事業の裾野が広く、職種も34種類と多岐にわたるからだ。
人事部人事企画課長の關俊也さんは、次のように話す。
「当社はもともと銅の加工品や電線の製造を主軸にしてきましたが、その技術を応用して、電子部品や情報通信など事業領域を大きく広げています。
製品が違えば、当然お客さまからのご要望も違うので、仕事の仕方もさまざまです。電力ケーブルなど30〜40年安定して使えるものを製造する仕事と、情報通信部品など変化を先取りして新製品を提案していく仕事では、求められるものも変わってきます」
活躍するフィールドが広がり、変化のスピードも速くなっているなかで、社員には多様な経験を積みながら主体的にキャリアを築くことが、ますます強く求められるようになった。
さらに、組織再編により、かつては4カンパニー制だったものが、現在は14の事業部門に細分化されているため、ひとつの事業部内に留まっていては、多様な経験を積む機会が限られてしまうという事情もあった。
このような状況を受け、2013年度に、個々の社員に定期的な異動を促す「FMキャリアデザイン制度」を導入。5年に1度は組織を超える異動を、さらに50歳までに1度は職種を変える異動を経験することを奨励している。
また、定期的な異動をうまくまわしていくために、これと並行して「FMCareerBox」を運用している。これは、年に1度、直属の上司が部下とキャリア面談を行い、部下の主体的なキャリアプランの策定・実現を支援するものだ。
しかし、実際に運用してみると、さまざまな課題がみえてきた。
若手社員のなかには、所属部門以外の仕事を知らないため、「次にどんな活躍の場があるのかわからない」など、多様なキャリアパスがイメージできなかったり、異動への不安を抱く社員も少なくない。それをサポートする上司も、自分の経験してきた部門や日常的にかかわりのある職種にばかり、目が向きがちだった。
こうしたなか、人事部内で、社内のキャリア形成を理解してもらうための冊子を作ろう、という案がもち上がった。
ガイドブックの企画・制作を担当した人事部人事企画課の小川顕正さんは、次のように話す。
「事業が多岐にわたり、若手社員にとって全体像が把握しづらいなか、キャリアプランを立てろといわれても難しいものがあります。
そこで、社内にどのような仕事があるのか、その仕事の魅力は何か、キャリアを考えるうえでの情報を冊子にまとめてみてはどうかと考えました」
その発想が生まれたのは、2016年7月ごろ。まずは人事部内で検討し、新しい職種に挑戦する楽しさや、そこから挑戦できる仕事が広がっていくことを伝えるものにしようという方向性が固まった。
「じつは、私には地方議員の経験があり、ほかのメンバも海外駐在員や労働組合役員など、多様な経験を積んでいる者が多かった。新しい仕事に出会う楽しさや、その経験の重要性を肌で感じてきたからこそ、そのメッセージを強く打ち出そう、というアイデアにつながりました」(小川さん)
問題は、どうすればメッセージを効果的に伝えることができるかという点だ。複数の仕事をする楽しさを伝えるために、堅苦しいものにはしたくなかった。わかりやすく、手にとってもらえるものを作りたいという思いが強かった。
検討を重ねるなかで気づいたのは、キャリア形成とRPGとの類似性だった。
初期メンバーの1人である人事部人事課主査の平戸康貴さんは、当時をこう振り返る。
「RPGは、敵に挑むことで経験値を積んでレベルアップし、新たな武器を手に入れてさらに強くなる。そして、戦士や魔法使いなど、さまざまな職業のキャラクターが存在し、複数の職業を経験すると、上級職に転職することもできる。
最初は半分冗談で言っていましたが、考えれば考えるほど類似性が高いと思いました。これからキャリアを考えていく若い世代になじみの深い点も魅力でした」

公式ガイドブック誕生RPGの世界観を活用

こうして、約1年がかりの制作期間を経て、2017年9月、公式ガイドブックが完成した。題名は、「THEADVENTUREOFFURUKAWAWORKSTYLE〜ジョブローテーション公式ガイドブック〜」だ。
“仕事は「旅」、ジョブローテーションは「冒険」”をコンセプトに、34職種の業務内容や必要な能力、職種変更などについて、RPGになぞらえてまとめている。メインターゲットは、40代までの若手社員。総ページ数は95頁。

▲ガイドブックの表紙。RPGの攻略本のようなデザインが印象的だ。

▲ガイドブックの表紙。RPGの攻略本のようなデザインが印象的だ。

デザインも、徹底的にRPGの世界観を追求し、「冒険」色を強く打ち出した。一見すると、市販されているゲーム攻略本と見紛うばかりの完成度で、仕事がさらに楽しくなるようなワクワクするものになっている。また、表紙の背景には、同社発祥の地である日光事業所に眠っていた古い設備図面を使用している。
帯には、「もっと若い時分にこの本に出会いたかった」という小林敬一社長のコメントを大きく掲載。社長は、「次代を拓く人材の育成」を経営の柱の1つとして掲げており、そうした社長の人材育成に対する思いを表しているのだという。
中身をみてみると、メインとなる職種紹介ページは、34の職種ごとに以下のような構成となっている。
 (1)職種をイメージしたキャラクターのイラスト
 (2)業務の内容
 (3)求められる能力
 (4)異動先のイメージ
(1)は、ゲームの主人公のようなキャラクターのイラストで表現。仕事のイメージがわかりやすく、活き活きと働いている様子が描かれている。
たとえば経理の場合、税や財務、電卓、お金などをイメージした球体を両手で操っている魔法使いのイラストが描かれており、一目でその仕事がイメージできるようになっている。
(2)「業務の内容」は、その職種ではどのような仕事をし、どのような役割を担っているのかをチャートで図示。
(3)「求められる能力」では、各職種で求められる能力をゲ
ジに色づけをして数値で示すなど、こだわりは細部にまで及んでいる。
(4)「異動先のイメージ」も工夫がなされている。ある職種を経験すると、その後どのような職種に挑戦できるようになるのか、キャラクターとともに示されており、キャリアパスがイメージしやすくなっている。また、職種によっては、「ジェネラリスト志向」の場合と「スペシャリスト志向」の場合の両方を掲載しているページもある。
さらに、「製造」などの職種紹介ページでは、過去に製造の最前線を経験した小林敬一社長をキャラクター化して登場させており、こうした部署で経験を積むと、もしかしたら社長になれるかも(?)、といったユニークなキャリアパスも描かれている。
そのほかに、「先輩社員からのアドバイス」など、リアルな声を紹介するぺージもある。
「とにかく、気軽に手に取ってもらうことをめざしました。印刷物という形のあるものにしたのも、そのためです。ネット上で展開する方法もありましたが、それでは興味のある人しか見に行きません。
しかし、ガイドブックとして配布すれば、多くの社員がとりあえず手に取って見てくれるのではないか、と考えました」(關さん)

ガイドブック作成で工夫・苦労した点

つい手に取りたくなるような親しみやすさを追求する一方、内容も重視している。単に「おもしろい」だけでなく、実際に「使える」、「役に立つ」ものにするために、制作にあたっては、全職種のマネジャークラスにヒアリングを数回実施。約80人の社員を巻き込んでまとめていった。
「業務内容をチャート化するというアイデアも、最初のヒアリングの際、あるマネジャーが仕事内容をわかりやすく図示してくれたことがきっかけでした。
現場と相談しながら内容を固めていくなかで、マネジャーたちも、この機会に自分たちの職種をもっとアピールしようという意識に変わっていったようです」(平戸さん)
イラストについても、実際には男性の多い職種に女性キャラクターを登場させるなどして、職種によってジェンダーイメージが固定化しないように配慮した。
さまざまな情報を精査して提供することで、社員が固定観念に縛られず、多様なキャリアパスを主体的に描く一助にしてもらうことを意図している。
こうした工夫を重ねていったなかで、苦労した点もある。1つは、キャラクターデザインだ。34職種分のデザインのアイデアを考えるのが大変で、とくに事務系職種は服装や持ち物が似通っているため、違いを表現するのに細かく気を配ったという。

▲ガイドブックのなかの職種紹介ページ。

▲ガイドブックのなかの職種紹介ページ。

また、同社の事業領域は非常に幅広く、同一の職種であっても業務内容や範囲がやや異なっていたり、業務で使用する用語が異なっていたりする。そのため、これらを整理して、社内のだれもが理解できる内容にまとめあげるまでに、多くの時間をかけたそうだ。
ちなみに、社長のコメントを掲載した帯は、人事部員が一つひとつ手作業でていねいに挟み込んだもの。本ガイドブック完成までには、こうした大変な労力がかけられているのだ。

キャリアを主体的に考えるように

完成したガイドブックを社員に配布したところ、総じて良い反応が得られているという。
「効果測定まではできていませんが、多くの社員に手に取ってもらうというねらいは、かなり達成できていると感じています。
というのも、われわれとしては、どの職種も楽しく、やりがいのある仕事として、ポジティブに表現したつもりですが、社員たちからは『なぜこのキャラクターなんだ』、『なぜこんなアイテムを持っているのか』などという声を聞くことが少なくありません。
しかし、それは読んでもらっているからこそ、です。これまで人事施策に興味をもたなかった人も、ガイドブックはしっかり読んでくれているのだ、ということがわかります」(小川さん)
そもそも、ガイドブックの作成・配布は若手を意識して始まった企画であったが、RPGになじみのある層は当初思っていた以上に幅広く、マネジメント層からも好意的な反応が多い。
製品開発にかかわる課長からは、「チームビルディングはゲームのパーティ(ともに冒険する仲間)づくりに似たところがある。特殊スキルをもつ多様なキャラクターで結成するほうが、困難な局面を打開しやすく有利になる。強いチームをつくるためにはどうすればいいのかを遊び心をもって考えることができた」という声が上がった。多くの役員からもぜひ1冊ほしい、と声をかけられたという。
「制作に協力してくれたマネジャーからは、『部下と一緒にキャリアを考えるツールとして活用したい』という声もありました。これまでは異動やローテーションについて考えようとしても、現場はそのためのデータをもち合わせていませんでした。
ガイドブックで情報が共有されたことによって、人事だけでなく、本人もその上司も、個人のキャリアを主体的に考えられるようになってきました。
こうしてキャリアを考える社員の数が、さらに増えていくことを期待しています」(關さん)
今後は、キャリア面談などの場で、上司と部下がガイドブックを使いながら今後のキャリアについて語り合う姿が、社内のあちこちでみられるようになるかもしれない。

新人教育やキャリア教育で活用していく

ガイドブックは、社内の幅広い層から支持されているだけに、キャリア面談以外にも、さまざまな活用法が考えられる。
事業部門長クラスからは、「組織のミッションを踏まえて、業務内容がコンパクトかつわかりやすくまとめられており、新入社員教育にちょうどよい」という声もあがっている。
また、派遣社員や一般職社員のキャリアアップのための参考資料として活用することを検討している。自分たちの仕事がどういう役割を果たしているのかを理解する材料にもなり、正社員や総合職をめざすにあたって、視野を広げてくれる一助にもなる。
さらに管理職に対しては、これまでの歩みを振り返ったり、マネジメント職として人材育成をどのように進めていくかを考えるためのきっかけにしてもらう。
事業領域や業務内容の変化などを踏まえ、今後も3年に一度程度の頻度で、ガイドブックを改訂する計画もある。一人ひとりの自律的なキャリア形成意識が高まり、各職種の情報が共有データとして全社に浸透していけば、将来的には印刷物ではなく、ネット展開する可能性もあるだろう。
新しいコンセプトを打ち立て、妥協せずに実現した公式ガイドブックの存在自体が、「新しい挑戦を楽しむ」というメッセージを体現しているのかもしれない。

《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」 《こちらもおすすめ》年間42の企業事例を掲載。企業研修に特化した唯一の雑誌「企業と人材」

最後に、ガイドブック作成に携わって感じたことをうかがった。
「人事部だけでなく多くの部門を巻き込んだからこそ、良いものができたと感じています。今後、社員のキャリア開発を人事部中心に進めるのではなく、社員が自らキャリアを描き出すような形で進めていこうと思います」(關さん)
「これまでは、人事の作る冊子といえば堅苦しいものが多かったので、そのイメージを一気に払拭したいという思いがありました。もちろん、中身はしっかりしたものを作ろうと考えていましたが、一見すると、遊び過ぎているようにも見える私たちの提案を受け入れてくれた当時の人事部長に感謝しています。それが形になっていく過程は、とても楽しかったですね」(平戸さん)
「ガイドブック作成にあたり、各職種について一つひとつ丁寧にヒアリングをしていくと、どの仕事も重要で、必要のない仕事など社内に1つもないということをあらためて実感しました。ガイドブックとして形になったときに、その思いが自然と伝わったのではないかと思います」(小川さん)

(取材・文/瀬戸友子)


 

▼ 会社概要

社名 古河電気工業株式会社
本社 東京都千代田区
設立 1896年6月(創業1884年)
資本金 693億9,500万円 (2017年3月末)
売上高 3,987億7,700万円 (2017年3月期・単体)
従業員数 3,657人 (2017年3月末・単体)
事業案内 情報通信や電力インフラ関連製品、自動車部品、電子部品、建設・建築材料などの研究開発・製造
URL https://www.furukawa.co.jp/

(左)
戦略本部
人事部
人事企画課長
關 俊也さん

(中央)
戦略本部
人事部
人事企画課
小川顕正さん

(右)
戦略本部
人事部人事課
主査
平戸康貴さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ