事例 No.121 イオンリテールワーカーズユニオン 特集 後半戦を考えるキャリア教育
(企業と人材 2017年12月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

キャリアやライフプランを考えるため、介護セミナーを実施
自分事として認識させ、気づきを波及させていく

ポイント

(1)組合役員の育成に重点を置き、組合員からの相談や困りごとに対応できる力を身に付けさせる。関心のあるテーマは積極的に学び、必要に応じて、各地域に展開していく。介護セミナーも、キャリアやライフプランのうえで重要なテーマとして開催。

(2)介護セミナーは、介護を自分事としてとらえる必要性に気づかせ、実際に当事者になったら何をすべきかという基礎知識を学ぶ「基礎編」と、仕事と介護を両立するためにできることを考える「両立編」で構成。

(3)基礎編、両立編ともに、実情に合わせたケースを設定してディスカッションするケーススタディを実施。自社や自治体の支援制度、介護保険の仕組みの確認なども行う。

全国約14万人。パートや女性が多数所属する労働組合

グループ約300社、従業員52万人からなるイオングループは、連結売上高8兆円を超え、日本の小売業でナンバー1の実績を誇る。その中核を担うイオンリテール株式会社は、2007年の持ち株会社化によって誕生した事業会社で、グループの小売業を担い、スーパーマーケット「イオン」など、日本全国に店舗を有し、約14万人の従業員が働いている。

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同社は、新規事業にも積極的で、都市型小型スーパーマーケット「まいばすけっと」など、新事業・新業態をまずは1事業部として立ち上げ、成長したら分社するという形で、グループの拡大を図ってきた。
こうした経緯もあり、同社の労働組合であるイオンリテールワーカーズユニオン(以下、単に「ユニオン」という)は、イオンリテールおよび同社から分社した会社を中心とする16社と労働協約を結び、組合活動などを行っている。組合員数は約14万人。専従役員は78人であり、単一の労働組合としては日本最大級である。イオングループ労働組合連合会、UAゼンセン、連合を上部団体に持つ。
同ユニオンは、パートタイマーが多いことが特徴で、約14万人の組合員のうち、パートが約12万人を占める。2006年に雇用保険加入のパートを組合員化し、その後、雇用保険未加入の短時間パートや65歳以上のシニアも組合員化。学生アルバイトと季節の短期アルバイトを除く、従業員の約90%が組合員となっている。
そのため、パートにとっても有意義な組合となることをめざしており、最近はパートが参加しやすいよう、お店の近くで行う活動を増やすなどの取り組みをしている。
人事制度の面でも、パートに関する部分の見直しについて当事者の声を吸い上げやすいように、意識的にパート役員を増やしてきた。いまでは全体の3割、店舗では半分程度の組合役員がパートタイマーである。パートを巻き込むと必然的に女性の比率が高まるため、女性の参画が進んでいることも特徴といえる。
カンパニー(東北、北関東・新潟といった地域別カンパニーや、トップバリュコレクション株式会社、マックスバリュ南東北株式会社、まいばすけっと株式会社などのグループ会社)単位で「グループ」を形成しており、組合本部の掲げる方針を踏まえつつも、各グループが自律的に活動する。各グループはいくつかの「ゾーン」(事業部など)に分かれており、さらに店舗等を「支部」や「分会」としている。

関心の強いテーマを積極的に学ぶ

人材育成については、組合役員の育成を最重点に置いている。組合役員が、組合活動を円滑に進めるうえで必要な知識・スキルを習得することが、組合員の幸せの実現につながると考えるからだ。基本的な教育に加え、海外での社外貢献活動や小売・流通業の視察に選抜して派遣したり、上部団体(UAゼンセン)の教育メニューも活用している。
中央執行書記長の泉澤匡範さんは、次のように述べる。
「組合役員に対して、組合活動を円滑に進める知識とスキルを修得させる教育を行うのが基本です。組合員からのさまざまな相談に答え、支部(店舗)における困りごとをみつけて課題化し、取り組む力をつけてもらいます。
これまでは、いろいろな研修をつまみ食いしてきたようなところがありますが、ゆくゆくは年次別・職位別に必要なカリキュラムを整理し、体系化したいと考えています」
組合役員への教育に加え、メンタルヘルス、ライフプランセミナーなど、一般の組合員にも関心のあるテーマの教育は、参加者を広く募って実施することもある。一般の組合員への教育は、各グループが自律的に行うことが多い。
組合内での教育の広げ方はこうだ。まず、政策局という労使交渉などを行う部署や各グループの専従役員が、関心のあるもの、知識をつけたいテーマがあると、外部のセミナーを受けに行く。
内容が有意義で、ほかの人にも学ばせたいものだと感じたら、組合専従者を集め、組合内で研修を行う。そして、研修を受けた専従者が非専従の役員にも伝え、グループごとに研修。それをさらに一般の組合員に……と、波及していく形で、勉強会やセミナーが行われていく。
「役員であるわれわれが知識を備えていないと、困りごとを相談されても対応ができませんので、まず、組合役員が学ぶ必要があります。どんなテーマを学ぶか、それを非専従の役員や一般の組合員まで広げていくかは、専従役員がどれだけ関心をもち、共有したいというマインドをもつかにかかっています。
テーマの選び方は、悪い言い方をすると“行き当たりばったり”ですが、そのときどきのトレンドや関心をもつべきテーマは積極的に追いかけ、取り上げます。組合として、『こんな問題が皆さんに降りかかってくるかもしれない』と発信してケアしたり、『こういう予防策を取る必要がある』と会社に投げかけたりできるように、広くアンテナを張り、トレンドは早くキャッチするよう心がけています」

年齢の節目でキャリアを考える機会を

一方、会社が行う教育・研修は、(1)小売りの実務の研修、(2)昇格者に対するマネジメントなどの研修、(3)将来の経営幹部候補を育てる研修に大別されている。こうした将来の幹部候補に向けた研修は充実しているが、現時点では一般社員向けの底上げカリキュラムや年代別キャリア研修の不足を感じているという。
「当社の社員の多くは、全国転勤を繰り返します。その間は社宅住まいをすることが多く、場合によっては、上位等級に昇格しないまま定年を迎え、65歳になっても持ち家がないということもありえます。そこでぽんと家を買うことができればよいですが、そうでなければ、自分で賃貸物件を探すことになります。しかし、定年退職後の65歳となると、借りるのも難しい。
えてして現役でバリバリ働いているときは、そうした可能性を失念しがちです。『現役のうちに、将来を見越して資産形成などをしておかないと、老後が大変ですよ』と伝えていく必要があります。
たとえば30、40、50歳のタイミングでキャリア研修を行い、年齢の節目で自分のキャリアやライフプランを考えるきっかけを与えてほしいと、会社にも投げかけています」
先を見据えたキャリアに関する教育が手薄になっているのには、同社のあり方ゆえのところもある。イオングループはさまざまな事業を展開しており、新規事業が会社化したり、他の企業がグループ入りすることが珍しくない。
中途入社も多く、年齢と職位がリンクしていないため、社員の登用は、あくまでも昇格試験に通るかどうかで、学歴、年齢、性別などは関係ない。そのため、人事制度に年齢の概念が少ないのだと、泉澤さんは指摘する。
そういう意味では、経歴に関係なく仕事ができる平等さ、実力主義が生きているとみることもできるが、こと、年齢で区切ってキャリアを考えさせる、という点においては、マイナスに働く部分があるのだ。
ただ、本人のライフプランという視点では、年齢の節目で考える機会を設けることは重要な問題だ。そのためユニオンでは、グループで組合員の自律的なステップアップと早期の将来設計を促す機会として、一般の組合員向けにキャリア・ライフプランセミナーを開催している。
また、組合の広報誌では、上部団体の共済制度を紹介するなど、将来設計に関心をもたせる記事を取り上げる取り組みも行っている。来年度から確定拠出年金に関する会社の教育がスタートするので、それと併せて会社にキャリア・ライフプランセミナーを実施してもらえるように、まずは、組合でそのプロトタイプを構築することを検討しているところである。

組合役員向けに介護セミナーを展開

キャリアを築いていくうえで、大きな障害になり得るのが介護の問題だ。高齢化が進む日本では、今後、介護離職が増えていくことも予想される。介護は、突然降りかかってくることもあるし、長期に及ぶことも多い。必要になってから慌てないように、いかに事前に備えておくかが重要となる。
そこでユニオンでは、2015年から、組合役員向けに、介護セミナーを開催している。ただし、組合員から介護に対するニーズがあって研修を始めたのではないのだという。
「当社は、育児関連の制度は充実しており、制度面では、これ以上、組合として新たに要求すべきことがないほどの状況です。組合内でも、10年以上前から『育児座談会』などを開催しています。
そこで、次は介護に取り組もうと考えたのですが、現人事制度では、介護についても、休職や時短勤務などが利用できるように整えられています。では、ほかに何が必要かと考えても、われわれも介護をしたことがないため、何が必要かわからなかったのです。そこで、まずは介護を知ろうと、組合役員向けの研修を始めたのです」
まず始めに、北関東グループがキャリア開発やワークライフバランス支援などを手がける株式会社ライフワークスの協力で、介護セミナーを独自に実施した。これが好評だったため、政策局でも開催し、2017年からは、他のグループでも展開している。

▲介護セミナーの様子

▲介護セミナーの様子

「そもそも介護に何が必要なのか、どんなサポートがあるのか、事前に準備できることは何かといった内容を、介護経験のある講師にレクチャーしてもらいました。実際に受けてみて、『これは、介護が必要になる前に知っておかないとまずい』と危機感をもち、非専従役員にも教えるため、各地区で開催するようになりました。
将来的には、その人たちが一般の組合員に『一度、セミナーに行っておいで』と勧める流れをつくり、組合員全体の意識を高めていければと考えています」
セミナーの基本的な流れは、図表1のとおり。基本は4時間のプログラムだが、要望に応じてアレンジする。

図表1 介護セミナーのプログラム

図表1 介護セミナーのプログラム

まず第1ステップ(基礎編)として、介護を自分事としてとらえる必要性に気づかせる。介護とは何か、自分がすることになったら最初に何をすべきかといった基礎知識を学ぶ。
次に第2ステップ(両立編)として、仕事と介護を両立するために、いまからできることを考える。講師がとくに強調するのが、“辞めない介護”の重要性である。
「先生の話で心に残ったのが、『退職してしまうと泥沼だ』ということです。辞めると収入がなくなりますし、再就職も難しいので、仕事を続けながら介護をすることが大切です。そして、介護と仕事を両立するために事前に準備できることが、じつはたくさんあるということもわかりました。
また、法律を中途半端に知っていると、勘違いして勝手に自分のなかで完結してしまうケースにも気づかせてくれました。たとえば介護休職は93日間ですが、よく勘違いするのが、『93日で介護が終わるわけがない』と思ってしまうことです。でも、この期間は、体制を整え、準備するための期間なのだと説明され、なるほどと思いました。まずは休暇を取って体制を整え、そこから先は、短時間勤務などの制度をうまく活用しながら働く、それがあるべきあり方と気づきました」(図表2、3)

図表2 「知っておきたい介護の基礎知識」の例1(セミナープログラムより)

図表2 「知っておきたい介護の基礎知識」の例1(セミナープログラムより)

図表3 「知っておきたい介護の基礎知識」の例2(セミナープログラムより)

図表3 「知っておきたい介護の基礎知識」の例2(セミナープログラムより)

続くケーススタディでは、自社の実情に合わせた設定のケースを用いて、参加者同士でディスカッションをする。介護が必要になるケースもさまざまだ。脳溢血などで突発的に起こる状況もあれば、だんだんと痴ほうが進行する状況もある。こうしたケースが自分に起きたらどうしますかと、投げかけるのだ。そのうえで、自分の家系図や実際の状況と照らし合わせて、どんなことが起こり得るかを考えさせたり、介護保険の仕組み、介護をする体制の整え方、自社の制度、自治体の支援、費用面の留意点などを解説する。
セミナーの参加者の構成をみると、40代半ば~50代が中心で、女性が多い。関心をもつ組合役員もそれなりにいるが、メンタルヘルスなどのテーマと比べると、参加者はまだ少ないのが現状だ。
「私が課題と感じているのは、組合が教育を企画しても集客力が低いことです。店舗は年中無休で開いているので、休みが合わない人もいますし、開催地から遠くて参加できない人もいます。
また、介護というと年老いた親の介護をイメージしがちで、若い組合員からすると、あまり現実味がありません。ですが、親が若くても突然倒れて……という状況は誰にでも起こりうることです。私としては、50代になると実際に状況が発生する人が増えてくるので、せめて40歳くらいまでにセミナーを受けてほしいと思いますが、まだまだ、自分事としてとらえにくい傾向があります」
セミナーの参加率を高めるためには、組合広報誌などを使って意識を高め、参加を呼びかける方法も考えられる。また、セミナーを委託している研修会社でeラーニングの利用も検討しているので、それを利用すれば、開催時間・開催場所の問題を解決できるかもしれない。
ただ、いずれにしても組合の場合、強制的に参加させることができないため、全員に徹底するのは難しいのがネックだ。大事なことなので、会社が実施するようにもっていくべき、というのが泉澤さんの考えだ。
では、会社の関心はどうだろうか。
「とくに人事制度設計などを担当する人は、危機感をもっています。異動・配置の担当も、『また休職者が出た』とか、『介護のために親元に戻してあげなければならない』といった事案が増えてきた実感をもっているようです」
実際、同社のダイバーシティ推進室では、2015年に『ダイ満足のすすめ〈イオンと介護編〉』という小冊子を作成している。介護の基礎知識、仕事との両立の重要性、事前準備、介護になったらまずすべきこと、介護保険のサービスの利用方法や種類と費用、福祉会の支援制度の紹介、社内外の相談窓口の案内などを載せたもので、非常によくできているという。
しかし、この冊子の内容が十分に周知されているかというと、自社の制度を知らない従業員も少なくない。申請を出せばもちろん対応してくれるが、制度を知らなければ活用のしようもない。ほかにもさまざまな支援メニューがあるが、認知されているとは言い難い状況だという。
「当社も平均年齢が上がり、現在44~45歳ぐらい。パートはさらに高く50歳くらいでしょう。生涯を踏まえた教育が必要です。
しかし、どういう介護の仕方をするかは本人の選択次第です。転居転勤のない地域限定社員に切り替えて親元に戻るのか、それとも、基本はご兄弟に任せて月に何回か帰るのか。定型はないので、本人が決めないことには、会社もサポートできません。思いあまって『辞めます』などとならないように、考える機会を早くつくってあげたいと考えています」
一方、介護をする従業員の上司に対する教育も必要だ。介護をしながら働くことは、短く働く・早く帰るという要素が避けられない。よく考えると、「フルタイムでない働き方」は、パート勤務の多い店舗のマネジメントでは、特別なことではない。だが、たとえば、フルタイムの人が介護で時短をするとなると、嫌な顔をする上司がいるかもしれない。こうしたときに間違った対応を取らないよう、意識づけが必要だ。
「育児にしても、まだ組合員から『育児勤務を言い出しにくい』という声があります。ふだんから、皆がライフイベントに応じて短く働ける職場風土になっていればよいのですが、かつては長時間労働が当たり前の業界でした。育児や介護がどれだけ大変か、自社の制度がどうなっているかといったことを上司が理解していることが、非常に大事です。上から教育していく必要があります。
当社は、LGBT、障害者など、ダイバーシティの観点で毎年テーマを変えて人権研修を行っています。また、女性が多いこともあり、育児については、勉強する機会を設けています。介護も、学ぶ機会をつくりたいと考えています」

(取材・文/崎原 誠)


 

▼ 会社概要

社名 イオンリテールワーカーズユニオン
本社 千葉県千葉市
設立 1969年(現組織としては2011年)
組合員数 約14万人
URL https://arwu.jp/

中央執行書記長
泉澤匡範さん


 

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