事例 No.120 博報堂 特集 後半戦を考えるキャリア教育
(企業と人材 2017年12月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

「キャリア自律」の考え方をベースに、年代別にキャリア開発支援
プログラムを実施。受け皿となる個別相談体制も整備

ポイント

(1)20代に3つの業務領域を経験させる「多段階キャリア育成制度」を経て、29歳、42歳、54歳で全員参加のキャリアデザインセミナーと希望者のみのワークショップを実施。個別キャリア相談でフォローする体制も整備。

(2)29歳時の「CD30s」ワークショップでは、プロフェッショナルとしての方向性の確立をめざし、ブロック玩具のワークを通じた自己理解をもとに、会社との接点を探る。

(3)42歳時の「CD40s」ワークショップでは、約40年分の「自分史」を作成。グループで「自分 の核となっているものは何か」を話し合い、自身の未来計画を描き出す。

05年に企業内大学を設立し、キャリア開発支援を強化

インターネットなどのデジタルメディアの普及もあって、広告業界を取り巻く環境は大きく変わり、株式会社博報堂においても、ビジネスモデル自体が変化してきているという。
従来は、顧客企業の依頼により広告コミュニケーションをサポートするのが主な事業だった。しかし、いまでは顧客企業の事業戦略、商品開発、販売促進など、さまざまな活動をマーケティングの視点からサポートすることが求められるようになってきた。広告コミュニケーションの領域は残しつつ、守備範囲が大きく拡大している。

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広告業界に限ったことではないだろうが、ビジネスモデル自体が大きく変わるなかでは、キャリア教育の重要性はますます高まっている。過去の延長線上でキャリアを考えていては、変化に対応できないからだ。
同社は、2005年に人材育成強化を掲げ、社内に「HAKUHODOUNIV(.博報堂大学)」を設立。以来、キャリア教育の強化にも力を入れてきた。同社の人材育成方針は「粒ぞろいより粒違い」という言葉で表されるが、社員一人ひとりが自律的に、自分のタイミングでキャリアを考えることができるよう、支援策が組まれている。

図表1 博報堂のキャリア開発支援 主要施策

図表1 博報堂のキャリア開発支援 主要施策

現在、同社が実施するキャリア開発支援策は、大きく3つの柱からなる(図表1)。1つ目は、20代社員を対象とした「多段階キャリア育成制度」。2つ目は、「世代別キャリア開発支援プログラム」で、CD30s、CD40s、CD50sの3つのプログラムがある。そして、これらの施策にも一部組み込まれながら実施されているのが、3つ目の「個別キャリア相談対応」である。
以下では、これらの施策について、順を追ってみていくことにしよう。

20代に2度の全員異動で3つの業務領域を経験

多段階キャリア育成制度の中核は、新卒入社時から29歳までの間に多様な業務領域で経験を積むことを意図した、計画的な人事異動の仕組みだ。入社4年目(社会年齢25歳)と7年目(同28歳)を基準年として、同期全員がほぼ同時期に異動する。しかもこの異動では、職種の変更を伴うことも少なくないという。つまり同社では、入社8年目までに3つの業務領域を経験することになる。20代のうちに複数の領域で専門性を高め、視野を広げるとともに、その後のキャリアを支える土台をつくることが目的だ。
人材開発戦略室キャリアデザイングループマネジメントプラニングディレクターの木村英智さんは、次のように話す。
「営業職からクリエイティブ職へ、というように、がらりと職種が変わることもあれば、同じ営業職での異動の場合もあります。同じ職種の異動の場合でも、違うスタイル、違う分野の営業職に変わるなど、それまでの延長線上ではないことをやってもらう。そうすることで、将来の変化に対応できる、しなやかな幹をつくっておいてもらおうというのがねらいです」
そして、入社4年目の最初の異動時に、対象者必須受講の研修として「キャリアを考えるセミナー」が実施される(図表2)。内容としては、同社の掲げる「キャリア自律」の考え方を説明したうえで、多段階キャリア育成制度の説明、会社の向かう方向性、先輩社員とのパネルディスカッション、社外講師によるキャリア形成のヒントの手渡しなどとなっている。

図表2 キャリアデザインを考えるセミナー(25 歳時)の全体構成

図表2 キャリアデザインを考えるセミナー(25 歳時)の全体構成

このセミナーに続いて、異動対象者から希望者を募って行われるのが、キャリアデザインワークショップである。定員は20人前後で、自己理解と外部の環境理解、それを踏まえたキャリアビジョンの策定などが、その内容だ。ワークショップ終了後に受講者が希望すれば、個別キャリア相談を受けることもできる。
なお、ここでみられる、[1]対象者全員が参加するセミナー・講演会開催、[2]セミナー受講者のなかから希望者が参加するワークショップ、[3]個別キャリア相談、という3段階の構成は、世代別キャリア開発支援プログラムにも共通する。

キャリアの方向性を見定めるCD30s

多段階キャリア育成制度による2度目の異動後に用意されているのが、世代別キャリア開発支援プログラムのCD30sというプログラムだ(図表3)。入社年を基準とした社会年齢でいうと29歳にあたるこの時期は、人事制度上、職階が1つ上がり、「スーパーバイザーロール」となる時期でもある。これは、より上位のプロフェッショナル職として働いていくための準備期間と位置づけられる。CD30sは、この社会年齢29歳の社員全員が対象となる「説明会&キャリア講演会」からスタートする。

図表3 CD30s(29 歳時)の全体構成

図表3 CD30s(29 歳時)の全体構成

説明会&キャリア講演会は丸1日をかけ、各種キャリア開発支援制度の説明、各自のキャリア開発に対する期待、役割の理解促進などの説明があり、その後、社外講師による講演という流れだ。
「CD30sは、プロフェッショナルとしての方向性の確立に向け、自らの意思や価値観から出発して、会社との接点を探るものです。プログラムを通じて自分の“核”となるものをみつけてもらい、それを自分に腹落ちさせ、会社の未来像と自分との接点を考えてもらいます」
プログラムとしては、説明会&キャリア講演会に続き、希望者参加の「キャリアデザインワークショップ30s」があり、さらにその後に「個別キャリア相談対応」が用意されている。
「どちらかというと、自身のキャリアの『これから』を考えるためのプログラムになっています」
キャリアデザインワークショップ30sのプログラム構成は、図表4のとおりである。「自己探求」、「プロ宣言」、「アクションプラン」の3つのパートからなる、2日間のプログラムだ。忙しい年齢層でもあり、宿泊型の研修ではなく、日帰り型にしている。

図表4 CD30sキャリアデザインWS プログラム構成

図表4 CD30sキャリアデザインWS プログラム構成

自己探求パートとプロ宣言パートでは、ブロック玩具を活用したワークを取り入れている。
「ファシリテーターから与えられるテーマをブロック玩具で形にするというものです。たとえば、過去の成功体験をブロックで作品にする。そのときにどんなことを考えたか、どんなことを感じたなど、形にしながら内省してもらいます」
ワークショップ30sの定員は20人。希望者のみの受講だが、ブロック玩具のワークは人気があるようで、すぐ定員に達するという。
ワークショップの最後はアクションプランパートである。プロ宣言をした仕事に対し、具体的なアクションプランを立てるのだ。なかには、実際に自己申告制度を使って異動した人もいる。他方、ワークショップの時間内にプランを策定しきれなかった場合には、個別キャリア相談を受けてプランの続きを考えることもできる。
じつは、CD30sに取り組み始めた当時、対象年齢は32歳だった。それを29歳に引き下げたのは、ちょうどその時期に産休・育休を取得し、セミナーに参加できない女性社員が多くなったためだという。対象年齢を3歳引き下げることによって、ライフイベントを含めて、これからのキャリアを考えやすくするというねらいだ。
CD30sが終了すると、その後は各自でキャリア形成に取り組んでいくことになるが、個別キャリア相談は、社員が希望すればいつでも受けることができる。
同社のキャリア開発支援策の3つ目の柱でもある個別キャリア相談は、人材開発戦略室のメンバーがキャリアカウンセラーの資格を取得し、対応している。専用の部屋があり、時間さえ合えばいつでも予約を受けつける。現在は、年間80〜100人が相談を受けているという。
人材開発戦略室は、当然ながら社内の研修も主管しているため、新入社員研修などを通じて新人時代から直接の接点をもつことができている点が強みだ。実際、地方配属の新人や若手社員が東京出張時などに相談に訪れることも多いという。
なお、相談時には、事前に必ず「個別相談で話した内容が人事部や上長に伝わることはない」と説明しているそうだ。同社では人事局と人材開発戦略室が並立する形で設置されており、独立した部署として機能していることも安心感につながっているのだろう。

折り返し地点を前に立ち止まって考えるCD40s

世代別キャリア開発支援プログラムが提供される次のタイミングは、社会年齢42歳で受講する「CD40s」である。こちらは、個人の働きがい、生きがいと強みを活かした将来の働き方を展望し、それに向けた最初の一歩を後押しすることがねらいだ。自分の人生で今後やってみたいこと、やり遂げたいことを、いったん仕事や会社という枠を外して考えてもらう。
プログラムの構成自体はCD30sと同様である。最初に、対象者全員が受講する「説明会&キャリア講演会」が実施され、次に希望者のみが参加する「キャリアデザインワークショップ40s」が行われるという流れだ。
しかし、CD40sの説明会&キャリア講演会では、CD30sに比べるとシリアスなトピックについても率直に話すという。
「たとえば、上の役職には決して順番待ちでは上がれない、といったことですね。それと、転進支援制度、定年再雇用制度などについても説明して、あらゆる進路を考え始める時期に来ていることを伝えます。決してネガティブな意味ではなく、具体的に提示することで視野を広げてもらうということです。
CD40sでは、社外講師の方から『皆さんは、65歳、70歳、あるいはそれ以上の年齢まで働く可能性のある世代です。そうすると、まだ折り返し地点ですらない。このあたりでいったん立ち止まって、先のことを考えることは大事ではないでしょうか』という投げかけをしてもらいます。それがこの世代の社員には響くようで、受講者が真剣になります」

ワークショップでは40年分の自分史を手に、気づきを与え合う

その後のキャリアデザインワークショップ40sは、「導入セッション」、「探求セッション」、「プラニングセッション」の3つから成る(図表5)。定員はやはり20人となっている。

図表5 CD40sキャリアデザインWS プログラム構成

図表5 CD40sキャリアデザインWS プログラム構成

導入セッションでは、まず意識醸成を図ることがねらいだ。先人たちのケースをもとに自分のなかにある「満足化基準」に目を向けてもらう。今後の進路を考えたときに、何を得られることが自分の幸福につながるかを考えてもらうのである。
続く探求セッションは自己理解のパートで、自分の生来的・後天的な強みや能力を理解・納得してもらうワークを行う。4人くらいのグループで、これまで熱中したこと、いま熱中していることなどをお互いに出し合ってディスカッションをする。いわば自分の棚卸だ。そして、これからやれること、やりたいことについて、グループメンバーの指摘にも耳を傾けながら、可能性を広げてもらう。
このセッションでは、事前課題となっている「自分史」を活用する。物心ついたころから現在までの約40年間について、各年に起こったことを写真付きのシートにするというものだ。
各シートには、その年に自分が何をしたか、だれと出会ったか、何が印象に残っているかなどを書き込んでいく。相当な作業だと思われるが、そこまでやることにより、自分が何に突き動かされ、どんな出会いが大事だったかなど、自分の核になるものがみえてくるという。
「現在の自分については、周囲の人たちに『自分をどのように見ているか』を手紙に書いておいてもらいます。自分史とその手紙をもとにグループで話すうちに、自分の可能性がみえてくる。まわりの人から意見や感想をもらうことで得られる気づきが大切だと思っています」
日程は半日+2日間だが、30sのワークショップとは異なり、2日間は宿泊研修となる。自分のことをそこまで赤裸々に話すのは、人によっては抵抗感があるかもしれない。しかし、一緒にいるうちに次第に会話が盛り上がり、懇親会を経て、2日目には同世代のコミュニティができているという。
そして、最後のプラニングセッションでは、ありたい未来を描いて計画を立てる。「ありたい」といっても、将来、障壁になることも起こり得る。そんなことも考えながら、具体的なアクションも含めて計画することになる。
このプログラムをきっかけに、いままで気がつかなかった自分の志向性や興味、強みに気づき、自分の可能性を広げることを考え始める人が多いという。なかには、30sと同様に、時間内に未来計画を書ききれずに「モヤモヤ感」をもったままワークショップを終える人もいる。そういう場合には、個別キャリア相談へと声がけをしているそうだ。
また、真剣に考え始めるタイミングは受講直後とはかぎらない。数年後、異動などのきっかけがあって思い出したという人もいる。そういう場合にも、いつでもだれでも個別キャリア相談を受けられる現在の体制はうまく機能しているようだ。
その後、54歳の社員を対象とする「CD50s」がある。個人のワーク・ライフを振り返り、60歳以降の生活を見据えて、50代後半の働き方、生き方を考えるプログラムとなっている。同社では55歳から給与体系が変更となるため、その制度の説明をするほか、マネープランを含めて今後のキャリアについて考え、キャリアビジョンを作成するワークショップを行う。

育児や介護の問題にも、今後は対応を検討

今後の課題としては、1つは年代で区切れない社員個別の「事情」にどのように対応していくかだという。
たとえば、育児や介護である。育児で一時仕事を離れると、その後のキャリア形成をどうするか、あらためて考えなくてはならないことが多い。現状では、育休後の社員には、復職前後に個別キャリア相談を実施しているが、今後、介護など、個別のライフイベントに、キャリア開発支援としてどう対応していくのか、あらためて考えていく段階に来ているという。
もう1つの課題は、より多くの社員に自分の成長に対する責任を自覚してもらうこと、つまり自律を促していくことだ。冒頭に触れたように、広告業界を取り巻く環境は大きく変わりつつある。そんななか、社員のキャリアに対する意識も変えてもらわなくてはならない。気づきを促すために、いま以上に力を入れる必要があるという。
ここまで、博報堂のキャリア教育について紹介してきた。ビジネス環境が大きく変わりつつあるのは広告業界だけの話ではない。かつては、入社から定年退職まで、どのようなキャリアを積み重ねていくのか、一定のイメージがあった。しかし、企業を取り巻く環境が変われば、そんなイメージもあっさりと変わる。社員の幸福のためだけではなく、人材を活用して会社を成長させていくためにも、キャリア教育の重要性はますます高まっていきそうだ。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社博報堂
本社 東京都港区
創業 1895年10月(設立1924年2月)
資本金 358億4,800万円
売上高 8,802億9,500万円(連結 2017年3月期)
従業員数 3,428人(2017年4月1日現在)
事業案内 広告・マーケティング事業など
URL http://www.hakuhodo.co.jp/

HAKUHODO UNIV.
人材開発戦略室
キャリアデザイングループ
マネジメントプラニングディレクター
木村英智さん


 

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