事例 No.119 積水化学工業(積水化学グループ) 特集 後半戦を考えるキャリア教育
(企業と人材 2017年12月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

節目となる年齢で自分を顧みる機会を提供
自分の「持ち味」を発揮して、学び成長することをめざす

ポイント

(1)キャリアプラン研修を、「自分自身の志向や持ち味と向き合い、今後のキャリアを自分で考える機会」と位置づけ、節目となる年齢ごとに実施している。

(2)経営方針である「ダイバーシティ推進」のための重要な施策として、グループ会社を含めた全社の従業員を対象に展開している。

(3)参加者同士のディスカッションを中心に進行し、そこで得た気づきを「キャリアプランサマリーシート」に随時書き込むことで、自身のキャリアプランを明確化していく。

CSR経営を重要な戦略と位置づける

2017年に創業70周年を迎えた積水化学工業株式会社。2001年のカンパニー制導入以後、「住宅カンパニー」、「環境・ライフラインカンパニー」、「高機能プラスチックスカンパニー」からなる独立性の高い3つのカンパニー(事業体)とコーポレート部門により、積水化学グループが一丸となって事業活動を行っている。
各カンパニーは優れた技術をベースにした付加価値の高い製品を多数抱えており、なかでも、太陽光発電搭載住宅、自動車向け合わせガラス用中間膜、コレステロール検査薬などの製品は、グローバルでトップシェアを誇る。
各事業の技術や強みを“融合”させ、社会に共有される新たな「価値」を創出し、持続可能な社会の実現をめざしている。
グループ会社は国内外に約200社。総従業員数は約2万3,000人で、そのうち、国内の従業員数は約1万8,000人、同社単体の従業員数は約4,000人である。
同社は、社是に「3S精神」を掲げる。3Sとは、Servic(e企業活動を通じて社会に貢献する)、Speed(積水を千仭の谿(せんじんのたに)に決するスピードをもって、市場を変革する)、Superiority(際立つ技術と品質で社会からの信頼を獲得する)であり、この3S精神に基づいて事業を展開している。
そうしたなか、近年、同社はCSR経営に力をいれている。「事業を通じた社会課題の解決」と「事業プロセスにおける社会への責任」を、事業の成長に欠かせない重要な要素ととらえている。
このうち、「事業を通じた社会課題の解決」を推進するために打ち出しているのが、「環境」、「CS品質」、「人材」という3テーマへの取り組みの強化である。それぞれ、以下のような具体的な取り組みがあげられる。
「環境」…環境貢献製品の開発や環境負荷削減推進
「CS品質」…魅力ある製品・サービスづくりやその品質向上
「人材」…ダイバーシティマネジメントなど
CSRと事業を一体的にとらえることについて、人事部人材開発グループの唯根亮さんは、次のように説明する。
「私たちは、CSRを推進することによって、社会から一目置かれるような存在価値のある会社になることを、重要な経営戦略と位置づけています。事業を通じて社会課題を解決することによって、世の中から“際立つ会社”と認められる。その評価が、これからの市場を勝ち抜いていくための競争力になるということです。
“際立つ会社”になるためには、『環境』、『CS品質』、『人材』という3つの“際立ち”が必要だと考えており、そのなかでも、人材の際立ちの基盤となるダイバーシティ推進には、近年とくに力をいれています」
同社がCSR経営に取り組みはじめたのは、2000年代初頭である。この経営改革が、同社の人材理念を転換するきっかけになった。
「それまで、多くの日本企業がそうであったように、当社でも従業員の育成は会社主導で進めるものだと考えていました。しかし、経営改革を機に視点を大転換し、『自分のキャリアを自分でつくる』という方向性を打ち出しました。そこには『従業員の人生すべてを会社が面倒みられるような時代ではすでになくなった。それならば、従業員が自己実現を遂げ、活躍できる場を提供していくことが、社会のなかで企業が果たすべき責任だろう』という考えがありました」(唯根さん)
このとき、研修体系を刷新したのにあわせて2001年に新設されたのが、「年代別キャリアプラン研修」である。
当初は、同社単体の従業員のみが対象であったが、2016年から、グループ全体でダイバーシティマネジメントに取り組む方針が打ち出されたことによって、「一人ひとりの志向と持ち味を自分自身で確認したうえで積極的に発揮し、自ら学んで成長していくことがダイバーシティ経営には必須である」という観点から、グループをあげて「年代別キャリアプラン研修」に取り組むこととなった。
本研修については、「自分自身の志向や持ち味と向き合い、今後のキャリアを自分で考える機会」と位置づけている。

節目となる年齢で自分を顧みる機会を提供

「年代別キャリアプラン研修」には、節目となる30歳、40歳、50歳、57歳を対象にした研修と、入社2年目の若手を対象にした研修がある。
2016年に新設された若手研修以外は、前述のように、もともとは同社単体のみを対象としていたもので、2016年以降、30歳、40歳、50歳研修についてはグループ各社の従業員も参加するようになった。
60歳定年を3年後に控えるタイミングの57歳研修は、再雇用時や定年後のキャリアと向き合う内容であり、グループ各社における再雇用制度の状況に合わせ、順次グループ展開を検討するそうだ。
研修の実施年齢について、唯根さんは「年齢そのものに特別な意味があるわけではありません」と話す。
「とはいえ、新たな年代を迎えると、『もう40歳か』というように自分を顧みるものです。そこで、
そのタイミングでより具体的なキャリアプランニングができる機会を提供すれば、効果につながるのではないかという期待をもっています。
また、本研修は10歳ごとに実施していますから、10年間続けるとグループの大半の従業員がそれぞれ1回は受講することになります。つまり、研修を続けていくとグループ全体に行き渡るということですから、そこに向かって続けていくことに意義があると考えています」(唯根さん)
ちなみに、2016年度に実施した年代別キャリアプラン研修の参加人数は、以下のとおりである。
・若手115名
・30歳284名(累計2305名)
・40歳404名(累計2253名)
・50歳412名(累計1588名)
・57歳64名(累計233名)
同社単体でキャリアプラン研修を実施していたときの実施規模は年間約300人程だったというから、2016年からグループ全体の研修になったことで、規模が数倍に拡大したことになる。2017年度は、さらに参加者数が増える見込みだということだ。
なお、30〜50歳研修は2日間にわたり実施される。全国各地の同社の事業所、グループ会社の従業員が参加するため、東京、名古屋、京都、博多、仙台など、主要都市で研修を実施している。

サマリーシートを活用し、自ら気づきを得る

研修プログラムの流れは、各年代において、ほぼ共通している。
座学はほとんどなく、参加者同士のワークやディスカッションが中心となる。また、1回の研修において、20〜30人ほどの受講者を4〜5人ずつのグループに分け、グループ内において意見交流が活発に行われる。
そして、詳しくは後述するが、研修で得た気づきについて、「キャリアプランサマリーシート」に書き込んでいくという作業を行う。
運営側(人事)からは、知識の詰め込みや考え方の強制は行わない。あくまでも、受講者自身が自分で考え、気づくことを重視しているからである。
以上が、各研修における大体の共通点となるが、若手研修とそれ以外の研修では、研修の方向性が大きく異なる。
若手の研修では、参加者が社会人になって間もないことから、今後のキャリアを自律的に考えられるようになるための考え方を学ぶことが目的となる。
それに対して30〜57歳研修では、これまでの自分の仕事経験を顧みるとともに、分析を行い、将来のビジョンを考えることになる。
ここでは40歳研修を例にとり、プログラムの内容を詳しくみていこう(図表1)。

図表1 2017年度キャリアプラン 40歳研修プログラム

図表1 2017年度キャリアプラン 40歳研修プログラム

そもそもキャリアプラン研修では、以下のように、めざすゴールに応じたテーマが年代ごとに設定されている。
若手=セルフリーダーシップ
30歳=自己確立
40歳=市場価値
50歳=生涯現役
57歳=覚悟と働きがい
40歳研修のテーマは「市場価値」である。「いままで積み重ねてきたことをベースに、企業人として後半戦を迎える40代を迎えたタイミングで、自分のキャリアと人生設計を再点検し、自分の得意とすることに、さらなる磨きをかけるきっかけとしよう」という意図が、このテーマに込められている。
研修では4〜5人ずつのグループに分かれ、ワークに取り組む。グループ分けは、なるべくふだん接する機会が少ない人同士の組み合わせになるように配慮されているという。進行は主に社内講師が務める(50歳研修のみ外部講師に依頼)。
初日は午前中にオリエンテーションがあり、参加者の自己紹介や研修の説明が行われる。
そして、午後にかけて自己分析に取り組む。自分が積み重ねてきたこと、達成してきたことを振り返りながら、専門領域における自分の“プロ度”の確認・評価を行う。MAP(市場価値診断テスト)などのアセスメントツールを用いるほか、周囲のメンバーからの評価や指摘も参考にして、自分の“持ち味”を考えることになる。
分析の結果得た気づきは、「キャリアプランサマリーシート」(図表2)に随時書き込んでいく。プログラムの進行に従って、必要な項目を1つずつ作成していくと、自分のキャリアプランが次第に浮かび上がってくるという趣向だ。

図表2 キャリアプラン サマリーシート(40歳)

図表2 キャリアプラン サマリーシート(40歳)

2日目にその全貌がみえたところで、「これから、どんなことに取り組んでいけばいいのか」をしっかりと考え、行動計画に落とし込むことが研修全体をとおしての目標になる。
ユニークなのは、プログラム中の随所にグループ交流の時間が設けられていることだ。サマリーシートに自分が考えたことを書き込んだ後、それをグループのメンバーに発表してシェアし、フィードバックをもらうというプロセスを繰り返す。そのなかで、本人がなかなか気づかないことをグループのメンバーから指摘されたり、評価を受けたりすることがあり、それが刺激となって考えを深めることができるのだという。
グループ分けで接点が少ない人同士を組み合わせるのも、できるだけ客観的な視点でほかのメンバーを評価してほしいからである。
「自己分析の際のグループ交流では、自分が積み重ねてきたことや得意分野をメンバーに伝えることになりますが、たとえば営業をやってきた人が『多少は営業力があるかな』と遠慮気味に言うと、『その営業力って何?』という質問がメンバーから飛んできます。
自分だけで考えていると『営業は営業でしょ』という答えしか出てこないものですが、異なる職種のメンバーから『人の気持ちを汲み取る力がすごい』、『提案書をまとめ上げる力がすごい』、『リサーチをするスキルがすごい』というように、さまざまな切り口での評価を受けることになるので、いままでにない自己分析ができるのです」(唯根さん)
そのほか、グループ代表者がグループ内で話し合ったことを全体に報告する時間も設けられている。
自己分析の後は、ワークライフバランスや老後を見越した資金計画方法といった、生活面の見直しについても学ぶ。そして、各参加者が自身のキャリアプランについてたたき台をつくり、初日のプログラムは終了となる。
その後は、会場を移して懇親会が行われる。同年代同士が集まり、入社からこれまでの経験をじっくり顧みる貴重な機会を共有しているという思いから、会合は大いに盛り上がるそうだ。
2日目は、前日の振り返りからスタートする。続いて世の中の環境変化について考えるワーク、同社の歴史をまとめたビデオの視聴、中期経営計画についての説明などが行われる。
その後、「自分の将来とどう向き合うか」をテーマにしたグループ交流が行われ、一定の結論を得たら、前日に作成したたたき台も参考にしながら自身のキャリアプランの構築に取り組み、さらに行動計画を策定する。
最後に、自身のキャリアプランについてグループ内で発表し、さらにこれからの行動を宣言しあって全プログラムが終了する。

一人ひとりが自己実現をめざせる組織へ

年代別キャリアプラン研修のプログラムの特徴について、唯根さんはこう説明する。
「一般的な社内研修では、会社側が示す『こうあるべき』という姿に自分を近づけていくことが目的になります。しかし、年代別キャリアプラン研修では、会社が『こうあるべき』という姿を示すことはありません。
会社は、研修の参加者が、『will(自分がやりたいこと)』、『can(自分ができること)』、『mus(t自分がやるべきこと=仕事上、あるいは生活上で求められていること)』という3つの切り口で自分の現在の姿をとらえなおして、その3つにどのように取り組みながら自己実現をめざすのか、という行動計画を自ら導き出す手助けをしているということです」
前述のように、研修の最後には、プログラム中に少しずつ作成を進めたサマリーシートの内容を行動計画に落とし込むことになる。
このサマリーシートは、研修後も回収しないそうだ。このことからも、参加者が自ら気づきを得て考察を深めることに、本研修のねらいがあるということがわかる。
「以前はサマリーシートを回収していたこともあったのですが、その場合、人に読まれることを前提にシートを作成し、本当のことを書かない人が必ず出てきます。それならば回収しないでいいだろうということになりました」(唯根さん)
一方で、本研修に参加して考えたこと、気づいたことを、上司と話し合うように勧めているそうだ。「will」、「can」、「must」を統合して自己実現をめざすには、上司や同僚と協力関係を結ぶ必要があると考えられるからだ。
人事部人材開発グループ長の吉田篤さんは、年代別キャリアプラン研修に手ごたえを感じているという。
「研修前は、『これからいったい、何をやるんだろう』というように及び腰の人が目立つのですが、研修が終了して帰るときには、大半の人が『いままでにない充実した2日間だった』、『これからに向けてのモチベーションになりました』と語ります。
そんなギャップの大きさが、キャリアプラン研修の成果をよく表していると思います」

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また、本研修がきっかけとなって、新しいチャレンジに踏み出す人もいる。
「キャリアプランをつくったことによって、『自分はこういうことがしたかったんだ』と再発見する人もいます。当社には社内公募制度がありますが、そこに手をあげ、実際に異動した人のなかには、『じつはキャリアプラン研修がきっかけになって応募したんです』という声が少なくありません。
また、資格取得や昇進試験への立候補など、さまざまなチャレンジを促すことができていると感じます」(唯根さん)

▲年代別キャリアプラン研修の様子

▲年代別キャリアプラン研修の様子

今後の課題は、キャリアプラン研修の成果を、職場でどのようにして活かしていくかという点にあるという。
「職場で一人ひとりの持ち味を活かすことができるかどうかは、やはり上司がカギになります。また、持ち味を活かせる組織風土を醸成することも必要です。こうした職場環境は、まだ整備しきれていないのが現状です。
今後、キャリアプラン研修で一人ひとりが気づいたことを実践できる組織を構築・整備していくことが、最も重要な課題だと考えています」(吉田さん)
このような観点から、同社は今後、組織運営のマネジメント力向上を目的とする管理職向けの研修や、組織の制度の整備などに力をいれていくということだ。

(取材・文/外﨑 航)


 

▼ 会社概要

社名 積水化学工業株式会社
本社 大阪府大阪市
創立 1947年3月
資本金 1,000億200万円
売上高 1兆657億7,600万円(2017年3月期連結ベース)
従業員数 2万3,006人(2017年3月期連結ベース)
事業案内 高機能樹脂製品(車輌、エレキ、医療材料等)、インフラ関連製品の製造・販売、住宅事業
URL https://www.sekisui.co.jp/

(左)
人事部
人材開発グループ
唯根 亮さん

(右)
人事部
人材開発グループ長
吉田 篤さん


 

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