事例 No.118 ソフトバンク 特集 後半戦を考えるキャリア教育
(企業と人材 2017年12月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

30代・40代向けのキャリア研修を新たに開発
環境変化を乗り越えてきた経験を振り返り、強みを確認する

ポイント

(1)人事の基本は「自ら手をあげた者に機会を与える」。企業内大学ソフトバンクユニバーシティは手あげ式のコースを基本とし、大半を社内講師が担当。

(2)「30代から描くキャリアビジョンワークショップ」は、定員12人、講師2人体制できめ細かく対応。自分の思考の免疫システムを知り、固定概念を相対化する。

(3)「40代のためのキャリアデザインワークショップ」では、変化対応経験を振り返るワークを実施し、変化の激しい時期を乗り越えてきた自分の経験に自信をもち、強みを再確認してもらう。

300年先を見据えて、さらなる成長をめざす

国内通信事業のソフトバンクをはじめ、ヤフーなどを傘下にもつソフトバンクグループ株式会社。同社の人事施策の根底にある考え方は、「自ら手をあげた者に機会を与える」というものであり、キャリア開発支援策もそれは変わらない。その理由は、会社が歩んできた歴史とも関係している。
同社は1981年、日本ソフトバンクとして設立された。当初はPC用のパッケージソフトの流通業としてのスタートだった。その後、1990年代に入るとインターネットの興隆を背景にヤフーの日本法人を設立、日本テレコムやボーダフォンの買収により通信事業に参入するなど、急速に事業領域を拡大していった。

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ソフトバンクグループの中核企業であるソフトバンク株式会社の人事本部採用・人材開発統括部、人材開発部部長の杉原倫子さんは、同社の歩みについて、こう振り返る。
「2000年代半ばくらいからM&Aと事業拡大による採用増で、社員数も倍々に増えていき、一気に1万人以上の会社になりました。
現在の組織は、もともとソフトバンクBBに入社した者、M&Aによりソフトバンクの社員になった者、現ソフトバンクに新卒・中途で入社した者など、さまざまなバックグラウンドをもった人材の集合体となっています」
人事施策に通底するのは、入社年次などのバックグラウンドにかかわりなく、意欲のある人にチャンスを与えようという考え方である。
いまや日本のトップ企業に数えられる同社だが、挑戦と成長を志向するDNAは受け継がれている。むしろ新たな挑戦を加速しようとしていることは、2010年に発表された「ソフトバンク新30年ビジョン」に明確に表れている。
ソフトバンク新30年ビジョンは、創業30年の節目に打ち出されたもので、「情報革命で人々を幸せに」という経営理念の下、300年間成長し続ける企業グループをめざし、30年後の2040年に、時価総額200兆円を実現して世界トップテン企業になること、戦略的シナジーグループとして、志をともにするグループ企業を5,000社に拡大することを目標に掲げている。
「自ら手をあげた者に機会を与えるという基本ポリシーは変わりませんが、新30年ビジョンをきっかけに人材育成施策も改めて整理されました。ビジョン実現のために必要な人材を考えたうえで、現在は大きく3つの柱が打ち立てられています」
ソフトバンク株式会社の人事本部採用・人材開発統括部、人材開発部人材開発1課課長の河本誠志さんはそう語る。3つの柱とは、後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」、新規事業提案を募集する「ソフトバンクイノベンチャー」、企業内大学の「ソフトバンクユニバーシティ」である。

開かれた後継者育成機関ソフトバンクアカデミア

新30年ビジョンを受けて新たに立ち上げられたのが、「ソフトバンクアカデミア」だ。後継者の発掘・育成を目的に、同社代表取締役会長兼社長の孫正義氏が初代校長となり、2010年に開校した。
ユニークなのは、社員だけでなく広くグループ外にも門戸を開いている点である。経歴も国籍も問わず、だれもが自由に応募できるようになっている。
長期にわたる後継者づくりのプログラムのため、「卒業」という概念はない。現在、約300人が所属しており、ほぼ半数が外部生だという。経歴もさまざまで、自ら起業している人も多い。
アカデミアでは、実際の経営課題をテーマにしたアカデミア生によるプレゼンテーションや、経営者の感覚や財務知識などが学べる経営シミュレーションゲームの実施、自主勉強会などが行われる。プレゼンテーションでは、アカデミア生同士が相互採点し、予選を勝ち進んだ10数人が、孫社長の前で課題解決を提案する。
「年に何度か、特別講義として孫が壇上に立つこともあります。実際の経営判断にまつわるリアルな話を直接聞くことができるということが、非常に大きな刺激になっているようです。
社内外の優秀な人材が集い、つながりを深めることによって、ここから新しいものがどんどん生まれていく。非常に凝縮されたコミュニティが醸成されてきています」(杉原さん)
また、「ソフトバンクイノベンチャー」は、2011年からスタートしている。イノベンチャーとは、「Innovation(変革)」と「Venture(ベンチャー)」を組み合わせた造語で、やはり新30年ビジョンで掲げられた「戦略的シナジーグループ5,000社」の実現に向けてつくられた新規事業提案制度である。
これも、グループ社員であればだれでも、何度でも応募でき、テーマも自由。書類審査、プレゼンテーション審査を経て、事業化が決定した場合は、原則として会社を設立し提案者本人がその事業に参画する。
だが、もちろん事業化の判断は甘くはない。これまでに6,000件を超える応募があり、事業化された案件は13件だという。
そこで2016年からは、社内ベンチャー育成をサポートする「イノベンチャー・ラボ」を開設した。ここでは事業計画の立て方や事業立ち上げのノウハウを学べるカリキュラムを提供したり、新規事業のアイデアを出し合う「アイデアソン」などのイベントを開催し、積極的な新規事業提案を後押ししている。

ほぼすべての研修を、認定社内講師が担う

3つめの柱が、「ソフトバンクユニバーシティ」だ。社内研修は以前から実施されていたが、新30年ビジョンを踏まえ、2010年に企業内大学として再整備された。
カリキュラムは「グローバル」、「テクノロジー」、「統計力」、「ファイナンス」など多彩な分野にわたり、72コース(2017年10月現在)が用意されている。集合研修のほか、eラーニングや研修のオンライン中継など、さまざまな方法で受講できるようになっており、受講人数は年間9,000人に上る。
アカデミアやイノベンチャーと同様、ユニバーシティも、自ら手をあげるのが基本だ。
「新入社員はマネジャー向けの研修には応募できないなど、階層などによって制限がかかるものもありますが、基本的には自分の受けたいコースを自由に応募できるようになっています。募集開始後すぐにキャンセル待ちが発生するコースもあり、コースごとの応募状況を見ながら、開催回数を増減させることもあります。」(河本さん)
また、ソフトバンクユニバーシティは、ほとんどの研修を内製化している点も大きな特徴だ。原則として、研修を担当する講師は社内の人間が務めている。「ソフトバンクユニバーシティ認定講師(ICI)制度」の下、特定のスキルをもつ社員を講師として認定しているのだ。
毎年、開講するコースに応じて公募をかけ、応募してきた社員に対して、書類選考、面接を行って認否を判定している。認定後は約半年間、研修講師トレーニングを受け、デビューを果たすという流れだ。
一見、手間がかかりそうだが、社員が講師を務めるメリットはきわめて大きいという。
「同じ社内の人間なので、こういうスキルが社内のこういう場面で使えるのかということが、非常に腹落ちしやすいんです。講師が自らの経験を語っても非常に臨場感があって、気づきや学びも多いようです。受講生の満足度は圧倒的に高いですね。
これだけの数のラインナップを揃えられるのも、多くの社員の協力を得られているからだと思います」(杉原さん)
金銭的な報酬としては、自己啓発のための費用を会社が年間3万円まで負担するだけだというが、認定講師に手をあげる人は多く、すでに130人以上となっている。マネジメント系の講座では実績のある社員が中心だが、語学系では若手の講師も少なくないなど、年齢・性別・部門など多彩な顔ぶれだという。
前述した部門向けのオーダーメイド研修などでも、各部門の認定講師に中心になってもらって実施したり、新しいコースを立ち上げるときなどには企画段階から加わってもらうなど、認定講師の活躍の場は幅広い。社内講師の存在は、社員がお互いに学び合い、高め合う風土づくりにも一役買っているようだ。

思考の免疫システムを知る30代向けキャリア研修

ソフトバンクユニバーシティのカリキュラムのなかには、すでにキャリア教育に関するコースがいくつか用意されている。一部若手社員向けのコースを除いて、すべて公募制だという。
昨年度から今年度にかけて、そこに新しく3つのコースが立ち上げられた。
[1]30代から描くキャリアビジョンワークショップ
[2]40代のためのキャリアデザインワークショップ
[3]女性向けのライフ・キャリアビジョンワークショップ
いずれも、自分自身でキャリアを考えるきっかけの場として提供されたものだ。以下、順にみていこう。
まず、「30代から描くキャリアビジョンワークショップ」は、20代後半から30代の社員を対象としている。現場の中心となって活躍する勢いのある世代を対象に、さらなる成長に向けて、今後のキャリアを考えさせるものだ。1回あたり12人で、今年度は計5回実施する予定だ。
1日目の研修を行ったあと、約1カ月半の間隔を空けて2日目の研修を行うというスケジュールになっている(図表1)。

図表1 「30 代から描くキャリアビジョンワークショップ」スケジュール

図表1 「30 代から描くキャリアビジョンワークショップ」スケジュール

プログラムの内容は、まずこれまでを振り返り、自分の棚卸しをしていく。そこから、「免疫マップ」という独自のフレームワークを活用して、目標達成を阻害しているものは何か、これまでの経験則や固定観念に縛られていないかなど、ふだんは意識しない自分の思考の免疫システムを明らかにしていくというものだ(図表2)。

図表2 「免疫マップ」ワークの概要

図表2 「免疫マップ」ワークの概要

1日目が終わると、それぞれ職場で自身の固定概念を意識しながら行動してもらい、1カ月半後に再び集まって、各自がキャリアビジョンを明確にし、プレゼンテーションを行うという流れだ。
講師は2人体制で、受講生一人ひとりをきめ細かくサポートするようにしている。
次は、「40代のためのキャリアデザインワークショップ」だが、これについては、次項で詳しく紹介したい。
3つ目の「女性向けのライフ・キャリアビジョンワークショップ」は、ライフイベントも含めて、今後のキャリアを考えていくというもので、年齢などの応募制限はとくに設けていない。
これも2日間のワークショップで、ライフやキャリアに関する不安や疑問など、女性同士のほうが率直に自己開示がしやすいこと、さまざまなライフスタイルをもつ人と触れ合うことで、お互いの刺激になることをねらいとして実施している。

環境変化を乗り越えてきた自分自身を見直す、40代向けキャリア研修

「40代のためのキャリアデザインワークショップ」は、受講者は40歳から49歳(推奨)までの社員16人、講師は2人体制、1日目と2日目との間に間隔をあけたスケジュールなど、基本的な枠組みは30代対象のプログラムと変わらない(図表3)。

図表3 「40 代のためのキャリアデザインワークショップ」スケジュール

図表3 「40 代のためのキャリアデザインワークショップ」スケジュール

「ただし、40代向けはこれまでとは少し中身の異なるものになりました。同じキャリア研修でも、20代、30代向けのものは、いまよりもさらにドライブをかけていくような内容が多かったのですが、これは一度立ち止まって自分と向き合うというもので、正直なところプログラム開発には苦労しました。とくにゴール設定の部分は難しかった」(杉原さん)
プログラム開発は株式会社ライフワークスをパートナーに迎えて進めた。もともと40代向けのワークショップを立ち上げたのは、同社のなかでもこの世代の存在感が大きくなってきたからだ。現在の社員の平均年齢は38歳。40代は全体からみてもボリュームゾーンになりつつある。
一般的にも、40代はブレーキがかかりがちな世代といえるだろう。30代までは、20代の勢いのままに走り抜けてきたものの、40代になってふと「このまま走り続けてよいのか」、「どこに向かうべきなのか」という思いにとらわれることもある。
「社内には役職バトンタッチ制度もありますし、いずれは定年もやってきます。給料やポジションがモチベーションになる時代でもなくなりつつあるなかで、人事としても、40代社員には、自分でやりがいをみつけて、これまでの枠組みにとらわれずに活躍してほしいという思いがありました」(杉原さん)
2日間のワークショップでは、1日目に、自分の価値観や仕事への動機を探り、スキルを把握する。そして、図表4のワークシートを使って、これまでのキャリアで大きな挑戦となった出来事を取り上げ、そのときの気持ちや大事にしたことなどを振り返るワークを行う。

図表4 「変化対応経験」を振り返るワークシート

図表4 「変化対応経験」を振り返るワークシート

同社の40代社員には、M&Aや異業種参入など目まぐるしい変化の時代を経験してきた人も多い。このワークをとおして、さまざまな困難を乗り越えてきた自分の経験に自信をもち、自分自身の強みを再認識してもらうのがねらいという。
そこから2週間程度のインターバルを置き、2日目の研修を実施。こちらも30代向けと同様、グループワークをはさんで一人ひとりが個別にキャリアビジョンを描き、最後にプレゼンテーションを行って終了となる。
「何か正解があるわけではなく、答えはそれぞれのなかにある、というキャリア研修ならではの難しさがあります。知識を学ぶ研修であれば、1日目はこのレベルまでわかるようにするといった到達目標ラインがあるのですが、これはむしろもやもやしたまま終わったりする。

▲ 40 代のためのキャリアデザインワークショップの様子

▲ 40 代のためのキャリアデザインワークショップの様子

設計段階から講師を担当する社員にも加わってもらいましたが、『どういう状態になれば研修の成果が出たといえるのか』とか、『いや、もやもやしたままでもいいんだ』などと、かなり議論しました」(河本さん)
その甲斐あって、ワークショップをトライアル実施した際の受講生の満足度は高かったという。これから自分がどんな価値を提供できるかを考えた結果、たとえば自分の知識を役立ててもらうために社内講師に応募したり、会社という枠組みに縛られずNPOの活動に参加してみるなど、少し視野を広げて、新たな貢献の仕方や活躍の場をみつける人もいる。
「この研修を実施してみて、あらためて強く感じたのが、いまの40代は大きな環境変化を経験してきたということ。会社がどんどん大きくなり、事業環境も激変するなかで、いろいろな変化に対応してきた。そのなかで培った自分の強みを、一度立ち止まって確認することで、これからの変化のとらえ方もまた変わってくるだろうと思っています」(杉原さん)

制度の充実と自ら手をあげる風土づくりで、好循環をめざす

そのほかにも、社員のキャリア開発を支援する施策としては、希望の部署と合意すれば異動がかなうFA制度が用意されており、年に一度、全社FAが開催される。
また、新規事業の立ち上げや成長事業で人材が足りないときに社内公募を行うジョブポスティング制度も整っている。キャリアビジョンや目標が明確な社員にとっては、チャンスをつかむ仕組みは充実している。
それらとともに同社が力を入れているのは、社員が自ら手をあげることができるように、キャリアについて考える機会を多く提供することだ。
その一環として、2年ほど前から「キャリアカレッジ」というイベントを開催している。外部の有識者を招いての講演会や、社内各部署の社員を集めてパネルディスカッションを行っている。
「手をあげる制度はひととおり整っていますし、社員にも認識されていると思いますが、主体的・自律的にキャリアを考え、変化を乗り越えることに加えて、変化を起こすことも必要というメッセージはまだまだ伝え切れていないと感じています。

▲「キャリアカレッジ」でのワークショップの様子

▲「キャリアカレッジ」でのワークショップの様子

人材開発だけでなく人事各部署と連係して、そうした風土づくりをさらに進めていき、新30年ビジョンにつながる好循環をつくり出していくことができれば、さらに強い会社・組織になると確信しています」(杉原さん)
今後、同社は、従来にも増して大きな変化を経験することになるのだろう。そのとき、数々の困難を乗り越えてきた現在の40代の経験を活かし、チャレンジを続けていくことができれば、ビジョン達成に近づくこともできるのではないだろうか。

(取材・文/瀬戸友子)


 

▼ 会社概要

社名 ソフトバンクグループ株式会社
本社 東京都港区
設立 1981年9月
資本金 2,387億7,200万円(2017年3月末現在)
売上高 8兆9,010億円(2016年度 連結)
従業員数 68,402人(2017年3月末現在 連結)
事業案内 インターネット・通信事業など
URL https://www.softbank.jp/

(左)
ソフトバンク株式会社
人事本部
採用・人材開発統括部
人材開発部
人材開発1課 課長
河本誠志さん

(右)
ソフトバンク株式会社
人事本部
採用・人材開発統括部
人材開発部
部長
杉原倫子さん


 

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