事例 No.094 ダイナム 事例レポート(キャリア開発)
(企業と人材 2017年4月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

自己のキャリアを見つめ直す
「人生大学」を 20 年以上にわたり継続

ポイント

(1)役職や年齢にかかわらず、全社員が3〜4年に一度受講する独自の研修「人生大学」を1997年から実施。グループディスカッションや読書などをとおして自己のキャリアを考えさせ、人としての成長を促す。

(2)人生大学以外の研修も内製が中心。社内でプログラムを組み、講師も人材開発部教育担当や地域ごとの「ゾーン教育担当」が行う。新入社員教育を行う専属トレーナーも社内で育成している。

(3)男性が多い業界のため、女性活躍推進にも積極的に取り組んでいる。先輩女性を相談役としてつける「メンター制」導入で、離職率も大幅に低下。

新人教育を重視し、社員をいちから育成

全国にパチンコホールをチェーン展開する株式会社ダイナム。1967年の創業以来成長を続け、これまでに沖縄県を除く46都道府県に計399店舗(2017年2月現在)を出店。日本最多の店舗数を誇るまでになった。
同社の成長を支えるいちばんの要因といえるのが、人材育成だ。

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「人材こそが最大の経営資源」ととらえ、積極的な教育投資を行ってきた。人材開発部部長の望月晴子さんは、次のように話す。
「当社は、『街と生きるパチンコ。』をスローガンに、地域の皆さまとともに発展していくことをめざしています。しかし、パチンコホールというのは、どこの店も機械は同じ。差別化できるとしたら、人しかありません。そのために人材育成を重視するのが、当社の考え方です」
1989年以降は、大卒の新入社員を積極的に採用。増加する店舗を支える人材の確保と育成に努めている。中途採用は、特別な技能をもつ人材を獲得する場合に限定し、基本的にはいちから自社で育てる方針だ。
入社人数は年によって異なるが、2015年度341人、2016年度139人、2017年度86人(予定)と、毎年多くの新人が入社する。また、ダイバーシティ推進の一環として、正社員採用に占める女性比率の目標を40%と定めており、実態としても3割は女性を採用している。入社者が皆、パチンコ好きというわけではなく、最近の入社者の半数はパチンコ初心者だという。そうした多様な人材の成長と活躍を促すため、一人ひとりのキャリアプランを踏まえた教育を行っている。
社員に求める資質は3点あると望月さんはいう。
「変化の激しい時代ですので、まず、変化に柔軟に対応できること。次に、創業者の佐藤洋治相談役がよくいうことですが、ポジティブ思考で主体的に行動できること。相談役は、社員が弱音を吐くと、『ポジティブであれば、情報も人も集まる。前向きに取り組みなさい』と口癖のように言います。もう1つは、厳しい環境下でもリーダーシップをとり、あきらめずやり続けること。
この3点を求める人物像として、採用を行い、育成に取り組んでいます」

3泊4日で自己を見つめ直す「人生大学」

同社の教育のなかでとくにユニークなのが、20年以上前から続く「人生大学」だ。業務上の知識やスキルを学ぶものではなく、職場から離れた静かな環境で、グループディスカッションや読書などによって自らの心の内面に気づき、洞察力を養う。
「人生大学」をはじめた経緯について、同研修を担当している人材開発部教育担当の澁谷修さんは、こう語る。
「創業者の強い思いで、1997年に『明志塾』としてスタートしました。プログラムを見直しながら行っていますが、一貫したテーマは、『心と体の健康』と『自己を見つめ直す』こと。パチンコ店は交代勤務で、社員は日々、忙しく働いています。かつては、長時間労働が続いた時期もありました。そのため創業者には、社員の健康について考える場を設けたいという思いがありました。
また、狭い業界のなかで過ごしていますので、考えが凝り固まらないよう、未来を考える場としました。この考え方は、いまも引き継がれています」
研修は、3泊4日の合宿形式。静岡と山口にある自社の大型研修施設で実施する。以前は、北海道と東京にあった小規模の研修施設で行っていたが、2001年に静岡に保養所を兼ねた研修施設を設け、ここで開催するようになり、2003年9月から研修名を「人生大学」に改めた。
ちなみに、静岡・伊豆高原にある研修施設「天麗301伊豆高原保養所」は、豊かな自然に囲まれた約5,000坪の敷地に、320人収容の大ホールや研修室、宿泊棟、温泉棟を備え、一度に約300人の宿泊が可能。山口・下関の「マリンピア豊浦ダイナム研修所」は、約11万2,000坪の敷地内に、300人収容の大ホールや研修室、プライベートビーチ、温泉などがあり、約270人が宿泊できる。どちらも、社内研修の拠点としてフル稼働している。

全社員を対象に抽出、3〜4年ごとに参加

人生大学の対象は、アルバイトを除く社員全員。役職や年齢は問わない。同社の一般社員は、全国どこでも転勤が可能な「全国社員」、全国を4つに区分し希望した地域内で勤務する「リージョナル社員」、より細かく分けられた地域内で勤務する「エリア社員」に分かれるが、全コースが対象となる。
一度受けたら終わりではなく、3〜4年に1回のサイクルで繰り返し参加するのも特徴だ。そのため、プログラムも、3〜4年ごとに見直している。ちなみに、かつて社員数が少なかった時代には、1〜2年に一度のペースで受講していたこともあるそうだ。
1回の参加者は35〜40人。平均で年30回、多い年は35〜36回開催している。毎月2〜3回、3泊4日の研修を行い、年間約1,000人が受講すると考えると、同社の力の入れようがわかる。
中心となるのは、キャリア教育だ。過去には、初めて受ける人用の「ベーシック」と、2回目以降に参加する人用の「アドバンス」にコース分けをしていたこともあるが、現在は一本化している。
「ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスに対する関心が高まるなか、社員が今後のキャリアを考えられるようにプログラムを組みました」(澁谷さん)
各回の参加者は、人材開発部が指名する。所属も年齢も役職もさまざまな社員をランダムに選んでいるが、先輩社員から後輩社員に企業文化を伝承するねらいもあるため、必ず何人かは、社歴の長い社員を入れるようにしているという。
一般に、キャリア研修をする場合、「30歳、40歳、50歳時」や「入社4年目と管理職手前の等級への昇格時」というように、年齢や階層で区切って行うことが多い。しかし、同社の人生大学では、社員の視野を広げ、互いに気づきを得ることができるように、あえて属性の異なる社員を集めているのだ。
受講生の側からすると、本部、店舗、エリア統括などさまざまな人が参加するので、ふだん話す機会のない人の話を聞くことができるメリットがあるという。役職に関係なく同じ時間を過ごし、同じご飯を食べ、会話をする。それによって情報収集もでき、視野も広がる。全国に散らばる社員にとって、ここでの出会いは貴重な機会となる。平均3〜5年で転勤するとはいえ、各店舗の正社員は10人程度。毎日、同じ人と働いていると、視野が狭くなりがちなのだ。
参加者が講師に言われて印象に残った言葉としてあげるのは、「いま集まっている同じメンバーがもう一度集まることはない。全員と会話し、名前を覚えてほしい。あなたがほかの店舗に行ったときに、ここで知り合った人にまた出会えるかもしれない。それが心の支えになるので、この場を大事にしてほしい」ということだ。
また研修所では、仕事場から離れ、おいしいご飯を食べ、温泉に浸かることでリフレッシュもできるため、心身ともに健康になる。参加を楽しみにしている社員も多いそうだ。
各店舗には、毎年3月に翌年度のスケジュールを通知し、6週間前と3週間前にあらためて案内を送る。仕事が忙しい場合は別日程に振り替えるが、自由参加ということではなく、必須参加の研修と位置づけている。

多様な社員と接し、内省から気づきを得る

この研修では、自社の歴史を学んだり、創業者の講話を映像で視聴する時間も設けているが、メインで行うのは、自身のキャリアを考えることだ(図表1)。グループディスカッションや読書で気づきを得たり、自らを振り返るなかで、将来どうなりたいか、この会社で何を実現したいかを考えさせる。

図表1 50期人生大学 プログラム

図表1 50期人生大学 プログラム

「創業者の考えで、内省を促すプログラムにしています。知識を詰め込むのではなく、自分で考えたり、社員同士で話し合うなかで気づきを得てもらうことがねらいです」(澁谷さん)
グループディスカッションは、1グループ5〜6人で行う。社歴の長い先輩社員をグループリーダーとし、人材開発部はフォロー役にまわる。グループリーダーには、「皆が意見を出し合えるように、話すよりも聴いてほしい。メンバーの力を引き出すファシリテートをしてほしい」と依頼している。
話し合う題材は、男性版と女性版の2つのケーススタディを用意している。男性版は、なかなか出世できず、挫折してしまう社員のケース。女性版は、出産を機に退職したが、「仕事を続ける道もあったのでは」と思い悩むケースだ。
「どちらも、当社の現在の課題にかかわるテーマです。現場の社員は、キャリア=出世と考えてしまいがちですが、それも昔と比べて狭き門になっています。出世すること以外にも視野を広げ、もっとほかに生き生きと働ける手段がないかを話し合ってもらいます。
女性の場合は、活躍できるフィールドがあるのに、結婚や出産を機に辞めてしまう人が少なくありません。もちろん、そういう価値観もあってよいのですが、選択肢が1つしかないと、視野が狭くなっていないかといったことを考えてもらいます」(澁谷さん)
いずれも、『こうあるべき』と押しつけるのではなく、判断するのは自分自身。ただ、その過程で、1人で決めてしまうのではなく、周囲に相談することをすすめている。
女性参加者が4〜5人いれば女性だけでグループを組むこともあるが、そのときは女性のグループがいちばん盛り上がるという。
「ここでは、現場では聴けない本音が出てきます。とくに女性のグループは、ストレートな意見が出て白熱しますね。男性のグループのなかに女性が加わった場合も、場が変わります。
また、ゾーンマネジャーなど高い役職の人が、『現場の社員はこう考えていたのか』と気づくのも、大きな収穫です」(澁谷さん)
人生大学では、自己啓発やコミュニケーションにあてる自由時間が多いのも特徴だ。所定就業時間内でプログラムを組んでいるということもあるが、自ら気づかせるためという理由も大きい。読書用の本は約40種類ほど用意されており、『自助論』から『下町ロケット』、コーチング関連の本など幅広い。受講者は、読書の時間以外に自由時間にも好きな本を読むことができる。自分の部屋に持ち帰って読めるため、読書漬けになる人もいるという。「こんなに本を読んだのは久しぶり」という声もあがってくるそうだ。
研修全体の効果としては、「今後の目標ができた」という前向きな意見が多い。
「研修では、キャリアシートに目標を記入してもらい、自分のキャリアビジョンを立てさせますが、所属部署の上司には見せない前提で、本音で書いてもらいます。研修をして終わりにしたくないので、『このシトをカバンに入れて持ち歩き、ときどき見返してみるとよいのでは』とすすめています」(澁谷さん)

▲人生大学でのグループワーク風景

▲人生大学でのグループワーク風景

研修は内製が中心、講師も自社で育成する

人生大学だけでなく、同社の研修の多くは、自社内でプログラムを組み、社員が講師を務める内製の研修だ。
主に講師を担当するのは、人材開発部教育担当の10人と、地域ごとの「ゾーン教育担当」20人の計30人。「人生大学だけでも月2〜3回開催しており、教育担当の3人がかかわっています。また、全国各地の各階層に落とし込むには、10〜20店舗ごとのゾーン教育担当も必要です。地域別の勉強会も頻度高く行っていますので、講師の人数は多いようで少ないです」(望月さん)
教育担当とゾン教育担当は、知識やスキルを高めるために勉強会や合宿をしたり、外部のセミナーにも積極的に参加している。ほかの講師の研修を見学してスキルを磨くこともある。
現場の社員を教育担当に育成する例の1つに、新入社員教育がある。新入社員は、導入研修後、現場に配属されるが、各店舗で新入社員のOJTを担当する専属トレーナーを人材開発部で育成する。新入社員教育を担当する人材開発部教育担当の井上佳紀さんは、こう説明する。
「新入社員には、7泊8日の導入研修を行い、3カ月後と半年後にフォロー研修を実施します。その間は、6〜8人ずつ固めて現場に配属し、半年間、集中的に教育します。1人で知らない土地に配属すると孤立しがちですので、まずは同期の絆を深めながら、飛び立つ準備をしてもらうわけです。その際に、教育レベルにバラツキが出ないよう、専属トレーナーをつけています」
専属トレーナーは、次期店長候補のアシスタントマネジャーが務める。年によって選出方法を変えているが、各地域を管轄するゾーンマネジャーが推薦したり、公募をしたうえで、人材開発部で選考する。
専属トレーナーに任命されると、2月から8カ月間、人材開発部所属となる。そして、人材開発部で事前教育を受けたあとで、新入社員の配属予定店舗に移り、新入社員を迎え入れる。
新入社員の声としては、「仲間とともに配属されるので心強い」、「互いに切磋琢磨し、モチベーションが高まる」という意見があった。また、かつては忙しい店舗に配属されたときに、不明点などをだれに聞けばよいかわからなくて悩む新人も多かったが、困ったとき相談できるトレーナーがいるので安心して働けるという声もあがっている。専属トレーナーはゼミの講師のような存在で、一人ひとりをしっかりみており、新人の成長が促され、退職者も減ったそうだ。

女性の成長と活躍を積極的に後押し

同社がもう1つ力を入れているのが、女性の活躍推進だ。人生大学でも女性のキャリアについて考えさせるが、そのほかにも、女性のキャリア形成を支援する取り組みを行っている。
「新入社員の3割は女性ですが、正社員全体でみると、93%が男性です。まだまだ男性中心の業界ですので、女性がもっと活躍できるように、3〜4年前から積極的に取り組んでいます」と語るのは、女性社員教育を担当する人材開発部教育担当の晴山芙実子さん。
女性活躍推進の一例として、「ダイナムなでしこプロジェクト」と題し、女性管理職を増やす活動を進めている。
「苦手なことを克服するのは労力がいりますので、それよりも女性の良さを伸ばせるように、女性の得意とする接客を強化する合宿などを行っています。また、経営層と話をする機会も設け、気づきを促します」(晴山さん)
そのほか、女性社員の定着率を高めるため、「メンター制」を導入した。入社1年目の女性の相談役として先輩女性をつけることで、3年前には30%前後だった女性の新入社員の離職率が一桁台まで低下したそうだ。また、店舗には女性の正社員が少ないため、女性を固めて配属するといった工夫もしている。
各地の男女共同参画関連の表彰にも積極的に応募し、社内外の認知度をあげる努力もしている。最近では、『2016年度熊本県男女共同参画推進事業者表彰』を受賞。パチンコ業界ということで、イメージ的に不安を感じるためか、内定者の両親が入社に反対することもあるというが、理解を得られるようにいろいろと取り組んでいる。会社が表彰されれば、社員のモチベションもあがり、アルバイトの採用にもよい影響が期待できるという。

キャリアカウンセリングとの連携を計画

今後の展開としては、より具体的なキャリア教育を行っていきたいと望月さんは語る。
「人事部で社内キャリアカウンセラーの育成を進めており、これと人生大学を連携させ、キャリア形成の支援を強化したいと考えています」
同時に、社員のキャリアに対する視野を広げることも課題だという。
「かつてポストが多く空いていた時代の、努力次第で順調にキャリアを積むことができた店長クラスの社員は、いまの新卒の気持ちを理解しきれていないと感じます。そこをキャリアカウンセラーが補い、継続的に支援していければと思います」(澁谷さん)
そのためにも、人生大学を継続していくことが重要になる。開催にあたって、インフルエンザの予防に努めたり、大雪など天候の影響で店舗のシフトに穴を開けないよう時間に配慮したりといったように運営にも気を遣うため、決して楽ではない。だが、社内の基幹研修として今後も続けていく予定だ。
「この研修の目的、自己を見つめ直すという意味では、創業者は20年前からすでにキャリア教育をしていたわけで、進んだ考え方だったと思います。
内容は、時代にあわせて切り口を変えていくことは必要ですが、人生大学は当社の文化の1つになっており、これだけは続けていきます。この3泊4日の研修は『聖域』ととらえています」(望月さん)
「昔は4泊5日の日程で行っていた時代もあり、本当はもっと取り入れたいプログラムがあります。自身を振り返るための時間も、現在よりも多くとれたらと考えています。社員が自分自身について深く振り返り、未来を考えることができるように、これからもよりよい研修づくりに取り組んでいきます」(澁谷さん)
また、家庭の事情で参加しづらい女性への配慮も検討している。
「小さな子どもがいるため参加をあきらめている社員が、少数ですがいます。そのときだけベビーシッターを頼むとか、子連れで来られるような制度を整えていけば、一緒に参加する男性の気づきにもなります」(望月さん)
最後に、望月さんに、人生大学のような研修を行いたい企業に向けてアドバイスをいただいた。
「内容は特殊なことではないため、開催は可能だと思います。ただ、それを全社員に3〜4年に1回繰り返し、20年間やり続けることができるかというと、なかなか難しいでしょう。確実な効果を得るためにいちばん重要なのは、継続することです」
20年継続することにより、多くの社員を育成し続けてきた人生大学。今後もダイナムの企業文化を伝承し続けていく場となるのだろう。

(取材・文/崎原誠)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社ダイナム
本社 東京都荒川区
設立 1967年7月25日
資本金 50億円
売上高(貸玉収入) 8,011億円 (2016年3月実績)
従業員数 4,191人 (2016年3月現在)
事業案内 パチンコを「安心して、気軽に楽しめる、日常の娯楽に改革する」ことをめざし、地域密着型のパチンコホールを全国にチェーン展開
URL https://www.dynam.jp/

(左から)
人材開発部
部長
望月晴子さん
 
人材開発部
教育担当
晴山芙実子さん
 
人材開発部
教育担当
井上佳紀さん
 
人材開発部
教育担当
澁谷 修さん


 

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