事例 No.058
大阪ガス
事例レポート(キャリア開発)

(企業と人材 2016年5月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

フォローアップ研修に個別面談を組み込み
若年層社員の成長を継続的に見守る

ポイント

(1)2011年に人事制度を改定し、将来めざすべき人材像に対応した4つのキャリアコースを設定。各コースごとに明確化された役割期待を基準に育成・評価する仕組みに。

(2)入社から3年目までの期間に、継続的な若年層研修を実施。毎回必ず個人面談を組み込み、繰り返し成長状況とモチベーションの確認を行う。

(3)新たに取り入れた若手キャリア研修では、各事業部の中核で活躍する人材に、自部門の事業の概要とその魅力、身につけておくべきものなどを語ってもらい、若手社員の視野を広げる契機に。

エネルギー産業の転換期、事業構造の改革を推進

1897(明治30)年の設立以来、120年近くの歴史を有する大阪ガス株式会社。現在では、近畿2府4県の719万6,000世帯(2015年3月末)にガスを供給している。
エネルギー事業をめぐる社会環境は大きな転換期を迎えており、2016年度に電気、2017年度にはガスの小売りが全面自由化となる。大阪ガスではこの変化を事業拡大のチャンスととらえ、国内エネルギーサービス事業、海外エネルギーバリューチェーン事業、ライフ&ビジネスソリューション事業を3つの柱とする、長期経営ビジョン「FieldofDreams2020」(FoD)を策定。これに基づいて事業を展開しているところだ。
人材育成に関しては、人材を「企業の戦略達成に貢献し、長期的に企業の競争力を維持強化していくための最も重要な経営資源」と位置づけており、「人間成長の経営」と「チャレンジの尊重」の2つを基本理念として掲げている。

複線型人事制度で育成コースを明確化

事業構造が大きく変わろうとしているなか、同社は2011年度に人事制度を刷新した。新人事制度のポイントは次の3つである。
第1のポイントは「役割別に育成コースを設定したこと」である。めざすべき人材像に応じて、マイスター、マネジメント、ゼネラル、スペシャリスト、という4つのコースを設定した(図表1)。現在の仕事内容によってではなく、将来進んでいくべきキャリアによってコースを分けている点が特徴だ。
第2のポイントは、このコース選択に、「自己選択要素を導入したこと」である。最終的なコース決定は会社がするものの、S職でコースエントリーする際には本人の意思を会社が確認する。自律的なキャリア形成を促進し、成長意欲を向上させることがねらいだ。
第3のポイントは、「役割期待を基軸に置いた人材育成」である。コース・資格・業務に応じた役割期待を明示し、その役割を果たせるよう配置、育成、評価
を行っていくというものだ。

図表1 大阪ガスの人事制度(役割別育成コース)

図表1大阪ガスの人事制度(役割別育成コース)

なお、新卒採用にあたっては、プロフェッショナルコースとゼネラル/スペシャリストコースの2コースで募集している。同社の資格体系はI職から始まり、S職、K職、M職(管理職)、E職(経営職)と分かれているが、係長クラスのK職に昇格するタイミングで最終的なコース選択が行われ、4コースに分かれる。
人事部採用育成チームのマネジャーである田丸亮治さんは、コース別採用を導入した背景について、こう説明する。
「2011年の人事制度改革前は、キャリアコースが1つしかなかったので、めざすべき姿も1つでした。大学卒社員はおおむね現在のゼネラル/スペシャリストコースのような期待をされて入社し、それぞれが暗黙の了解のような形で求められるものを理解して仕事をしていました。
昔はそれで通じていたのですが、いまは『あなたに期待している役割はこれですよ』ということをきちんと提示しないと、人が育ちにくくなっているのではないかと考えたのです」

3年目までの若年層に対し、面談を組み入れたフォローアップ研修を実施

それでは、新人事制度の下、現在、同社が重点課題として取り組んでいるという若年層の研修についてみていこう。対象となるのは入社から3年目までの社員で、I職の前半部分が該当する。
図表2は、ゼネラル/スペシャリストコースの若年層社員についての役割期待である。そして、図表3が、ゼネラル/スペシャリストコースの若年層研修の全体像を表したものとなっている。新入社員研修と配属後研修以降のフォローアップ研修のすべてに、人事部スタッフと若手社員との個別面談の時間が設けられている点が大きな特徴である。

図表2 入社から3年程度の役割期待(ゼネラル/スペシャリストコース)

図表2入社から3年程度の役割期待(ゼネラル/スペシャリストコース)

図表3 2015年度若年層研修(ゼネラル/スペシャリストコース)の全体概要

図表32015年度若年層研修(ゼネラル/スペシャリストコース)の全体概要

以下では、ゼネラル/スペシャリストコースを対象とする各研修の概要を紹介するが、プロフェッショナルコースの若手社員についても、若干内容を変えてフォローアップ研修を実施している。一人ひとりの社員とじっくり面談する時間を設けている点は共通だ。

(1)新入社員研修
まず入社直後には、20日間程度の集合研修を行う。ビジネスマナー、仕事の基礎知識などを学ぶとともに、施設見学、顧客接点実習といった体験型のプログラムも取り入れている。研修中に人事部スタッフと本人とで面談し、初期配属を含めた今後のキャリアについて話し合う。

(2)配属後フォローアップ研修
1回目のフォローアップ研修は、配属から約8カ月後の12月に行われる。[1]配属後の振り返りと今後とるべき行動、習得すべき能力の確認、[2]同期メンバーとの交流により、今後の行動改善・自己啓発に向けたモチベーションアップ、[3]問題解決のポイントを理解し、自分の頭で考える技術を身につける、の3点を目的として、1泊2日の合宿研修が行われる。
2015年度の研修では、2つの事前課題が課された。1つは配属から現在までの自分を振り返ってレポートをまとめること。もう1つは、ゼネラル/スペシャリストコースの数年上の先輩社員とディスカッションし、そこから得た学びをレポートにまとめること。
後者では、先輩社員と受講者とが数人ずつチームとなり、「いま私たちに求められているものは何か。そのために身につけるべきものは何か。また、どのように身につけていくか」をテーマに議論して、各自レポートにまとめる。
2015年度の研修プログラムは図表4のとおりだが、2日目の、これまでの振り返りと今後に向けた行動宣言をまとめるワークと並行して、個別面談が行われる。
採用育成チームの川見信教さんは、次のように話す。
「1年目の面談では、きちんと仕事が軌道に乗っているか、職場では言い出しづらいような悩みを抱えていないかなど、しっかり情報をキャッチするよう努めています。なかには学生時代との環境の変化に戸惑っている新人もいるので、そうした人たちの成長懸念をできるだけ早めに解消するようにしています」

図表4 配属後フォローアップ研修プログラム(ゼネラル/スペシャリストコース)

図表4配属後フォローアップ研修プログラム(ゼネラル/スペシャリストコース)

(3)2年目フォローアップ研修
2回目のフォローアップ研修は、2年目の10月に行われる。2015年度は、2日間の通学研修として実施。研修目的としては、1年目と同様に、[1]自身の成長の振り返りとやるべきことの明確化、[2]同期と刺激し合い、モチベーションアップ、さらに加えて、[3]組織課題に目を向け、解決のための論点をとらえ、仮説を立てる力を養うことがあげられている。
研修では、まず1日目は、受講者が事前に提出した「職務行動サーベイ」の結果に基づき、職場での行動特性について客観的に確認するとともに、自らの強み・弱みを理解し、啓発ポイントを確かめるワークを行う。続いて2日目は、1人20分ずつの人事面談を順番に行って、現状の課題や今後のビジョンについて話し合う。

(4)3年目フォローアップ研修
3回目のフォローアップ研修は、3年目の6月に行われる。これも配属後研修と同様に、同社研修施設に1泊して行う合宿研修である。目的としては、[1]今後のビジョンとやるべきことの明確化、[2]上位方針と自分の業務のつながりを理解し、視点を高め、モチベーション向上につなげる、[3]業務研究レポート作成を見据え、仮説立案と行動を通じた主体的な問題解決力の体得、となっている。
2015年度の研修内容は、1日目の前半が3年間の振り返りと、それを踏まえた3年目社員としてあるべき姿の考察。1日目の後半から2日目にかけては、ケーススタディを通じて問題解決手法を学ぶ「行動的問題解決力」養成プログラムである。ここでも、並行して個別面談が行われる。

(5)若手キャリア研修
ここまでみてきた3回のフォローアップ研修に加えて、2015年度からスタートしたのが「若手キャリア研修」である。入社3年目社員を対象に10月に実施。その内容は、各事業部の中核で活躍する社員が講師役となり、各事業の概要や魅力、課題や展望を語るとともに、その事業分野で将来活躍するためには若手のうちにどんなことをやっておくべきか、どんなことを意識して仕事をしたらよいかをアドバイスするというものだ。講師役は課長クラスが中心だったという。
この研修を新設した理由について、田丸さんは次のように説明する。
「たとえば、最初に家庭用マーケティングの現場に配属されると、次は本社の家庭用マーケティング部門へといった配属希望を出す人が多い。ほかの事業部に関する情報も提供しないと、どうしても現在の仕事の延長線上で将来を考えてしまい、なかなか視野が広がりません。
ですから、会社のなかにはこんな仕事もある、あんな仕事もある、といったことをまず知ってもらい、自分の適性や興味・関心がどこにあるのかを多様な視点で考えてもらうことで、次のステップに向けて自分が何を学んだらいいかをみつけてほしいのです」
研修当日は、4つのブースを用意し、1時間の講義を各ブース5コマずつ実施するという方法をとった。9事業部が2コマずつを担当。受講者は1コマずつ自由にブースを移動し、5つの事業部の話を聞くことができる(図表5)。
初めての試みとなったこの研修について、川見さんは「受講者の多くは貴重で有意義な話を聞くことができたと前向きにとらえてくれました。各事業部の話をそれぞれのトップランナーから聞けて、とても良いロールモデルになりましたという感想を寄せた社員もいました」と振り返る。

図表5 若手キャリア研修の講義スケジュール

図表5若手キャリア研修の講義スケジュール

(6)業務研究レポートの提出
若年層研修の最終ステップとして位置づけられるのが、「業務研究レポート」の作成・提出である。新入社員は全員、原則としてガス事業の現場に配属される。配属から約3年間の業務経験のなかで現場の問題を発見し、その問題解決のプロセスや成果も含めてレポートにまとめるというものだ。戦略立案や業務改善の能力を養っていく基礎を、まず現場で経験してもらうことがいちばんのねらいだという。
レポートは提出するだけでなく、それをもとに発表資料を作成し、上司や同僚などが参加する発表会で、プレゼンテーションを行うことで、自分の経験や考えをわか
りやすく相手に伝える力も磨く。
「同じ地点からスタートして、同じ仕事をしていても、発表会で各人のプレゼンを聞くと、考えの深さや幅に違いがあり、みんなの成長度合いがみえてきます」(川見さん)
そして、4年目には、本人とその所属組織の育成担当者、人事部スタッフの三者で、「3年後面談」を実施する。若年層社員という段階を卒業するにあたって、これまでの成長状況の棚卸しをするとともに、今後どのようなキャリアを歩んでいきたいかを話し合う場として位置づけられている。

今後の課題は現場とのコミュニケーションとマネジャーへの支援

若年層の育成に関する今後の課題として、川見さんが第1にあげるのは、人事部と各組織の育成担当者とのコミュニケーションをより緊密にすることだ。
「配属してからの育成は、基本的には各職場に委ねられることになります。人事部として若手社員の日々の様子を把握するには、各組織の育成関係者から折に触れて話を聞くことが必要ですが、これまでは仕組みとして人事部と現場が情報共有するという面が少し弱かったように思います。
われわれとしても、研修で若手社員の様子をみて感じたことがあれば、しっかり職場にフィードバックし、現場からもフィードバックをもらうことで、めざす方向にズレが生じないようにしていくことが大切だと考えています」(川見さん)
そのために検討しているのが、年に1度、人事部と各組織の育成担当者、上司が集まり、若手のキャリアや育成に関するミーティングを開催することだ。それぞれが若手社員に関する情報を持ち寄り、上司がどのように育成を行っているか、それが会社の考える方向性とマッチしているかを確認。そのうえで、今後どのように育てていくかを協議し、互いに共有するというものだ。
「ゼネラル/スペシャリストコースは、さまざまな仕事を経験しながら成長していくことが期待されているので、配属された現場に任せきりにするのではなく、人事部サイドでもしっかりみていく必要があります」(田丸さん)
人事部としては、個々人の成長度合いを把握し、適性も確認しながら、適切なタイミングでのローテーションを考えていくということだ。
また、2つ目の課題としてあげられたのは、マネジャー層の育成力向上である。
「マネジャーとしての経験がまだ浅かったり、どうしても日々の業務が優先になってしまい、育成に力を注げていないなど、マネジャー層が抱える悩み、課題もそれぞれです。まずは彼らとの対話の機会を増やしながら、人事部としてもしっかりバックアップしていきたいと考えています」(田丸さん)
さらに川見さんは、次のようにも話す。
「年1回ずつ行うフォローアップ研修に面談の時間を設けたことは、若手社員と直接話をする貴重な機会になっています。
面談は、彼らのいろいろな面を発見し、可能性を見い出す機会でもあります。たとえば、営業担当のAさんは、いまの仕事では課題を抱えて行き詰っているけれども、一方で、研修時のワークや面談で、論理的に考える力が非常に優れていることがわかったとか、そういうことがみえてくる。
そう考えると、いままで以上にインプットだけでなく、アウトプットを意識した研修にしていく必要があるのではないかと思っています」
以上にみてきたように、大阪ガスでは、研修に個別面談を組み込んで、若年層社員の成長を採用時から継続的に見守る仕組みを整えている。川見さんが「若手のときにしっかり適性を見極めて、その人に合ったゴールを関係者間で共有し、一人ひとりをしっかり育てていくことが、われわれ人事部門の重要なテーマ」と話すとおり、全社一体となったきめ細かな育成が、同社の成長の源泉となっていることを実感した。

▲フォローアップ研修でのグループワークの様子

▲フォローアップ研修でのグループワークの様子

(取材・文/北井 弘)

OJT支援の「PTA制度」

大阪ガスでは、若年層研修と両輪で、現場でのOJT支援策にも力をいれている。それがPTA制度(PersonalTutor&Adviser:新人指導員制度)だ。その歴史は古く、30年以上続く取り組みだという。
同制度では、入社後3年間、所属組織の先輩社員が育成計画書を作成し、マンツーマンで指導にあたる。PTA役は、入社後4〜7年前後の中堅社員が務めるケースが多い。全体としては、ほぼ全員がPTA役を経験して上位層に上がっていくそうだ。
日常的には、上司が実務面での指導を主とするのに対して、PTAはメンタル面のフォローを中心に行う。PTAの選定は各組織に任されているが、選任後には必ず研修を実施している。半日間のPTA研修では、最近の新人育成の課題を説明し、これまでの「うまくいかなかった事例」を取り上げるなどして、指導する際の留意点を伝えている。
もっとも、PTA役を担う社員もまだ若い。川見さんは「あまり1人で責任を背負い込まず、上司や同僚とともにチームで育てていくことを意識するよう伝えている」という。


 

▼ 会社概要

社名 大阪ガス株式会社
本社 大阪府大阪市
設立 1897年4月10日
資本金 1,321億6,666万円
売上高 1兆2,518億3,500万円(2014年度)
従業員数 5,866人(2015年3月末現在)
事業案内 ガスの製造、供給および販売
URL http://www.osakagas.co.jp/
人事部
採用育成チーム
川見信教さん


 

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