事例 No.057
ドリコム
特集 「ソト」での学びで視野を広げる

(企業と人材 2016年4月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

他社と社員を交換する「社会人交換留学」を実施し
自社の強み・弱みを知り気づきを得て、今後の組織運営に活かす

ポイント

(1)エンジニア間の交流をきっかけに、自社で働きながら他社での仕事を体験し、刺激や学び、気づきを得る「社会人交換留学」を実施。

(2)2015年4月に1週間、ピクシブとの間で社員を交換し合う。留学中は「お客さま」にならないようプロジェクトに入り、業務にも携わる。また、社員にインタビューを行う。

(3)交換留学をとおして、組織体制や社風の違い、業務の進め方や会議の仕方などの違いを知る。そこから多くの気づきを得て、自社の強み・弱みを知り、今後の組織運営に活かす。

ワクワクする発明を生み出す人材を求む

株式会社ドリコムは、スマートフォンコンテンツやインターネット広告などのサービスの企画・開発を行っている、インターネットにおける「ものづくり」企業だ。ゲーム事業を中心に、広告・メディア事業、ソーシャルラーニング事業などを手掛けている。
同社が掲げるミッションは「withentertainment人々の期待を超える」(図表)。そして、「インターネットで期待を超える未来をつくるものづくり企業」であるとして、人々がワクワクする発明を産み続けたいと宣言している。
これを表すエピソードの1つとして、ホームページには「カレーライスとみかん」の話を上げている。いつもの食堂でいつも食べているカレーライスに、おまけでつけてくれたみかん。思わずうれしくて笑顔になる。そこから、質の高いサービスを提供するのは大前提としながら、そのうえで多くの人の期待を超える革新的なサービスを世界中に広めていきたいとしている。

図表 ドリコムのミッション

図表ドリコムのミッション

求める人材像も、「新しいサービスをつくりたい」、「いいものを世の中に出していきたい」と考える人材だ。加えて、「本質理解」、「協働性」、「真摯」、「目的志向」、「建設的」、「柔軟性」などのキーワードも重視している。
社員のキャリアについては、「スペシャリスト」と「マネジメント」の2つの道を提示。スペシャリストは、自分の得意な分野の専門性をきわめていく人材。マネジメントは、プロジェクトを束ねたり、部下を育成したりする役割を担う人材だ。上司との定期面談などをとおして、どちらの道に進むか選択しているそうだ。
人材育成については、「手をあげた人にチャンスを与える」のが基本的な考え方である。同社では、30人くらいのプロジェクトチームで、約1年間かけてゲームの企画・開発・運営をしていくものもあり、そのため、1人がいくつものプロジェクトを掛けもちすることがある。そして、業務以外のプロジェクトも含めて、手をあげた人には兼任で携わってもらうなど、やりたいことを積極的に支援していこうという社風だ。やりたい人が手をあげて新規事業を提案し、選考を勝ち抜けば子会社としてスタートさせることもあるそうだ。
また、新しい施策にも積極的に取り組んでいる。その1つが、2017年新卒から始めた、面接をせずインターンシップのみでの選考に挑戦する「就職活動の再発明」である。これは、ワクワクする発明を産み続けるために、物事のあるべき姿、本質を追究することをめざす取り組みで、同社としては、就職活動のあるべき姿・本質を、「徹底的な相互理解」であるとしてはじめたものだ。
同社の取り組みのなかには、社員からの提案ではじまったものもある。今回紹介する「社会人交換留学」もその1つだ。

エンジニア間の交流から交換留学がスタート

「社会人交換留学」とは、一週間、同社の社員を他社に「留学」させ、また、先方の社員も自社に受け入れるというものだ。大学間で行われている「交換留学」と同じ仕組みである。
実施したのは、2015年4月。交換留学先は、イラストなどの投稿・閲覧による「イラストコミュニケーションサービス」を展開しているピクシブ株式会社である。
そもそもは、ドリコムの社員とピクシブの社員の間にプライベートな交流があったことからはじまったという。IT業界では、会社の垣根を超えて要素技術ごとの勉強会を開催するなど、日ごろから親交があり、ピクシブもそのうちの1社だった。
「ピクシブさんとも、同じ勉強会に参加したり、月1回くらい食事に行ったりしていました。そのなかで『ずっと同じ仕事をしていたらマンネリになってしまう。インターンのように、自社で働きながら短期間でもほかのチームを体験できる制度があったら、刺激を得られるのに』という話が出たのです。お互いに同じような課題を感じていたので、それならいっそ両社の間で交換留学をしたらどうだろうという話になりました」
こう話すのは、テクノロジー本部の大仲能史さん。大仲さんは交換留学を企画した人であり、ピクシブに留学した「留学生」でもある。
後日、ピクシブ側から「この間の社員を交換する話、うちの社長にとおしておきました」というメールがきた。大仲さんも上司である執行役員テクノロジー本部長の白石久彦さんに相談した。白石さんは、交換留学について初めて聞いたときの感想を、次のように話す。
「私たちは、基本的に面白いことはやってみようというスタンスです。交換留学の話を聞いたときも、『面白そうだから、ぜひやってみたら』と言いました。そして会社に提案するために、目的や内容などを企画書の形にまとめてほしいと伝えました」
そこで、大仲さんは交換留学の意義やそこで学べること、ほかの取り組みとの違い、また、機密情報などの取り扱いについても企画書をまとめて提出。それを基に白石さんが人事部長や経営幹部に話をとおしたところ、ゴーサインが出たそうだ。ここにも「人々の期待を超える発明を産み続けたい」という同社の考えがうかがえる。
大仲さんも、交換でやってくることになったピクシブの社員も、第一線で働くエンジニアだ。交換留学を実施するにあたって注意したのは、「お客さまにならないこと」。ただ留学先企業に行って、隣で仕事を眺めているだけでは、得られる気づきや学びは少ない。そこで、プロジェクトにアサインしてもらい、実際に留学先企業で業務にあたることを大前提とした。
両社とも相手先の技術を知ることになるが、そのあたりはNDA(守秘義務契約)をきちんと交わせば問題はないと判断したという。

他社に「留学」することで自社の強み・弱みを再認識

他社に行き、実際に業務に携わることによって得られるものはいろいろと考えられる。同社ではまず、今回の社会人交換留学の目的を、「自社の強みや弱みを知ること」とした。
お互いIT企業とはいえ、理念も違えば、扱う商品も違う。また、ドリコムは従業員約250人で、ピクシブは約100人と、企業規模も違う。組織の仕組みがどうなっているのか、チームのなかでのデザイナーとエンジニアの関係はどうかなど、さまざまなことを見聞きし、実際に体験してみることで、逆に自社についてもみえてくることがあると考えた。

▲社会人交換留学のインタビュー

▲社会人交換留学のインタビュー

「留学にいった本人の成長はもちろんですが、それ以上に大きな目的としたのが、業界標準に対して自社がどうなのかを確認することでした。自分たちでは一歩先を行っていると思っていてもそうでもなかったり、逆に、あたり前と思っていたことがほかより優れていたりといったことがあるのではと思いました。他社をみることによって、自社の強みや弱みを理解して、そこから組織としてどうしていけばいいかという気づきがほしかったのです」(白石さん)
たしかに、ずっと同じ企業のなかにいると、客観的に自分の会社をみることは難しくなる。あたり前と思っていたことが業界やほかの会社ではあまり行われていないことだったり、逆に、自社ならではと思っていたことが、意外とほかでも行われていたりといったことも少なくない。そういった比較は、ほかの会社に行き、実際に働いてみるとよくわかる。
ただし、この目的は最初の留学生となった大仲さんの特性によるものでもある。大仲さんはスペシャリストで、ドリコムの中心的なエンジニアとして活躍しており、さまざまなプロジェクトにも参画してきた。多様な業務に精通していて、自社と他社の違いもよくわかる。そこから定められた目的なのだ。
留学期間は業務の調整をしたうえで1週間とした。両社とも日程の調整には苦労したという。留学期間中の自社との連絡は、メールや社内SNSなどを確認する程度で、会社に寄ることはほとんどなかった。
「いくつものプロジェクトが動いているので、そのなかで抜けても大丈夫な期間を見極めながら、日程を調整していきました。自分のやっていた業務を徐々にチームのメンバーに引き継いで、業務に支障がない状況をつくるのに、3カ月ほどかかりました」(大仲さん)
いくらタイミングが合ったとはいえ、ほかの社員に負担はかかる。しかし、社内から不満の声があがることはなかった。逆に、「面白そう」、「いいな」、「ブログでの報告、楽しみにしています」という反応が多かった。

実際に働いてみることで違いを知り、気づきを得る

ピクシブからドリコムへの留学は2015年4月6~10日、ドリコムからピクシブへの留学は4月20~24日に実施した。以前から交流があったとはいえ、大仲さんがピクシブの社内に入るのは初めてだった。
留学中は、物販サイトのメンテナンスや追加機能開発を行うプロジェクトにエンジニアとして参加。同じIT業界だが、いろいろな面が違っていて、学ぶことが多かったという。
たとえば、先に述べたようにドリコムでは1つのプロジェクトのメンバーは30人くらいが多いが、大仲さんがピクシブで携わったプロジェクトのメンバーは7人。任される仕事内容も進め方も違った。
社内の雰囲気や机の配置も違っていた。ドリコムでは机の配置は一般的な島型だが、ピクシブでは波のような形に配置。U字型のあたりにプロジェクトメンバーが集まって座り、何かあれば椅子ごと振り返って相談し合うという光景が、そこかしこでみられた。
仕事のスピードも違っていた。ピクシブはシステムが動くことを確認したら、すぐにリリースを出してスタートする。システム起動確認後に、社内の他部署での確認や調整などを行うドリコムとは違い、驚いたという。
「仕事の進め方もかなり違っていました。エンジニアや企画専門職が企画を立てて、デザイナーは最後にキャラクターなどでかかわる当社と違い、ピクシブさんはもともと、デザイナーだった人が興した企業ということもあるのか、デザイナーが企画を立てていました。ユーザーが触る部分をつくるのはデザイナーという自負をもった人が多く、みんなサービスはこうあるべきという持論をもっていて、興味深かったですね」(大仲さん)
せっかくの機会なので、プロジェクトに入って仕事をするだけでなく、ピクシブで働く人にインタビューをして回ったそうだ。
チームリーダーを中心に、「入社のきっかけや決め手」、「悩んでいること」などを、1日3人くらいずつインタビューしていった。留学前に相手先でインタビューをしたいということは伝えていたが、細かなスケジュールは決めていなかったため、空いた時間ができたらインタビューをしたい人のところにいき、その場で時間を調整してもらったそうだ。1人あたり30分ほどだったが、みんな快く応じてくれたという。このインタビューにより、従業員が感じている会社の魅力や働きがいについても、深く知ることができた。
自社の強みも確認することができた。ドリコムのほうが従業員数は多いため組織の階層が多く、マネージャー層(グループ長)がいることを、1つの強みだと感じた。
「ピクシブさんは事業への愛情が深く、『このサービスをやりたい』という想いで集まっている人が多い。当社は、企業規模が大きくなり、『仕事』と割り切る人もなかにはいます。そのようななかでも業務がスムーズにまわっているのは、多様な人材をマネジメントできる人がいるからだと気づきました。自分とは違うマネジメント人材のありがたさや強みは、交換留学をしないとわからなかったと思います」(大仲さん)
ほかには、評価制度の違いについても知るなど、自社のことがよくみえた1週間だったと話す。

社内の関心は高く今後も継続予定

自社に戻った大仲さんは、交換留学で得たこと、感じたことをレポートにまとめ、イントラネットにアップロードして、社員に公開した。レポートには、留学中の業務、インタビューの内容、会議の仕方の違い、組織体制・風土の違いなど、さまざまなことを書いた。社員の関心は高く、多くの質問が寄せられたという。
今回の留学では、自社の強み、弱みが明確になったのはもちろんのこと、ほかにもいろいろと取り入れるべきもの、参考にすべきものがみつかった。
「そのまま取り入れるというわけではありませんが、会議の仕方など参考になるものが多くありました。それに、社風や従業員の気質の違いもわかりました。レポートを読んで、ピクシブさんの従業員の仕事への想いを知り、当社でも、もっとやりたい人がやりたいことをできる環境を整えていきたいと思いました」(白石さん)
会議の仕方でいうと、ドリコムでは売上げやユーザー数など、数字を出して話し合いを進めていくのが通常だが、ピクシブは細かい数字は出さないように注意していたそうだ。これは「メンバーが数字ばかりを追うようになるのはよくない」という考えからきている。あえて数字は出さずに、どんなサービスがユーザーにとって有益かを考える会議やプロジェクトの方法は、今後、参考にしたいと感じた1つだ。
他社のロールモデルを知るという点でも参考になることが多かった。講演で話を聞いたり、本を読んだりするよりも、実際の業務を経験しながら、いろいろな人とかかわれたことで、自社にはいなかったロールモデルをみつけることができた。
ドリコムでは、交換留学を今後も続ける予定だ。留学先企業も広げていきたいという。次の交換留学はすでに動き出しており、新しい留学先と互いの風土を知るための懇親会を開くなど、事前準備を進めているところだ。
「ピクシブさんとは個人間とはいえ交流があったので、交換留学をすることになってもほとんど心配していませんでしたし、会社にとって参考になるものをいろいろと持ち帰ってくれるだろうと思っていました。しかし、今後は、こんなにうまくいくとはかぎりません。留学する社員の選び方も含めて、どんな目的を掲げて行うのか、どうやっていくのがベストか、そのつど考える必要はあるでしょう」(白石さん)
以上、ドリコムの社会人交換留学についてみてきた。ずっと同じ会社にいると、かえってみえないこともある。その点で交換留学は、社員の視野を広げ、いろいろな気づきを与えるための有効な取り組みの1つといえそうだ。今後、さまざまな企業や業界に広がっていくのではないだろうか。

(取材・文/小林信一)

ピクシブの交換留学生に聞く!

ピクシブ株式会社
リードエンジニア 高山温さん

現在、ピクシブ株式会社で、主にサーバーサイドのアプリケーションエンジニアをしている高山さん。交換留学生として1週間、ドリコムで働いた。留学生になったのは、上司からすすめられたことがきっかけである。
「以前から上司に、『同じポジションにずっといるのではなく、社内でローテートする仕組みをつくりたい』と言っていました。それもあり、ドリコムの大仲さんと上司の間で社員を交換させる話があがり、エンジニア主体で動くことになったとき、私が留学生としてドリコムさんに行くことになりました。もともとドリコムさんとは、合同勉強会などを開催していたので、比較的知り合いが多かったのも、留学してみようと思った大きな理由の1つです」
ドリコムで働いてみて、いろいろなことを見聞きし、学んだ高山さん。
「ウェブについては似ているところも多かったのですが、ゲームは知らないことだらけだったので、とても参考になりました。NDA(守秘義務契約)を結んでいたこともあり、比較的自由にやらせていただけて、深い質問にもしっかりと答えていただけたのでよかったです」
さまざまな違いに気づいた1週間だったが、いちばんはプロジェクトの人数についてだ。ピクシブは3~5人のプロジェクトが多く、1人がいろいろな役割を担うことが普通だ。それに比べてドリコムは、30人規模のプロジェクトがあったりと大きく、さまざまな役割を分担して行っている。これには驚くと同時に、「しっかりチームづくりをしているから、人数が多くてもバラバラにならずに動けているのだ」と思ったそうだ。
留学3日目には、ドリコム内のチャットグループで「仕事をくれる人を募集」してみた。そのときもらった技術面の課題を解決する画像システムを構築し、みんなによろこばれた。このシステムは、いまでもドリコム内で活用されているという。
ドリコムの大仲さん同様、高山さんも、ドリコムの社員15人に働き方などをインタビューして回ったという。
「インタビューをとおして、多くのことを学ばせてもらいました。お仕事振りも垣間見させてもらったのですが、それぞれの役割を担うスペシャリストの方が、すばらしい価値を発揮されていたことが印象的でした。社員一人ひとりの実力を最大限活かせるように気を配られているのだろうなと思いました」
ドリコムと同じく、ピクシブでも交換留学は続けている。
「ドリコムさん以外の会社と2回目の交換留学を実施しました。若手社員が留学生となったのですが、本人はもちろん、相手先留学生を受け入れる側としても、新しい風を取り入れることができ、社内のメンバーにも大変いい刺激になっていました」


 

▼ 会社概要

社名 株式会社ドリコム
本社 東京都目黒区
設立 2001年11月
資本金 11億9,663万円(2015年12月末日)
売上高 72億9,838万円(2015年3月期)
従業員数 254人(正社員・契約社員 2015年3月31日現在)
事業案内 ゲーム事業、広告・メディア事業、ソーシャルラーニング事業
URL http://www.drecom.co.jp/
(左)
執行役員
テクノロジー本部長
白石久彦さん
(右)
テクノロジー本部
大仲能史さん


 

企業研修に特化した唯一の雑誌! こんな方に
  • 企業・団体等の
    経営層
  • 企業・団体等の
    教育研修担当者
  • 労働組合
  • 教育研修
    サービス提供者
  1. 豊富な先進企業事例を掲載
  2. 1テーマに複数事例を取り上げ、先進企業の取組の考え方具体的な実施方法を理解できます
企業と人材 詳細を見る

ページトップへ