事例 No.054 オークラ ニッコー ホテルマネジメント 特集 「ソト」での学びで視野を広げる
(企業と人材 2016年4月号)

キャリア開発

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

チェーンの強みを活かした人材インフラシステムで
チェーンホテルスタッフの成長を支援

ポイント

(1)チェーンホテルスタッフのキャリアアップを支援するため、2014年4月に「チェーン内キャリアアップシステム」をスタート。

(2)キャリアアップを希望するチェーンホテルスタッフが登録。その人材情報と、求人ホテルの求人要件を事務局がマッチング、ホテルとの協議を経て、求人ホテルへ一定期間出向。

(3)人材不足をチェーン内人材の行き来で解消することにより、効率的な業務支援を実現し、チェーン内で業務スキルやノウハウ、知識の移転が活発化。

ホテルマネジメントができる人財を育成

「オークラホテルズ&リゾーツ」、「ニッコー・ホテルズ・インターナショナル」、「ホテルJALシティ」の3つのホテルチェーンブランドを展開する株式会社オークラニッコーホテルマネジメント。2015年10月に、株式会社JALホテルズに株式会社ホテルオークラのホテル運営部門を統合したうえで現社名とし、日本発の国際ホテルオペレーターとしての地位の確立をめざし、現在、国内外で75ホテルを運営している。
事業の中心はホテルの運営管理で、ホテルを所有・経営するオーナーと運営受委託契約を結び、本社から派遣した総支配人(GM)や部長など幹部社員によって円滑なホテル運営管理を行っている。また本社では、マーケティング、セールス、施設設備、調達、財務・経理などのホテル運営管理にかかわる各専門部門が、現場であるホテルの運営管理の支援業務を行っている。

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同社の社員は420人。社員教育は、同社総務人事部が担当している。キャリアパスは、大きく「ホテルマネジメント人材候補」と「チェーン本部専門人材候補」に分けられており、適性と希望により、双方向の行き来が可能だ。ホテルマネジメント人材候補は、宿泊部門、レストラン・宴会などの調理・サービを担当する料飲部門、セールスを担当する営業部門、人事・経理・施設設備管理・調達を担当する管理部門など、ホテルの日々の運営管理を司る幹部や、全体を統率指揮する総支配人(GM)をめざす道。もう一方は、前述の本社の各専門分野のスペシャリストをめざす道である(図表1)。
なお、チェーンのホテルスタッフは、同社から派遣する社員以外は、各ホテルのオーナーに雇用されている。ホテルスタッフへの教育は、ホテルの教育担当部門が実施し、チェーン共通の理念や知識・スキルについての教育は、同社担当部門が担っている。

図表1 人材教育概念図

図表1 人材教育概念図

管理本部総務人事部シニアマネージャーの関根宏さんは次のように話す。
「当社の新入社員は入社後2年間、チェーン内のホテルで、現地で採用されたスタッフとともに業務をしながら、チェーンの理念やホテル運営について学びます。その際は、目標設定や研修などを通じて、将来的にはホテルのGMまたはホテルを支える本社の専門人材のトップを担う立場になるということを意識しながら、現場研修に取り組むよう伝えています」

チェーン内の他ホテルでキャリアを磨く仕組み

前述のとおり、現場のホテルでは同社から派遣された社員とオーナーに雇用されているスタッフが協働しているが、今回紹介する「チェーン内キャリアアップシステム」(以下、システム)は、オーナー雇用のスタッフを対象としている。
この仕組みを活用する場合、スタッフは原籍のままほかのオーナーのホテル内にある指揮命令下に入り業務を行う「出向」の形態をとることとなる。スタッフは、在籍ホテル以外で一定期間、勤務を経験する機会を得ることができるが、原籍のホテルにとっては、一定期間、人員が減ることになる。そのため、在籍ホテルのGMの了解が実施の前提条件となる。また、なによりオーナーの雇用しているスタッフを対象としているため、チェーンインフラとして運用開始させるには、オーナーの理解を得る必要があった。
この仕組みのポイントは、システムへの登録自体が本人の意思によるものであるということ。「グローバルな視点をもって海外で働きたい」、「開業スタッフになりたい」、「異なる環境で勤務することにより視野を広げたい」、「ワンランク上の仕事に挑戦したい」、「引越しの必要があるが、転居先でもチェーンホテルで働きたい」などのホテルスタッフの多様な要望に応えることが可能である。
「有効求人倍率にみるとおり、人材市況は雇用側にとって大変厳しい状態が続いています。このような時期であるからこそ、スタッフは自己実現できる場を見極めていると考えます。キャリアアップを図りたいと考える積極的な人材は、欠かすことのできない貴重な戦力であり、そのような大事な人材の意思をくみとるチェーン共通の仕組みが存在し、効果的に活用されていることが、チェーンインフラとして重要であると考えています」(関根さん)
システムの運用開始は2014年4月だが、以前からチェーン内でホテル間の人材交流は行われていた。
「1つのホテルだけではなく、チェーン内のいろいろなホテルを人材育成の場にできることは、チェーンホテルの強みです。したがって、チェーン本部である当社が仕組みを構築・運用する前に、チェーン本部を介さずにホテル間同士で話し合って、スタッフがチェーン内を行き来しているケースもありました。しかしその場合、チェーン本部は他ホテルでも業務経験を積んだことのあるスタッフの存在を把握することが困難でした。そこで、チェーン内の人材を正しく把握するためにも、2013年12月からシステム構築の検討を開始しました」(関根さん)
検討段階にあたっては、現役のGM、GM経験者をはじめ、社内関係部署にヒアリングを行い、徐々に現在の形に作り上げていった。そして、構築後に各ホテルのオーナーやGM、幹部スタッフに説明を行い、システムへの理解を広げていったという。
「導入時、ホテルやオーナーさまからは、『チェーンの強みを活かしてホテルスタッフを育成するのは賛成だが、それがきっかけで優秀な人材が他ホテルに行ったきり戻ってこないということになったりはしないのか』という声や、『このシステムを現場に認知させることで、多くのスタッフの関心が他ホテルへの転籍に向かってしまうのではないか』といった、システムの運用開始を不安視する声があがりました。チェーンホテルのためのインフラとはいえ、あるホテルが成長を願って一定期間出向させた大事なスタッフが戻ってこないような仕組みでは、決してチェーン内に定着しません。したがって、他ホテルへ出向する際は、関係ホテルが合意した出向期間を明記した契約を締結して実施することになります。
人は異なる環境に入ると順応しようとして120%以上の力を出すといわれています。その努力が成長につながるわけですが、多くのGMがチェーン内の複数ホテルでの業務経験を通じて、あらゆる状況に対応できる能力を習得し、GMとなっています。GM自身こそ、異なる環境での業務経験が成長という面で大きな効果を生むことを体現しているわけです。
自己実現を望む意識の高いスタッフは常に外にアンテナを張っており、周囲のスタッフへの影響度も高いため、万一チェーン外に転職してしまった場合、周囲への連鎖反応の可能性も高いといえます。したがって、外の世界を見せないような人材の囲い込みではなく、キャリアアップを支援する仕組みを備えていることを伝えるなど、『自分は魅力あるチェーンホテルで勤務しているんだ』と実感してもらえる仕組みがチェーンのインフラとして必要なことを説明し、GMやオーナーさまのご理解をいただきながら、導入ホテルを増やしていきました」(関根さん)
ホテルスタッフによる人材登録および仕組みの活用促進のため、各ホテルへの説明を行った管理本部総務人事部の須藤早さんは、次のように話す。
「説明会には想定以上に多くのホテルスタッフが出席してくださり、キャリアアップを支援する仕組みに対する関心の高さがわかりました」

登録情報と求人要件でマッチングを行う

このシステムは、通称「ONCAS (「オンキャス」:オークラニッコー・キャリア・アドバンスメント・システム)」と呼ばれ、「キャリアアップのためにチェーン内の他ホテルで働いてみたい」と希望するスタッフが、自分の情報を自由意思で登録する「人材情報登録サイト」と、チェーン内の求人情報を集約した「チェーン求人情報サイト」の2つのサイトで構成されている。
「人材情報登録サイト」は、システムの内容とシステムを活用した事例紹介などが掲載された専用ホームページ内にある(図表2)。

図表2 ホームページにある登録サイト

図表2 ホームページにある登録サイト

登録項目は、「氏名」、「原籍ホテル」などの基本情報をはじめ、スキルや能力、出向希望先ホテル、過去の経歴・経験などである。登録されると、その情報は関根さん、須藤さんが担当するONCAS事務局に届く。登録が完了すると、「チェーン求人情報サイト」の閲覧が可能となる。このサイトには各ホテルの求人情報が一覧になっており、各ホテルからつど送られてくる「求人票」の内容を、事務局が求人リストに掲載する。登録したスタッフが求人リスト内に希望する求人情報を見つけた場合、その旨を登録更新画面に入力すると、事務局に送られる。
情報を受信した事務局は、マッチング作業を開始する。まず、応募したスタッフの登録情報が、求人要件にデータ上適合しているか確認を行う。マッチングにあたっては、在籍ホテルのGMまたは人事部に応募があった旨を伝え、ミスマッチをさけるため、求人要件に適合しているかを確認し、適合していると判断した場合は、一定期間出向が可能かを確認する。確認の結果、出向可能となれば、求人元ホテルに打診し、了解が得られればマッチング成立となり、在籍ホテルより応募スタッフ本人に結果を報告することとなる。その後、出向者の給与負担も含めた出向の諸条件を、求人元ホテルである出向予定先ホテルと、応募スタッフ在籍ホテルである出向元ホテルの間に事務局が入り調整し、3社で出向契約を取り交わすという流れである。
なお、マッチング前に在籍ホテルに登録の有無が通知されることはない。スタッフ自身の考えを尊重するため、マッチングの段階で事務局が在籍ホテルに連絡するまでは、登録された事実はわからない仕組みとなっている。また、求人に応募がない場合は、事務局で登録人材情報の確認を行っており、条件に適合するスタッフがいれば在籍ホテルに打診を行う。
チェーン内の人材の行き来の形態は、「出向」、「研修出張」または「転籍」がある。多くの場合は「出向」で、現在の人材市況と出向元ホテルの事情を反映して、出向期間も短期が多い。なかには1週間のケースもあるが、おおむね数カ月から1年以内とのことだ。
「あくまでもホテルとホテルスタッフのためのチェーンインフラですので、出向期間は出向元ホテルと出向先ホテルの事情に柔軟に対応していく必要があります。個々人の能力アップだけにとどまらず、出向先で習得したスキルや知識を復帰後に職場に広め、ホテル全体の業務改善につなげる、または、キャリアアップを支援することを通じて職場に対するロイヤリティを高めることを勘案すると、スタッフ1人が1年間出向するよりも、各部署からより多くのスタッフが1カ月ずつ出向したほうが、効果は大きいかもしれません」(関根さん)

新たな気づきが得られるなどチェーン内に効果

システムの運用開始から約2年。その効果は、他ホテルで業務経験したスタッフ当事者だけでなく、出向先ホテル、出向元ホテルにもさまざまな点で現れているようだ。
たとえば、川崎(神奈川県)のホテルスタッフが、松山(愛媛県)のホテルにフロントの応援業務のために出向した事例。出向者からは「お客さまの層だけでなく、ともに勤務するスタッフが異なる職場環境に身を置くことで、これまでの仕事のやり方や仕事に対する考えを客観的に見直すことができた」との感想が寄せられた。約1カ月間という短期間の出向であったが、出向者自身の振り返りや業務に向かう姿勢の変化にもつながったようだ。
出向先ホテルのGMからは、「単に業務を支援してもらうだけではなく、経験に基づいたノウハウや知識を残していってくれた。当初からいたスタッフだけでは気づかなかったことに気づくことができた」という声とともに、「スタッフがチェーン内を行き来することにより、出向先と出向元双方のホテルが、人材育成、体制強化などの面でメリットを享受できる」と、システムを評価するコメントもあった。
東京のホテルから沖縄のホテルへ出向した事例では、出向者ははじめ、出向の目的である「レストランホールの業務支援をまっとうする」ということに重点を置いていたが、「実際に業務に就いてみると、リゾート地でのお客さまの過ごされ方に合ったおもてなしやサービス提供のタイミングなどを学ぶことができ、有益な期間であった」という。
これらの事例以外でも、「他ホテルのスタッフを受け入れることによって業務改善につながった」、「職場に新しい風が吹いた」、「向上心の高さに刺激を受けた」といったものや、「現場責任者を出向させることにより、不在期間中、残ったスタッフが職場を維持するために努力し、貴重な育成期間となった」などといった声が寄せられている。
なお、先述のとおり他ホテルで業務経験をしたスタッフからのヒアリング内容は、システム専用ホームページ上に事例紹介として掲載されているほか、ホテルスタッフやホテルにとっていっそう活用しやすいチェーンインフラとするための貴重な情報として、事務局で蓄積されている。

システムの利用拡大と登録者に応えることが課題

このようにシステムの運用効果については、多くのポジティブなコメントが寄せられている。当面の課題は、マッチング率を高めるために活用の促進を継続的に図っていくことだ。
現在、人材登録者数は約330人。これまでシステムを活用してチェーン内の他ホテルで業務経験をしたスタッフは、その1割超の40人ほどだ。対象となるのは各ホテルで雇用されている正社員と契約社員で、チェーンホテルを合わせると1万人を超える。
「ホテルには多くの部門と役職があります。現在の求人件数にマッチングするようにしていくためには、多部門にわたり登録者数を増やすことが必要です。社内メールなどで情報を流しても、調理スタッフのようにメールや専用ホームページを見る機会が少ないスタッフもいます。そう考えると、システムの存在を認識していないスタッフがいる可能性もあります。これまでも各ホテルで説明会を随時行ってきましたが、今後も継続的に行う必要があると考えています。また同時に、もっと広くシステムについて知ってもらい、活用してもらえるようになるには何が必要なのか、これからも工夫していきたいと思っています」(須藤さん)
キャリアアップしたいという積極的な気持ちを大事にするため、本人が登録することを原則としているが、GMや人事部長が将来性を見込み、ほかのホテルでの経験も有益と考えたスタッフに対して、「チェーンにこういう仕組みがあるので登録してみないか」と登録を働きかけることもある。スタッフにとっては、組織のトップから直接、成長機会の提案をされる環境があるということは、モチベーションにかかわる重要な要素であろう。
もう1つの課題は、登録したスタッフの希望にいかに応えていくかだ。
「登録しても、なかなか適合する求人先がみつからないこともあります。登録した人全員がすぐマッチングできるとはかぎりませんが、登録しているスタッフにどれだけきちんと応えていけるか。登録スタッフは志が高く積極的であるがゆえに、登録後何も変化がないと、チェーン外に目を向けはじめ、やがては転職してしまう可能性があります。登録者はチェーンにとって貴重な人材であることを念頭に、きちんと対応していきたいと思っています」(関根さん)
同社は、昨年10月の再編によりチェーンにオークラグループのホテルが加わり、国内ホテルだけでなく海外ホテルも増えた。海外ホテルで勤務するスタッフの登録もあるが、ビザの問題もあり、海外ホテルとのスムーズな出向実施に向けた運用の確立を検討中であるが、まずは国内で仕組みをしっかりと浸透させたうえで、運用範囲を海外へと広げていく予定だ。キャリアアップを望む人材が活発にチェーン内を行き来すればするほど、チェーン全体にさまざまな良い影響が出てくることは、これまで述べてきたとおりである。
働くことに対する考えや向き合い方が多様化する一方、とくにサービス産業においては人材確保が困難さを増す状況においては、オークラニッコーホテルマネジメントの取り組みは、スタッフのキャリアパスの支援と人材の確保を両立させる新たな道筋の1つとなるだろう。

(取材・文/江頭 紀子)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社オークラニッコーホテルマネジメント
本社 東京都品川区
創業 1970年7月
資本金 42億7,200万円
売上高 93億円(2015年3月現在)
従業員数 420人(2015年10月現在)
平均年齢 46.8歳(2015年3月現在)
平均勤続年数 11.7年(2015年3月現在)
事業案内 国内および海外のホテル運営・管理
URL http://www.okura-nikko.com/jp/

(左)
管理本部
総務人事部
須藤早さん
(右)
管理本部 総務人事部
シニアマネージャー
関根宏さん


 

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