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労災死亡事故が発生すると, 使用者は, 労働基準法 79 条による平均賃金 1,000 日分の遺族補償と, 同 80 条による 60 日分の葬祭料の補償義務に加え, その事故が使用者側の故意か, 注意義務や安全配慮義務に違反する過失によって発生したのであれば, 本人の逸失利益, 本人および遺族の精神的損害等に対する民法上の損害賠償義務が発生します。 通常は, 労基法上の補償責任部分は労災保険でカバーされますから, なお残る賠償義務は, 労災保険によって填補しきれない民法上の賠償責任部分となります。
労災事故発生時に支払われる弔慰金等は, 特段の定めがなければ, 労基法あるいは労災保険法の給付がなされることを前提に支払われる 「上積補償」 と考えられますから, 労災保険による給付がなされるからといって不支給や減額ができるものではありませんし, 労災保険の給付が停止されるわけではありません (昭 56.10.30 基発 696 号)。 また民法上生じる損害賠償額を弔慰金の金額が上回る場合でも, 支給対象者が受益の意思表示をした時点で規定どおりの支払義務が発生しますので, 支払いを拒否することはできません。
ただし弔慰金規定等に基づく金銭給付は, 使用者の民法上の損害賠償義務との関係からみると, 同一原因により発生した利益として, 使用者の支払うべき賠償金額と相殺されると理解されています。 通常のケースでは, 弔慰金等以外に民法上必要な損害賠償義務が発生する余地があるのは, その賠償額が労災保険の給付と弔慰金の合算を超えるときに限られます。
しかし, この場合に弔慰金等の規定を民法 420 条1項に定める損害賠償予定額の定めとみて, 使用者は不足額の支払いを拒否できると考える余地もあります。 弔慰金規定等を損害賠償予定の定めとみれば, それ以上の賠償を要しないということになりますが, 一般的な意思解釈からいえば, 弔慰金規定の存在だけから損害賠償予定の趣旨を読み込むのは困難です。 当該金銭に関して, 明確に損害賠償予定とする旨か, その支給条件として使用者に対する損害賠償請求権を放棄することが定められていれば, 弔慰金以外の賠償責任を否定することはできるでしょう。 もっとも, このような定めをしても, 本来の賠償額を不当に下回るような場合には, 民法 90 条公序良俗違反として無効とされる可能性はありますから, どんなときでも有効であるとはいえません。
勝亦啓文
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