| |
業務に起因する精神障害に罹患していたかが判断のポイントになります。 一般的にいえば, 自殺はその方の判断による行為ですし, 労災保険法 12 条の2の2も, 労働者の故意または過失による負傷, 疾病, 死亡には保険給付を制限するとしています。 しかし, うつ病等の精神障害症状の1つとして, 希死念慮の高まりがあげられます。 精神障害によって本人の正常な判断力が失われ, その結果自殺したのであれば, 本人の選択の結果であるとはいえません。 そのため, 自殺であっても, 業務に起因する精神障害による場合には, 労災認定が行われています。
厚生労働省の 「心理的負荷による精神障害等に係わる業務上外の判断指針」 (平 11.9.14 基発 544 号) は, うつ病に限らず, 国際疾病分類第 10 回修正 (ICD‐10) 第X章の定める精神・行動障害を対象として, その業務上外の認定を, 発病前おおむね6カ月間の業務上・外の心理的負荷を同指針のストレス評価表にあてはめて総合的に行うとしています。 同指針では, 発症前の出来事とそれに伴う変化を, 仕事の量, 質, 責任, 職場の人的・物的環境, 支援・協力体制等に着眼し, 恒常的な長時間労働が精神障害発病の要因になる可能性が高いことを考慮しつつ判断するとしており, 正常な抑制力が働かなかった結果としての自殺であれば原則として業務起因性を認め, 逆に業務以外の心理的負荷や個体側要因で発病した場合は認めないとしています。
自殺を労災と認める裁判例では, 加古川労基署長 (神戸製鋼所) 事件 (神戸地裁平 8.4.26 判決, 労働判例 695 号 31 頁), 大町労基署長 (サンコー) 事件 (長野地裁平 11.3.12 判決, 労働判例 764 号 43 頁) のほかにも, 近時では, 設計課長の飛び降り自殺について, 恒常的な時間外労働と業務の過密性, 納期や出張等による強い心身的負荷があった一方で, 業務外の心的負荷はそれほどなく, うつ病になりやすい性向が本人にあったとしても通常人の範囲を超えるものではないとして, 労基署長の不支給決定を取り消す豊田労基署長 (トヨタ自動車) 事件 (名古屋高裁平 15.7.8 判決, 労働判例 856 号 14 頁) があります。
ご質問のケースでは, 精神障害に罹患していたか, その障害が業務を原因としているかを客観的に, かつ総合的に判断しないと結論は出せませんが, 労災と認定できる余地はあるでしょう。
勝亦啓文
|