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労働者に発生した損害が, 使用者の故意または過失によって発生したのであれば, 使用者に民法上の不法行為責任, あるいは債務不履行責任が発生します。 労災保険は, 基本的には, 労働基準法 75 条以下が定める使用者の補償責任 (使用者の故意や過失を問わず, 業務災害による損害の一部を現物ないし定額で補償する責任) を, 保険化したものです。
したがって, 労災保険法による給付が先行すれば, 実際に支給された, あるいは支給が確実な保険給付の範囲で, 使用者は民法上の損害賠償責任を免れます (労働基準法 84 条2項の類推適用)。 この場合に使用者が支払うべき賠償額は, 労働者側の帰責割合や過失相殺を経て算定される賠償額から, 労災保険法による給付額を控除した額となります (鹿島建設・大石塗装事件・最高裁第1小法廷昭 55.12.18 判決, 最高裁判所民事判例集 34 巻7号 888 頁, 労働判例 359 号 58 頁)。
ただし, 労働福祉事業による 「特別支給金」 は控除対象となりません (コック食品事件・最高裁第2小法廷平 8.2.23 判決, 労働判例 695 号 13 頁)。
また, 労災保険法の給付が 100%行われたとしても, 入院雑費, 被災者本人や遺族の精神的損害等の労災保険がカバーしていない部分の賠償責任は残ります。
仮に使用者の賠償が労災保険給付に先行すると, 当該賠償対象にかかる労災保険給付の一部が停止されますが (労災保険法 64 条2項), この場合も使用者が労災保険の給付を代位取得できるわけではありません (三共自動車事件・最高裁第1小法廷平元. 4.27 判決, 労働判例 542 号6頁)。
したがって, 労災保険の給付が先行したほうが使用者にとっては有利なのですが, 使用者は労災保険から給付が 「あるはず」 だからといって損害賠償責任を否定されませんし (三共自動車事件・最高裁第3小法廷昭 52.10.25 判決, 最高裁判所民事裁判例集 31 巻6号 836 頁, 労働判例 300 号 41 頁), 労災保険の先行受給を強制することもできません。
ただし, 損害賠償請求権を有する者が, 労災認定を経て障害 (補償) 年金, 遺族 (補償) 年金の前払い一時金を請求できる状態になった場合に限って, 前払い一時金の最高限度額が支給されるまで, 一定額の支払いを拒むことが認められています (労災保険法 64 条1項)。
労災事故であることに異議がないのであれば, 被災者に対し, 労災保険から確実・迅速な受給が受けられ, 年金も受給できる場合がある等のメリットと, 保険給付を受けることによるデメリットはないこと等を説明し, 申請への協力を約すなどして, 早期の申請をお願いしたほうがよいでしょう。
勝亦啓文
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