整理解雇とは, 経営の合理化や経営上の必要から, 余剰となった労働者の削減を目的として行う解雇をいいます。
使用者は, 経済情勢や産業構造の変化などに対処するため, あるいは事業経営の維持・改善などのために企業の経営実態を見直して, そこに余剰の労働力がある場合は, 配転や出向などの人事異動を行い, 最終的に人員削減のための解雇=整理解雇を行うことになります。
しかし, この場合の解雇は, 労働者側の責任に基づくものではなく, 専ら企業側の経済的事情に基づくものであり, 定年まで雇用されることを前提とするわが国の雇用慣行においては, 労働者の雇用に関する期待を裏切るものであって, 解雇後の労働者の生活に深刻な影響を及ぼします。
そこで判例法上, 解雇権濫用法理を発展させたところの, 整理解雇の有効性を充足するための4要件が確立され, この4要件をすべてクリアしていれば, その整理解雇は解雇権の濫用には該当しないとしています。
その充足すべき4要件が, いわゆる 「整理解雇の4要件」 といわれるもので, 今日では, 確立した判例法理となっています (代表的裁判例として東洋酸素事件・東京高裁昭 54.10.29 判決, 労働判例 330 号 71 頁。 また最近の裁判例として京都エステート事件・京都地裁平 15.6.30 判決, 労働判例 857 号 26 頁, 三田尻女子高校事件・山口地裁平 12.2.28 決定, 労働判例 807 号 79 頁)。
もっとも, 最近の裁判例の中には, いわゆる整理解雇の4 「要件」 といわれるものは, 整理解雇の有効性を判断するにあたっての 「考慮要素を類型化したもの」 であって, 整理解雇の有効性はこれらの4 「要素」 を総合的に判断して決すべきであり, 各々の要件が存在しなければ整理解雇の法律効果が発生しないという意味での法律要件ではないとするものがあります (前掲・ナショナル・ウエストミンスター銀行 〔第三次仮処分〕 事件, 塚本庄太郎商店事件・大阪地裁平 13.4.12 決定, 労働判例 813 号 56 頁, 平和学園高校 〔本訴〕 事件・東京高裁平 15.1.20 判決, 労働判例 856 号 67 頁など)。 いわば整理解雇の解雇規制である4要件を緩和する考え方ですが, 実務においては留意する必要がありましょう。
以下, 整理解雇の4要件について説明します。
◎第1の要件=人員削減の必要性
まず, 第1は, 整理解雇を実施するためには, 経営上, 人員削減を行うべき必要性がなければならないということです。 ただしこの必要性は, 人員削減をしなければ倒産必至という状況までは必要ではなく, 客観的にみて企業が高度の経営危機にあり, 打開の方策として解雇による人員削減が必要と認められる場合であればよいとされています (最近の裁判例として, 社会福祉法人大阪暁明館事件・大阪地裁平 7.10.20 決定, 労働判例 685 号 49 頁)。
もちろん, 人員削減を行う必要性がない, あるいは他の目的のために行われたという場合は当然に無効であり (奥道後温泉観光バス事件・松山地裁平 14.4.24 判決, 労働判例 830 号 35 頁), 人員整理後に新規採用をするなどの明らかに矛盾する行動をとった場合はその正当性が疑われることになります (オクト事件・大阪地裁平 13.7.27 決定, 労働判例 815 号 84 頁)。
◎第2の要件=解雇回避の努力義務
第2の要件は, 整理解雇は, 解雇回避の努力がなされた後の, 最後の手段として行われたものでなければならないということであり, 解雇回避の努力義務は, 整理解雇の4要件の中でも中心をなすものです。
解雇回避の手段としては, 役員や上級管理職の報酬・賃金などの減額措置, 昇給停止や新規採用の削減・停止, パートや臨時従業員の雇止め, 時間外労働などの削減, 配転・出向, 一時帰休などの実施, 希望退職の募集や退職勧奨の実施などがありますが, これらのどの措置を講じるかは当該企業の実情によります。 ただ, いかなる措置を行えば解雇回避努力を尽くしたといえるかは, 当該 「企業の経営状況や社会情勢等諸般の具体的事情の下で, 経営者が整理解雇を回避するために相当な経営上の努力ないし合理的な経営上の努力を尽くしたかどうかにより総合的に判断」 されます (前掲・塚本庄太郎商店事件)。
なお解雇回避の努力に関して, ご質問の希望退職 (希望退職についてはQ68 参照) の募集の有無が問題となりますが, 裁判例の多くは, 希望退職の募集をしなかったことは, 解雇回避努力の有無の判断において否定的に解する傾向にあるようです (あさひ保育園事件・最高裁第1小法廷昭 58.10.27 判決, 労働判例 427 号 63 頁, 北原ウエルテック事件・福岡地裁久留米支部平 10.12.24 決定, 労働判例 758 号 11 頁, 大友運送事件・大阪地裁平 11.12.24 判決, 労働判例 785 号 80 頁。 反対に, 希望退職の募集をしなかったことは必ずしも不当とはいえないとして整理解雇を有効とするものにシンガポール・デベロップメント銀行 (本訴) 事件・大阪地裁平 12.6.23 判決, 労働判例 786 号 16 頁)。
配転や, 退職勧奨などを行わなかった整理解雇が, 解雇回避の努力を尽くしたものとはいえないとして無効とされた事件に, ワキタ (本訴) 事件 (大阪地裁平 12.12.1 判決, 労働判例 808 号 77 頁) があります。
◎第3の要件=被解雇者選定基準の妥当性
第3の要件は, 解雇対象者の選定基準が客観的かつ合理的であることです。 この選定基準は, 通常は, 労働者の労働能力, 解雇が労働者の生活に与える影響, 労働者間の公平性などを考慮しながら, 年齢, 勤続年数, 勤務成績, 職種, 再就職の可能性などの要素を複合的に考慮して作成することになりますが, 具体的には, 当該企業の実情を踏まえた, 労使の自主的な判断による客観性と合理性を備えた基準を作成し, 公平・厳格に適用することになるでしょう。
◎第4の要件=手続きの妥当性
第4の要件は, 労働組合または労働者に対し, 整理解雇の必要性とその時期・規模・方法, および被解雇者の選定基準や解雇条件などにつき, 納得を得るための説明を行い, 誠意をもって協議すべき義務を尽くしていることです。 もちろん, 労働協約に解雇協議条項や解雇同意条項などがある場合はその義務を履行しなければなりませんが, これらの条項がない場合でも, この手続きは欠かせません。
解雇を回避するための希望退職の募集や, 整理解雇の説明・協議を行わずに行った整理解雇が, 手続き面において合理性を欠くとして無効とされた事件に前掲・北原ウエルテック事件があります。
なお, 整理解雇などにより, 1カ月以内に同一事業所で 30 人以上の離職者が出る場合には, 事業主は, 公共職業安定所長への届け出を義務づけられています (雇用対策法 28 条1項, 同法施行規則8条)。