退職勧奨とは, 使用者が労働者に対して, 労働者が自由意思により退職をするための一連の説得行為をいいます。
この退職勧奨は, 本人の責めに帰すべき事由による解雇の場合に, 本人が自発的に退職の意思表示を行うように説得する行為として行われることがありますが, 多くは, 人員整理や中・高齢労働者の雇用調整策などのために, 希望退職募集後の施策として, 労働者の辞職や合意解約といった自発的な退職を促す行為として行われています。
ところで, この退職勧奨は, 労働者が自発的に退職の意思を形成するための説得行為ですので, その性質は法律行為ではなく事実行為であるとされています (下関商業高校事件・最高裁第1小法廷昭 55.7.10 判決, 労働判例 345 号 20 頁)。 したがって, 退職勧奨の過程で, 多少行き過ぎた説得行為があったとしても, 労働者本人が説得に応じ, 真意で退職願 (あるいは退職届) を提出したのであれば, その提出は任意退職の意思表示として有効となります。
しかし, 退職勧奨は, 労働者がいったんそれを受け入れた場合はその生活基盤を失うことになり, また, 実際の退職勧奨は職場の上下関係を利用して行われますので, 勧奨を受ける労働者にとっては経済的のみならず心理的にも負担が大きいものです。
したがって, 勧奨のあり方も, 労働者の人格を尊重した十分な配慮が必要であり, 当該労働者の退職に関する自由意思を尊重する態様で行われなければなりません。
具体的には, 公序良俗に違反するような態様での説得, 社会的相当性を逸脱した態様での説得, 長時間にわたり, また半強制的で執拗な説得, 労働者の自由な意思による退職の決定を妨げるような説得などをしてはならず, これらに該当する場合は不当な勧奨行為となり, 結果においては, 錯誤, 詐欺, 強迫などを理由に退職の取り消しまたは無効となる場合があります。
退職勧奨に関する裁判例として, 勧奨回数十数回, 短いときで 20 分, 長いときで2時間以上にわたって行われた退職勧奨が, 労働者に心理的圧力を加えて不法に退職を強要したものとして不法行為に該当するとされた前掲・下関商業高校事件, 暴行などの行為を含む退職勧奨が不法行為を構成するとして, 会社と実行者に対し損害賠償が命じられたエールフランス事件 (東京高裁平 8.3.27 判決, 労働判例 706 号 69 頁), 若年労働者を長時間1室に押しとどめ, 懲戒解雇をほのめかして退職を強要したことが, 労働者に畏怖心を生じせしめて退職の意思表示をさせたとして, 強迫を理由とする退職の取り消しが認められた石見交通事件 (松江地裁益田支部昭 44.11.18 判決, 労民集 20 巻6号 1527 頁) などがあります。