定年制とは, 労働協約や就業規則の定めによって, 労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する制度をいいます。
この定年制には, 労働者が所定の年齢に達したときは労働契約は自動的に終了するとする 「定年退職制」 と, 労働者が所定の年齢に達したときに, 使用者が解雇の意思表示をすることによって労働契約が終了するとする 「定年解雇制」 がありますが, 前者の, 定年退職制による定年制の法的性質については, 一般に, 「労働契約に一種の最終期限が付せられたものであり」, 「その最終期限到来までの間は, 労働関係を継続する拘束を受けず, 当事者双方は, 債務不履行の責任を負うことなくいつでも解約できる関係」 にある 「期間の定めない契約関係」 と解されています (厚生労働省労基局編 『増補版・労働基準法 (上)』 256 頁)。 したがって定年退職制の場合は, 労基法 14 条の長期契約禁止規定には抵触せず, 定年による労働関係の終了は解雇ではありませんので, 労基法の解雇に関する諸規定 (たとえば, 19 条 〔解雇制限規定〕, 20 条 〔解雇の予告〕 など) は適用されません。
しかし 「定年解雇制」 の場合は, 定年年齢に達したことが解雇事由の1つであり, この場合の定年制は 「定年に達したときに解雇することがあるという解除権留保の制度」 ですから, 労基法の解雇に関する諸規定が適用されます (厚生労働省・前掲書 256 頁。 なお, 定年制と解雇制限の問題については, Q64 の 「解雇制限」 を参照)。
ところで, 定年制における定年年齢は, 原則として 60 歳を下回ることはできないとされ (「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」 −高年齢者雇用安定法―8条), 同法はさらに, 65 歳までの安定した雇用の確保を図るために必要な措置を講じるよう事業主に求めていますが (9条), この9条の 65 歳定年に関する努力義務規定は, 平成 16 年6月 11 日の同法改正により, 65 歳までの安定した雇用を確保するために, @当該定年の引き上げ, A継続雇用制度の導入 (高齢者が希望するときは, 定年後も引き続き雇用する制度), もしくはB当該定年の定めの廃止, のいずれかの措置を講じなければならないことになりました (改正・高年齢者雇用安定法9条)。
改正法9条は, 平成 18 年4月1日から適用されますが, 上記@の定年の引き上げに関する措置については, 平成 25 年4月1日までに段階的に引き上げるものとし, (@)平成 18 年4月1日から平成 19 年3月 31 日までに, 62 歳, (A)平成 19 年4月1日から平成 22 年3月 31 日までに, 63 歳, (B)平成 22 年4月1日から平成 25 年3月 31 日までに, 64 歳, (C)平成 25 年4月1日以降, 65 歳とされています (改正・高年齢者雇用安定法附則4条)。
なお学説の中には, 定年制には合理性がなく雇用保障の理念に反して違法だとする見解がありますが, 判例および大多数の学説は, 定年制自体には合理性があり公序良俗には反しないとしています (秋北バス事件・最高裁大法廷昭 43.12.25 判決, 最高裁判所民事裁判例集 22 巻 13 号 3459 頁。 最近の裁判例としてアール・エフ・ラジオ日本事件・東京高裁平 8.8.26 判決, 労働判例 701 号 12 頁)。
ただし, 合理的な理由のない定年制は効力を否定されます。 たとえば, 男女別定年制が公序良俗に反して違法であることは確立した法原則であり, 男女雇用機会均等法においても, 女性であることを理由に男性と異なる定年制を設けることを禁ずる規定が定められていることは広く知られているところです (8条1項。 裁判例として財団法人大阪市交通局協力会事件・大阪高裁平 10.7.7 判決, 労働判例 742 号 17 頁)。 また, いわゆる職種別定年制も, 社会通念上是認しうるだけの合理的理由を備えない場合は, 定年制自体が無効とされる場合があることに留意しなければなりません。
さて質問は, 業務上の必要性に基づいて, 定年退職者を嘱託として再雇用してきたが, 今年度は, 受注量の減少や再雇用の選任基準を満たす者がいないことなどもあって再雇用を見合わせたいが可能かということですが, 就業規則や労働協約などで, 定年退職者に欠格事由がないかぎり, (とくに選別されることなく) 希望者全員に再雇用の権利を与えているとか, そのような取り扱いが慣行として確立され黙示の契約内容となっていると認められる場合には, 再雇用の義務が生じましょう (代表的な裁判例として大栄交通事件・最高裁第2小法廷昭 51.3.8 判決, 労働判例 245 号 24 頁)。
しかし, 質問の場合は, 慣行的に定年退職者を嘱託として再雇用してきたといっても, 実際の再雇用にあたっては, 業務上の必要性や本人の勤務成績, 業務能力および健康状態などを総合勘案し, その選任基準を満たす者の中から選任して再雇用してきたということですから, 今年度の定年退職者がその選考基準を満たしていない以上, その再雇用拒否が不当労働行為などの不法な意図に基づいて行われたものでないかぎり (定年退職後の再雇用拒否が, 労働者の組合活動を嫌悪したものであり不当労働行為にあたるとされた事件に, 近畿システム管理事件・最高裁第3小法廷平 7.11.21 判決, 労働判例 694 号 22 頁があります), 「採用の自由の原則」 に照らして, 再雇用を見合わせることができると考えられます。
質問と類似の裁判例に東京海上火災保険事件 (東京地裁平 8.3.27 判決, 労働判例 698 号 30 頁) がありますが, この事件につき裁判所は, 「被告会社は, 業務上の必要性, 勤務実績, 健康状態を総合勘案して……再雇用者を選任してきたというのである」 から, 「本件再雇用制度については, 被告会社は, 選任基準を満たした満 60 歳の定年退職従業員のうちから特別嘱託社員として採用するか否かの決定権限を有していると解すべきである」 としています。