「減給」 とは, 本来ならばその労働者が受けるべき賃金の中から, 当該労働者の職場規律違反などに対する制裁として一定額を差し引くことをいいます。
労働者の職場規律違反などに対する制裁として行うこの賃金控除を, 一般に 「減給の制裁」 といいますが, 使用者が減給の制裁を行う場合は, その対象となる事由, 手段などを就業規則に定め, その定めに従って行わなければなりません (労基法 89 条9号)。
ところで減給の制裁は, 労働者が具体的な賃金請求権を取得していることを前提に行われる, 制裁としての賃金の不支給処分ですから (マナック事件・広島高裁平 13.5.23 判決, 労働判例 811 号 21 頁), 遅刻, 早退あるいは欠勤といった, 労務の提供がなかった時間に相当する賃金を不支給とすることは, ここにいう減給の制裁ではありません。
ただし, 欠勤や遅刻, 早退などの労務不提供時間分に相当する賃金額を超えて賃金の控除を行うことは, ここにいう減給の制裁に該当し (昭 63.3.14 基発 150 号 (91 条)), 質問のように, 遅刻した時間分の賃金のほかに, 遅刻3回につき1日分の賃金をカットするとの取り扱いも減給の制裁に該当します。
では, 減給の制裁における賃金の減給額はどのように定められているかですが, これについては労基法 91 条において, 減給は, @ 「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え (てはならず)」, A 「総額が1賃金支払期における賃金の総額の 10 分の1を超えてはならない」 とされています。
つまり, @1回の事案に対する減給の総額は平均賃金の1日分の半額以内でなければならないということであり (昭 23.9.20 基収 1789 号 (91 条)), 1回の事案について, 平均賃金の1日分の半額ずつを何回にもわたって減給してよいということではありません。 ただし, 減給処分に該当する職場規律違反行為が1日に2回あった場合は, その2回の行為について, それぞれ平均賃金の1日分の半額ずつを減給することは差し支えありません。
また, A1賃金支払期における減給の総額は, その賃金支払期に支払われる賃金の総額の 10 分の1を超えることはできません (前掲の基収 1798 号通達および昭 25.9.8 基収 1338 号 (91 条))。 したがって, 欠勤や遅刻・早退などによりその期の賃金が少額で減給額がその賃金総額の 10 分の1を超える場合, あるいは1賃金支払期に, 減給処分に該当する職場規律違反行為が数件発生し, 減給の総額が当該賃金支払期の賃金総額の 10 分の1を超える場合は, その超える分は次期以降の賃金から控除しなければなりません。
さて質問は, 減給の制裁として, 遅刻3回で1日分の賃金をカットするとの取り扱いができるかということですが, 遅刻3回を1事案とするのではなく, 遅刻1回を1事案とし, 減給額の算定において遅刻3回につき1日分の賃金をカットするということであれば, 上記の@でみたように, 1事案に対する減給の限度額は平均賃金の半日分で, 3事案では 0.5 日分×3回=1.5 日分となりますので, 質問のケースの場合はカット可能ということになります。 ただし質問は, 平均賃金ではなく, 割増賃金の算定基礎となる通常の労働日の賃金の1日分ということのようですから, この額が平均賃金で算出した 1.5 日分の賃金額を超えていないかどうか, Aの賃金総額との関係ともども, さらに確認する必要がありましょう。
なお, 減給の制裁は一般には, 懲戒処分の一種として行使されています。 したがって, 懲戒処分としての法規制に服することは当然であり, 職場規律の侵害に至らない遅刻をも対象として減給の制裁を課すことについては, 懲戒事由としての該当性や懲戒権行使の相当性という観点から, 十分な留意が必要です。
減給処分が, 処分の程度としては重過ぎ, 使用者の裁量権を逸脱するものとして無効とされた事件として, 社会福祉法人七葉会事件 (横浜地裁平 10.11.17 判決, 労働判例 754 号 22 頁) があります。