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医事判例実務解説

秋田 成就・著
B5判・320頁・定価 8,820円(税込)
ISBN 4-87913-952-1 C 3047

はしがき

 本書は、著者が雑誌「医事業務」に「医療事故をめぐる判例実務解説」と題して連載してきた判例解説を一まとめにして若干の手を加え、編集し直したものである。昭和60年〜平成9年までの判決を対象とした第1巻に続き、本第2巻では平成10年〜17年に出た65件の判決を取り上げた。この間に出た多数の判決の中から、医療関係者が医事紛争問題にアクセスする場合の初歩的理解のための解説を、という編集部の意図に沿って,医師初め医療現場のスタッフ側から見て特に関心が高いと思われる事例を選んだ。
 著者が「医事業務」誌に執筆を始めた当初は、医療事故の事例が次第に増えつつあったが、その割にはまだ判決も少なく、最高裁判決もほとんどなくて、実務解説に適切なケースを探すのに苦労するほどであったが、平成10年頃から年を追って訴訟件数が飛躍的に増え、その反映として判決件数も急増してきた。同類の事件について複数の判決が登場し、相当数の最高裁判決も出てきた。また、訴訟で争われる医療の分野が一般の医療関係から歯科、耳鼻科、整形外科、自然科学療法医などの分野に広がり、内容も直接の診療事故をめぐる注意義務の有無から病名の告知義務問題に及ぶようになった。また従来は、医療過誤における医師の過失責任だけが問題とされたが、看護師、助産師、研修医等の責任が取り上げられるようになった。そして、いずれの場合にも、医療スタッフの側に過失が認められると、実際上の損害賠償の負担は、訴訟上、被告の立場に置かれる医療機関が負うのが通例になった。
 本書で取り上げた事例の大部分は、医療過誤事件における医師の注意義務や説明義務違反の有無が争われたものであるが、本書では、解説の便宜上、それぞれの事件の持つトピックス性に応じて17項目に配列した。どの分野でも、医師患者関係の亀裂や医療技術の高度化に伴い、紛争内容や争点が複雑化し、医師の過失の判断が難しくなっているが、判決は、一般的傾向として、医療スタッフに注意義務や説明義務について次第に厳しい姿勢を求め、また、医療機関にも患者管理の責任を厳しく求めるようになっている。
 判決が命じる医療過誤に対する損害賠償の額も近年、かなり高額となっており、2億円というケースも登場した。医師や医療機関が加入する医療賠償事故保険の運営が敗訴事件の続出で運営困難になったとか、医療現場の医師たちの間で、医療過誤の賠償責任を問われる懸念から難手術をひるむ声があるといわれる。
 「医療判例」は、今や、医師や医療機関にとって医療紛争を予防し、紛争を生じた場合の予備知識を学ぶための重要な「医療情報」となりつつある。平成17年から、医師の国家試験に「医療の質と安全の確保」に関する項目が必修科目とされ、その中に、「医療裁判(医療事故、医療過誤、医事紛争、損害賠償)」が含まれることになったのもその表われといえる。
 本書が、こうした今日の医療環境の下、医療関係者のための実務解説として何がしかの役割を果たすことができれば、著者として望外の幸である。
 本書を刊行するに当たり、野村勝法氏および「医事業務」編集部の皆さんに一方ならぬお世話になった。記して感謝の意を表する。

平成18年2月8日

秋田成就

〈編注〉第1巻は、「医事判例・労働判例実務解説」(1999.12発行)