まえがき
医療機関を取り巻く環境はこの数年間で劇的な変化を遂げました。
経済環境の低迷は国家予算の逼迫を招き,医療費抑制策によって診療報酬のマイナス改定が実施されるようになりました。また,少子高齢社会の進展による成長要因の喪失と併せて導入された介護保険には市場の原理が導入され,社会保障の聖域ともいわれた社会福祉制度にさえも変化をもたらす結果となりました。
そのような状況において,医療経営は本来の医療の質の確保をベースに,医療制度や診療報酬の改定,地域の動向や患者二一ズヘの対応といった外部的要因に加え,医療機関の第三者による評価や医療安全管理による患者・利用者への信頼の確保,情報の開示や個人情報の保護等,時代が要請する病院システムの多様化にも対応することが必要となりました。
「一つの文明,一つの社会は,それ特有の病気の構造と生態を持っ」といわれるように,昭和23年に医療提供機関の量的確保を目的として制定された医療法は,その後の高齢化や疾病構造の変化,そして医療技術等の進歩に対応するために累次改定が行われました。
昭和60年の第1次医療法改正では,医療資源の地域的偏在の解消と医療施設の連携の推進を目指して,都道府県単位の地域医療計画の導入が実施されました。
さらに,平成5年の第2次改正では効率的な医療提供体制の確保を掲げ,医療施設機能の体系化を図るために特定機能病院や療養型病床群の整備が制度化されました。平成10年には医療機関の機能分担と連携を柱とした第3次改正が行われましたが,この時から患者の立場に立った情報提供の促進という言葉が使われるようになりました。
また,平成13年の第4次改正では,医療の高度化,専門分化に対応し,医療の情報提供を促進して効率的な体制を整備することを目約と丁る改正が行われましたが,
これにより一般病床と療養病床を区分した機能分化が実施されたことはご存知のとおりです。
これらの動きは医療の量から質へ(成長期),さらには質(成熟期)から特殊性と疾病構造を踏まえた制度の再編(飽和期)へと変化したものであり,まさに日本経済の変遷とオーバーラップする過程を経てきたといえます。
平成18年度に予定されている医療制度改革と医療保険制度改革は車と車輪の関係といわれています。大きな柱としては,(1)患者の望む医療の実現(住民や患者の視点を尊重した制度改革),(2)質が高く効率的で検証可能な医療提供体制の構築(数値目標と評価の導入による実効性のある医療計画の作成),(3)都道府県の自主性・裁量性の発揮による医療提供体制の地域格差の是正,にっいての3点が重要課題として議論されています。
私たちはこの改革に対し,人口予測と経済動向そして医療二一ズを踏まえて自院の方向性と可能性をあらゆる角度から分析し,計画的に対応しておく必要があります。そして,医療の永続性を経営の根幹としてとらえた場合,医療機関自らが常に変化し続けることが大切ですが,その変化の原動力は事務力にほかなりません。
事務管理部門に課せられた役割のひとつとして,限られた資源を組織的に効率よく運用し,自院のアドバンテージを高めながら,ポジティブに変化し続けるための仕組みをっくることがあげられます。そのためには現状を整理し,再構築して組織として実行するという基本的な作業が重要となります。病院の事務管理を時流に合わせて変化させ,経験主義から現実主義へと価値観を大きく変える必要に,今,迫られています。
「病院の事務管理集を企画していますが」とのお言葉を,「病院経営」編集部からいただいたのが昨年の晩秋のことでした。正直これは困ったことになったと,あやふやな返事のまま時間だけがすぎてしまいましたが,結果的に1月下旬に結論を出すことができたのは,今回執筆に参加してくれた職員の後押しがあったからにほかなりません。
本書は,当病院の事務職員が職掌する業務にっいて整理し,自己の業務改善に役立てるためにまとめたものの一部を,一般的な病院にも応用できるよう加筆したものです。したがいましてあくまでも実務的に処理するための一般論を述べているにすぎませんので,病院の規模やスタイルによって運用の仕方が随分違ってくるものと思います。なかには,法律の知識の乏しい者の記述があり,疑義の生ずる部分も多分に存在するかとも思われます。また,ほかにも合理的な仕事の進め方があることも否定しません。筆力不足も否めませんが,その辺の事情をおくみ取りいただき,忌揮のないご意見を頂戴したいと存じます。
構成は,実務処理の観点から,人事・労務関連,施設管理関連,業務運営,安全運営,財務関連,福利厚生,医事業務関連,行事等の8っの章に分け,38の項目について,中小規模の病院を想定し,まとめさせていただきました。執筆に参加した17人の職員が同じ目標を持って,外向きの仕事に取り組むことができたことが,何よりの職員教育になったのではないかと思っております。
最後に本書の発刊を企画し,背中をそっと押してくださった産労総合研究所・医療経営情報研究所の皆様には,この場をお借りして心から感謝を申し上げたいと思います。
平成17年4月18日
医療法人恒貴会
法人事務局事務局長
須藤英夫
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