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巻頭言
中小規模病院の受審が医療の質向上のカギ
〜日本の医療のレベルアップのために〜
(財)日本医療機能評価機構
理事長 坪井栄孝
第三世代に入った病院機能評価
平成17年9月30日現在,病院機能評価の認定病院は1,738件,申請病院は2,458件を数えています。
日本医療機能評価機構の病院機能評価事業が本稼働してから7年,よくぞ7年で,これだけの数の病院が病院機能評価受審に踏み切っていただいたものだと,感慨を新たにしています。
そう思いつつ,けれども私は,「日本医療機能評価機構が真にわが国の医療の質を高め,安全な医療を国民に提供することに役立っている」と胸を張って宣言するためには,いまだ受審の対象となっていない約5,000の中小規模病院にこそ,受審していただきたいと強く願っています。
私は平成16年4月に本機構の理事長をお引き受けしましたが,その時,「これからが日本医療機能評価機構の第三世代に入るのだ」と身も心もひきしまる思いがしたものです。
創設から,初代理事長の館龍一郎先生をはじめとする本機構の先生方や事務局が「病院機能評価とは何か」ということを病院の皆様にご理解いただくことに傾注した時期が第一世代,工藤先生が理事長を務められ,だんだんと認定病院が増えていった時期を第二世代とすれば,いまは,日本医療機能評価機構の第三世代といえましょう。
そして私は第三世代を迎えた機構の事業の中軸が中小病院に移ってくることを確信しています。
現在,大病院に関しては順調に受審件数が増えています。問題は国民との接点の多い中小規模病院の受審がまだ十分に進んでいるとはいえないことです。
地域の中で,常に国民の身近にあって,気軽にかかることができるのが中小規模病院です。そのような病院の質の評価に努力することこそが,日本の医療全体のレベルアップに繋がっていくものと私は考えています。中小規模病院の皆様もそのような視点をもって,病院機能評価の受審に向けて一歩を踏み出していただければと考えます。
その意味では,私どもは,中小規模病院に病院機能評価を受けていただけるような体制をいかにつくっていくかということを,中小規模病院の先生方の立場に立って考えなければなりません。
もちろん基準となる評価の部分では,ベッド数が多かろうと少なかろうと,公的病院であろうと私的病院であろうと,変わりはありません。しかし,現在の自己評価や訪問審査の項目が中小規模病院にとっては過重の負担がかかりすぎて受けにくくなるという状況が出てくるかもしれません。
そういう点に着目して,例えば1,000床の病院と500床の病院と100床以下の病院を区分することの可能性も含めて,受審の重点項目を一回,慎重に整理,検討する必要があるのではないかと考えています。
V5.0はバージョンアップではない
平成17年7月1日から,V5,0による審査が始まっていますが,これについては,一つ説明が必要でしょう。
というのはV5.0について,私はあえて「バージョン・アップ」という言葉を使っていません。「バージョン・アップ」というと,いかにもバージョン・アップを繰り返し,そのつど受審が難しくなるという印象を持たれがちですが,少なくとも日本医療機能評価機構がいま行っているバージョンの変更は,受審認定のハードルが高くなるという話では全くないのです。
それではなにかといえば,評価する側が正しく,適切な評価ができるように,評価項目をある領域から別の領域に移したにすぎないのです。言ってみれば項目の整理と考えていただければよいと思います。
例えば,今回はケアプロセスの部分が見直されました。これまで看護の領域に入っていた項目も,プロセスとして病院全体の流れの中に持っていったほうがよい項目はそのように移動させました。また反対に,病院全体の流れの中で評価するのでは,少し大雑把すぎて適切な評価がしづらい項目については,各論的なところにもっていったということです。
ですから,中小規模病院にとっても決して受けにくくなったということではなく,項目の流れをよく読み込んでいただければ,十分対応可能なのがV5.0です。
受審準備が質の向上に繋がる
受審に向けての取組みというところでは,大きい病院であろうと中小規模病院であろそと,準備に1年ぐらいはかかると思います。
なかに,「1年間も準備にかかるのではとても大変で受けられない」とお考えになる病院があるかもしれません。また日本の医療機関や医師は評価を受けるということに馴れていません。常に行政主導の規制でしばられるといった経験をしてきましたから,病院機能評価の受審というと,「管理される,規制される」といったような違和感を持つ病院があるかもしれません。しかしこうした考え方はぜひとも変えていただきたいと思います。
受審の行動を起こすことが自分の病院にとってどれほどプラスになるか。1年間に準備する行為そのものが,質の向上に繋がっていくのです。これは机上の空論ではなく,私の二度の受審経験をとおして,強く感じていることです。
「病院機能評価を受ける」という一つの目的のために,病院が一丸となって準備に取り組む時,それは単なる準備ではなく,日々の医療の確認であり,自院の強みと弱みを職員一人ひとりが確認し,改善への道を探る場となります。それはまさに受審を選択された病院の主体的な取組みなのです。そして,その準備の過程で生まれる効果こそが医療の質の向上であり,私は,それを評価することが日本医療機能評価機構の本来的事業であると考えています。
また,1年間の準備といっても,一つひとつの取組みは決して難しいことではないのです。受審の前にいろいろな資料やッールを使って,自院で予備審査をしてみるのも,自院の取組みをチェックするうえでは,大変有効と思います。どこが強みで,どこが弱みとなっているのか,どこをどのように伸ばし,他方,弱みはどこをどの程度,どのように改善すればよいのかがみえてきます。
本当はそうした取組みだけでも自己の振り返りには有効ですが,自己評価はとかく我が田に水をひくことになってしまいがちです。第三者に客観的に評価してもらうということに,日本医療機能評価機構の審査を活用する。そのように考えていただければ,と思います。
もちろん受審して認定を受けたからといって,すぐに病院経営の上で金銭的メリットには結びつかないかもしれません。しかし1年にわたる病院をあげて受審に向けての医師,看護師,薬剤師,検査技師等のコメディカルや事務部門の方々が皆で苦労して勝ちとった認定書ですから,「皆でよくやった」という達成感が残ります。それは今後の病院経営,運営を進めていくうえで,大きな活力の源になるはずです。
そしていま一つの成果は受審し認定されたことが,マーケットプロモーションに繋がっていくということです。
認定書授与がすべてではない
しかし,認定書がゴールでないことは,医療機関の皆さんのほうがよくお分かりのことと思います。
病院で行われている医療はステイショナルなものでなく,常に進歩し動いているものです。認定書は,その経過の中のある一点にすぎません。病院の質を高めていくということは永遠に続くわけです。
認定書を一つの起点として,自分たちの一歩一歩の動きが認定を受けた時点から前進しているのか,後退しているのか,はたまた,その場にとどまってしまっているのか。1年間のデータを一つの尺度として測ることも,たゆまない医療の進歩,国民の二一ズの変化に対応していくためには,ぜひ必要なことではないでしょうか。
もちろん,そのような病院のお取組みを支えていこうと考えている日本医療機能評価機構自身が,病院機能評価を確かな医療の質の評価基準とするために,不断の努力を払わなければいけないと,肝に銘じています。
大きな視点でとらえれば,一つの医療政策を決める時の確実な査定ポイントに,病院機能評価がなり得ると考えています。その時,国に病院機能評価の実績は十分使えるという信頼を持ってもらうためには,日本医療機能評価機構の事業を国によく理解してもらわなくてはなりません。
病院機能評価というのは,一病院一病院の医療の質そのものを向上させて,それによって日本全体の医療のレベルが上がるためのお手伝いです。その意味においても,国には同じような意識を持って本機構事業を十分に正しく理解していただければと考えています。
そのうえで,国が,日本の医療政策をつくる際の参考として本機構のデータを使っていただくということで,決して病院機能評価を受けることを,保険点数を上げることや,規制の緩和,さらには認可の基準として使うようなことはあってはならないことは当然のことです。
アウトカムの評価にも注意深く対応
もう一つ,非常に極端なことをいいますと,国の考える医療というのは施設基準をもとにした考え方です。ベッドがいくつとか人員配置とか,まさにストラクチャーです。
一方,医師が考える医療とは質のよい医療を提供するということを看護師をはじめとするコメディカルとチームを組んで実行していくことであり,ケアプロセスを大切に考えます。
ところが,国民がいい医療を考える時にもっとも分かりやすいのは,プロセスよりアウトカムなのです。
これまでアウトカムについては,病院機能評価が取り扱ってこなかった部分です。なぜかというと医療の結果を評価する時にいろいろ複雑な要件が絡んで正確に評価できないからです。しかし国民が望む医療の実現のためには,アウトカムから目をそむけることはできない時期になったのかとも,考えます。
もちろんアウトカムについては注意深く対応しなければいけないことは当然です。アウトカムというのは早くいえば「何人治したか」ということですから,重症患者を受け入れないで,軽症患者だけを診るのであれば,そのアウトカムは当然よくなります。これでは『真に国民のための医療』を大きく逸脱してしまいます。そのへんのリスクを十分に考慮したうえで,日本医療機能評価機構がある程度のアウトカムを評価することができれば,国民に分かりやすい医療の質の評価に繋がっていくのではないでしょうか。
より国民に分かりやすく自分の必要とする医療を選択するためには,まさに日本医療機能評価機構として,その部分に手をつけなければいけない時期ではないかと考えつつあります。
国と医療機関と患者の価値観の微妙な差を調整しながら,国民が本当に信頼できる病院づくり,機能向上した病院をつくっていくことのお手伝いこそが,これからの日本医療機能評価機構の役割だと考えています。
第三世代の機構は中小規模病院の受審が促進されるような環境づくりをしながら,同時に国民が自分の医療を選択するうえで分かりやすい医療の質の評価の確立のために,新たな挑戦をしていきたいと思います。
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