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職場のいじめとパワハラ防止のヒント
職場のいじめとパワハラ防止のヒント
涌井美和子・著
A5判・218頁・定価 1,470円(税込)
ISBN978-4-87913-992-4 C2034

はじめに

パワー・ハラスメントの概念や定義も含めて, もっと議論が必要

1. パワー・ハラスメントとはなにか
  成果主義人事制度の浸透や雇用形態の多様化, 企業合併の増加等を背景に, 職場のパワー・ハラスメントが注目を集めています。
  パワー・ハラスメントとは, どのような行為を指していうのでしょうか。 厚生労働省の外郭団体で, 労働災害防止のための各種の活動を行っている中央労働災害防止協会の定義によれば 「職場において, 職権などの力関係を利用して, 相手の人格や尊厳を侵害する言動を繰り返し行い, 精神的な苦痛を与えることにより, その人の働く環境を悪化させたり, あるいは雇用不安を与えること」 とされています。 つまり, 職務上の立場や権力を利用して, 身体的あるいは精神的に立場の弱い者を傷つける行為といえるのです。
  具体的には, 根拠のない批判を繰り返す・無視する・不当な形で職位や権限を奪ったり降格させたりする・必要な職権を与えずに責任だけを増やす・孤立させる・冷淡な態度をとる・極端に低い評価をつける・他の社員が見ている前であえて怒鳴りつけたり, 嘲笑したり, 侮辱したりする, などの行為がその例です。 これらパワー・ハラスメントの被害にあった労働者には, メンタルヘルスが悪化し長期休職を余儀なくされる人も少なくありません。
  筆者は, カウンセラーとして, 働く人からの相談を受ける機会が少なくありませんが, 最近になって, とくに職場のパワー・ハラスメント問題に関するご相談を受ける機会が増えたと感じています。 しかも被害に遭われたご本人や企業の人事担当者からだけでなく, 社会保険労務士等を始めとする人事コンサルタントの方々からも, 顧問先企業の問題としてご相談を受ける機会が増えています。
  パワー・ハラスメントは, 企業のメンタルヘルス対策にも直結する重要な問題といえるでしょう。

2. パワー・ハラスメントが意味するもの
  もともとパワー・ハラスメントとは, 日本では 2001 年に潟Nオレ・シー・キューブが提唱した言葉で, 主に上司が持つパワーを背景にした 「職権を使ったハラスメント」 のことを指すといわれています。
  しかし, 欧米とくに西欧圏では, 90 年代初頭から注目を集めていたテーマであり, 研究も日本より進んでいます。
  さらに, 日本においては 「上司から部下」 への行為に主に焦点が当てられますが, 欧米では 「職場におけるいじめ」 という広い概念で捉えられています。 いじめとは, そもそも力の強い者から弱い者に対して行われることが一般的だと考えると, いじめの形態も 「多数派から少数派へ」 「正社員から非正社員へ」 「主張が強い者から弱い者へ」 など, さまざまなパターンが考えられます。 最近よく問題となっている解雇権の濫用や社会保険制度への未加入といった “違法性の高い労務管理” も, パワー・ハラスメントの1つといっていいでしょう。 単に, 上司から部下に対する行為に限定しかねない “パワー・ハラスメント” の概念では, むしろ, 現状をきちんと捉えきれなくなる可能性があるといえます。
  そのため筆者は, パワー・ハラスメントの用語については, 概念や定義も含めてもっと議論が必要だと考えています。 より広い視野から現象を捉えるならば, “パワー・ハラスメント” という言葉より “職場のいじめ” と呼んだほうが適切な場合も多いのではないかと考えています。
  本書においても, わかりやすさを考慮して “パワー・ハラスメント” という言葉を便宜上では使用していますが, より広い意味で検討する場合は, “いじめ” という用語を用いて区別しています。

3. 本書で扱う内容について
  最近では, 職場内のハラスメントが顧客サービスにも悪影響を及ぼす点についても注目されるようになっています。
  つまり, ハラスメント体質の職場で働く社員は, 心遣いの余裕を失った結果, 対人サービス業務においても, 知らず知らずのうちに人を尊重しない態度や言葉遣いをしたり, 感情などを出してしまい, 顧客を不愉快にしたり, 不安にしたりするというのです。 ハラスメント問題は, 職場内だけでなく, 企業の業績にも影響を与える大きな問題にもなっているのです。
  本書では, これら欧米圏の先行研究等をレビューしつつ, 日本の法律や判例を押さえながら, 取るべき対応策について, 人事施策など実務的な側面から検討したいと考えました。 もちろん, パワー・ハラスメントへの対応について最も大事なことは, 被害にあった人が1日でも早く元気を取り戻すことですから, メンタルヘルスの視点を取り入れながら対応策をみていくこととしました。
  全体を6章で構成していますが, 最初の1, 2章でパワー・ハラスメントの現状について概観しています。 第3章が本書のメインにあたるもので, ある会社でのパワー・ハラスメント事件の発生を想定し, 事件の発生から解決までを, それぞれのプロセスごとに, 解決策や注意すべき点を具体的に解説しています。 これを受けて, 第4章から6章にかけて, 未然に防ぐためにすべきこと, 外部機関を活用した解決策, 復職支援策等についてまとめています。
  また, 個人のレベルでパワー・ハラスメントの問題を考え, 対応ができるよう, 「パワハラ度チェック」 「ジェンダーバイアス度チェック」 等について, コラムとして挿入しました。
  企業の人事労務担当者だけでなく, 管理職の方々, 一般社員, また働く人のメンタルヘルス問題に携わる方々にも, 本書を参考にしていただけたら大変嬉しく思います。
                 ◆
  最後になりましたが, 本書を執筆するにあたり多くの方々のお世話になりました。 いつも筆者を暖かくサポートしてくれる家族や友人, 貴重な視点をわけてくれる仕事仲間や勉強会のメンバー, 株式会社産労総合研究所の皆さまなど, 多くの方々のお陰ではじめて本書は完成しました。 とくに, 社会保障ジャーナリスト福島敏之氏や, 筆者の産業カウンセラー仲間で友人でもある大東聖子氏のアドバイスは, 筆者にとって本当に大きな力になりました。 筆者を支えてくださった多くの皆さまに, この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。

※本書で紹介した事例は, すべて臨床的・実務的知見に基づいたフィクションです。
 なお, 本書では原則としては 「パワー・ハラスメント」 という表記をしていますが, 見出しなど, 一部例外として 「パワハラ」 とした箇所もあることをお断りしておきます。